四葉ちゃんとは
「そういうサクヤ君の方はどうなんだい?」
「はい?」
「毎日毎日、こうして図書館に篭っているけど、たまには『一緒にどっか行こうぜ』みたいに誘ってくる友達はいないのかな? 御櫻は部活強制でもないし、帰宅部仲間ができてもおかしくないと思うけどね」
「あの、ですからその『友達いない子』みたいに見るのやめてくれませんか?」
「ならいるのかい?」
「いませんけど……」
「ほら」
ほらとか言わないで欲しい。
「俺にも友達はいますよ」
「その人の名前は?」
「……」
えーと、なんて言ったかな。
たとえば、あのイケメン君……。この前も話したんだけど。
「出てこないじゃないか。名前すら覚えていない相手を『友達』と呼べるのかな?」
「……名前、覚えるの苦手なんですよ」
「苦しい言い訳だね」
「む……」
くそ。今度、ちゃんと覚えてやる。
「……」
「……どうかしたいかい?」
いじられたままってのも癪だ。
「先輩」
「なにかな?」
「先輩って、恋愛の話とかって苦手ですよね?」
「ぇう?」
なんか、変な声を出した。
「な、なんだい突然?」
「いや、これまでの交わした会話からの分析ですよ。最初、俺をシャワー云々のコトでいじってきましたから、自分から話を振るのはある程度、大丈夫みたいですけど、振られるのは苦手としてませんか? それから、実は自分の容姿について褒められるのも苦手だったりします? この間褒めた時、かなり反応に困ってましたよね」
「……サ、サクヤ君。君ね」
睨まれた。
でも、顔が赤くなっている。
可愛いなこの人。
「そ、そういうことは口にしないで欲しい。自分のことを分析されるというのは、その……なかなか恥ずかしい、ものが……」
口ごもる先輩を見て、もう一言、いじってみたくなった。
「そんなに恥ずかしいですかね? 女の子は普通、可愛いとか美人とか言われたら喜びそうなものですけど。実際、柳先輩はそこらにいる女子よりも――」
「っ!」
「痛っ」
叩かれた。
そのままの流れでそっぽを向かれたが、照れ隠しだろう。
微笑ましいなーとその様子を見ていると、
「それよりも! 四葉ちゃんの件だけどね」
強引に話題を変えてきた。
こちらへ顔を向けないところを見ると、結構精神的にきてるのだろう。
これ以上からかうと本気で怒られそうだ。黙って頷いておく。
「サクヤ君は、四葉ちゃんとはあまり話すべきじゃないよ」
「は? え? なんでです?」
唐突に言われて、思わず、聞き返す。
陸上部には顔を出さないように、というのは理解できるが、話すなというのはどうなのだろうか。これまで幾度か話したことはあるし、いきなり話すなと言われても対応に困る、
「君、自分がどんな人間か理解しているかい?」
ようやくこっちを向いて、先輩は語りかけてくる。
「サクヤ君は口が堅いとか、あまり喋らないとか、そういう面があるのは事実だよ。四葉ちゃんに聞いた通りだ。でもね、だからこそ、君は分かりやすいんだよ」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。サクヤ君は返答に詰まるとそのまま黙ってしまう癖がある。良いことでも、悪いことでもね。それはいらないことを喋らないという意味で、美徳と言えなくもないけれど、話の流れによっては答えを言ってるも同然となる」
否定はできない。
自分にそういう癖があるのは自覚している。
「四葉ちゃんはあれで頭の回る賢い子だよ。わたしたちがこうして嗅ぎまわっていることは気付いていないと思うけど、安心はできない」
「……俺が、先輩と会っていることを漏らす可能性があると?」
「ううん、サクヤ君は言わないと思う。それこそ、聞かれても黙ると思う。けど、そうすることによって四葉ちゃんがナニカに勘付く可能性はある。四葉ちゃんが誤魔化そうとしている今、これ以外に手の打ちようがない。勘付かれて、妨害行為に出られるような展開は避けたい」
柳先輩の論は理解できる。
ただ、先輩が警戒するほど霧生木さんに注意力があるとは思えない。なにしろ、霧生木さんは落下していることをあっさり見抜かれている。それこそ、そういう意味では柳先輩の方が何倍も優れているように思える。




