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部長ですもんね

     ◆



 俺と先輩は毎日、部活終了後は図書館へ篭り続けた。

 図書館の閉館時間は午後八時だ。毎日、二時間近く先輩と行動を共にすることとなった。

 そうして一緒に行動していると、いろんなことが分かってくる。

 先日、先輩とこんな会話をした。


「先輩って彼氏とかいるんですか?」

「……それは、どういう意味だい?」

「いえ、他意はありませんけど」

「そ、そうか。いないよ」


 いつも淀みなく受け答えをする先輩にしては珍しく、答えに詰まっていた。

 それが気になって、次の日にさらに突っ込んでみた。


「先輩って告白されたこととかあります?」

「なっ……。ど、どういう話を振っているんだ君は」

「いえ、ただの世間話ですけど」

「う、ん……。あるには、あるが」


 さらに、答えに詰まっていた。

 なので、その次の日、より深く話をしてみた。


「先輩って、スタイル良いですし、美人じゃないですか。彼氏作る気とかないんです?」

「……サ、サクヤ君。わたしは美人でもなければスタイルが良いわけでもない。よって、彼氏を作るとか作らないとか、そんな話にはならないよ」

「いやいや、実際、霧生木さんと並んでいても、負けないくらいの―ー」

「ストップ。いいね? ストップだ。それ以上は口にしないように」


 会話自体を打ち切られた。

 どうも、色恋沙汰や、自分の容姿に関することを褒められるのに慣れていないらしい。先輩のペースで話をしている時には、まだ良いのだろう。以前、シャワー云々でからかわれてこともあったし。

 だが、ふとした瞬間にそういう話題を振ってみると、面白いくらいに狼狽するのだ。いつも落ち着いている先輩のそういう一面を見れるのは、男としてなんとなく嬉しかった。

「やあ」

 とか、考えていたら、今日も今日とて先輩がやってきた。

「あ、どうも」

「今日もずっと勉強していたのかい?」

「他にすることもないですし」

「これだから学年一位様は……。図書館にいるのに、読書をするという選択肢はないのかな?」

「ありません」

「まったく……」

 やれやれとため息をつきながら、先輩は俺の隣に腰を下ろす。

「あの、座る位置、どうにかなりません?」

「しょうがないじゃないか。こちら側じゃないと屋上を監視できないよ」

「それはそうなんですけど……」

 理解はできるが、納得はできない。

 こうして毎日会っているせいか、いろんな意味で、以前より先輩との距離が近くなった気がする。確か、一番初めは隣と言っても席を一つ空けていた気がする。会話も、ここまでスムーズに流れていなかった。

 それがいつの間にか、先輩はすぐ隣に座るようになり、会話も流れるようなスピードで交わされている。

 ただでさえ美人で、知る人ぞ知る有名人で、年上で、しかも、毎回シャワー後なのだ。

 意識するなという方が無理だ。五十センチも離れていない場所に座られるというのは、なかなかキツイものがある。いろんな意味で。

 色恋沙汰の話が出てきたのも、そういえばこれを意識したからだった気がする。

「さて、今日も今日とて監視するよ」

「はい」

「……」

「……」

「……」

「……あの」

「なんだい?」

「先輩がここに来てることって霧生木さんにはばれてないんですか?」

 二人並んでじーっと外を眺めているだけというはなかなか居心地が悪い。

 毎度のことだが、なにか喋っていないと間が持たない。

「ああ、それなら大丈夫。四葉ちゃんは帰る方向が逆だし、一緒に帰ったことはないからね」

「あれ? そうなんですか? 霧生木さんって先輩にべったりですし、帰る方向逆でも部活終わった後に『一緒にどこかへ』みたいな流れがあるのかと思ってましたけど」

「んー、ないわけじゃないけどね。でも、わたしは使った用具の点検とか部室の鍵を顧問に返しに行ったりとかあるから、たいてい一番遅くまで残ってるんだよ」

「部長ですもんね」

「そう。なかなか大変でね。わたしが帰るころには全員もう帰っているんだよ」

 屋上の辺りを眺めながら、先輩は苦笑い。

「……」

 残っていろとは言わないが、部長だからといって先輩に任せっきりというのはどうなのだろうか。練習で疲れて、早く帰りたいのかもしれないが、柳先輩だって同じはずだ。せめて仕事が終わるまで誰かが一緒に作業をするとかすればいいのに……。

 そのおかげでこうして二人で残っても怪しまれていないわけだから、なんとも言えないが。


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