方針を決めようか
「……」
「ん? どうかしたかい?」
「……今更ですけど、落ちたのが霧生木さんだって、断言できるんですか?」
あまりにも、先輩の口調が厳しく、力が入っていたため、尋ねると、
「これを見ればすぐに分かる」
スマホを差し出された。
指を滑らせて、先輩は昨夜の霧生木さんとのやり取りを見せてくれた。
「これは……」
「嘘をついているように見えないかな?」
「確定はできませんけど、そう見えます。落ちてないなら、最初のメールで『なんの話ですか?』という返信になる気がしますので」
「だろう? わたしもそう思った。きっと、四葉ちゃんは、落ちたことを確信されているかいないか確かめるために一度、ワンクッション置いたんだろうね。そして、まだ落ちていないと誤魔化せると判断した」
そうだ。自分が落ちていないのなら、『その証言って、なんですか?』なんて聞く前に、話そのものに首を傾げるはずだ。
体質で説明がつくだけでなく、本人が不可解なメールを残しているのだ。
これはもう黒だろう。
「ああ、それと、念のために言っておくが、わたしはサクヤ君から聞くまで、四葉ちゃんがこんなことをしているなんて、知らなかったよ。体質の件を知っているからと、彼女のことを全て知っている風に思わないでね」
「はい」
言われるまでもない。
知り合って間もないとはいえ、柳先輩の性格はある程度把握できている。他人のことで一生懸命になれるタイプの人だ。自分の土俵で会話をしつつも、相手を気遣い、自らの意見を押し付けようとは決してしない。どんなことでも真摯に、話を聞いてくれる感じだ。
霧生木さんがこんなことをしていると知っていたら、呑気に部活なんてしていないだろう。無理やりにでも止めようとするんじゃないだろうか。
「じゃあ、今後の方針を決めようか」
「方針……?」
「そう。これからどうするか、ということだよ。四葉ちゃんがどうして自殺しようとしたのかは不明だけど、その問題が解決していないのなら、また自殺しようとする可能性はある」
ごくりと唾を飲む。
霧生木さんには、自殺をしようと思うほど追い詰められているコトがあるのだ。そう簡単に解決するはずがないだろう。ひょっとしたら、近いうちにまた、同じことをするかもしれない。
「それは、なんとしてでも阻止したいですね」
人が高いところから命綱もなく、落下していく光景は、何度も見たいものではない。その人間がクラスメイトなのだからなおさらだ。
強化人間だかなんだかは知らないが、死ぬ可能性の方が高いことをそう何度もやらせたくないし見せられたくもない。いや、何度も見る前に本当に死んでしまう確率が高いだろう。
見て見ぬ振りはしたくなかった。
「ただ、四葉ちゃんを止めるというのは良いとして、問題が一つある」
「問題?」
「うん。ほら、四葉ちゃんは、まだ自分が飛び降りたことを認めていないだろう? それってつまり、わたしたちが飛び降りの件で四葉ちゃんに話しかけても、意味がない、ということにならないかな?」
先輩はぴっと指を立ててそう言った。
「……」
意味を飲み込むまで数秒かかり、ようやく理解する。
「こっちは証拠がなにもないわけですから、いくら言ったところで『そんなことはしていない』と否定されたらどうしようもない、ということですか?」
「そういうこと。やめさせる云々の前に、四葉ちゃんに飛び降りをしていることを認めてもらわないと、説得もなにも通用しない。四葉ちゃんが『そんなことをしていない』と言っている限り、助けようがないし、事情を聞くこともできない」
「でも、それってかなり難しくないですか? 誤魔化そうとしていることは明白ですし、一度誤魔化されてるんですよね?」
それに、新しく証拠が出てきたわけでもない。霧生木さんもそれが分かったから誤魔化そうとしたのだろうが、阻止するしない以前の問題だ。
「いやいや。手っ取り早い方法があるよ」
「え?」
ところが、先輩はにっこりと笑う。
「ほら、よく言うだろう? どんな事件も現場を抑えてしまえば証拠がなくても関係ないって」
「あー……」
納得。
要は、
「図書館から見えたのだろう? 時間的には部活が終わった後のはずだ。わたしとサクヤ君で、張り付けば良い」
そういうことだ。




