侍女エヴァのつぶやき
私の名前はエヴァ・マリアスと申します。
異世界よりいらっしゃった巫女姫、ミユウ様の第一侍女を務めさせていただいております。
今日は何ですか、ミユウさまに代わって何か話せと言われまして、何をどうしていいやら迷っている次第でございます。
「そんなの、適当でいいんじゃないー?」
今口を開いたのは私がお仕えしているミユウ様でございます。ミユウ様はヨハンナの作った焼き菓子と私の淹れた紅茶で一服されている所。あぁ、やっぱこの組み合わせ最高だわ、とお褒めの言葉をおっしゃりながら、何個目かもう覚えて無いくらいの量をお食べになっています。
「そうですよ、先輩、そんなの適当でいいですよ」
今のは後輩侍女のアメリア。元公爵家令嬢だったのですが、まぁ、色々ありまして、彼女は今私と共にミユウ様付きの侍女をしています。男爵家出身の私には恐れ多いご令嬢なはずなのですが、アメリアは案外気さくと申しますか、意外と庶民的と申しますか、打たれ強いというか、きつく叱っても堪えないというか…とにかくまぁ、うまく行っていますわ。ミユウ様の衣装に関しては少し引いてしまうくらいの情熱を発揮しますけれども。少し…いえ、かなり、かしら?あぁ、やっぱり少し、にしておいて下さいますか?
えぇと、私が王宮に勤めだした頃の事を聞きたいとか。
あれはいつのことだったかしら。私の家は男爵家と言ってもとても貧乏で、行儀見習いと言いながらその実、単に口減らしのためにまだ子供だった頃、ツテを頼ってお城に上がりました。最初は水仕事から始まり、努力の甲斐あってようやくエドヴァルド殿下付きの侍女まで上り詰めたのですが、無愛想で人の手とりわけ女手を必要としない殿下にお仕えするのはここだけの話、少し気が進みませんでしたわ。
仕事ですからそんな事はおくびにも出しませんでしたが、王妃様が今でも御存命だったら、と何度考えた事でしょう。いつか王妃様にお仕えすることが私の子供の頃からの夢でしたから。
そこに現れたのが、ミユウ様だったのです。
初めて見たミユウ様は、不思議な髪型と恰好をした方でしたが、その目の生き生きとした輝きといったら、もう。一目見るなり、私が求めていたのはこの方だ、この方に一生懸命お仕えしようと決心いたしましたわ。
そうですね、これ以上私の話をしても面白くありませんから、ミユウ様の一日でもお教えいたしましょうか。
ミユウ様のお目覚めは、朝日が昇るのと同時、早朝でございます。
寝ぼけ顔のまま盥で顔を洗い(この間に私がささっと寝ぐせを直してさしあげます)、汚れてもいいようにシャツとズボンにベストを着用して城の裏手にある畑へと向かいます。
畑は、エドヴァルド国王陛下が王子殿下時代に作られたもので、陛下ご自身が品種改良した摩訶不思議な色の野菜や果物が植えられています。そこで水撒き、雑草抜き、肥料の追加、収穫などをされます。私は手伝わずに部屋の掃除をしながら窓の下をたまに確認する程度なのですが、ミユウ様が作業を始められると、必ず誰かが手伝いにいらっしゃいます。
一番多いのは王立騎士団のレオナルド様とルーク様。レオナルド様は言わずと知れた、元第二王子殿下でいらっしゃいます。最近めっきり背が高くなって大人らしくなられました。相変わらず少し不機嫌そうな表情は健在ですが、我儘な所は王位継承権を放棄されてから少しだけ穏やかになられたようです。それが圧力に感じられていたのかもしれませんわね。
ミユウさまが異世界から来られてからは手を抜いていた剣術に身を入れるようになり、今日では陛下の王立騎士団に選ばれるまでに成長なさいました。我が国にとっても喜ばしい事です。ですが三つ子の魂百までと申しますか負けず嫌いな所も健在なようで、いつも二人で競うように収穫をなさっています。
ルーク様は陛下の左腕です(右腕は側近のシャルル様ですわ)。上背のある、大型犬のような人懐こいお方で、あら、赤毛の長い髪を一つに結っておられるから、お馬さんみたいと言った方が良いかしら。ルーク様はミユウ様の剣術の先生でもいらっしゃるのですが、二人はとても仲が良く、大きな口を開けて笑いながら楽しそうに作業をなさいます。
最後はジェラール様。アメリアの父ダルシウスに妹である聖女様を人質に取られ、無理やり仕えさせられていたとか。陛下の即位に伴って軽い罪の者に恩赦が与えられ、本来なら陛下に仕える所を、何故かミユウ様に仕えていらっしゃいます。
ジェラール様は目に見えないほど素早く仕事を終えられると、余った時間でミユウ様の手を取り腰を抱き隙あらば口説こうとなさいます。
色気過剰とも言える甘いマスクで、さらに甘く歯が浮くような言葉をおっしゃる殿方なので私は少し警戒しているのですが、ミユウ様はもう慣れているのかあまり気にしてないご様子。そういえばアメリアがジェラール様は良い所のご出身ではないのかと言ってましたっけ。動作や言葉が庶民出には見えないのだとか。私はジェラール様の出自よりも、風のように気配を悟らせずに動かれる方が心配ですわ。ミユウ様の着替えや入浴をコッソリ覗いていないか心配です。聖女様の名に関わりますから、そんなことはしないと信じてはおりますが。
陛下は執務が忙しくてあまり畑には来なくなられました。国を動かすのですもの、当然と言えば当然ですわね。ですが、時折ミユウ様が執務室の方へ向かって手をぶんぶんと振っている事がございます。あれはもしかしなくても陛下に手を振ってらっしゃるのだと思います。
側近のシャルル様が畑に来る所を私は見た事がございません。私は頭脳派だからと話されているのを聞いた事がありますが、剣は人並み以上に出来るそうなので、実は虫が苦手なのではないかと推察しております。というのも、以前、大きな羽虫が飛んで来た際に、非常にさりげなく私の後ろに隠れられた事があるのです。
美形が多いと評判の男性陣の中でも一際美しい容姿をお持ちのシャルル様ですが、怪しげな呪具集めの趣味と言い、軽口といい、ミユウ様のお言葉を使わせていただきますと、つくづく残念な男だと思いますわ。ミユウ様やレオナルド様をからかうときなど、仲良くさせていただいてはおりますけどね。
畑仕事を終えられると、ミユウ様は部屋へ戻って来て朝食を取り、騎士の練兵所に向かわれます。そこで騎士とは思えない荒くれ者の猛者どもと剣技を磨かれます。
せっかくきめ細かい綺麗な肌をお持ちでいらっしゃるのに、痣だの傷だのを毎日拵えてくるのは感心しませんが、毎日充実した顔で戻ってこられるので、何も言えなくなってしまいますわ。
訓練が終わるとお昼代わりのティータイム。
午後はその日の予定で変わります。今日は城下町の巡回へ向かわれるとか。ミユウ様は市民にも大人気で、声を掛けられたり、お土産を手渡されたり大忙しの様です。そうそう、最近ミユウ様の影響で髪を短くする女性が増えているのだとか。今まで我が国は女性は控えめにするのが当然と言った風潮でしたが、ミユウ様が騎士になられて以来、女性の自立が叫ばれています。良い傾向ですわ。
夕食は陛下と取られます。一日忙しく過ごされたミユウ様はそれはもう、すごい食欲を発揮します。またたく間に皿を空にすると、必ずと言っていいほど、もう少し食べたいな、という顔をなさいます。それを見て、陛下は仕方が無いな、という苦笑を浮かべ、自分の皿をそっと差し出すのです。
お前の食べっぷりに圧倒されて食欲が失せたのだ、と憎まれ口をおっしゃって。ですが、その目はとても甘く、私までドキドキしてしまうような優しい眼差しです。…ミユウ様は目の前の皿に夢中で気付かれていませんが。
そして陛下と食後のお茶を飲みながら束の間の語らいを終えられると、陛下は執務へ逆戻り、そしてミユウ様は部屋に戻ってゆっくりとお風呂を取り、髪を乾かす間も無いほどすぐに気絶したように寝てしまわれます。
貴族にとってはまだ宵の口といった時間ですが、毎日忙しく動き回られているのですもの、仕方ないですわね。
私はそっとミユウ様に上掛けを掛けると、灯りを消して退出いたします。
これが私の日常でございます。
申し訳ございません、たいして面白くなかった事でしょう。
前もってこのような機会があると分かっていれば、もう少し何とかなったかと思いますが、今さら言ってもしょうがない事ですわね。
次は違う方に頼んでくださいね?
では、この辺で私のお話は終わりにさせていただこうと思います。
え? 私の年齢は、ですって?
まぁ。
―――うふふふふふふふ。
ジャブとして後半出番が無かった侍女エヴァを語り手にしてみました。
ジェラルドの覗き疑惑、発覚です!笑




