第27話 脱出劇からの救出劇
まずは、脱出経路を探さないとね!
美優は雨のせいか薄暗い部屋をぐるりと見まわした。
あるのはベッド、椅子、そして窓。
窓から降りれないかな?シーツを細く切って繋げて脱出って映画でよくあるよね。
だけど窓に近寄ると美優は落胆して肩を落とした。
木で塞がれている上に、直径2㎝くらいの黒くて細い鉄格子が嵌まっている。
少し錆びているみたい。これって壊せないかなー。
美優は鉄格子をむんずと掴み、揺さぶってみたがビクともしない。おのれ、細いくせに頑張りおって…!
壁も重厚で壊せそうにない。空手もやってたんだけどなー、無理そう。
昔、道場見学の時、師範代の人が瓦をたたき割ったのを見て、自分も出来るんじゃないかと試しにやらせてもらったことがある。結果というか当然というか、手を強か打って痛みでぴょんぴょんと飛び跳ねた事があるもんな。うん、無理。
すると残りは入口の扉だけということになる。漆黒の魔導士が鍵を閉めて行った所だ。
「ミユウさん、何をしているのですか?」
ユフィが不安げに問いかけてくる。さっきからドスンバタンと美優が暴れているので不審に思っているのだろう。
「いや、どっかから抜け出せないかと思って。早くしないとダルシウスかメタスが来ちゃうじゃん」
「まだ大丈夫だと思います」
「え、何で?」
「おそらくですが、ダルシウスは国外逃亡を企てていると思います。あの男は小心者ですから。だから今はそのためにメタスを休ませているのではないかと」
「休ませる?」
「他者を移動させる魔術は魔力を大幅に使うそうなんです。ですから、一度使うとしばらく体を休めないといけないのだとか。長い呪文の詠唱も必要らしいんです」
ほお。それは初耳だね。
さっきダルシウスの屋敷ではメタスが現れてすぐにここに連れて来られたけど、んじゃ、メタスはどっか裏の方で呪文の詠唱してたってことか。・・・何か苦労してるなー、敵ながら。
「んじゃ、尚更早く逃げ出さないとね」
外国なんかに連れていかれたら、例え逃げだせたとしてもその後が困る。
決意も新たに、美優は入口の扉を念入りに調べた。扉はセメントのようなモルタルのような、壁とは違う素材で作られ、蝶番が上下に二つ付いている。扉自体は頑丈そうだが、蝶番部分は窓の鉄格子同様に少々錆びている。古い建物だとういうこともあるし、日本とは雲泥の差だが少しばかり湿気が多いせいかもしれない。
これ、もしかして蝶番部分を蹴ったら壊れるんじゃない?
あぁ、靴があれば。(ドレス用じゃなくて、普段履いてるブーツの方ね)
裸足でやったら痛いだろうなぁ、と美優はしばし躊躇する。
「いや、でも他に方法無いし、やるしかないっしょ!」
思い立ったが吉日、初志貫徹!
自分に言い聞かせて、ドレスの裾をたくし上げる。
「ドレス長ったらしくて邪魔だな…」
逃げる時にも障害になりそうだ。美優は一瞬だけ考えて、よし、切るか、とすぐに決断を下した。
ドレスはすでにボロボロだ。どこかに引っ掛けたのか、オーガンジーの襞が破れて垂れ下がっている。リボンやフリルが苦手な美優のために作られた、特製のドレス。
エヴァ&お針子さん達ごめんねー、と(実際は全く違う方向だったが)城の方に向かって手を合わせる。
ザクザクと短剣で膝丈にカットする。よし。ちょっと寒いけど大分動きやすくなった。
さーて、行きますか。
せぇ、の!
美優が足を突きだそうとするのと、扉が開くのは同時だった。
足を上げたままの状態で、漆黒の魔導士と目が合う。そして、そのまましばらくどちらも身動きせずに見つめ合う。(フードに隠れて目は見れないが、目が合っている事だけは分かった)
ようやく我に返った美優は、はっとして足を下ろした。驚きすぎて気付かなかったが、足を上げた美優のパンツはメタス側から見たら丸見えだったに違いない。
こっちに来て作ってもらった、あの、かぼちゃパンツもどきのやつだ。
何で、このタイミングで!?
昨夜からほんとツイてないな、私!いや、むしろ何か憑いてるんじゃない!?
美優は膝丈になったドレスの裾を叩いて、何でも無い風を装った。何なら口笛でも吹いちゃおうかな、てなもんだ。
「…椅子」
「はっ?」
「…椅子は使わないのか」
あぁ、と美優はようやくメタスの言葉を理解した。
足で蹴らずに、椅子を使って扉を壊せば良いのでは、と言っているのだ、この男は。
ほんとだ、何で私椅子使わずにいきなり足で挑戦したんだろう?
でもでも敵にそんなこと指摘されたくないよっ!正論だから尚更ね!
パンツについてはノーコメントにする事にしたようだ。もしコメントしようものなら美優の拳が飛んだだろうが。それにしてもメタスはエドヴァルド以上に言葉少なな男らしい。
「…来い」
メタスは何事も無かったかのように歩き出した。
お願いだから何か一言でもいいからツッコミプリーズ!
放置プレイ、いくない! ストップNOツッコミ!!
訳の分からない羞恥心だけを残され、赤面しながらも美優はメタスの後ろを歩き始めた。
*****
「…どうだ?」
「2、いや、30ぐらいは居るな。各々実力に差はあるようだが」
塔の気配を探り、エドヴァルドが答える。その恰好は黒ずくめだ。ダルシウスの屋敷を出る時に拝借したものだった。
「塔の内部に結界を維持させている魔道具があるはずだよ。それを壊してくれさえすれば、僕が中に入れるようになる。…漆黒の魔導士は僕が何とかする」
「何とかなるのか?」
「分からない。僕の力がどのくらい効くかによるね」
「相手の魔力が高いと効かねぇの?っていうか、お前の能力って?」
ルークが横から口を挟む。エドヴァルドも考えていたことなので、黙ってジェラールの言葉を待った。
「漆黒のと僕のでは力の性質が異なるから、よほど隙を突かないと防御される恐れがある。何しろあれほど強固な結界を張るほどの魔導士だからね。僕の力は妹に比べればほんの小手先のものだよ。相手の動きを止める、とかね。相手を操るほどのものじゃ無い」
相手の動きを止められるだけでもすげーけどな、とルークは感心したように言った。戦いの場において相手の動きを一瞬でも封じられたら勝ったも同然だからだ。それよりも更にすごいとジェラールに言わしめる妹の能力とはいかほどのものなのだろう。
「もし、その魔道具を壊せたとする。お前が術を発動させるためにはどのくらいの時間が必要なのだ?」
魔術を使うには長い呪文の詠唱が必要だという。その間にジェラールが攻撃されてしまっては、メタスの足止めが叶わず美優を救出出来ないだろう。
一番恐れるべきなのはダルシウスでも手下どもでもなく、正体不明な漆黒の魔導士だった。それを足止め出来るとあらば、ジェラールの術が発動するまで時間を稼ぐ必要がある。それと、ジェラールの身柄の確保も。詠唱しながらでも戦えると言うならば問題は無いが、そのせいで術の発動までに時間が掛かりすぎては困る。
「呪文の詠唱は要らない」
「…そんな魔術があるのか?」
簡単な魔術だからか、それともジェラールがその術を使い慣れているので詠唱が不要なのか。知識としてしか魔術のことを知らないエドヴァルドは内心で首を傾げたが、本人がそう言うのならばそうなのだろうと、無理やり自分を納得させる。
「魔道具とは?」
「魔力を込められるもの。結界石。球体か円柱か形状は様々だけど、水晶のような透明なものが多いかな。部屋の四隅に置かれているからあればすぐに目に付くはずだよ。埋められてない限りはね」
「場所は見当がついているのか?」
「魔術は『風』『火』『地』『水』『空』の五大要素に力を借りている事は知っているよね?」
エドヴァルドとルークは頷いて続きを促した。
「結界はその中で『地』の力を使っているんだ。だからおそらく地面に近い所にあるはずだ。一階にそんな仕掛けがあるとは思えないから、可能性が一番高いのは―――地下」
「んじゃ、取りあえず地下に行ってその魔道具ってやつをぶっ壊せばいいんだな」
「ダルシウスはどこに居ると思う、ルーク?」
「最上階じゃねぇの?馬鹿と何とかは高いところが好きってな!」
ルークの思考はいつも真っ直ぐで迷いが無い。危険な事もルークが口にするととても簡単な事のように思えてくるから不思議だ。この貴族のくせに口の悪い三男坊のこういう所が彼の長所だとエドヴァルドは思っている。今まで何度その長所に心を救われたか分からない。・・・感謝を口に出しては言わないが。
シャルルが兵を寄越すまでにはまだ時間があるだろう。・・・間に合えばいいが。
方針が決まれば後は早い。
「ジェラール、すぐに動けるように準備をしておけ」
エドヴァルドはジェラールにそう指示すると、一向に止む気配が無い雨の中、ルークと共に目にも止まらぬ速さで塔へと接近した。
*
「雑魚ばっかりじゃねぇか!」
これなら屋敷に居た連中のほうがまだ楽しめたぜ、とルークが敵を倒しながら愚痴る。
ここに居るのは元々塔を管理しているものだったのだろう、明らかに戦闘要員ではない者も居た。敵の正確な数が分からなかったのもそのせいか。
戦争のない昨今、傭兵や兵士が名ばかりのものに成り下がっているのは時代の流れか。
そんなことを憂いながら、同じ黒い服を着ていたので仲間だと油断した相手の一瞬の隙を突いて敵を倒していく。
「油断するな」
小声で叱責を口にしながらエドヴァルドも敵を次々と倒す。声を出されては困るのでまず喉を鞘で殴りつけてから剣を振るう。一人たりとも上の階に行かせない。侵入をダルシウスに悟らせない。思った通り、一階には広間しかなく、二人は地階へと進んだ。
「これか!」
部屋の隅にある球体を見つけ、ルークが叫んだ。中央には屋敷で見た物と同じような魔法陣が在った。
「魔法陣は踏むな」
エドヴァルドの制止におうよ、と返事をすると大股で歩み寄り、大剣を振り落とし、そして水晶のようなその物体を思いっきり叩き割った。




