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第26話 ジェラルドとジェラール

 ぐぅぅぅぅ。


 美優のお腹が切なげな悲鳴を上げる。

そういえば昨日から何も食べてなかった…。ここ、ご飯出るのかなぁ、今だったらどんな粗食でもおいしく頂けるんだけど、なんて気楽に考えすぎか。


 ズリズリズリ。


「助け、早く来ないかなー。でもここに居るって分かんないか」


 実際ここに訪れた事があるシャルルが気付かなかったくらいだ。美優もまさかこんな所に女の子が閉じ込められているなんて全然分からなかった。それぐらい静かにひっそりと佇む塔だったのだ。

 辺鄙な所にあるもんね、と言うとユフィがいえ、とその言葉を否定した。


「ダルシウスがこの塔を管理している事は少し調べれば分かると思います」


「そうなの?」


 ユフィが頷くのが気配で分かる。

ここは歴代の王が王位を継承する前や戦争に赴く前に祈りを捧げるために滞在する場所だってシャルルが言ってたっけ。そんな大事な場所の管理を任されるくらいの立場に居たのに、何でダルシウスは王家に楯突くんだろう?


 ――実際は大臣の肩書きを持っていても政治に関われないダルシウスに、歴史的建造物である祈りの塔の保管・維持という名目で馬鹿でも出来る仕事を割り振り、何とか公爵家の体面を取り繕ってやっているのだが、その辺の事情を美優はまだ知らない。


 ズリズリズリ、ズリズリズリ。


「ですから、王子殿下もいずれは…」


「気付く?」


「はい。おそらく」


 それは一安心だ。

ま、先にダルシウスに殺されたり連れ去られたりしない事が大前提だけどね。

あー、自分の想像に自分で落ち込んだ。

何が哀しくて日本の女子高生が異世界で命の危険に晒されなきゃならんのよ。

本来なら毎日学校に通って友達と寄り道したりして面白おかしく暮らしてるはずなのにさ。


「あ、じゃあ、ジェラールもユフィがここに居るって気付いてる?」


「はい。何度かここに来た事があるようですが…」


「ユフィ?」


 口ごもったユフィを心配して声を掛けると、ユフィはごめんなさい、と申し訳なさそうに謝った。


「ここには結界が張られていて、兄は入って来れないようなのです。ダルシウスが〝あの愚か者め、無駄だと分かっていながら〟と嘲笑していたのを聞いた事があります。おそらくあれは兄の事を言っていたのだと思います」


 マジか。

妹の目の前で兄を愚弄するとは、お前は一体何様だ!貴族がなんぼのもんじゃい!


「じゃあもしかして、全然会わせてもらってないの?」


「…はい。ここに閉じ込められて以来、一度も」


 美優はその言葉を聞いて目眩がしそうになった。

なんつー鬼なんだ、あのおっさんは!日本のヤ○ザさんだってもうちょっと優しいぞ!?

義理と人情の世界だよ?


「結界って、あのメタスっていう魔導士が?」


「はい。私も彼の転移の術でここに連れて来られたんです」


「ってことはあの男も10年はダルシウスに仕えてるってことか。腹心ってやつかな。あんな下衆男(げすお)の手下だもん、メタスも碌なもんじゃないね」


「あ、でもメタスは…」


「ん?」


「いえ、何でもありません…」


 何かを訴えかけたユフィが再び口ごもり、美優は首を傾げた。


 ズリズリズリ。


「兄は、兄は元気なのでしょうか?」


 お互いの事情を説明し合った後で、ユフィは熱に浮かされたように尋ねてくる。


「えーとね、すごく背が高くて美形に育ってるよ」


 男の人なのに色気がすごいの、とは言わないでおく。

ついでに手の甲や頬だけじゃなく色んな所に口づけをされてしまったんだけど、それも言わない方がいいだろう。

ダルシウスに指示されてやっただけだろうし、兄妹のそういう話って聞きたくないって友達が言ってたもんね。


「ね、ユフィ」


「はい?」


「あの、ジェラールの左目の事なんだけど」


 美優はどうしても気になって聞いてしまった。そして、畳みかけるようにユフィに攫われた経緯を説明した。

 ジェラールに攫われる時、彼の左目が光って体の自由を奪われた事。そして彼に触れた時に(本当は首を絞められた時だけど)過去の記憶のような物が頭の中に流れ込んできたこと。その中にユフィらしき少女の映像があったこと。


「あの左目は何?ジェラルドの能力って、…あっ!」


「…ミユウさんはご存じなんですね」


 つい、呼び慣れた名を呼んでしまうと、ユフィがすぐにそれを聞き咎めた。そしてため息を一つ。それは何故か安堵のため息にも聞こえた。


「最初、ジェラルドって名乗ってくれた。でも、皆はジェラールって呼んでる。本当はどっちなの?」


「…兄が本当の名を教えるなんて」


 信じられない、とでも言うように呟く。ということは、ジェラルドの方が本当の名前ってことか。

何でジェラールって名乗ってるのかな。もしかして、指名手配中の犯人だから偽名を使ってる、とか!?


「過去の記憶とは、一体どのようなものでしたか?」


「えぇと…」


 ジェラルドが物乞いをしたり、女の人にいやらしい目で見られたりしていたことは、少し、いや、かなり言いづらかったが、美優は見たままの事をたどたどしく伝えた。


「それだけ、ですか?」


「うん?」


「そうですか…」


 ユフィは喜ぶべきか悲しむべきか分からない、とでも言うような吐息を漏らす。そして、意を決したかのように話し始めた。


「私たちは幼い頃、この力が原因で多くの人々に狙われてきました。そのため、定住することも叶わず、常に移動しながら暮らしていたのです。ですが、まだ幼すぎた私はお金を稼ぐことが出来ず、兄がどこからか持ってくるお金や食糧に頼って生きながらえていました。私はいつもお留守番で、人目につかないところに隠れていました。お前はここに居ろ、僕が何とかするから、そう言って兄はいつも出掛けて。そして、兄は日に日に目の輝きを失っていきました。…兄が何か良くない事をして金品を得ているとは薄々分かっていたのですが…私にはどうすることも出来ませんでした」


 それは、ユフィの懺悔だった。


「ユフィ…」


「だから、私はここに閉じ込められて、少しだけ、ホッとしているのです。ここに居ればもう、兄の足手まといにならなくて済みますから」


「そんなことないって!きっとジェラルドもユフィが居るから頑張ってこれたんだと思うよ!」


 私は見た。必死で得たお金で買ったパンをユフィに差し出しているジェラルドを。自分自身の顔は見えないけど、ユフィの瞳に映ったジェラルドは微笑んでいた。それは辛い事があったことなんて、微塵も感じさせない笑顔だった。きっと、ジェラルドはユフィが居たから笑えた。ユフィが居たから生きて来れたんだと思う。


「こうして兄の恋人であるミユウさんにも会えましたし、もう思い残すことはありません」


「はっ!?」


「どうか、兄をよろしくお願いします」


「ちょ、何か誤解が生じてる!?」


「隠さなくても大丈夫です。兄が自分の名を自ら明かすなんて、有り得ません。きっとミユウさんは兄の大事な人なのでしょう」


「違う違うちがーう!」


 美優は慌ててユフィの言葉を遮る。


「私とジェラルドは何でも無いから!」


 恋人はおろか、友達とも言えない。


「あぁ、もしかして王子殿下を挟んで三角関係というやつですか?助けに来てくれるって言ってましたよね。ということは兄の方が不利な状況なのですね?」


「ちっがーうってばっ!」


 ユフィの妄想は止まらない。お願いだから、話を聞いて!


「す、すみません。こんな所に一人で居るものですから、想像することが趣味になってしまって…」


 そうか、確かにこんな寂しい場所に一人で居たら出来る事は限られてくる。暇すぎて想像の一つや二つ、してしまうよね。

これが囚われ人の弊害ってやつ?って、違うだろ!



ズリズリズリ……ブツッ!



「やたっ! 切れたっ!!」


 久々の自由に会心のガッツポーズ!

これで短剣が使える。手を縛られた状態じゃ、うまく取れなかったんだよね。


「ミユウさん?」


「ユフィ、一緒にここを出よう!」


「え…?」


 戸惑うユフィを余所に、美優は大きく伸びて体を動かす。

こうしちゃいられない。

早くしないとダルシウスが私を殺しに来るかも知れないし。

そうと決まればさっそく脱出作戦決行!


 いつ来るか、いや、そもそも来るかどうか分からないエドを待ってなんていられない。

勝手な行動をするなってエドが怒りそうな気がするけど。いや、実際怒るだろうけど。


 ごめんね、

私はひたすら王子様の助けを待つような可愛いお姫様じゃないんだよっ!



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