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第14話 類は友を呼ぶ、のか!?

「今日は早いな、美優」


「あ…おはよう、エド」


 朝早く畑に水を捲いていると背後からエドヴァルドが現れた。目が合った瞬間に、美優は相手からさりげに視線を逸逸らせた。

昨日の今日で、どんな顔すればいいの!泣き顔見られちゃったし!

おまけに手も繋いだ。照れくさい。猛烈に照れくさい。


「どうした? 眠れなかったのか?」


 それなのに、エドヴァルドはそんな美優の気持ちを知ってか知らずか、無遠慮に顔を覗きこんでくる。


「眠れたっ! ぐっすり眠れましたっ!」


 少し赤くなった顔を見られまいと、美優はずざさっとエドヴァルドから距離を取った。変なヤツだな、と小さく笑うエドヴァルド。その笑みは今までの『フッ』と小馬鹿にしたものや、『ニヤリ』とした悪魔のものじゃなくて、さすが王子と言える爽やかなもの。

あんた誰だよ!この間までの傲岸不遜のオレ様王子はどこに行ったんだ?

美優は思わずツッコミを入れた。昨日エドヴァルドと屋上で話して以来、何だか妙にエドヴァルドが気安い。ようやく受け入れてくれたのだと思うと嬉しいが、こうも態度を変えられると少々不気味な気もする美優だった。


*****


 昨日。

泣き止んだ美優がエドヴァルドと共に広間に帰ると、他の面々は明らかに安堵の表情を浮かべた。いつも生意気な口を聞くレオナルドですら神妙な顔をして無言で美優を気遣っていた。

そして美優は改めて皆に謝った。さっきは取り乱してごめん、と。そして、どうやら帰れなくなったみたいだから、これからもどうぞよろしく、と言って頭を下げた。

 ヤケになった訳じゃないよ。悲しさも不安も何もかも、涙と一緒に押し流してしまったら、何だかスッキリしちゃったんだよね。今まで泣くのは何か負けた気がして嫌だと思っていたけど、涙にはそういう作用もあるのかもしれない。

 

 それに、悩むなんて私のキャラじゃないし。起こってしまったことはしょうがないじゃん。大事なのは、これからどうするか、だよね。

こう思えるようになったのも、エドのおかげ、かな…。


「本当にごめんなさい~ミユウ様~」


 シャルルが目に涙を溜めて謝罪してくるのを、美優はストップ!と言って制止した。


「もういいよ。シャルルも知っててやったわけじゃないんだし。この話は終わりにしよう」


「それじゃあ私の気が収まりません~」


「んじゃ、私がこの世界で一人でも生きていけるように、色々教えてくれないかな?」


「し、城に居ればいいじゃないかっ!」


 私がシャルルと話していると、レオナルドが話に割り込んできた。


「さすがにずっとは居れないよ。何か手に職つけて自分一人ぐらいは養えるようにならなきゃ」


「それじゃ、城で雇ってやるっ!」


「あー多分ダメ。私、掃除も料理も苦手だもん」


 美優は頭を振って断った。実際、自分の部屋の掃除をしようと試みたことは何度もあるのだが、いつも蹴躓いてカーテンを破ったりバケツの水を零したりと、ちゃんと出来た試しがない。料理担当になんてなったら、料理長のヨハンナが黙っていないだろう。遠くで涙を拭っていたはずのエヴァも必死で頷いている。…失礼な。自業自得だけど、ちょっと傷付く。


「それじゃあ騎士団に入るってぇのは、どうだ?」とルーク。


「あーそっちの方がまだ有り得るかも」


 近衛騎士団には到底入れないだろうけど、このまま鍛錬を重ねれば警ら隊や衛兵にはなれるかもしれない。それに、女だということを利用して未婚の貴族女性のSPにもなれるかも?


「もしそれが叶わなかったら、園丁で雇ってもよい」


 エドヴァルドがそう提案してくれた。

あーそれもいいなぁ。土いじり結構好きだし。王子の品種改良にもちょっと興味がある。

あ、この世界でもけっこー生きていけそうかも、私。なーんて、楽観的すぎる?


「ということで、シャルル。私に迷惑かけた罰として、一人立ちするまで私の面倒を見ること! いい?」


「はいっ!もちろんです~」


「よし! んじゃ、今後はもうごめんなさいとか私のせいで、とか一切言わないこと! 分かった?」


「はい。ありがとうございます、ミユウ様~」


 シャルルがようやく笑顔を見せてくれて、美優もほっとした。

罪悪感を持っている人には何かしらの代償を要求しないと、いつまでも自分を責めてしまうことになる。それは自分の本意ではない。

シャルルにはいつものシャルルで居て欲しいもんね。…変態すぎるのは困るけどさ。


「ミユウ様…」


「ん?どうしたの、エヴァ」


「申し訳ございません。ミユウ様が辛い思いをしているというのに、私…私、嬉しいんです。ミユウ様と離れなくて済むと分かって。ミユウ様の侍女失格ですわ」


「エヴァ!なんてかわいい事言うの!」


 済まなそうに謝るエヴァを、美優は両腕で抱きしめた。小柄なエヴァは美優の腕にスッポリと収まってしまう。柔らかいピンクの髪が鼻をくすぐる。


「お、俺も仲間に入れて♪」「私も入れて欲しいです~。むぎゅー!」


「ちょ、男はダメー!」


 断固として断ったにも関わらず、ルークとシャルルが美優とエヴァを包むように輪に入ってくる。さっきまでの重苦しい空気が嘘のように払拭された。

うん。こういうのがいいな。暗い顔してても何も始まらないもんね。

それを二人も雰囲気で察してくれたみたい。皆、ありがとう。

揉みくちゃにされながら兄弟王子に目をやると、レオナルドは何故か赤い顔をして睨んでくるし、エドヴァルドは呆れた顔をしてため息をついていたっけ。





「何を考えている?」


 昨夜の記憶を辿っていた美優は、エドヴァルドの声で我に返った。


「ううん、何でも無い」


 慌てて水撒きを再開する美優。エドヴァルドもそんな美優を束の間観察するように見届けると、自分の作業を始めた。

 その後、二人で収穫を終えて厨房に籠を運ぶと、エドヴァルドはその中の果物を一つ掴み、無言で放るように投げて来た。キャッチボールの要領で咄嗟にそれを受け取って手の中を見てみると、そこには小ぶりの林檎があった。もちろんこの林檎も王子が品種改良したもので、白雪姫の毒林檎かーい!とツッコミを入れてしまいそうなケバケバしい紫色だ。しかし、色が悪い代わりに糖度はとてつもなく高く、生で食べても焼き菓子にしても美味しい、美優お気に入りの果物だ。


「何?」


「食べろ」


「? ありがとう…」


 何故エドヴァルドがそんな行動をしたのか分からなかったが、くれるというのだから貰っておこう。美優は林檎を軽く服で拭いてそのまま齧りついた。爽やかな酸味とあまい香りの後に瑞々しい果肉と果汁が口に広がる。喉が渇いていたので丁度良かった。


「おいしい!」


「当たり前だろう。俺が作ったんだ」


 エドヴァルドは自信に満ちた顔つきでニヤリと笑うと、美優の髪をくしゃっと撫でて立ち去って行った。きっと執務に戻ったに違いない。

何か王子が優しいと調子狂うよねー。あー林檎ウマっ!

美優は林檎をかじりながら、その後ろ姿を暫し見つめていた。




「ちょっとあんた!」

 林檎を食べ終えた美優が部屋へ戻ろうとすると、どこからか声が聞こえて来た。どこだろう?声の主を求めて視線を漂わせると、壁際の隠し扉からさきほど会ったばかりの料理長のヨハンナが顔を覗かせている。

王宮はこのような隠し扉や通路がたくさんあって、使用人は大体ここを使って客人に滅多に姿を見せないようにしている。その通路はかなり入り組んでいて、慣れないものは迷うことも多いのだとか。だけど、活動拠点を厨房に絞られている料理人のヨハンナがその通路を使うことは滅多にないはずなので、美優はどうしたことかと驚きを隠せなかった。


「ヨハンナさん!何故ここに?」


「しっ! いいからこっちに!」

 口の前に太い指を立てて、逆の手で手招きする。美優が頷いて恐る恐る近づくと、突然目の前に白い物が差し出された。それは保温用の蓋を被せた皿だった。


「これは…?」


「失敗作さ。いいから黙って食べな。腹が減ってるとロクなことを考えりゃしないんだから」

 ヨハンナはそう言って、美優に皿をつっけんどんに渡すと、もう用は無い、とばかりに扉を閉めてしまった。廊下に一人残される美優。蓋を開けるとそこにはケーキが載っていた。以前、美優がオーブンを爆発させた時の焼き菓子だ。


「うわー、おいしそう!」


 綺麗な焼き色が付いたそれはとても失敗作には見えないが、プロのヨハンナには納得がいかない出来なのかもしれない。エヴァと食べよう、と美優はウキウキで部屋へと向かった。





「あれ、レオ、何してんの?」

 

 部屋に辿り着くと、ドアの前でウロウロしている男が居た。弟王子(レオナルド)だ。


「どこへ行ってたんだ!」


「どこって…畑とか、色々」


 あんたも知ってるでしょ、というニュアンスを含ませて言うと、レオナルドはバツが悪そうに怯み、そして懐からガラスの小瓶を取り出した。


「先程、巡回の折りに貰ったものだ。最近人気のものらしい」


 小瓶にはカラフルなキャンディーが詰め込まれている。


「へえ、かわいいね。…くれるの?」


「お、お前がどうしてもと言うなら、やってもいいぞ!」


「わー、ありがとう。食べてもいい?」


 レオナルドが慌てて頷くのを確認して、美優はヨハンナのケーキを横の棚に置き、小瓶から取り出したキャンディーを一粒口に含んだ。黄色のそれはレモン味だったみたいで、喉がキュッとなるくらい酸っぱくて美味しい。甘さ控えめで果汁の味がしっかり付いている。人気があるのも頷ける味だ。


「おいしい!どこのお店の?」


「確か噴水広場の近くと聞いたが…」


「へぇ、そうなんだ。今度買いに行こうかなぁ」


「それはやめた方がいいぞ。何しろ行列で、開店前に行ったのに買うまでに1時間も並んだ…から…」


 レオナルドは言葉の途中で詰まった。不機嫌そうだった顔が一気に青ざめる。


「レオ、もしかして並んで買って来てくれたの?」


「ち、違う! そう言って渡して来たんだ!」


 本当に違うんだからな!そう叫ぶと、レオナルドは逃げるように去って行った。

素直に自分が買ってきたって言えばいいのに。何で隠すんだろう?と美優は首を傾げた。





「ただいまぁ~」


 ドアを開けると、部屋の様子が今朝と大分様変わりしていた。カーテンやらテーブルクロスやらが落ち着いた物から明るい色調の物に取りかえられ、至る所にピンクや白の薔薇が大きな花瓶に入れられて良い香りを放っている。


「お帰りなさいませ、ミユウ様」


 エヴァがすぐに駆け寄り、美優の手にしていた荷物を受け取る。どうしたの、これ?、と美優が尋ねると、


「気分転換にいかがかと思ったんですわ。…気に入りません?」


「いや、すごいよ。言ってくれたら手伝ったのに」


 不安げなエヴァに美優は満開の笑顔を見せた。するとエヴァはホッとした表情を浮かべる。


「先程、シャルル様が紅茶を届けてくださってますわ。とても希少なものなんですよ。これと一緒にお召し上がりになります?」


「うん!ありがとう。エヴァも一緒に食べようよ」


「よろしいのですか?では、腕によりをかけて美味しく淹れますわ」


 美優とエヴァが紅茶とケーキを食べていると、部屋に荷物が届けられた。箱の中には豪華な彫刻が施された短剣が鎮座している。


「ルーク様からですわ。『ようやくお前の剣が出来たぜ。これで守りたい者を守れ!』ですって」


 添えられたカードをエヴァが読み上げてくれる。受け取ったカードには読めないものの、ルークらしい大きくて豪快な文字が躍っている。


「ふ…ふふっ。あははっ!」


「ど、どうなさいましたの、ミユウ様?」


 美優は可笑しくて込み上げてくる笑いを押さえきれなかった。


「だって、だってさ、皆して林檎だのケーキだのキャンディーだの紅茶だの…。おまけに模様替えで短剣って…!あーおかしい!」


 尚も堪え切れない笑いが押し寄せてくる。食べ物が多いのは美優の食い意地が張っているせいか。

ヨハンナのケーキも、きっと失敗作ではない。

皆、気を使いすぎだよ。

昨日はすごく孤独を感じてたけどさ。こんだけ色々優しくされたら、もう寂しいとか何も言えなくなるよね。

私は一人じゃないんだね。それがよく分かった。


「私さ、今心の底から思ったよ。---この世界に来て良かった、って」


 笑いすぎて涙まで浮かんできて、それを拭いながらエヴァにそう言うと、エヴァは驚きに見開いていた目を緩ませ、心の底から嬉しそうに微笑んだ。




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