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十二属性戦士物語【Ⅱ】――新たな戦い――  作者: YossiDragon
第一章:スピリット軍対決編
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第三話「風の刃に隠されし過去」・2

「構わない……お前を見ていると、本当にあいつを――凪を見ているようだからな…。あいつにやられるような気がして……ならない。だが、どうせなら本当にあいつに殺されたかったな……まぁいい、もう、この世に未練はない……。さぁ、殺ってくれ!」


「……う、ん…」


 楓は震える手で薙刀を構え、エイルの心臓部分に標準を合わせると、彼から目を背けた。自分自身の手で手を下す姿を見たくないからだろう。その事を察してか、エイルもその姿を見て静かに微笑むと、目を閉じて小声で掠れる様に言った。


「すまなかったな……ありがとう」


 その声を片方の耳で聴きながら楓は武器を振り下ろした。



グサッ!



 鈍い音が塔の広間中に響き渡る。


「ぐふッ! ……うっ、これでお前に頼むことは何もない…。そうだ、こ…れ…を」


 そう言ってエイルから受け取ったのは、楓のパワーストーンの半分だった。


「エイル…」


 パワーストーンを大事そうに胸の手前でギュッと握りしめて楓は眼を一段と潤ませた。今にも泣き出しそうな顔をする彼女にエイルは鼻で笑い言った。


「ふっ…炎属性戦士に、すまなかったと伝えておいてくれ…。……凪、もうすぐお前に会える。またお前と……あの世でライバルになれることを……願っている……」


 そう言い残し、エイルは光に包まれて砂粒のように空気中に消えて行った。まるで幽霊がこの世の未練から解放されて成仏するかのようなそんな光景だった。その証拠に、最期のエイルの表情は楓が今まで見た表情の中で一番穏やかで優しい心の底からライバルを愛していた人間の最高の代物だった。


「エイル!! …う、うぅ…」


 楓は半分のパワーストーンを両手で強く握りしめ、その場ですすり泣きをした。顔を両手で覆いその指と指の隙間からポタポタと透明な滴が落ちて彼女の太腿を濡らしてゆく。

 一方で、ようやく照火が目を覚ました。


「うぅ……ッツ!!」


 照火が腹を抑えながら楓の側に歩み寄る。その道中彼はふと思った。そう、自身にこれほどの痛手を負わせた男――エイル=コルム=スピリットの姿が何処にもない。逃げた――というわけではない。第一、逃げるならせめてもう一人――楓を殺してから逃げるだろう。だが、それでは目の前にいる少女の存在に矛盾が生じる。なので、これもない。となると、一体エイルはどこに消えたのか。殆どありえないと言っていいくらい少ない確率で物を言うならばエイルが楓に倒されたという考えとなるが、それは相当考えにくいと照火は考えていた。考えに考えあぐねる内に楓のすぐ側にたどり着き、埓が明かないと照火は思い切ってさっきから微妙に体を震わせたまま黙り続けている楓に質問した。


「おい…大丈夫か、楓…。エイルはどうした?」


 再び周囲を確認してやはりエイルの存在がないことを再確認する。しかし、質問の答えがなかなか返ってこない。機嫌でも悪いのかと頭をかいていると、ふと楓からすすり泣く声が聞こえてきた。


「うぅ…ぐすっ!!」


 それを聞いて、照火は顔を覗き込むようにして楓に訊いた。


「楓…、お前泣いてるのか?」


 照火の言葉に楓はびっくりして慌てて腕で顔を拭いた。


「う、ううん……何でもないの」


 自分の泣いているという情けない姿を見られなくなかったのか、急いで平然とした表情を作り上げた楓は必死に照火に向けて笑顔を振りまいた。が、その努力虚しく照火には彼女がずっと泣いていたことはお見通しだった。その証拠に彼女の目元を見るとやや赤くなっていて、目も少し腫れているのが見て取れた。これは先ほどまで泣いていたということを伝える確実な証拠の様な物。口は語らずも顔は語る――と言ったところであろう。

 思わず「やっぱ泣いてたんじゃん」と言いそうになるが、以前雷人に、もう少し紳士らしく振舞えと指摘されたことを思い出してグッとその言葉を飲み込み、「そうか…」とだけ言ってハシゴの所へ向う。しかし、楓が全くその場から動こうとしないのを見て彼女を気遣いしょうがないなと言った表情を浮かべて大声で言った。


「先に降りてるぞ?」


「……(コクリ)」


 照火の言葉に楓は大きく頷くだけだった。それを何とか視認した彼はハァと嘆息してその場から姿を消した。

 チラリと背後を振り返って誰もいないことを確認した楓は照火の気遣いに心の中で感謝していた。


―ありがとう、照火…。



 と呟いた楓は握り締めた手を開き、再び自身のパワーストーンの半分を目にすると再び熱い物がブワァッと込上がって来て涙が(こぼ)れた。

 こうして複雑な心境の中、楓はパワーストーンの半分を手に入れたのだった……。


――▽▲▽――


「はぁはぁ…くそ、あの十二属性戦士の爪牙という男め! まさか、あれほどの力を持っていたとは…。だが我は死ぬわけにはいかぬ!! スピリット軍団を壊滅させるその時まではッ!!」


 スカルはヨロヨロとよろめきながらも必死にそれに耐えながら通路を進んでいた。


「くそ…どうなっている。確かに我は我が部屋に向かっているはずなのに…一向に着く気配がないとは」


 そうブツブツと文句を言っていると広い場所に出た。そこは本来行く場所ではないスピリット軍団のボスがいる大広間だった。


「な…何!?」


 彼が驚いていると、段の上にある椅子に座っている鎧に身を包んだ一人の男が喋り出した。


「スカル隊長……丁度よかった、話があるのだ…」


 スカルが恐る恐る言った。


「ぼ、ボス…。も、もう帰ってらしたのですか…」


 慎重に相手の様子を窺いながらスカルは近寄って行った。


――だ、大丈夫だ。あのことは誰にも知られておらぬ…。口が滑らなければ何の心配もない!



 そう心の中で自分の気持ちを落ち着かせ深呼吸するスカル。

 すると、ボスが口を開き全てを知っていたかのような表情を浮かべて言った。


「お前の部隊の副隊長が全て話してくれたよ…」


 ボスの言葉を聞いて、スカルは目の色を変えた。そして鎧の男の側に佇んでいるもう一人のやせ細った男を睨みつける。


「まさか、テレンス……あの話を聴いていたのか?」


 スカルがテレンスに訊いた。すると、そのやせ細った男――テレンスと呼ばれる男がキツネの様な細い瞳を光らせ舌をカメレオンの様にチロチロと動かして自慢気に答えた。


「もちろん! あっしは相手に金を渡してもらいさえすりゃどんなことでもするスパイ…。

その相手が例え、仲間だとしてでもねぇ~。依頼主の仕事を失敗しはしない…それがあっしの仕事にかけるプライドってもんでさぁ~」


 テレンスがペロリと長い舌で舌なめずりをし、改造した手を使って壁に張り付きスカルに言う。


「そういうことだ…最近お前の行動が怪しかったんでな…。少し周囲を調べさせてもらったというわけだ…」


 ボスの言葉にスカルは焦った。


――くっ! …既に知られていたとはな。だが、我はここで死ぬわけにはいかぬ! 仕方ない…イチかバチかやってみるか!!



 彼は決心し、いちかばちかの賭けを試すことにした。手に頭蓋骨を構え、攻撃を開始する。しかし、その行動も儚く散った。ボスは手に持っていた様々な装飾を施された杖を地面に突きニヤリと笑った。すると、地面にヒビが入り、大きな口を開けたように大きな楕円形の穴が開いた。下は、とてつもない灼熱のマグマがグツグツと煮えたぎり、獲物が落ちてくるのを待っているかのようだ。

 スカルは突然のことに身動きがとれず、その大きなクレバスの穴に真っ逆さまに落ちてしまった。


「おのれ、裏切者がァァアアアァァァッ!!」


 と、スカルは死に際の一言を残し、マグマの中に消えて行った。すると、彼の最後の言葉を聞いて、ボスが苦笑しながら呟いた。


「くっくっく……一番の裏切者が自分だということに気付いていないのか。哀れなものだ」


 そう言ってボスは指を鳴らした。すると、それとほぼ同時にリーダーの『ミロカルト=デイリー=スピリット』が現れた。


「お呼びでしょうか…」


 ミロカルトがボスに用件を訊いた。


「ああ、先程の地震は一階を潰したのだろう? ついでに、北の塔も破壊しておいてくれ…」


 ボスの『オルバスト=ラドス=スピリット』の言葉にミロカルトが訊いた。


「まさか、エイルが死んだのですか!?」


 そのミロカルトの質問にボスは黙ってしまった。


「そ、そんな…十二属性戦士め、そこまでの戦力を有していたとは…。まだまだ、侮れないな……」


 ミロカルトはそう言って北の塔を破壊しに行った。


――▽▲▽――


 その頃、残雪と菫は二階のとある極寒の大広間にいた。


「ここは何ッスか?」


 残雪がまるで外にいるかのように寒い部屋の中を平気そうに歩いているのを見て菫はすごいと尊敬の眼差しで見ながら言った。


「よ、よく分からないけど、とにかくここはえらく寒い場所みたいね…」


 菫がブルブルと腕をさすりながら体を震わせ周囲を見回す。すると、部屋の壁のあちこちに丸い穴が開いていて、そこにファンが設置されて稼働しているのが確認できた。どうやら、降雪機のようで、その証拠にそこから大量のボタ雪が降り注ぎ、地面を真っ白な大雪原に作り上げていた。

 と、その時、またしてもあの地震が起こり、それが原因で雪崩が起きてこちらに大きな荒波の様に押し寄せてきた。


「うわぁあああッ!!」


「きゃあぁああぁああっ!!」


 二人は慌てて向こう岸に向かって走って行った。しかし、向こうの方が断然スピードが速く、間に合いそうもない。すると、残雪の後ろを走っていた菫がタイミングを見計らって残雪に飛びかかって雪の波の下側に回避するようにしてなんとか難を逃れた。揺れが収まってしばらくすると、何もかも飲み込んだ雪崩は平面な真っ白な地面になり、その一部が盛り上がってそこから残雪と菫が顔を出した。


「ぷはぁ~! す、すごい…辺り一面白銀の雪景色が広がってる…。菫、大丈夫ッスか!?」


 残雪が心配そうに側に駆け寄った。


「ゴホッ…ええ、大丈夫。それよりも何だったの、今の雪崩……」


「恐らくさっきの地震が原因だと思うんスけど…」


 二人が山積みになった雪山の頂辺りを見つめたその時、雪景色の地平線から粉雪をまき散らしながら

超巨大な雪球が襲ってきた。


「うわぁ!」


「な、何よこれ!!」


 二人は慌ててその場から逃げ出し、そのまま真横に逃げる。が、雪球は少しもスピードを緩めることなく大広間の壁に激突しバラバラに崩れた。すると、そこから現れたのはポッチャリ体系の人影だった。


「うっはっは!! よっ、僕は第六部隊隊長『フリール=フロンド』! 君達……侵入者の十二属性戦士だね?」


 嫌にテンションの高いぽっちゃり体型の男――フリールは、挨拶をそこそこに急に明確な真実をついてきた。すると、フリールに対抗する様に残雪も大声で返事をした。


「そうッス!」


「うむ、その威勢気に入った! 本当は僕の兄ちゃん第二部隊副隊長であるフィニアン=フロンドを殺したっていう十二属性戦士の一人――炎属性戦士の炎耀燐照火ってやつを殺そうと思ったんだけど君でもいいや。君も十二属性戦士なんでしょ?」


「その通りッス……!」


 いい歳の割に口調が少し子供っぽい事に少し違和感を感じつつフリールの言葉に残雪が答える。そして、答えるや否や、残雪がさっそく先手に出た。いきなりの攻撃に不意を打たれたフリールはその場でツルッとこけて腰を強打してしまった。


「イテッ! …うぅ痛いじゃないかぁああァアアァ!!」


 急に泣き始めたフリールを見て、いい歳こいて情けない男だなと憐れみの眼を向けながらも、残雪はまるで自分が悪いことをしたような気持ちになり、声をかけて彼の近くに近寄った。

刹那――フリールがキラリと目を光らせ氷の魔力を纏ったステッキを振り回してきた。


「うわット!!?」


 ギリギリ急所をすり抜けたステッキは、とても凍てつくような冷気を放出していた。体をくの字に曲げてそれを回避したはいいが、後一歩でも判断が遅れていたら氷漬けは免れなかっただろう。フリールは今の攻撃を避けた残雪に関心するように言った。


「へぇ~なかなかやるね~!」


 先程まで泣いていたなど嘘の様に平然と立っているフリールの姿を見て、残雪はワナワナと拳を震わせながら激昂する。


「なっ!! 嘘泣きとはセコいッスよ!?」


 残雪の言葉にフリールは舌を出して挑発した。


「へへ~んだ!! 僕には全く持って関係ないんだもんね~!! あっはっは!!」


 その子供の様な挑発にやはり少し違和感を感じる二人。菫は彼の事を内心まるで子供がそのままの精神で大人になった姿だと考えていた。その一方で、たかが挑発だと分かっているというのに、思わずカチンと来てしまった残雪は、武器を思いっきり振り回してぶつけ始めた。その様子に少しビビッたのか、フリールは慌てて逃げ出した。


「ひ、ヒィィィイ!?」


「待てぇええッ!!」


 残雪は逃げているフリールを全力疾走で追い掛けた。その表情はまさに鬼の形相というに相応しい。


「くそ~、なんて足の速いやつだ! 急がないとッ!!」


 フリールは息を切らしながら必死に残雪から逃げていた。捕まればどうなるかは彼自身にも重々理解できていたからだ。しかし、なかなか思うように足が前に出ず苦戦を強いられていた。中年の様なブヨブヨの余分脂肪が無駄に体力を削っているのだ。そして――


「くらえッ!」


 当てずっぽうにあちこちに投げられていた氷の魔法がついにフリールの体に直撃した。直撃した部分から氷が発生し、地面もろとも氷漬けとなってフリールの逃走を食い止める。


「うっしゃ!」


 残雪は思わずガッツポーズをキメた。


「くぬぬ~、おのれ~僕をバカにしやがってぇぇぇえええッ!!」


 フリールは頭に来たようにぷんぷん怒りながら足元の氷をステッキで破壊し残雪に向かって攻撃してきた。


「『氷槍礫の刺撃ローリング・クラッシュ』!!」


 彼の声と共に氷の礫が残雪の周りをクルクルと回転し始めた。


「な、何事ッスか!?」


 キョロキョロと辺りを見回す残雪の周りを取り囲んだ氷の礫は、一気に巨大化し鋭利化すると同時に勢いよく残雪の懐を貫いた。


「ぐはッ!!」


 いきなりの攻撃に防御魔法を展開することも出来ず、残雪は瀕死の重傷を負った。しかし、負けじと残雪はあらかじめ使用していた不死身効果を失くす薬品付きの武器でもう一度氷魔法を用いた攻撃をフリールにぶつけた。


「ぶごぅッ!! …う、うぅ……ぐ、痛い、痛いよぉおおォオォオッ!!」


 何度も同じ言葉を繰り返し、逃げ惑うフリールに呆れながらも残雪はトドメとばかりに巨大な氷の槍を槍投げの様にぶん投げて追撃した。


「ぐぼホぅッ!! ガッ、何故……なんで死なないはずの僕が、どうして…どうしてなんだ!?こんなに、痛みを――ゴハッ、感じるわけがないのに……」


「あんたは今まで不死身だったからその痛みを知らなかったんス…。でも、本当は痛みってのはすごく痛いものなんス…。今の俺にも相当な痛みが伴ってるッス。氷魔法で出血は止めたッスけど、それでもズキズキと脇腹の痛みが収まらないッスよ。……ふっ、でもよかったじゃないッスか……。これであんたも痛みというのもが何なのか知ることが出来た……一つの成長ッスね」


 残雪の言葉を聞いて、ただただフリールの目からは一筋の涙がツツーと垂れてくるのみだった。何か思うことがあるのか呆れた様に嘆息して残雪が続ける。


「情けないッスね……。スピリット軍団の副隊長ともあろう人間が……しっかりするッスよ! 兄貴に申し訳ないとは思わないんスか?」


「そ、それは……ふっ…まぁいいや! 前向きに考えれば、ここで死ねばあの世に行けて兄ちゃんに会えるんでしょ? だったらそれの方がいいかもしれない……。いつまでも不死身で居た所で何か変わるわけでもなし……。昔のボスもそこにいる。そっちのほうがはるかにマシじゃないか。よし、決めた!僕はあの世へ行くことにするよ……じゃあね…氷属性戦士…」


 フリールは目を(つむ)り、ふっと微笑むと同時に体が白い光に包まれて風に吹き飛ばされるようにしてフワ~ッと空気中に溶けて消えて行った。


「……終わったの?」


 一部始終を見ていた菫が心配そうに義弟に訊く。その言葉に残雪は口元に笑みを浮かべながら答えた。


「まぁ…、そうッスね…。これで何とかパワーストーンも手に入ったことッスし、先に進むッスよ!」


「ええ……そうね」


 菫は残雪の後をついていき大広間を後にした…。


――▽▲▽――


 暗がりの部屋……。蒼く光る淡い炎を灯した幾つもの燭台…。その燭台が左右対称に設置されシンメトリー状態になっている。そして、その間を一人の男が歩いていた。


「うっしっし……ペロペロ…、これくらい溜まれば十分なくらいざんすねぇ~……。にしても、随分と儲けちゃったもんす。まさか、これほどまで稼ぐことが出来るとは……いや~恩は売っておくものざんすねぇ…」


 そう、第四部隊副隊長の『テレンス=ネイミー』だ。彼の手に握られていたのは、スパイ活動によってボスから得たお金だった。彼はそれを舌なめずりをしながら一枚一枚丁寧に数え、さらにそれを一度では飽き足らず二度三度と繰り返していた。

 と、その時、背後から何者かの気配を感じ取り、彼は改造した肉体を有効活用してその場に溶け込む様に消えた。その能力(ちから)はまさしくカメレオンのようだ。完全に周囲の背景と同化した状態の彼の正体に気付く者は誰もいなかった。そして、今度は気配に続いて足音が聞こえてくるようになった。足音はどんどん近づくにつれて大きくなっていき、ついにその正体が明らかになった。それは、鎧に身を包んだ謎の青年だった。白銀の鎧に、薄い紫色の髪の毛を一本に結っている。髪の毛の長さは女のようだったが、その声を聴いてすぐに男だと判断できた。その太い声はまさしく女ではなく男だった。


「そこに隠れているのは解っているぞ?」


 男の問に何の返答もない…。テレンスはあくまでもシラを切るつもりだった。そうしていれば、自然とその場からいなくなるだろう――そう思っていたのだ。だが、男は続ける。


「もう一度言う…。隠れていても無駄だぞ? 今すぐに出てくれば命だけは取らない…。しかし、あと三秒後に姿を現さなければ貴様の命はないものと思えッ!」


 鎧の青年の声を聴きながらテレンスは思った。


――ふんっ、誰が出ていくものか…。それに、今のあっしは完全に背景に溶けこんでいるでやんす。この状態でこのあっしに攻撃することは限りなく不可能に近い…。見た所、この男……確かに魔力はそこそこあるみたいざんすけど決定さに欠けるでやんす…。この戦いあっしの勝ちだすよ…。うっしっし……ここは先手必勝に限りやす…。ご覚悟くだせぇ……。



 物音立てずに謎の鎧の男の背後に忍び寄ったテレンスは、息を殺し暗殺拳を繰り出そうとした。しかし、次の瞬間その好機は一気に形勢逆転された。


「俺はさっきも言った…。貴様の姿は既に俺に見えている…。『身体透明(トランスペアレント)』など無駄だ…」


「くっ…へへっ、バレてやしたか…。うっしっし、その通り……身体透明(トランスペアレント)はあっしの得意技でしてね~、商売道具としてありがたく使わせていただいてやすよッ!!」


 テレンスは不気味な笑いをしながら鎧の青年に向けて再び暗殺拳を繰り出そうとした。しかし、その攻撃をものともせずスッと簡単にすり抜けると、青年は背中に背負っていた鞘から剣を抜き取りその刃を彼の顎の下に突き付けた。


挿絵(By みてみん)


「おとなしく降伏しろ! さもなければ貴様の命はないッ!!」


 青年は第二の脅しをかけた。しかし、テレンスはケタケタと笑ったままで一向に答えない。


「これが最後の警告だ…。闇魔法結社を知らないか?」


「うっしっし――今、何て言いやした?」


 急に彼は笑い声を止め、くいっと後ろを振り返った。鎧で顔を隠した青年とテレンスの不気味な顔との距離が近づく。


「う……ち、近いっ!」


「おっと、こいつはすいやせんねぇ~。それにしてもあんた、…スンスン……女みたいな匂いがしやすねぇ~。本当に男ですかい?」


「くっ…!」


 青年は急に後ずさると、そのまま剣を引きテレンスの首を切り落とした。



ブシャアアアァァァアッ!! ドサッ……ゴロゴロ…。



 テレンスの生首はそのままどこかに転がって行き暗闇へと消えた。


「はぁはぁ……俺としたことが、貴重な情報源を失ってしまった…。まぁ、いい。まだこの先にも微かにだが魔力反応を感じる…」


 青年はそう言って先へ進もうとした。

 と、その時、彼の視界にキラリと光る何かが映った。


「これは…」


 少し身を屈めて青年が鎧を身に着けた状態で拾い上げたのは、葬羅のパワーストーンだった。しばらくそれを見つめた青年はそれを懐にしまうとポタポタと滴り落ちる血を薙払い、剣を鞘に納めて再び先へと進んでいき暗闇へと消えた……。

というわけで、危機をなんとか乗り越えてパワーストーンを手に入れていく十二属性戦士の面々。と、そこに何やら不穏な影――。果たして鎧を身につけた青年の正体や如何に――。

何やら鍵を握っている人物ですので、ちょびちょびっと登場させて後半でめっさ出ます!

更新が最近遅れ気味ですが続きをお楽しみに。

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