第十六話「二年後に向けて」・1
現代に帰ってきた十二属性戦士の精神は、本体の入ったカプセルの中に入って行った。
「成功したのか?」
玉座の上で頑なに十二属性戦士の身を案じる国王――神崎零。その隣には、過去で十二属性戦士が出逢ったフィーレの何年か後の寝ている姿があった。ちなみに彼女は零と共にここ――夢鏡王国の第六代目女王を勤めている。
「解りません。しかし、過去へ飛ばすことは間違いなく成功しています。後は彼らのことを信じて待つ――」
ブウゥゥゥゥゥゥンッ!!
地を震わせる音が響き渡りタイムマシンのカプセルの蓋が開く。その音に女王フィーレも目を覚まし、眠り眼を擦る。
「ん、ふぁ~あ!」
同時にもう片方の手を口元に運び盛大な欠伸をする。その何気ない仕草がなんとも愛くるしい。既に二十歳以上の年齢に達しているはずなのだが、フィーレの容姿は神族特有の不老不死の力を得ているために二十歳以前の容姿のままでストップしてしまっている。
「あら、十二属性戦士戻ってきたの?」
自分が寝始める時に過去へ行き、起きた時に十二属性戦士が戻って来たため、フィーレからしてみれば十二属性戦士が過去へ行っていたのがほんの一時だったかのように感じられた。すると、爪牙がタイムマシンのカプセルの中から出てくるや否や、ハンセム博士の胸倉を掴みグイッと自分の方へ引き寄せた。
「てめぇ!」
「な、何だ!? 何か不都合な点でもあったのか?」
「過去の人間には干渉出来ねぇんじゃねぇのか!?」
「そ、そうだ! 過去の人間には干渉出来ん!」
ハンセム博士は何か過去で起こったのかと心配しながら苦しそうな表情を浮かべ爪牙に言う。
「だったらおかしいじゃねぇか!! あいつらは……過去のオドゥルヴィア博士達は俺らのことに気付いてたぜ?」
「な、何ッ!? お前達、まさか過去の彼らに見つかってしまったのか!?」
爪牙の拘束を振りほどき、十二属性戦士全員に問い質す。その質問に楓が俯きながら言う。
「それだけじゃないわ。私達が十二属性戦士であることも、どうやら向こうは気づいてたみたいで……」
「気付いていた? そんなバカな……。お前達が行った時代がどこかは分からないが、オドゥルヴィア博士が生きている時代に後に十二属性戦士と呼ばれる組織はあるが、その呼称自体はまだ存在しない!」
と言ってハンセム博士は信じられないと言った顔で首を左右に振った。
「それだけじゃないッスよ! あいつは俺達が神王族の血を少なからず受け継いでいるとも言ってたッス!!」
「神王族!? まさか……その事はお前達にも最近教えたばかりのことだぞ!? それをどうして博士が……」
ますます何が起こっているのか事態を呑みこめないハンセム博士と十二属性戦士一同。その様子を黙って見ている零と、状況を理解出来ていないのか、それとも分かった上でわざとそんな表情を浮かべているのか、ボ~ッとただ彼らを眺めているフィーレ。
「あっそういえば!」
時音がふとフィーレに視線が動き、目が合った所で過去へ行った時の事を思い出す。
「女王様!」
「ん? 何かしら?」
優しげな眼差しで時音を見下ろすフィーレ。
「私達、過去のあなたに会ったんですけど。未来――つまり、今の時代の自分によろしくって……」
「そう、分かった。ありがとう、わざわざ伝言持ってきてくれて……」
「いえ」
時音は伝えないといけないことを伝えたと達成感を感じながら後ろに下がった。
「そういえば、封印されたオドゥルヴィア博士はあの後どうなったんですか? それに過去で見たあの鏡。夢鏡城の屋上にある夢鏡と似てたんですけど」
楓が過去での騒動の終盤を思い出してフィーレに訊く。
「無理ないわ。あの時オソマツ博士を封印するのに利用した鏡が夢鏡なのだから」
「やっぱりそうだったんですか……」
納得したように頷く楓。
「それじゃあ、異空間で見たドヴァースを封印していた鏡が夢鏡に似てたのはどういう事?」
雫の質問だ。その質問にもフィーレは柔和な笑みを見せて答える。
「それは、ドヴァースを封印したのが私……だからよ」
『――!?』
一同は驚愕した。まさか、あの白無龍ドヴァースを世界四大神の一人であるフィーレが封印したとは思わなかったのだ。
フィーレは続ける。
「まぁ、二人の賢者ちゃんに手伝ってもらったけれど……ね。まぁ、その事はまた別の時に詳しく話すわ。それよりも――」
「てことは、まだオドゥルヴィア博士は生きてるってことになるの?」
時音がふと思った疑問を口にする。それを聞いてフィーレが突然真剣な面持ちとなる。
「ええ。彼はまだ生きているわ。封印は何年かに一度かけなおさないと封印が解かれて封印していた物を解き放ってしまうの。そうなってしまったら、せっかく封印したオドゥルヴィア博士をもう一度封印しないといけなくなる。でも、二度目はない……」
「どうしてですか?」
菫の言葉にフィーレは屋上を見上げる。
「魔豪鬼神である彼は私と同じく不死身。そんな彼を殺す事が出来るのは全てのリミッターを解除した私達世界四大神の誰かか、自然三大神、もしくは……破壊の神と恐れられた私のお爺様か、創造の神である女神のお婆様か、そのうちの誰か。でも、力を解放すればこの世界も危機に陥れてしまう可能性がある。そうなれば『世界の理』に支障を来す。そんな事がないように私達世界四大神がいるの。力バランスを保つために……ね。まぁ、一度はその役割から一時期逃れていたけれど。だから、必然的に身近にいる私達じゃオドゥルヴィア博士を殺せないの。そうなってくると、やはり手段的に封印という一つの方法に絞られてくるのだけれど、あの時はあなた達のおかげで彼の隙を突く事が出来た。でも、今回ばかりはそう上手くいくという保証もない。それらの事から二度目はないの……分かった?」
フィーレの言葉を聞いて、十二属性戦士は少し残念そうに嘆息した。
と、その時、謎の圧力を感じた。
「な、何だこれ!?」
照火が地面に膝をつきながら周囲に目を配る。他の皆も同様に周囲を見渡し警戒した。衛兵もまた、零とフィーレの二人を急いで警護した。
しばらくしてその謎の圧力が収まる。
「お兄ちゃん、今の何なの?」
輝光が雷人の白衣の裾をクイクイッと引っ張りながら心配そうな顔で訊く。
「今のは恐らく、誰かの気迫か何かだろう。これまでに強い者は初めて――いや待て? 以前にもどこかでこの様な気迫を感じたような――ッ!!」
そこで雷人は思い出した。気迫の中に混じった大量の殺気。それは尋常なものではなく、少しでも気を抜けばあっという間に命を取られてしまいそうになるといった代物だった。
それに当てはまる人物は十二属性戦士が出会ってきた人物の中でたった一人しか当てはまらない。
そう、過去で会った魔豪鬼神オドゥルヴィア=オルカルト=ベラスである。
「まさか、封印が解けはじめてるの!?」
フィーレが焦ったようにその場に立ちあがる。
「そんな、封印が解けるのって最近なんですか?」
「期日は迫ってきてるとは思っていたけれど、もう少し先とばかり……。このままだと二年経つ前にオドゥルヴィアが夢鏡王国に足を踏み入れることになってしまう。それだけは何としても阻止しないと!!」
そう言うとフィーレは玉座から立ち上がり、過去でも見た杖を手に取った。銀色の柄に、先端には太陽の紋章が刻み込まれ太陽の様な色をした宝玉をはめ込んである。
それを強く握り締めたフィーレは屋上へと繋がる階段をあがって行った。
「俺達も――」
「ダメだッ!!」
フィーレの後を追うように移動しようとする爪牙の動きをハンセム博士が腕をギュッと掴んで妨害した。
「何しやがんだッ!! 要はオドゥルヴィアをぶっ殺しちまえば済む話だろうがッ!!」
「そう上手くいかないから女王様もお悩みになられているんだ!!」
ハンセム博士が必死に爪牙が行こうとするのを阻止しようと試みる。
「うっせぇ! 女王の話なんかどうでもいいッ!! 俺があいつを殺すッ!!」
そう爪牙が口走った、その時である。
パシッ!!
その音は玉座の間中に響き渡った。
「……ってぇな」
「少しは状況を理解しなさいよ、このバカっ!!」
楓が涙目で爪牙に言う。そう、なかなか言う事を聞いてくれない頑固者に似た爪牙をてこでも止めるためにその頬を楓が叩いたのだ。しかし、爪牙には楓が何故涙を浮かべているのかが理解できない様だった。
「ふんッ! もういい、俺はさっさと修行をする!! おら、ハンセム! 早く修行の森の扉開けろッ!!」
「……せめて博士をつけてくれないか?」
「んなもん知るかッ!」
ハンセム博士の言葉に罵声をあげる爪牙。余程とさかに来ているらしい。
「……分かった、扉は開けておく。二年間の修行になるが、根を上げずに励めよ?」
「解ってるわ! 私達もそれくらいの覚悟はあるもの……。必ず二年間の修行でオドゥルヴィア博士を倒す力を習得してみせるわ!!」
十二属性戦士の心の内に決めた思いを代表して楓が言う。
「ふっ、分かった。健闘を祈る!」
ハンセム博士は少し笑みを零すと、十二属性戦士を笑顔で見送った。そして、夢鏡城の玉座の間からいなくなったところで、彼は表情から笑みを消し真剣な面持ちとなると、自分の研究室へと歩いて行った。
というわけで、ついに最後の話です。
過去から戻ってきた十二属性戦士はさっそく過去で起きた事を報告。
そして、その話に動揺する国王やハンセム博士。フィーレだけが何か重大な事を知っているようです。まぁ、神様ですしね。それに、オドゥルヴィア博士とも随分前から知り合いのようですし。一体、二人の間にどんな関係が?
そして、夢鏡城の最上階にある夢鏡。そこにオドゥルヴィア博士が封印されているという。しかしまぁ、何でこんな場所に置くんですかね? 異空間とか方法は色々ありそうですが。




