第一話「一年ぶりの再会」・2
「そこか!! ……ってあれ? な~んだ、やっぱ誰もいないわよ?」
勢い良く扉を開けて正体を目の当たりにしようと周囲を見渡すが、そこには誰もおらず楓は拍子抜けしてしまう。
「えっ、嘘……?」
「どうして少し残念そうなの?」
「でもおかしいですね、確かに音は聞こえたんですけど……――」
菫と楓の会話を聞いた葬羅が、脱衣所及び洗面所で怪しい音の正体を探すが、やはりどこにもそれらしきモノは見当たらない。すると、楓がふと洗面台に目を向けた。
「あれ? この蛇口、壊れてるわ」
「でも、それさっきまで壊れてなかったですよ?」
楓の言葉に葬羅もやって来てその現状を確かめる。
と、そんな二人の会話に菫の顔が蒼白となる。
「それって、まさか……」
水滴でなく一筋の冷や汗が頬を伝い、場の空気が一気に凍りつく……。
「えっ……、ゆ――」
「いやぁぁあああああああっ!!」
輝光がその名を口にしようとした瞬間、菫がつんざかんばかりに悲鳴をあげる。
女性陣は、残雪が壊した水道の蛇口を幽霊が壊したと勘違いし、怖がり始めた。さらにそれを煽るかのように、詰まっていた水が勢い良く溢れ出し、せっかく温まった少女達の体に、思い切り飛び散った。
「もう、何なのよ~っ!」
「冷たっ!」
「きゃあぁぁあああ!」
「サイアクぅ~!」
「ビショビショ~!」
「水道管壊れたんじゃないですか?」
口々に悲鳴をあげる楓、時音、菫、細砂、輝光、葬羅の声をドア越しに聞きながら、残雪はガタガタと震えていた。
――危なかったッス!! 後一歩遅かったら、一年前の餌食になっちまうとこだったッス……。もうあれだけは勘弁ッスから。……にしても、まさか水道管を壊しちまうなんて、照火に何て謝れば――いや、ちょっと待つッス……そうッス! 水道管を壊したのは楓なんスから、あいつのせいにしちまえばいい話じゃないッスか! おぉ! 俺ってば天才ッス!! よし、さっそくてる――
ガチャッ!! ドン!!
「――ぐはぁッ!」
突然洗面所の扉が開き、その扉を背もたれ代わりにしていた残雪を攻撃した。それと同時、女性陣一同が残雪の存在に気づいてしまった。
「え? 何であんたこんなとこにいるの?」
楓の顔がきょとんとした顔から徐々に怒りの表情へ変化していく。
「えっ、あっいや……これはその、……あはは。じゃあ、あの失礼するッス……じゃッ!」
その表情変化に命の危機を感じた残雪は、早くこの場を切り上げようと数歩後ずさり、軽く一礼して逃げ出した。が、無論それが許されるはずもなく――。
「待ちなさいっ!」
「ぐへッ!?」
楓に襟を掴まれた事で首が絞まり、変な声をあげながら引き戻された残雪が体勢を崩して尻もちをつく。
それから、今まで誰にも向けた事がないような満面の笑みを浮かべて、楓が柔かに残雪に問うた。
「詳しい話、聞かせてもらえるかしら?」
見た目は普通に笑顔を向けているように見えるが、その瞳の奥には、明らかに憤怒に満ちた鬼の形相が見受けられた。事情を知らない者にはその姿は見えないだろうが、今の残雪にはその姿がはっきりと見えた気がした。
「は……はいッス」
その笑みで詰め寄られてはたまらない。
結果、残雪は観念してその場に縮こまるように正座した。
こうして残雪は、再び楓の恐ろしさを思い知る事となったのだった。
「実は……その、かくかくしかじかで……」
「へぇ~。じゃあつまり、あんたは雑巾を絞ろうと洗面所に忍び込み、蛇口を捻ろうとしたら蛇口が壊れてしまい、その音を私達に聞かれてしまって慌てて逃げようと試みたが、蛇口を戻さないと怪しまれるから戻そうとした。でも、生憎と一足遅く私達が出てきたために、蛇口をそのまま放置して急いでその場から逃げだしたら、私達が水道管の破損による水を浴びて大惨事にあったと――そういうこと?」
腕組をしながら眉毛をピクピクと動かし、組んだ腕に自身の細長い指をトントンと当てている楓。その仕草一つ一つが、今の残雪には精神を削られるような行為だった。
「えぇ、はいッス! もう、そのまんまの通りッス!」
「あっそう……残雪、一年前のこと――覚えてるわよね?」
「はて……何のことやらさっぱりで――」
「覚えてるわよね?」
シラを切る残雪に再びあの笑みを向け、怒気を含んだ声音でそう問う楓。
「は、はいッス……もう記憶が走馬灯のように駆け巡って行くッス」
残雪はすっかり顔を真っ青にし、歯をガタガタと震わせていた。
「じゃあ、これからされること……分かってるわよね?」
「まぁ、なんとなく……」
既にどこにも逃げられる場所はないと諦念の表情を浮かべ、どこか他所を向きながら残雪は一言口にした。
「ふふっ――このクソっ! 変態! バカ! 死ね! 消え失せろぉぉぉおおおおっ!!!!」
先程までの笑みが消えた次の瞬間罵詈雑言を口にし、まるで荒っぽい男の様に正座状態の残雪に殴りかかろうとする楓。それを、女性陣の中で最年長である時音が、既の所で羽交い絞めにしてでも止めにかかる。そして、身動きを取れない状態にしてから楓を注意した。
「こらっ、そんな下品な言葉使っちゃダメでしょう?」
「だ、だって……。時音はこいつのやったこと許せるの?」
まだ興奮冷めやらぬ状態の楓は、ハァハァと息を乱しながら口元に手を運んでガタガタ震える残雪を睨めつける。
「そうは言ってないけれど……」
曖昧な返事に苛立ちを覚えた楓が、つい怒りの矛先を時音に向けた。
「こいつは体に教え込ませた方が学習するんだから、そうするしかないのっ!! これが私のやり方なのっ!いちいち口挟まないでっ!! ――あ」
そう言い切った後、楓はふと自分の言った言葉を思い出し、冷静さを取り戻した。そして、申し訳なさそうに時音の方に顔を向ける。
「……ごめん。ちょっとムキになっちゃって」
「ふふっ、いいわよ」
楓の八つ当たりを少しも気にしていないという風に、時音は笑顔で許した。その笑顔に、楓は少し安心して胸をなで下ろした。
怒りの矛を下ろした様子の楓に、もしかして助かったのかもと安堵の表情を見せた残雪だが、それは少し早とちりであった。
結局、残雪は女子達からたっぷりと制裁を受け、リビングへと帰還した。
「よし、とりあえず全員さっぱりして体も温まったところで、本題に入ろう。現在、天気は見ての通り荒れている。この状態では、夢鏡城まで行くことは不可能――とまでは行かないが、少しばかり難しいと思われる。そこで、これからどうするか作戦を練ろうと思う。何せ、スピリット軍団の一件がある。またいつ襲われてもいいように、作戦を立てておきたいんだ」
雷人の話を聴いて、皆はコクリと頷き同意の意向を示した。
それから、十二属性戦士達の作戦会議が始まった。
――▽▲▽――
一方その頃。
夢鏡城では、あっという間に城を敵に占領され、城内にいる人々は全員縄で縛られ人質状態にされて身動きを取れない状態になっていた。そして、その人質の中に、国王――『神崎 零』もいた。
「くくく……バカな国王だ。まさか本気で俺達スピリット軍団に勝てるとでも思っていたのか?」
ポケットに手を突っ込み、少量の顎髭を蓄えた男がバカにした言い方で国王を挑発する。
彼の名前は『エイル=コルム=スピリット』。スピリット軍団の第一部隊隊長だ。その近くで、黙ったまま国王や他の人質を監視しているのが、エイルの双子の弟であり第一部隊副隊長の、『ヴェント=カリム=スピリット』である。この二人は、双子というだけあって顔つきも目つきもよく似ていた。
「……ッたく! んな事だから面倒なんだよ、こういう仕事は……とっととやる事やった方がはええだろうに」
いまいち今回の作戦のやり方に納得がいかない様子のヴェントが、ブツブツ愚痴りながら玉座の間付近を右往左往する。その様子を裏の陰で見つめながら、どうにかして夢鏡城から脱出を試みる一人の少女がいた。夢鏡王国七代目姫君の『神崎 瑠璃』である。しかし、そんな彼女の計画も、無残に散った。一年前、暗夜を攫って行った『カルバス=コールタール』が、背後から現れたのだ。
クツクツと仮面の奥で含んだ笑い声をあげたカルバスは、全て分かっているはずなのに、解っていないふりをしてわざとらしく瑠璃に訊いた。
「瑠璃様、こんなところで何をしておられるのですか?」
カルバスの分かりきった問に文句を言いたかった瑠璃だったが、そこは強く我慢し、踵を返してダッシュで逃げ出した。それを見たカルバスが、急ぎエイルに報告する。
「エイル、大変だッ!! 瑠璃様が逃げ出した!!」
「なッ!? 急いで追い掛けろ馬鹿がッ!!」
報告は完全に取り逃がしてからしろと言わんばかりに、エイルが大声で叫ぶ。
「待ちなさい、瑠璃様!!」
「くっ!」
最初は距離を取っていたものの、カルバスは身長も高い上に足も長いため、あっという間に瑠璃に追いついてしまう。
「やっぱり、足ではあいつに勝つことは出来ないわね! だったら……」
瑠璃は手提げのバッグから手榴弾を取り出した。以前、ハンセム博士に護身用にと渡されていた物だ。
「これでもくらいなさいっ!」
ポイッ!と手榴弾が投げられ爆発した瞬間、凄まじい爆音が鳴り響く。しかし、瑠璃はそこで計算違いをしていた。そう、威力が強すぎたのだ。今まで使う機会がなかったために威力を試していなかったとはいえ、油断した。あまりにもの火薬の量に爆風の威力も強く、瑠璃の軽い体はフワッと投げ飛ばされて窓に叩きつけられた。そして、その衝撃に窓も耐えきれずパリンと割れてしまい、そのまま瑠璃は城から森へと投げ出された。
――やばっ! このままじゃ万一助かったとしても、手や足を持っていかれる……!!
そう予測した瑠璃だったが、奇跡的にも茂っていた木々の葉がクッション代わりとなり、衝撃をある程度吸収してくれたために、手足など体の骨折などまでには至らなかった。
「いった〜……でもまぁ、助かっただけでも儲けもんね。さて、とりあえずここから逃げなきゃ」
ゆっくりとその場に立ち上がった瑠璃は、奥の森へと入って行き、なるべく敵から距離を取ろうとした。
しばらく歩くと、手頃な大きさの太い木の幹があったので、そこでひとまず休憩しようとその場に座り幹に背中を預けた。
「ふぅ……」
一息つき、これからの事を考えようとしたが、それを邪魔するかのようにカルバスに見つかってしまった。
「見つけましたよ? まったく、馬鹿なお方だ……。私の目は長年の間に熟練されている……その目を欺こうなどとは、百年早いッ!!」
カルバスは腰に手を当て偉そうに自慢した。だが、瑠璃の反応はない。不審に思ったカルバスは、ふと下を向いた。すると、そこには既に瑠璃の姿はなく、ただ木が生えているだけだった。
「なッ、しまった! つい話に夢中で、姫様を追いかけるという任務を忘れていた……」
慌ててカルバスは首を左右に振る。身長が高い分、こうするだけでも彼の目が動いている標的を捉える。無論、身長がある分木の葉などが視界を遮ってくるが、熟練された彼の目には、いいハンデにしかならない。
「……ん? くふっ、見つけましたよ!」
カルバスの目線の先には、必死に逃げている瑠璃の後ろ姿があった。
走っても十分追いつける距離ではあるが、移動を面倒に感じたカルバスは、その得意の長い足を巧みに使ってジャンプした。その凄まじいジャンプ力により、一気に瑠璃の真上に出現したカルバスは、逃げる彼女を捕まえようとサルの様に長い手を伸ばした。
「ちょっ!?」
危うく捕まりそうになる瑠璃だったが、護身術を用いて軽く受け流すようにしてカルバスの手を避ける。間一髪、カルバスに捕らえられずに済んだ。
「ふぅ……ちょっと危ないじゃない! 私を捕まえに来たんだったら、もっと優しく捕まえてよねっ!」
少しムスッとしながら文句を言う瑠璃に、カルバスは仮面を着けた顔を手で覆いながら言った。
「くくくッ、エイルに死なぬ程度なら攻撃しても構わないと言われていますからねぇ……」
不気味な声音でそう告げると、カルバスは空中に大量の魔法陣を展開する。そして、その魔法陣から次々にミサイルが出現する。
「いやいやいや、それは絶対に死ぬって!?」
その物量と、破壊力を想像して畏怖した瑠璃は、首を激しく振って拒絶するように後ずさりし、その場から急いで駆け出した。
それを許さぬが如く、標的に狙いを定めて名一杯力を込めると、カルバスは大きな声を上げて叫んだ。
「くらいなさい! 追尾せし爆鉄の槍!!」
カルバスが長く細い腕を振り下ろすと同時、宙に浮かんだ大量のミサイルが放たれた。
ミサイルは左右へ避ける瑠璃を追尾して左へ右へ移動してくる。そして、次の瞬間、ミサイルの一つが瑠璃の足元に直撃し凄まじい爆風を生み出した。その威力は、先ほど瑠璃が投げた手榴弾よりもはるかに勝る威力を誇っていた。その爆風に巻き込まれた瑠璃は、悲鳴をあげながら吹き飛ばされた。
――▽▲▽――
その頃、十二属性戦士は作戦を立て終えて出発の準備をしていた。
先程までの激しい雨も止み、落雷もすっかりおさまっていた。準備を終えたメンバーから照火の家を出て周りの様子を確認する。と、何やら爆発音と大きな煙が舞い上がっているのを見て、照火が指をさして皆に言った。
「何だあれ?」
「ん、何かあったのか?」
照火の声に、準備を終えた雷人が外に出て煙を眺めていると、上からキラリと何かが降ってきた。それは、先程ミサイルの爆風に巻き込まれ吹き飛ばされてしまった瑠璃だった。綺麗な弧を描いた彼女は、十二属性戦士の足元に撃墜した。
「いったた……。コホっ……ったく、絶対に許さないからね、あいつ!」
爆発の影響で既に服も体もボロボロの瑠璃が、痛めた腰を擦りながら文句を言った。
それから視線を感じてふと顔を上げると、そこには十二属性戦士が瑠璃を不思議そうに見つめる姿があった。
「あっ、皆ここに居たんだ! またそれぞれの都に迎えに行く事になると思ってたから、ちょうどよかったわ。……っていうか、ちょっと助けてくれない?」
再開を喜んだかと思うと、直後に助けを求めてくる瑠璃の言葉に、十二属性戦士は互いに顔を見つめ合った。
「どうかしたんですか?」
楓が単刀直入に事の次第を訊いた。その問に、葬羅の助けを借りながら立ち上がった瑠璃が説明しようと開口した刹那、空中から謎の黒い影が姿を現し、凄まじいジャンプ力を活かしてこちらに飛んできた。
「何事だ!?」
雷人が影の着地と同時に舞い上がる土埃に、目をよ~く凝らして凝視する。そしてようやく景色が晴れると、そこには見覚えのある高身長の男が立ちはだかっていた。
「あいつは……一年前、暗夜をさらって行ったスピリット軍団の――」
照火の脳裏で様々な記憶が走馬灯のように駆け巡り、同時に再び悔しさと怒りがこみ上げる。
「くくくッ、覚えてくれていましたか。お久しぶりですね? その通り、私はスピリット軍団の第二部隊隊長『カルバス=コールタール』です」
カルバスが丁寧な挨拶をしながら紳士の様にお辞儀する。その腕は相変わらず長く、足も細く長いため凄く身長が高い。しかも、何故か一年前よりも体が凄く大きく見えた。
「あぁ? どうなってんだ?」
爪牙が何度も目を擦りながら確認するが、何度見ても体が大きく見える。すると、自分を訝しげに見ている事に気づいたのか、カルバスが声をあげる。
「よく気付きましたね……その通り! 私の体は、熱気を吸えば吸うほど大きくなるのです。このように……ねッ!」
そう言ってカルバスは、大きく息を吸って実際に実証してみせた。ここは、炎の都の中でも特に熱気の多いコルタルン火山群。先程まで雨天で活動を休止していた火山群から発生した大量の熱気が、カルバスの体内に吸い込まれていき、言葉通りその体がさらに大きくなった。
「これは厄介だわ」
楓が唇を噛み締めその様子をただ眺める。しかし、照火は既に攻撃態勢に入り準備万端だ。
「行くぜ!」
一年前の敗北を取り返そうと果敢に突貫した照火がいきなり攻撃を仕掛けたが、相手にはもちろん通用しない。何せ、相手の属性は炎……同属性に対しての攻撃は、あまり効果が期待できない。
初撃に失敗した照火は、チッと舌打ちをし次の一手をどうするか考えた。
その様子を見ていた楓もまた、脳内で必死に考えをまとめていた。
――相手の属性は炎……。しかも相手は、不死身と恐れられるスピリット軍団の隊長格。たった一年とはいえ、十分に修行を積んでいるはずの照火の炎をものともしないってことは、相当な手練れに違いない。でも、だとしたら相性の良い属性で立ち向かったらどうなるのかしら?
ふとそんな考えが浮かんだ楓が視線を動かす。ひとまず、水属性である雫に攻撃を頼もうとした――が、楓はあろうことかその隣に立っている残雪を選んだ。その理由は先刻の一件が理由だった。
「残雪! あいつに攻撃して!!」
「うぇ!? り、了解ッス!」
残雪はいきなりのことに少し動揺を見せたが、言われるがまま攻撃した。すると、思わぬ結果が生じた。
「ぬおッ!? っぐ!? っくぅぅうう!!」
残雪の魔法攻撃の一つがカルバスの足元の地面を凍りつかせ、その氷に足を滑らせ転倒したのだ。同時、後頭部を強く打ち付けたために激しくもがき苦しんだ。
それを見た楓は、今が好機とばかりに、さらに攻撃するよう残雪に命令した。
「うぉお、くらえッス!!」
今度は、カルバスの顔に不釣り合いな大きさの仮面を攻撃した。仮面は凍りつくと同時にヒビ割れて砕け散った。すると、残雪の発した冷気がカルバスの体内に侵入し、熱気を奪い去った。そのおかげで、体が一年前と同じ大きさに戻った。
「よっしゃ!!」
照火が、チャンスとばかりに連続攻撃を叩き込もうと駆け出す。しかし、その後一歩というところでカルバスが体をムクッと起こし、秘められた力を開放したかの如く、強い気迫をぶつけてきた。その気迫に乗った凄まじい灼熱のオーラが足元の氷を一瞬にして溶かし、凍っていた足場は一瞬にして小さな水たまりとなった
「クソガキどもが……調子付きおってッ!」
カルバスはさっきとは全く違う声質、口調で喋り出した。仮面を失った事でその素顔が露わになり、その目からは怒りの炎がメラメラと燃え上がり、口からは吐息と一緒に炎が吐き出された。
「これでもくらうがいい! 『地獄の業火』!!」
カルバスの長い腕の先の大きな手の平に、今まで見た事の無い種類の炎が纏わりつき、まるで黒いムチの様にその腕が振り払われた。その攻撃は、一番手前にいた照火と残雪を襲い後方へと吹き飛ばした。
「ぐはッ!!」
「うわぁぁああああッ!!」
照火は自宅の裏に飛ばされ木を一本薙ぎ倒し、残雪は一際大きな木に、凄まじい勢いで背中を打ち付けた。
「あぐッ!!」
一瞬息が出来なくなるような激しい激痛が走り、意識が飛びかける。
「二人とも大丈夫ですか!?」
葬羅が急いで二人の下へと駆ける。
「今すぐ回復します!」
草植系属性の力によって癒しの力が働き、二人の体を何倍もの勢いで回復させていく。
「ふッ、無駄なことを……」
葬羅の行いを鼻で笑ったカルバスは、自分で作り出した炎を口に咥え込み、飲み込んだ。次の瞬間、炎の熱気がカルバスの体を最初よりもさらに大きくした。
「ウソだろ!? さっきよりもデカくなりやがった!!」
爪牙が冷や汗を流し、目を丸くして驚いている。
「仕方ない、私が行こう!」
敵のなかなかの強さにそろそろ出番かと、バチバチと手に雷を帯電させた雷人が前に進みだした。
「次の相手は其方か? だが、生憎其方に用はない!! 『灼熱の炎陣』!!」
手を大きく広げたカルバスの掛け声と共に、炎の円が十二属性戦士とカルバスを取り囲んだ。しかし、炎の円は照火と残雪と葬羅、及び瑠璃まで囲む事は出来なかった。どうやら範囲の限界があるようだ。
「くそっ、照火と残雪はいないし――そうだ、雫がいるじゃないか!」
ぐるっとこの場にいるメンバーを見渡し、雷人は今まで見たことのない大きさの炎を見てビビッている雫を見た。
「えっ、僕!?」
雫は驚いた様に自分を指さして確認した。いまいち指名された事を信用していない様子の雫に、雷人は自信満々に頷いた。
皆に前に出され、やらざるを得なくなった雫は、観念して水の魔法を発動することにした。
「もうこうなったらやけだ! くらえ!『波水の渦潮』!」
まだどこか怯んでいる様子の雫が、ヤケクソになって大きな水の渦巻きと波を作り出し、炎の囲いにぶつける。すると、水によって火が消され出口が出来た。
「やった!?」
「甘いッ!」
歓喜する雷人を嘲笑うように、カルバスが指をパチンと鳴らした直後、出口が炎で覆われてしまった。
「くっ、やはりダメか」
雷人が珍しく諦めムードに陥っていたその時、叫び声と共に炎の囲いが一瞬にして凍った。真っ赤な炎が凍りつき、真っ青な青い炎へと瞬時に変化する。それは、敵だけでなく十二属性戦士をも驚かせた。
「んなッ、どうなっている!?」
カルバスは突然の出来事に事態を把握出来ていない。と、周囲を見回していた菫が指をさして叫んだ。
「あれを見て!」
そこには、照火と残雪がいた。二人共、淡く光る紅い炎に囲まれた氷の球体に乗っている。
「あいつら無事だったのか!」
爪牙が嬉しそうにガッツポーズをキメる。
が、一人この事に不満の声を漏らす。
「……くぅッ、おのれ、死に損ない共がァァアァアアアッ!!」
カルバスは、さらに怒りのオーラを煮えたぎらせ体を巨大化させた。
というわけで、結局女子メンバーにきついお灸を据えられることとなった残雪。
さらに、再び現れたスピリット軍団によって二度目の占拠に遭う夢鏡国。爪牙も言っていましたが、相変わらず簡単に占拠される国ですね(笑)。警備体制どうなってんだよ!!ってツッコミが炸裂しそうです。
一年前暗夜をさらったカルバスが、再び十二属性戦士の目の前に立ちはだかり戦闘となりますが、いやはや一年間の修行のお陰かなかなか強い技をくりだしてましたね。今後も他のメンバーの強くなった姿を見せようと思うのでお楽しみに。
果たして、本気パワー全開となったカルバスを倒せるのか!?