第十三話「つかの間の休息」・2
「ど、どうしたんだよ……?」
照火は少し嫌な予感を感じながらも二人に訊いた。
「実はな、君に頼みたいことがある。照火……、これは君にしか出来ないことだ。鬼火は出せるか?」
「……はッ!?」
ハンセム博士の単刀直入の質問が照火にはいまいち理解出来なかった。
「一体ここで何をやってるんだ?」
周囲をぐる~っと見回しながら不審に思った照火が訊く。
「はぁ~……仕方ない。彼女達には『内緒にしておいてね?』と頼まれてたんだが、この際だ、しょうがない。状況が状況だからな。……この奥で今、菫と時音が訓練しているんだ」
「訓練?」
「ああ、二人は肝試しをしていてな……。怖い物を克服するための訓練をしていたんだ。そしたら、私達だけじゃいまいち成果が出ない。ってことで、私達二人が丁度開発していて完成したこの、『恐怖体験シュミレーションプログラム』を使って協力していたんだが、生憎と最悪なことにトラブルが発生した。鬼火(火の玉)プログラムが誤作動で動かなくなってしまったんだ。そこで照火……君に頼みがあるのだ。君に代役として鬼火の係をやってもらいたい!」
「はぁ?」
ハンセム博士に頼まれた照火は、相変わらず訳の分からないネーミングを、とバカにしていたが、最後の部分を聞いてあからさまに嫌そうな顔をした。
「そこを何とか……頼む! このままでは訓練は大失敗に終わる」
「そこまで言う事か?」
「しかも私達の大失態まで晒すはめになる……。それだけは何としてでも防ぎたいのだよ! 頼む、協力してくれ!!」
ハンセム博士の必死なお願いにどうしようかと迷っている照火の表情を見て、雷人が懐から何かを取り出した。それは、何かが入っている瓶だった。それを見るや否や、照火は目の色を変えた。
「それってまさか……ッ!?」
徐に照火は突然動揺した。
「やはり料理をしているお前のことだ……これを知っているか。お前の知っての通り、これは調味料(薬味)だ。これは最近巷で出回ってるやつで、私の知り合いが世話になったお礼にと、私にくれた代物だ。無論、料理をせん私にはいらないゴミだ。どうだ? これで取引だ! ほれ」
雷人はその調味料の入った瓶を眺めながら説明を終えると、照火に向かってポイッと軽く放った。
「おおっとと!!」
照火は慎重かつ俊敏にその瓶を両手で受け取って安堵した。
「とった……ということは協力してくれるんだな?」
「えッ!?」
それは半ば強制的なのでは、と思う照火だったが、仕方ないと諦め照火はコクリと頷いた。
――▽▲▽――
その頃、当の菫と時音の二人はというと、肝試しの舞台の中で雰囲気に圧倒されていた。
「ねぇ、何だか風が生暖かいんだけど……」
菫が真っ青な顔で時音の腕にしがみついて言った。当の時音は、頬から冷や汗を流しながらも必死に冷静でいた。
「ねぇ時音、時音ってば!!」
菫の自分を呼ぶ声にようやく気が付いた時音は、焦った表情で菫に
「何?」
と訊いた。すると、菫が顔をすっかり青冷めさせながら指をさした。その方向を向くと、そこには青白い炎が三つほど宙に浮かんでいた。
「ウソ……。これって今まで出て来た物とレベルが違いすぎる! ま、まさか……ほ、本物!? ……きゃああああ!!!」
時音は、菫をほったらかしにして先に逃げ出した。
「えっ!? え、ちょ、ちょっと待ってよ、時音ぇえええ!!」
菫は目尻に涙を浮かべ必死に我など忘れて無我夢中で走って行った。
一方鬼火はというと、
「あれ? しまった。ちょっと驚かすつもりがレベルが少し高すぎたみたいだな……。にしても何なんだこの中…。随分と生暖かい空気が漂ってるが……しかも少し蒸し暑いし」
その青白い炎の正体は照火だった。両手に灯していた青白い炎を消して肩を回す。そう、鬼火のプログラムが使えないということで、代役としてここに来ていたのだ。
そして照火は一人でグチグチ言いながら菫と時音の二人が行った方向とは別の方向に向かった。
――何でも、この部屋は迷路のようになっているからそう簡単には脱出することは出来ないって言ってたな。だったら、あいつらもそう遠くまでは行ってないはずだ! よし、ここらで準備をしておくか……。
心の中で考えながら照火は時音と菫を驚かせる仕掛けを施した。
――▽▲▽――
その頃、菫達はと言うと……。あまりにもの全力疾走で時音が瀕死状態に陥りそうな状態だった。だが、それは菫も同じだった。そして、しばらく辺りを見回し警戒しながら照火が待ち伏せているポイントまで近づいてきた。それに気付いた照火は
「そろそろいい頃合か……!」
と言って、準備しておいた作戦を実行した。しかし、その計画は一瞬にして全て水の泡となった。部屋に敷いてあったカーペットに、またしても足を滑らせコケてしまったのだ。しかも今度は、顔面全体をまさかの床側にある段の角に。
凄まじい激痛が照火の体を走った。
「うぐうッ!!」
照火の悲痛な声に気が付いた二人が顔面蒼白となってふと足元に視線を向けると、そこには顔面から血を垂れ流す照火の姿が目に入った。おまけにゆらゆら揺らめく炎がやけに印象的でその炎の光によって不気味に照らし出された顔がどれほどホラー的だったことか。
「き、きゃああああああああああっ!!!」
菫は耳をつんざくような周波数の高い悲鳴を上げて泡を吹き、目を回しながら時音に寄り掛かるように倒れた。その体を何とか時音が両手で支える。しかし、時音も失神寸前だった。今にも泣きだしてその場に頽れてしまいそうな程に。が、ふと先程の顔に心当たりを感じ、それから彼女はもう一度その足元にいる人物の顔を見た。
「あれ? あなた、よく見たら照火じゃない! こんなところで何をやっているの?」
時音の不思議そうな物を見るような目に、照火は引きつり笑いをしながら説明した。
「ふ~ん……そうだったの」
顔中血まみれの照火を見て可哀そうに思ったのか、ハンカチで汚れた顔を拭いてあげながら時音はそう言った。
「まぁ、大方理解出来たわ。はい、これでよしっと!」
「ありがとう、時音」
顔をハンカチで拭かれている際、ほのかにそのハンカチからいい匂いがしてドキドキしてしまった照火は少々頬を赤くしながら時音にお礼を言った。
「はい、どういたしまして。今回だけは特別に許してあげる! それじゃあ、外に出ましょうか!」
「ああ、そうだな」
「ところで、出口ってどっちなの?」
ふと、時音が暗がりの通りの左右を見ながら質問する。その時音の言葉に照火は
「あっ……!?」
と言って固まってしまった。
「ま、まさか……道も覚えずにこんなところに来たの?」
「しょ、しょうがないだろ? それに、そっちこそ道覚えてるのか?」
「えっ……? それは……その。ごめんなさい、私もいろいろと恐怖を体験してどの道が正解なのか忘れちゃったの……」
ウルウルと瞳を潤ませて申し訳なさそうに上目遣いする時音に再びドキッとしてしまった照火は顔を左右に激しく振って開口する。
「じゃあつまり……」
「ええ、私達……迷子ね」
狭い空間に異性の男女が二人……いや、気絶している菫も合わせた三人は、途方に暮れてしまった。すると、時音があることを思い出した。
「あっそうだ! 雷人からもらった通信機があるじゃない?」
「ナイスアイデアだ――と、言いたいところだが、生憎実はさっきコケた時に壊れてしまったんだ。後は雷人達が自然にこの非常事態に気付いて助けに来てくれることを願うしか……」
照火がそんなことを残念そうな顔で呟いていると、本当に雷人が掛け声を上げながらこっちに走ってきた。
「――ぉーぃ……おお~い!!」
「噂をすれば何とやらね。ほら菫、起きて!」
時音が背中におぶっている菫を起こした。菫は少し寝ぼけ気味で目を擦りながら欠伸をした。
「はぁ、はぁ、やっと見つけた。あの通信機に……GPS機能もつけていたのに、はぁ、壊されてしまって、はぁ、探すのに苦労したぞ?」
雷人が疲労している体を何とか保ちながら膝に手を置き息を整えながら説明した。
こうして、照火と時音、菫の三人はようやく暗闇の建物の中から脱出することに成功したのだった。
その後、雷人はパソコンをいじりながら言った。
「お前だけに先に言っておく。光と影の封印の残り三つは後二年待たなければ解くことは出来ない! それは知っているよな?」
「ああ」
「即ち、光と影の封印を解こうとする他の者も少なくとも二年間ぐらいは現れることはないということ。だから私達はその間に修行の森で修行を積む! それでいいな、照火」
まさに単刀直入だった。だが、断る理由もなかった照火は黙ったまましばらく佇むと頷いた。
「よし、後は他のやつらにもこの旨を伝えなくてはならない! そこでお前は、今から他のやつらに大広間で第二の封印を解いたことについての祝勝会を開くと言ってきてくれ!その間に、こっちも封印の内容について必要最低限調べておく! さあ、行って来い!!」
雷人の言葉に照火は面倒くさそうに扉を強く突き放し、さっさと行ってしまった。
「さてと……私も封印について調べなければな」
黒縁眼鏡をカチャリと動かし仕事に取り掛かる雷人。指のマッサージをし首をゴキゴキと鳴らす。
「よし! 博士、手伝ってくれ!!」
「分かった!」
ハンセム博士は待ってましたとばかりに椅子に座りキーボードを打ち始めた。
――▽▲▽――
その頃照火は、廊下の周りをよ~く見渡し、自分以外の十二属性戦士を探し始めた。すると、一番最初に見つけたのは、先程怖い物を克服するということで恐怖体験のシュミレーションプログラムで訓練をしていた菫と時音だった。
「お~い、ちょうどよかった! 実はこの後、第二の封印を解いたことを祝して祝勝会が開かれるらしいから、準備が出来たら大広間に向かってくれ!!」
そう言うと照火は次の場所へ向かおうとした。しかし、そうしようとする前に踏みとどまりあることを思い出して二人にさらに言葉を付け加えた。
「ついでに、誰か見かけたらそいつにも言っといてくれ! じゃあな!!」
そう言って照火は再び次の場所へ向かった。そんな彼の後姿を見ていた時音と菫は互いに顔を見つめ合い互いの意見を聞いた。
「どうする? 大広間に行く?」
「そうね……祝勝会とか言ってたし、食べ物とかが出るんでしょうけど」
「ってことは照火が作るのかしら?」
「ホント? だとしたら急がないと!」
時音と菫の二人は期待を膨らます反面、何か裏がありそうな予感を感じながら大広間へと足を進めた。
――▽▲▽――
――そう言えば、雫と楓がここらへんでピンポンしてたな。
照火は微かな記憶を頼りに元来た道を戻っていた。そして、雫達がいると思われる場所に向かった。すると、そこで照火はまたもや悲劇に遭った。
「お~い雫、楓! 祝勝会をするらしいから大広間に――」
ドグシャッ!!
鈍く凄まじい効果音が鳴り響き、ピンポン玉は照火のその顔面にクリティカルヒットして後ろに弾き飛ばすと、ストンと垂直に地面に落ちて地面をコロコロと転がって行った。その地面に落ちる玉の音がその時ばかりは少しばかり大きく聞こえた。
「だ、大丈夫照火!?」
雫が慌てて照火の側に近寄りその身を案じる。楓も卓球のラケットをテーブルに置いて、申し訳なさそうな顔で駆け寄り状態を確認する。
「ごめ~ん! ……大丈夫、照火? ホントごめんね? 鼻の骨折れちゃったかも」
楓が涙目で必死に照火の体を心配する。その楓の涙目の顔を見て、照火はふと先程の時音の潤んだ瞳を思い出し怒る気が失せたのか、怒りはせずに
「一応大丈夫っちゃ大丈夫だが、ったく……気をつけろよ? 後、大広間で祝勝会するから大広間に必ず来いよ? それじゃあ」
照火は必死に笑顔で大丈夫だということを、心配そうな顔をして自分を見てくる二人に見せつけた。そして二人に手を振り、二人の姿が見えなくなったのを確認すると、急に地面に膝を着け、涙目で赤くなっている鼻を押さえた。
「やっば! こいつはマジでやっば!! 何なんだあいつ!? とんでもない勢いで俺の鼻にクリティカルヒットさせやがって!! 女の子のくせに何て恐ろしいパワーなんだ! これは、いつか必ず俺の脅威になる! ……って、んなことよりも、せっかくさっき時音に優しく血まみれの顔面を拭いてもらったってのに……!」
照火が、鼻血が垂れてくる方の鼻の穴に細長く丸めたティッシュを詰めながら栓をして言った。
――▽▲▽――
照火は再び葬羅のいる中庭へ向かった。そこには、相変わらずぼ~っとした葬羅がいた。葬羅は照火の姿を見かけると、そのボロボロの顔を見て驚愕の表情を浮かべた。
「どうしたんですか、照火さん!? その顔……もしかして敵にやられたんですか?」
「いや敵じゃない――のか? いやまぁ敵じゃないが……、とにかくこの怪我治してもらえるか?」
「いいですよ? 少し待っててくださいね」
葬羅は荷物の中から塗り薬を取り出し、それを照火の真っ赤に腫れ上がった鼻に塗りつけた。
「い、いっつッ!」
「ちょっと、動かないでくださいっ!! 間違って目に入ったりしたら危ないんですから!!」
「ご、ごめん……でも痛いんだよ!」
「そこは我慢してください! 男の子なんですから」
照火の鼻に緑色のクリーム状をした塗り薬を塗りながら葬羅が言う。そしてそれを塗り終えた葬羅は
「ふぅ……これでいいですか? それと、あんまりそういう怪我ばっかしてると体が持ちませんからね? だからこれからはちゃんと気を付けてくださいよ?」
と、まるで小さな子供に対するお母さんの様な口調で忠告した。その言葉に慌てて照火は立ち上がり口を開く。
「わ、分かった……。あっ、それと大広間で祝勝会があるからちゃんと行ってくれよ?」
「はぁ、……分かりました」
葬羅は全く反省した様子のない照火に嘆息しつつコクリと頷き、塗り薬に蓋をして荷物の中にしまった。
塗り薬を塗られた跡を少しちょんちょんとつつきながら、照火は次の場所へと向かった……。
というわけで、第二章無事完結です! 後は第三章を残すのみです! 話数的には後三話?くらいです。第三章は少しばかりフィーレの過去が分かります。また、世界四大神の内の三人が出ます。必見です。
えー、肝試しの鬼火役に半ば強制的にさせられた照火ですが結局怪我をして失敗。でもまぁ、そのおかげで十二属性戦士の中でお姉さん的役割を果たしている時音に優しくハンカチで血まみれの顔を拭いてもらえて少しドキドキ。
うらやまry
そして、挙句の果てに楓にピンポン球で顔面にクリティカルヒットさせられ鼻の骨を折りかけるという不幸さ。葬羅に手当を受ける際にもお母さんの様に指摘を受けると、ざまあry
恐らく、楓は義理の姉をいやらしい目で見ていたからその罰だということなのでしょう。そういうことにしておきます。
そして、次回からはいよいよ第三章の始まりとも言える作戦会議的な話をします。
恐らく、今回の更新はここまでだと思いますので次回は期末後かも……。




