第十話「二つ目の鍵」・2
と、その時、時音が魚を見てふと疑問を抱いた。
「ところでこの魚……どれも釣り針の跡がないけど、どうやって獲ったの?」
「ああ~、この魚はどれも僕が素手で獲ったんだ!」
満面の笑みを浮かべる雫に、時音は圧倒されながらも会話を続けた。
「へ、へぇ~すごいね! さすがは雫!」
「そ、そんなことないよ!」
雫の謙遜するような言い方に時音はさらに続ける。
「ううん、謙遜することないよ! 十分よくやったよ!」
まるで必死に自分をフォローしているような感じがした雫は、怪しく思いながらも時音の話を聴き続けた。
その時、残雪が奥の方から近寄ってきた。
「ああ、雫! どこに行ってたのかと思ったら海に行ってたんスね? でも、今日のメニューはカレーなんスよ?」
今まで誰もが言おうとして言わなかったことを残雪が言ったため、その瞬間の雫がどんな表情をとるのか見ようと思ったのか、サッと全員が雫の方を向いて反応を窺う。すると、雫は魚の入った網を落とし目に涙を浮かべると、黙ったまま大粒の涙をポタポタと床に落とした。それを見て一同は驚いた。
――えっ!? も、もしかして……泣いてる!?
雫のその姿を見た全員が一瞬、意思疎通したかのように同じ言葉を心の中で述べる。調理をしている照火とそれを見ていた夢幻も雫のその姿に気を取られて手の動きを止めている。
「え、えっ!? ど、どうしたんスか雫? ……しっかりするッスよ!!」
残雪は突然のことに慌てて雫の肩をガッシリ掴み前後に激しく揺さぶった。そして、その手の動きを止めると、雫の体は力を失ったかのようにフッと後ろに倒れこみ、その彼の体をボスンとふかふかベッドが柔らかく受け止めた。残雪は一体何が起こったのだろうと周囲を見渡すと、他のメンバーは残雪のことを軽蔑的な眼差しで見つめた。すると、いのいちばんに輝光が口を開いた。
「あ~あ、残雪が雫兄ちゃん泣かせたー!」
年下である輝光にまで呼び捨てにされる残雪。そんな輝光の言葉に残雪は否定の言葉を述べた。
「ちょっと待つッス! おかしくないッスか? 俺はただ本当のことを言ったまでッスよ?」
あくまで自分は何もしてないと言い張る残雪。しかし、その言葉を覆すような言葉を輝光が他のメンバーの代わりに述べる。
「でも、雫兄ちゃんはわたし達のためにわざわざこんな夜遅くまで疲れているのを我慢してまで魚を獲りに行ってくれたんだよ? その行為を、残雪は踏みにじったんだ!!」
「うぐっ!! ……そもそも何で俺が年下というか、後輩に文句を言われないといけないんスか? 俺はあくまでも輝光よりかは先に十二属性戦士に入ったんスから、後輩に文句を言われる筋合いはないッス!!」
残雪が自分が差別されているという風に文句を述べた。すると、そんな彼の言葉に楓が言う。
「だったら、私には逆らえないわよねぇ~ざんせつぅ……!」
低めの声音で名前を呼ばれた残雪は背筋を凍らせ冷や汗を流した。表情を引きつらせ、口の端が歪に吊り上がる。
「は、はいッス!!」
さすがの残雪も楓には頭が上がらないようで上ずった声で返事をする。
「じゃあ罰として、残雪は雫を慰めてあげてね?」
楓の命令に残雪はブツブツと小声で文句を言った。すると、地獄耳を持っているのか、楓は包丁を残雪に向かって勢いよく投げた。
ストンッ!
「ひぃいッ!?」
「あっ、ゴメンね? ちょっと手が滑っちゃった……」
顔面蒼白となって壁に突き刺さってプルプルと刀身を震わせる包丁に唾液を飲み下す残雪。意味有り気に柔かな笑みを浮かべる楓に残雪は身の危険を感じたのか、
「す、すみませんッス!!」
と、何故か謝らないといけないという衝動に駆られて腰を九十度に曲げて楓に謝った。
「えっ? 謝るのは私の方なのに……」
わざとらしく申し訳なさそうな表情を浮かべる楓。その光景を瞬きせずに見ていた夢幻は、小声で照火に耳打ちした。
「……なぁ、楓って案外怖いんやなぁ」
「最近、なんかいつもこうなんだ」
二人が話し合っているのも聞こえたのか、サッと夢幻と照火の方に顔を向けた楓は、ギロリと二人を睨めつけた。
「「ひいッ!!?」」
楓に睨まれた二人は、ゴーゴンに睨まれて動けなくなったかのように全身を硬直させると、慌てて後ずさりし苦笑いを浮かべた。顔面蒼白となり、冷や汗をかいている二人の様子を見て、楓はフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向くと、再び調理に取り掛かった。
「皆、急いで調理を再開するわよ! 時間かかったからその分スピード上げていくわよ!」
袖を捲り上げ包丁を手に取る楓に、ふといい案が思い浮かんだ時音がその案を提案した。
「ねぇねぇ楓ちゃん! あのさ、ごにょごにょ……」
時音の考えにぱぁっと表情を明るくして賛成した楓は、さっそく時音にその提案した内容を実行するように頼んだ。すると時音は、手を広げ声を張り上げた。
「『タイム・ダブルスピード』!!」
そう言うと同時に、椅子で休んでいる爪牙と隅っこで体操座りしている葬羅と、泣きながら蹲っている雫と、それを慰めている残雪以外のメンバーが普通の時間よりも二倍の速度で動き出した。
「これでよし!」
時音がグッと握り拳を作りガッツポーズを取る。
そして、あっという間に晩御飯であるカレーライスが完成した。
「すごい……! 本当にあっという間に晩御飯が出来ちゃった!!」
楓が驚きながら自分の皿の上に乗った料理を見て言った。葬羅は何もすることがないということで料理を運ぶのを手伝う事にした。
未だに、残雪は雫を慰めることに時間を食っていた。
――▽▲▽――
次の日の朝。一番最初に起きたのは爪牙だった。
「何だか今日は随分と寝覚めがいいな……」
そんなことを呟きながら爪牙は背伸びをし、軽くストレッチした。窓から見える太陽の昇る光景。その光景が爪牙には一段と美しく見えた。すると、横に照火が近寄ってきた。
「今日は一段と早いな、爪牙。眠れなかったのか?」
心配そうに声をかける照火に爪牙は腕組みをして言った。
「いや、ただ一つ気になることがあってよ」
「何が気になるんだ?」
「実は、封印のことなんだ。今まで俺達は普通に封印を解いてきた。だが、それは俺達の意思じゃなく王の命令。そんな時、俺は思ったんだ。もしかしたら本当は封印を解きたくねぇんじゃねぇか……ってな。照火、お前はどう思う?」
爪牙の単刀直入の言葉に少し焦り気味の照火だったが、少し頭の中で考えると窓に手を当て爪牙に言った。
「俺もたまにそんなことを考えるさ。でも、もしもその封印が解いたらいけない物だったっていうなら、別に俺はそれでも構わないと思ってる」
「何でだ?」
「何ていうかさ……その封印が解けたとしても、その封印された物自体を謂わば破壊しちまえばいいわけだろ? だったら別に封印を解いてもいいかなぁって……、思っただけさ!!」
照火の一見どうでもいいような無責任な言い方に懸念を抱く爪牙だったが、なぜかその照火の言葉に少し勇気を貰えたのか、さっきよりも少し柔かになり照火にお礼を言うと、洗面所に向かった。
午前七時。十二属性戦士一同は朝御飯を食べていた。今日は出発する日なので、急いで準備をしようと、早めに食べ終わった人から荷物をまとめていた。
雫は昨日のことがあったため、目がすごく真っ赤に腫れ上がっていた。
「雫、大丈夫ッスか?」
残雪がまだ昨日のことを悪く思っていたらしく、未だに雫のことを心配している。しかも、ずっと洗脳されているかのように同じ台詞ばかりを呟き、ずっと慰めて寝ていないせいか目の下に濃い隈ができていた。
「急げよ葬羅。もう後お前だけだぞ?」
照火が食べるスピードが相変わらずマイペースな葬羅を見て言う。しかし、葬羅は未だにゆっくり食べ続ける。が、他の皆が荷物をまとめ終えて外に出始めたのを見ると、急に食べるペースをあげ、五分とかからずペロリと皿の上の食べ物を食べつくした。
「そんなに速いんならさっさと食べろよな」
照火は文句を言いながらも半ば呆れた様子で皿を片づけた。
準備も終わりロビーに向かう十二属性戦士。
ロビーに立っていた男の人に鍵を渡すと、十二属性戦士は玄関を出てさっそく砂の都に向かった。
――▽▲▽――
ここは、あまりにもの暑さに水も一瞬にして蒸発してしまう灼熱の砂漠が延々と広がる砂の都。また、砂の都のどこかには昔からオアシスなどの桃源郷があると言われてきたが、それも今や伝説に過ぎない。その証拠に、以前旅人の一人がその桃源郷から帰還した時は、その桃源郷の正体は蜃気楼だったという話になっている。
そんな灼熱の砂漠の上を汗をダラダラとかきながら歩いてる人影があった。
十二属性戦士である。
「なぁ、あのピラミッドにまだ着かないのか?」
一年前、一度訪れたことがある照火が細砂に訊く。すると、拭っても拭ってもじわ~っと垂れてくる汗を腕で拭いながら細砂が言った。
「仕方ないじゃん! 照火のせいで地図どっかに飛んでっちゃったんだから!!」
それは少し前に遡る――。
《まだ着かないのかぁ~セブンス・ピラミッド……》
照火の明らかにダルそうでメンドくさそうな声が細砂の集中力を削いでいたため、
《うるさいなぁ! 少しは静かに出来ないの~?》
と、自分の後ろを歩いている照火に文句を言った。その文句に雷人も口を開く。
《細砂の言うとおりだ。たまには辛抱強く待つことも覚えなければいいことはないぞ?》
雷人のアドバイスに照火は仕方なく従った。
《そういえば、これって何が書いてあるんだ?》
そう言って照火は、隙だらけの細砂の手からひょいっと地図を奪い取った。
《あっ、ちょっと何するの!》
急に自分の手から地図が無くなり、細砂は慌てた様子でそう言った。しかし、その言葉を照火は少しも聴かず、あからさまに地図を太陽のある場所に掲げ、紙切れの様な地図とにらめっこした。
《これって、どう読むんだ?》
照火が首を傾げながら地図を細かく眺める。すると細砂が、その手から地図を取り戻そうと手を伸ばした。
《ちょっと返してよ!》
そう言って何度もジャンプし地図を取り戻そうと試みるが、生憎と照火よりも細砂の方が身長が低いことと、照火が高々と地図を持っている方の腕を上に上げているために、それを取り戻すことは出来なかった。
と、その時、急に大きな風が十二属性戦士に襲い掛かった。さらにその風に煽られて砂が舞い上がり、その小さな砂粒が照火の目に入った。
《――ッ!?》
照火は慌てて目を瞬かせ、目に入った砂を取り除こうと涙を流す。何とか目から砂粒を取り除くことに成功した照火だったが、その代わりに不意に地図を持っていた手を離してしまった。それにより、地図は風に連れ去られてどこかに飛んで行ってしまった。
《あっ、地図がっ!?》
《あ、いっけね》
《ちぃずぅぅぅぅううううううううううう!》
細砂が目尻に涙を浮かべ声を上げた時には、既に地図は高々と上空に舞い上がり手の届かぬ場所に行ってしまっていた……。
そして、現在に至る……。
「もうっ! どーして照火はこう、いつも冷静でいられないのかな?」
腕組みをしてそう愚痴る細砂の言葉に、照火は不貞腐れてブツブツと文句を言っていた。
しばらくして、彼らの視線の先にようやくセブンス・ピラミッドの中でも一際大きなピラミッドの頂点辺りが太陽の光に反射してキラリと光って見えた。
「ねぇねぇ、あれがセブンス・ピラミッドじゃない?」
それにいの一番に気が付いた輝光が指をさして皆にその方向を伝える。確かに指さす先には、セブンス・ピラミッドの一角が見えた。
「おおッ! でかしたぞ、輝光!!」
「えへへ……」
雷人に褒められ嬉しそうに頭をかく輝光。それからさらに歩き続けると、ようやくセブンス・ピラミッドの全貌が見渡せる位置にやって来た。
「ここまで長かった……」
時音が首から提げている懐中時計を疲れた表情を浮かべて眺める。すると、突然地響きが聞こえてきた。地面が揺さぶられ、その上に立っている十二属性戦士の体もつられて揺れ動く。とうとう、その場に立っていられないくらいの地響きに襲われた。慌ててその場に座り込み地響きが収まるのを待つ。
「何だこの音……」
爪牙が周囲を見渡す。すると楓が皆が少し不安な表情を浮かべているのを見て言った。
「みんな静かに! ……何か、近づいてくる」
地の底から微かに聞こえてくる音に感づいた楓が、皆にそのことを伝える。それを細砂も感じ取ったらしい。しかも彼女はその微かな音に聞き覚えがあったのか、突然みんなに聞こえるように大声で叫んだ。
「みんな! ここからなるべく遠くへ逃げてっ!!」
その言葉の意味が十二属性戦士の内の何人かには伝わっていなかった。しかし、彼女の真剣な表情に、十二属性戦士の本能が体を動かしたのか、理解してないメンバーも含めて十二属性戦士全員が、その場から慌ててなるべく遠くへ逃げ出した。すると、さっきまで十二属性戦士がいた周辺から、砂煙が綺麗な円形に舞い上がった。
それからしばらくして、大きな音と共に謎の生命体が姿を現した。
「これは一体なんだッ!?」
驚愕して雷人は目を見開き唖然としている。
「あれは恐らく私が昔ここに来たときにも現れた番人だと思う」
細砂が過去に体験した内容を皆に言う。余程厄介な相手なのかこめかみ辺りから冷や汗を流し、いつもお気楽な表情を浮かべている細砂が真面目な顔をする。
「番人?」
「確か……セブンス・ピラミッドには全部で七人の番人がいて、それぞれに役割が決まってるんだとか……」
「役割?」
少しそのことが気になるのか、雷人が細砂に訊く。
「えっと……、役割は『防衛者』。侵入者からここ、セブンス・ピラミッドを守るための役割だったと思う」
「まさか、こいつがピラミッドの番人?」
菫がその背丈の大きな化け物を見上げながらそう言った。
「こんな奴相手にするのか!?」
照火は肩を落として言った。それに対して、暗夜は
「まぁそう言うな……。相手は所詮知識の少ないただの化け物。すぐに片をつければいいだけの話だ」
と、魔力を溢れさせながら言った。
目の前にいる化け物の口には、ギザギザで小さな歯がズラ~ッと並んでいて、またその化け物の舌はすごく長く、アリクイのような舌だった。さらに体表はブヨブヨして柔らかそうだったが、その一方でゴツゴツしていて硬そうにも思えた。そして化け物は、その大きく巨大な体を動かして襲い掛かってきた……。
というわけで明るい話はここでしゅーりょー!
次回の話からバトりまくります。Ⅰ以来のあの人も登場しますよ! 誰でしょうね。ヒントは女の子です。
怪物との戦闘なのでそこそこグロくしても人じゃないんでいいでしょう!
第一、自分の拙い文章ではグロさをうまく表現できないでしょうから!
てなわけで次回をお楽しみに。




