第十話「二つ目の鍵」・1
夢鏡王国。毎日平和な日々が続くこの王国では、時たま事件が起こる。しかも、時たま起きるせいか、その事件は大抵が重大な被害を被るものである。
そんな夢鏡王国の中心にそびえ立つ山の頂きに築城された夢鏡城の五階にある玉座の間では、玉座の椅子から立ち上がり今か今かと十二属性戦士の帰りを待っている国王、神崎零の姿があった。
実は彼は王族ではなく、神王族の血を引いていた。と言っても四分の一は神族、四分の三は王族の血を引いているが。また、神崎という性も大昔この惑星ウロボロスで勃発した第一次神人戦争の際に仲裁役を買った神崎王都という伝説の男と同じ物で、彼はその子孫でもあるのだ。
そんな国王が王の間を行ったり来たりを繰り返す様子をじっと眺めている衛兵も、ずっと同じ光景にだんだんと飽きを感じ始め、何か進展がないものかと思っていた。
と、その時である。他の衛兵から伝言が伝わってきた。
「うんうん……何、本当か!?」
衛兵はその嬉しさのあまり、大声で国王に知らせた。
「王様! 只今新たな情報が入りました! 何でもスピリット軍団を見事壊滅させ、闇魔法結社も全員倒し、無事に闇属性戦士の嵐暗夜を取り返したとのことです!!」
衛兵の言葉に、零は無邪気な子供の様に飛び跳ねた。あまりにもの嬉しさに思わず我を忘れるくらいだ。そして急いで玉座に座り、十二属性戦士がこの場所に戻ってくるのを、まるで食べ物か何かを持って帰ってくる親を待つ子供であるかのようにワクワクしながら待ち続けた。すると、ズッシリとした風格を持つ重たい扉が開き、光に照らされレッドカーペットの上を十三人の人影が歩いて来た。
逞しく成長して返ってきた十二属性戦士だ。だが、そこで零は自分の目を疑った。
――む? 十二属性戦士が十三人いる!? 確か報告では白夜という少年は闇の都に帰ったと言っていたからてっきり十二人で帰ってくると思っていたんだが……。
などと頭の中でそんなことを首を傾けながら考えていた時、雷人から声をかけられた。
「王様! ようやく暗夜をスピリット軍団から取り返しました。それと、王様に大事な話があります!!」
やけに真剣な面持ちを浮かべての言葉に零は何だろうと思い、手すりに手をつき身を乗り出し聞く準備を整える。
「こいつです!」
そう言って国王の前に出したのは、さっきから気になっていた十三人目の男だった。随分、暗夜と姿が似ているため兄弟か何かかと考えていた零だったが、それにしてはあまりにも髪型が違い過ぎでいた。しかもよく見ると、彼が身に纏っているのは十二属性戦士が苦労して倒したスピリット軍団の隊長格だけが着ることを許されている服だった。
「その者は誰なんだ?」
零の言葉に一歩夢幻が進み出て話し出した。
「お初にお目にかかるで、夢鏡国第六代目国王『神崎 零』はん……。今日はあんたにある話があって来たんや……」
ズボンのポケットに両方の手を突っ込み、明らかに立場を弁えていない偉そうな態度で言った。
「まさかそなたは噂の……伝説の幻属性戦士か?」
零の確認するような言い方にニヤリと笑みを浮かべる夢幻。
「ああ……せや。わしは幻属性戦士『玄瑯 夢幻』っちゅうもんや!!」
夢幻の自己紹介に零は思わず息を呑んだ。なぜならば、夢幻はただならぬ威圧感を大量に零にぶつけていたからである。その証拠に、その気迫はただ者ではなく、尋常じゃない魔力を放出していた。
「実は、ここにいると思われる『ハンセム=アレイク=ストライプス』博士に用があって来たんや」
そう言って夢幻は、近くにあったドアに呼びかけた。
「そこにいてるんやろ? ハンセム! ……探しとったで? 実はあんたに折り入って相談があるんや!!」
声を張り上げながらさらに扉に近づくと、プシューと音を立てて自動ドアの様にゆっくり扉が開いた。そして白い煙と共に中から現れたのは、白い白衣のあちこちに真っ黒な油をつけ、顔にまで機械油をつけているハンセム博士だった。
「お前か? 私に用があるというのは……」
博士が片手にドライバーを持ち歩み寄ってマジマジと観察してくる。
「せや。 実はな……雷人が持ってるフロッピーにスピリット軍団の持つ全情報が詰まっとる! これを使って光と影について調べて欲しいんや!!」
「なぜわざわざ私に?」
表情一つ変えないまま投げかける質問に対し、夢幻は笑みを浮かべながら言った。
「わしはあんたらを信じとるわけやない! せやけど、あいつら十二属性戦士は信じてやってもええ思っちょる。せやからあいつらの仲間であるあんたも信じてやることにしたんや……。でもな、滅びたとはいえわしがスピリット軍団の第十三部隊隊長の身であることに変わりはない。そこであんたに頼みがある! ……わしが情報をあんたらに提供する代わりに、わしの事を見逃してくれへんか?」
夢幻の手合せで必死に頼み込む姿を見て雷人が近寄ってきた。
「これがそのフロッピーだ」
スッと手を伸ばし差し出してくるフロッピーを雷人から受け取った博士は、ふと思った。
――今時、こんな古めかしいフロッピーを使うのか? ここは普通USBメモリなどを使うものだが……まぁいいか。
そんなことを頭の中で考えながらも、ちゃんとそのフロッピーを雷人から手渡しで受け取り一言。
「確かに……。だが、中身を確認するまでは信じられないからな。とりあえず中身とやらを確認してみよう、ついてこい」
そう言ってハンセム博士は夢幻と雷人の二人を中に連れて行った。
二人が暗闇に消えてしまうと、零が残った十二属性戦士に話しかけてきた。
「ところで十二属性戦士。実は、あるお願いがあるんだ……。第二の封印が二つあることは知っているかね?」
「はい! 雫の幼馴染というラグナロクという女性から聞きました」
その言葉に首肯して国王は話を進める。
「……それで、そのもう一つの鍵というのが砂の都のセブンス・ピラミッドにあるということが最近の調査で分かったんだ。 ……ここからが本題だ! ピラミッドに行って君達にその鍵を破壊し、二つ目の封印を解いてきて欲しい!!」
零からの頼みに、互いに見つめ合い黙り込んでしまう十二属性戦士。
「どうしますか?」
国王の頼みにすっかり困惑してしまった十二属性戦士は、とりあえず相談しあった。すると、研究所から雷人達三人が戻ってきた。
「どうだった?」
輝光が雷人に近寄って訊く。
「ああ、夢幻の頼みは聴いてもらえることになった。それと、スピリット軍団の情報は相当な物を持っていた」
雷人の言葉を聴いて、他の皆はその情報とやらを聞きたかったが、その前に輝光が雷人にこっそり何かを耳打ちした。
「実は……この後わたし達、砂の都のピラミッドに行くみたいなの。それで、もしかしたらそのフロッピーに何か封印を解く鍵のヒントみたいなのが載ってないのかな? と思って……」
「そうだな。私も情報全てを把握したわけじゃないからよく分からないが、後で確認しておこう」
雷人の言葉に輝光は笑顔で、
「うん!」
と元気よく答えた。
「じゃあ夢幻は話終わったのか?」
「ん? まぁな……せやから、ここに残る理由ももうないわ! ……ほなな!!」
そう言って夢幻は王の間から姿を消した。
こうして元の十二人になった十二属性戦士は、未だにどうしようか迷っていた。しかしずっと悩んでいるのもアホらしいと思ったのか、結局一同は互いに意見が一致したように急に笑顔で頷き合い、国王に言った。
「王様! 決めました。私達、砂の都のセブンス・ピラミッドに行って、二つ目の封印の二個目の鍵を破壊してきます!!」
楓の言葉に零は真剣な顔でコクリと首肯した。そして十二属性戦士はさっそく夢鏡城を出発し、城下町の市場に向かった。すると、宿場町辺りを歩いていたその時である。
「最近、ここらへんを利用してなかったからな。それに、ここの所戦いっぱなしで全然休んでないだろ? どうだろ? ……ここらで一度、十分に休養を取らないか?」
と、爪牙が珍しいことを言ってきた。爪牙からその言葉が出るのはあまりにも驚きだったので一同はびっくりした。
「どうした爪牙? 熱でもあるのか?」
雷人が冗談半分に爪牙の額に手を当てた。しかし爪牙はその手をどかし、不機嫌そうに
「俺は本気だ! 今まで何度スピリット軍団に殺されかけたかしれねぇ! だから十分に睡眠を取って疲れを取り新たな旅に出たいんだ!!」
と、少し強気な口調で言った。すると、爪牙の言葉にご最もと思ったのか、その案に菫が賛成した。それがきっかけとなり、ほかのメンバーも一斉に爪牙の案に賛成していった。
「はぁ~、仕方ないわね。だったら一泊二日だけ泊まろうか!」
楓が腰に手を当て嘆息しながら言った。
十二属性戦士は近場にあった宿屋に入り人数選択をした。
「十二人っと! ねぇ……ところで皆、お金持ってるの?」
ふとした質問に、皆のワクワクする気持ちが一気に失せる。
「そういえばここのところ都に戻ってないし、アルバイトもしてないから金はあまり持ってないッスね……」
残雪が懐から財布を取り出し中身を確認したが、やはりゴミなどのカスしか出てこなかった。すると、ドサリとロビーのカウンターに誰かがお金を置いた。
「よう! また会ったのぅ!!」
そのお気楽な口調で話しかけてきたのは夢幻だった。
「夢幻! ……お前、まだこの町にいたのか?」
照火が肩をポンポンと叩きながら言った。
「ああ。実はな……特に行くとこもないし、せっかくやからお前らとしばらく旅してみるのも面白いと思ってな……! でや、わしが宿泊費を全部賄ってやるさかい、その代わりにわしと一緒に旅せぇへんか? ……どないする? 悪くない話やと思うで?」
夢幻の交換条件に対し、照火は差し伸べられた相手の手に自分の手を重ね、強く握りしめて誓いを立てた。
「よっしゃ! 交渉成立や!!」
そう言って微笑みながら頷いた夢幻は、さっそくロビーの係の人に鍵を渡してもらい、メンバーよりも先に部屋に向かった。
「ここか!」
夢幻は鍵となるカードをセットし、カードリーダーにかませてスライドさせた。それにより、カードリーダーがピピッと鳴り響き、ドアのロックが解除された。
扉を開けて部屋の中を拝見。
「まぁまぁの広さやな……。にしても、随分と雰囲気の悪い部屋なこって!」
夢幻は今夜一泊する部屋の第一印象をブツブツ呟き、部屋が少し汚い事に文句を言ってベッドに倒れた。
「ふぅ~! ベッドはなかなかの心地よさやな」
しばらくフカフカのベッドの感触を堪能していると、扉が再び開き、大量の荷物を爪牙が運びこんできた。
「なんや、皆にパシリにされたんか? てっきりそういう役は残雪の役目やと思っとったんやけどな」
「俺が一番力持ちだからだって、楓のやつが……」
爪牙がはぁと嘆息しながら額の汗を拭い愚痴る。
「ところで他のやつらは?」
夢幻の質問に爪牙はああ、というように答えた。
「情報収集や今日の晩御飯の仕入れに行った。それと、夢幻にはある仕事があるらしいから、ロビーのところで待ってるって楓が言ってた」
爪牙からの説明に、夢幻はメンドくさそうにしながらも、ドアの扉を開け下駄を履いて出て行った。
「はぁ……、俺は荷物でも整理するか」
そう言って爪牙は、袖を捲り上げ荷物を運び出した。
爪牙が目を覚ますと、そこにはいかにも洋風感の漂う光景が広がっていた。
「そうか、今日は珍しく野宿じゃねぇんだったな」
ゆっくり体を起こし、腕を上に上げ欠伸をしながら体の節々を伸ばす爪牙。そして、何をしようかと辺りを見回していたその時、ガチャリと扉が開き、ゾロゾロと他の十二属性戦士が入ってきた。
「おかえり~」
まだ寝起きのため、少々気だるそうに低い声音で仲間を迎える。
「ただいま! お疲れ、爪牙。後は私達がやるから、あなたは休んでて!」
楓にそう言われ爪牙は椅子に座った。その一方で、照火はいつものようにお気に入りの包丁で今日のご飯の下ごしらえを始める。
「久し振りの照火の料理かー! 楽しみだなー!」
時音がグ~グ~鳴るお腹に手を当て少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら言った。そんな彼女の言葉を聞いて夢幻が訊いた。
「照火の料理はそこまで美味いんか?」
その質問に皆は口々に言った。
「照火の料理は世界一ッスよ? 黄金色の炒飯っていう料理があるんスけど、それもすっごく美味いんス!!」
残雪の言葉に少し夢幻は照火の作る料理に興味が湧いてきた。すると、今度は菫が言った。
「照火の父親の炎龍さんは、何でも昔ある山に行ってある調味料を手に入れたって言ってたわ! 恐らく、料理の美味しさの秘訣もきっとそこにあるのね」
菫の言葉に、照火は照れながら説明した。
「俺の親父は元々料理人をしてたんだが、最近になって料理を作るのをやめて、様々な新しい調味料を手に入れることを始めたんだ。その理由は、世界で一つしかない一流の料理を作るため。まぁそれが、親父の夢でもあったらしいからな……。でも、ある日その夢は儚く散った。スピリット軍団との戦いで死んじまったことによってな。だから俺は、その親父の夢を受け継ぐことにした。俺も親父のように世界中の人に笑顔で美味しいって言ってもらえるような料理を作りたいからな。そして、親父が死ぬ前に手に入れた最後の調味料が――これだ!!」
少し長い語りの後、照火がポケットから取り出したのは、父親――炎龍が見つけたという調味料だった。
「それが照火の親父はんが見つけ出したっちゅう調味料かいな?」
夢幻が興味津々という感じであごに手を添え、様々な角度からその調味料を眺めながら尋ねる。
「これは黄金色の炒飯にも使われてるのよね?」
「ああ……」
「何、ホンマか!?」
その調味料が黄金色の炒飯にも使われているという話を聴いて、夢幻はだんだんとその料理が食べてみたくなった。
「あかん! そこまで言うんなら今すぐその黄金色の炒飯を作ってみてくれへんか? わし……なんかその料理、食べてみとうなったわ!!」
ジュルリと垂れてくる涎を手の甲で拭いながら夢幻が言った。
「分かった。数十分かかるけど作ってやる!!」
照火はそう言って大鍋を用意し、さっそく調理にかかった。
他の皆は、自分達の料理を調理にかかる。
その時、爪牙は他のメンバーを眺めながら一人メンバーが足りないことに気付いた。
「そういや雫はどうした?」
「雫兄ちゃんなら、港に行って魚を捕ってくるって言ってたよ?」
爪牙の質問に輝光が明るい笑顔で答える。すると、その言葉に爪牙は疑問に思った。
――ん? 確か今日の晩御飯のメニューはカレーだから魚はいらねぇんじゃねぇのか?
脳裏を様々な考えが駆け巡る。だが、案外その考えはすぐさま消えてしまった。まもなくして、雫がズブ濡れになって帰ってきたからだ。しかもその片手には、網に入れられた魚が大量にあった。
「あっ、おかえり雫! どうだった? 大物は釣れた?」
楓が笑顔で雫に訊く。すると雫が言った。
「うん! 結構活きのいい魚が捕れたよ?」
そう言って網の中から取り出した魚は、見た目がとてもマグロに酷似していた。すると、その獲物を見て、時音が言った。
「それって確か……最近有名な、とっても美味しい高級魚の『マウローグ』よね? さっすが雫! そんな魚、普通なら釣れっこないよ?」
従姉の褒め言葉に、雫はいや~と照れながら頭をかいた。
というわけで、第二章に突入です。新しい章の始めなので、なるべくほんわかした明るい話題にしています。まぁ、この話の終盤ではちょっと戦いが始まりますが……。
また、今回の話でちょっとだけ国王の秘密的なものをバラしました。神王族。詳しくはⅣで書くつもりなのでまだそこらへんは秘密です。




