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十二属性戦士物語【Ⅱ】――新たな戦い――  作者: YossiDragon
第一章:スピリット軍対決編
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第一話「一年ぶりの再会」・1

 空中都市ヘルヘイムに存在する小七ヶ国の一つ――夢鏡王国……。白無龍ドヴァースに操られていた麗魅から解放され、ようやく平和を取り戻したと思われていたこの王国の上空を、大きな暗雲が再び闇で覆った。

 刹那――ズドォォンッ! と、大きな衝撃音が轟いた。


「何事だッ!?」


 突然の事に、夢鏡王国六代目国王『神崎(かんざき) (ぜろ)』が声を張り上げる。その声に、衛兵がすぐに駆け付け一言。


「陛下、スピリット軍団の襲撃です!」


 衛兵の報告に、零は唇をキュッと結んで眉間にシワを寄せた。


――やはり来たか……。まだなのか、十二属性戦士?






――▽▲▽――




 その頃、炎の都のコルタルン火山群に住む『炎耀燐(えんようりん) 照火(てるる)』の家では。


「ふふ~ん、よし出来たッ! 特製! 炎耀燐一家に伝わる伝説の体力向上料理――『黄金色の炒飯』だッ!!」


 独り言にしてはやたら大きな声で照火が叫ぶ。その言葉通り、その炒飯は普通の炒飯とは違って物凄く量が多く、ご飯の一粒一粒が黄金色に輝いていた。


「さて、お皿お皿っと!!」


 早くお皿に盛ろうと、照火が棚に置かれた皿を手に取ったその時、ゴロゴロ、ビカァァァアアアアァァァァッ!! と、凄まじい轟音と共に、稲妻が落ちた。そして次の瞬間、音に驚いた拍子に手を滑らせてしまい、誤って皿を割ってしまった。


「ああっ!! 俺の皿がッ!! ……くそっ、ついてないぜ……」


 頭を抱えて唸った後、舌打ちしながら項垂れていた頭を上げたその時、ピンポーン! とチャイムが鳴った。照火はイライラする気持ちを募らせながらも玄関へ向かうと、気怠そうに玄関の扉を開けた。


「おー、久しぶりだな照火! 元気にしていたか?」


 扉を開けるや否や、軽快な挨拶を決めて元気良く入ってきたのは、同じく十二属性戦士の仲間である『鳴崎(なるさき) 雷人(らいと)』だった。 その大きく明るい声に、照火の先程までの沈んだ気分は一転、少し気分が昂ぶっていた。

 突然の訪問と、およそ一年ぶりの再会に、二人はしばらくの間他愛ない会話をし、それから少し話が弾んできたところで、雷人が本題に移ろうと近場の椅子に腰かけて口を開いた。


「お前は見たか? 夢鏡城を……」


 唐突に真剣な面持ちで訊ねられた照火は、今までの事を思い出すと同時、自分が修行をするために故郷に戻ってきていた事をすっかり忘れていた事も思い出した。


「あ、ああ……」


 反応が全くない事を怪しく思われたくなかった照火は、一応念のために気の置けない返事をした。

と、そこに、ぐぅぅと空腹を知らせる音が聞こえてきた。

その音に思わず呆気に取られた照火が、きょとんとした表情で音の聞こえた方に視線をやる。

すると、まるで視線を逸らすように雷人が頬杖をついて明後日の方を見やる。


『……』


 両者になんともいえない空気が漂う。これから大事な話をされるのだろうという直前で、その空気を台無しにするような音が聞こえてきたのだ。しかも、それが話を切り出してきた側からだったものだから、照火も変な気を使ってしまい戸惑ってしまう。

 そんな空気をようやく取り払ってくれたのは、こんな空気にしてしまった雷人からだった。


「……と、その前に、何だか腹が減ってきたな。なぁ照火、久しぶりにお前の作る炒飯が食べたいのだが……」


 その突然の話題転換とリクエストに、照火は焦りながらも答えた。


「だ、だったら、俺が他のメンバーにここに来るように連絡してくる間に食べとけ! どうせ大事な話なら、皆を集めた方がいいだろうし! 炒飯は……"冷蔵庫の中に"あるからな?」


 後半部分をやや強調した照火は、他の仲間に連絡をしに奥の部屋へ消えた。


――うぅむ、照火が相手の求めている物の場所を、あらかじめ伝えておく……。それは何かを隠している時……何かあるな。



 照火の珍しい行動を怪しく思った雷人は、冷蔵庫に行くふりをして辺りを探した。すると、テーブルの上にラップされた炒飯が置いてあるのを発見した。


「何だ、既にここにあるではないか。照火のヤツ、忘れているのか?」


 そう雷人が呑気に考えている一方、照火は皆に連絡をした。この後とんでもない悲劇に見舞われるとも知らずに……。




「ふぅ~、食った食った! 満腹満腹!!」


 膨れたお腹を擦りながら、雷人は休憩をしていた。テーブルの上には、米粒一つ残っていない状態の皿だけが置かれている。

 一方照火は、九人の仲間への連絡をようやく終えて、テーブルの上に置いておいた炒飯に手をつけようとした。そして、本来あるべき場所にそれがないことに気づき、慌てふためいた。


「あれ!? 黄金色の炒飯がない!? どういうことだ、確かにここに置いておいたのに……」


 照火が必死になって叫び、テーブルの上や下、可能性のあるありとあらゆる場所を調べ尽くすが、どこにもその姿はない。

そして、照火はあることに気付いて冷蔵庫を勢いよく開け、あるものを見つけた。目の前にあったのは、ラップされた雷人に食べさせるはずの炒飯だった。それが意味する事はたった一つしかない。


「まさか、あいつ――ッ!」


 真実を悟り、照火が走って雷人のところに行くと、そこには膨らんだお腹を抱えている雷人の姿があった。


「……お、お前ええぇッッッッ!!」


 照火は思いっきり雷人の胸倉をつかんだ。そして、唾がかかる事なんてお構いなしに叫ぶ。


「お前のせいで、俺の黄金色の炒飯がぁぁああああああッ!!」


 体を激しく前後に揺さぶられ、大事な物を失った悲しみをぶつけられ、雷人はすまなそうな顔をして静かに口を開いた。


「す、すまない……まさか、それほどまでに大事な物だとは思わなかった。テーブルの上に置いてあったから、てっきり冷蔵庫から出されているものだと勘違いしてしまったのだ」


「はぁ~……もういい」


 嘆息した照火は、雷人の向けた視線の先にあった空いた皿を見て、余程美味しかったのだろうと知り怒りが収まってきたため、許しの言葉を口にした。


「……ところで、連絡は済んだのか?」


 気まずい空気を一新しようと、雷人が急に真面目な顔になり訊ねる。


「まずは俺の家に皆を集めることにしたが……」


 それを聞き、雷人はなるほどと頷いて仲間が揃うのを待つ事にした。

 すると、ピンポーン! と、タイミングよくチャイムが鳴った。


「おっ、噂をすれば来たみたいだな!」


 まだ連絡して間もないのにもう到着したのかと感心し、照火がドアノブに手を掛けたその瞬間、開けようとしたドアが先に開いてズカズカと誰かが中に入ってきた。


「よう、久しぶりだな照火、雷人!」


 雷人の時よりもさらに大きな声を張り上げ挨拶したのは、『崖淵(がけぶち) 爪牙(そうが)』だった。修行を積んだせいか、すごく(たくま)しい体つきになっていて、さらにパワーが上がっているように見えた。


「相変わらずだな爪牙……」


 爪牙の異常な大声に、照火が耳を塞ぎながら言う。


「ところで何なんだ? 急に集まれなんて……」


「まぁ待て、全員が揃ったら教えてやる」


 雷人の勿体ぶった返しに渋々頷くと、爪牙は雷人の反対側の椅子に荒々しく腰かけた。




 それからしばらくして、着々とメンバーがやってきた。十人もの十二属性戦士が集まったことによって、照火の家は既に定員オーバーのような状態になっている。そして、まだこの場に来ていないのは、残り一名のみとなった。その一名とは、一年前十二属性戦士を集める旅で最初の仲間になった、霧霊霜一族の末裔である『霧霊霜(むりょうそう) (しずく)』だった。


「おかしいな……。雫のやつ、何やってるんだ?」


 照火が玄関ドアを開けて外を見てみるが、雫と思しき姿はどこにもない。

ふと空を見れば、雲行きは怪しく、暗がりのこの場所ではなかなか見つからなかった。もしかすると、ここはコルタルン火山群の中だから、道端で脱水症状でも起こしているんじゃないかとも考えたが、それはありえない。

なぜなら、今現在この周囲一帯には大量の雨が降っており、コルタルン火山群も活動を休止しているため、そこまで気温が高いわけではないのだ。代わりに湿度が上昇しており、熱気と蒸気による薄い霧状のようなものが、周囲を包み込んでいた。

 では、一体何が原因なのだろうか。

照火達はだんだん雫の事が心配になってきた。

 と、その時、ピガァァァァァッ!! と雷が落ちた。その轟音に「きゃあ!」と、菫がその場に(うずく)まる。


「案外雫も、菫みたいに雷にビクついてるのかもしんないッスね!」


 あたふたしながらテーブルの下にしゃがみこみ、体をブルブル震わせて両手で頭を抱えている涙目の菫を見て、『氷威(ひょうい) 残雪(ざんせつ)』が冗談半分に笑いながらそう口にする。しかし、誰も冗談と思っていないのか、黙っている。

 

「えっ、どうかしたんスか?」


「いや……意外にありえるかも?」


 残雪の言葉に、『旋斬(かざきり) (かえで)』が顎に手を当て、もう片方の手で肘を支えながら返す。


「確かに、雫君ならありえるかも」


 と、『鎖神(さがみ) 時音(ときね)』も楓に賛同する。


「とりあえず、あいつを探しに行こうぜ?」


 大雨なのも気にせず、勇ましく外に飛び出した爪牙が、仲間に雫を捜索するよう促し、十二属性戦士達は雫を捜索しに出発した。




――▽▲▽――




 その頃、当の本人である雫はというと――コルタルン火山群の入口付近で、立ち往生していた。

目の前に巨大な石が鎮座しており、道を完全に封鎖していたからである。


「困ったなぁ……連絡もらってここまで来たのはいいけど、この酷い雨と落雷のせいで、道が完全に塞がっちゃってるよ。これじゃ先に進めない……どうしよ」


 雫は完全にお手上げ状態だった。うぅんと唸り声をあげ、この天気と同様顔を曇らせる。すると、大雨の音に紛れて懐かしい声が微かに聞こえてきた。

――忘れもしない、照火の声だ。


「……照火!? 照火ー! 僕はここだよぉー!!!」


 雨音に負けじと、落石の向こうにいるであろう照火に向かって声を張り上げる。すると、声が届いたのか塞がった道の向こうから照火の声が近づいてきた。


「お~い、雫! 雫なのか?」


「うん、そうだよ! この落石が邪魔で、そっちに行けないんだ! どうすればいい?」


 自分一人の力ではどうにもならないので、知恵を借りようと雫が訊ねると、照火が腕を組み同じく考えあぐねる。

と、そこに近づいてくる足音。そちらに目をやると、やってきたのは、雨で髪が濡れ、逆立っている髪の毛が下りて別人の見た目になっている爪牙だった。

 その彼を目にしてピンときた照火は、落石の向こうにいる雫に向かって叫んだ。


「ちょっと後ろに下がってろ! 今爪牙に壊してもらう!!」


「んなッ、俺はまだやるなんて言ってねぇぞ!?」


 やってきて早々事態を飲み込めてない爪牙が文句を言うが、すかさず照火が言い返す。

 

「いいじゃないか。大事な仲間が困ってるんだ、それくらいのことやってやれよ!」


「ったく……しょ~がねぇなぁあッ! おらぁあああぁぁ、砕けろぉぉぉおおおおおッ!!」


 照火の言葉に、ようやくこの落石の向こうに雫がいる事を悟った爪牙は、それを早く言えよと言わんばかりにハンマーを振り上げ、大雨にも負けない叫び声をあげて巨大落石を粉々に粉砕した。


ドッゴォォォオオオォォオンッ!!!


 木端微塵になった落石は小さな小石サイズとなり、あっという間に雨の水に流された。そして、先程までその落石に隠されていた雫の姿が、ようやく現れた。


「雫ー!」


「照火~!!」


 久しぶりの再会と助けてもらったお礼の意味も含めて、二人は抱き合った。

 そこへ、先ほどの破壊音を聴いたメンバーが駆け付け、その光景を目の当たりにした。


「ちょっと二人とも、気持ち悪いわよ?」


 ただ抱き合っているだけなのに、それがベタベタしているように見えたのか、楓が半眼の眼差しで辛辣な一言を口にする。

と、同じ事を思ったのか、うんうん頷きながら『石吹(いしぶき) 細砂(さーしゃ)』が口を開いた。

 

「確かに……。一年ぶりに会うなり暑苦しい絵面見せないでくれないかなぁ?」


「べ、別にそんなんじゃない!」


「そ、そうだよ! ただ久しぶりに会えたのが嬉しかっただけで!」


 楓と細砂に言われ、照火と雫の二人はササッと距離を取り、顔を真っ赤にして弁明の言葉を述べた。


「あれ、雫お兄ちゃん泣いてるの?」


「なっ、泣いてなんかないよ! こ、これは……そう雨だよ! 雨の滴が涙に見えただけだよ! やだな~、輝光!」


 最年少の『明見(あけみ) 輝光(きらら)』に指摘され、少し焦りながらも冷静に弁解する。

 一騒動を終えてようやく十二属性戦士十一人が揃い、照火の家に戻った。




 雫達は、濡れた服の裾を掴むと、ぎゅ~っと絞って水気を取った。髪の毛や服の裾からボタボタと雨の滴が滴り落ち、照火の家の床を濡らしていく。


「ちょっ、お前ら! 床濡らすなよぉ~! カビたりしたらどうすんだ!!」


「きちんと拭いておけば大丈夫だろう?」


 雷人がメガネについた水滴をふき取りながら言った。


「じゃあお前が拭けよ?」


 顔をヒクつかせながら照火が雷人に迫る。


「なぜ私が拭かなければならない? ……残雪、頼んだぞ?」


 拭き終えたメガネをかけた雷人が、キリッと真面目な顔をして残雪に命令する。


「うえぇ~っ!? どうしてこーゆー時いっつも俺なんスか?」


「こういうのは……お前が適任だろう?」


 雷人に無理やり言いくるめられ、残雪は仕方無しに床を拭く羽目となった。


「ったく……何で俺がこんなことしないといけないんスか?」


 と、ブツブツ愚痴をこぼしていると、雷人が片眉をつりあげて口を開いた。


「ん? 何か言ったか?」


「何にも言ってないッスよッ!!」


 聞こえているであろうに聞こえてないふりをする分かりきった問いに、残雪はイライラしながら返した。すると突然、誰かの悲鳴が聞こえてきた。


「いやぁあああぁぁぁぁああぁ!」


「どうしたんだ!?」


 照火が台所から戻ってくると、そこには顔を真っ赤にしてその顔に両手を当ててオロオロしている『草壁(くさかべ) 葬羅(そうら)』と、上半身裸で下半身脱ぎかけの爪牙がいた。


挿絵(By みてみん)


「なっ、何でお前ここで脱ぐんだよ!」


「んなもん、ビショビショで気持ちワリィからに決まってんだろ!?」


「だったら脱衣所で脱げばいいだろ?」


 頭をかきながら舌打ちする爪牙に、嘆息しながら照火がそう提案する。


「そこまで行くのがメンドクセェ……」


「はあぁ~」


 爪牙の面倒臭がりな性格も相変わらずだなと思った照火の口から、今日一番の大きな溜息が洩れる。

 と、今度は何を思い立ったか、楓が口を開く。


「でも、確かに体もすっかり冷えちゃったし……このままだと決戦前に風邪ひきそうね。照火、私達ちょっとお風呂入って体温めてくるから、お風呂貸してね?」


「えっ!?」


「何? 文句ある?」


「いや、何でもない」


 半眼の眼差しで睨まれてしまい、照火は即行否定の言葉を述べた。

 それから照火は、同い年の女の子に何も言い返せないとは情けないなと心の中で思いつつ、バスタオルを楓に手渡した。しかし、バスタオルを受け取った楓は、そこから一歩も動かずただ一点、バスタオルを気に食わないという顔で見つめている。

 そんな彼女を怪訝に思った照火が、腕を組んで問いかける。


「何やってんだ?」


「これ……洗ってあるの?」


 半眼の眼差しを向けられ返されたのは、あまりにも失礼極まりないものだった。


「はぁ? 洗ってあるに決まってるだろ?」


「でも、何だかこれ少し黄ばんでるし、何か不潔感が……」


 これはこういう色味なんだと言い返したかったが、そう返す気分にもなれず、ただただ苛立ちを覚えながら照火は声を荒げた。


「うるさいな、いちいちいちいち……分かったよ、じゃあこれ使え! これだったら文句ないだろ?」


 少し怒り気味に照火が楓に渡したのは、まだ未開封のバスタオルだった。


「えぇ~? これはこれで何だかなぁ~。それに私、新品のバスタオルの臭いって嫌いなのよね……」


 その一言で、完全に照火の堪忍袋の緒が切れた。


「何なんだよ、文句の多いやつだな! 勝手にしろよ!!」


 照火は怒り心頭で台所に向かった。


「な、何よ! まるで私が悪いみたいに……」


――いや、今のは明らかにお前が悪いだろう!



 と、雷人は呆れた目で楓を見つめながらツッコんだ。

 楓はなぜ照火が怒っているのか理由が分かっていないらしく、時音に理由を聴きながら他の女子と風呂場へ向かった。


「ったく、何で俺がいちいち文句言われないといけないんだよ!」


 まだ怒りが収まらない照火は、ブツブツと文句を口にしていた。と、そこへ床を拭き終えた残雪がやってきてその肩に手を置いた。


「照火、同情するッス……」


「あぁ、悪い残雪。お前に同情されても嬉しくない」


「ガァァァァァン!! えぇっ、どうしてッスか?」


「いや、なんとなく……」


 照火は死んだような目で残雪にそう言った。ショックを受けた残雪は、半ば放心状態のままで台所へ向かい、そこの流しの場所で雑巾を絞ろうとした。と、そのことに気付いた照火が慌ててその手を払った。


「うおおぉぉぉおぉおおおりゃッ!!」


「うわっ! 何するんスか、照火!!」


 手を払われて、ようやく放心状態から戻ってきた残雪が叫ぶ。


「それはこっちのセリフだ! なに台所で汚い雑巾絞ろうとしてんだ!」


 照火は更なる苛立ちでいつものような明るい顔が消え、怒りの表情しか残っていなかった。


「じゃあどうすればいいんスか?」


「そんなの決まってるだろ? 洗面所で絞って来いッ!」


「わ、分かったッス……」


 まるで楓に対する怒りをまとめて自分にぶつけられた気分になった残雪は、どよよ~んとした空気と一緒に洗面所へと向かった。

 洗面所の扉を開けると、そこにはたくさんのタンスと洗面台。そして、その近くには洗濯機が設置されていた。

と、残雪が洗面台へ歩を進めていたその時、ふと洗濯物などを入れておく籠の中に女物の下着が入っているのを見て、大事なことを思い出した。


――ハッ! そういえば今、菫達が入ってたッス! ヤバイ……このままじゃ、一年前と同じ(てつ)を踏むことに……。それだけは避けなければッ! しかし、まだ菫達は髪を洗ったり体を温めているはず! ならば、その間にさっさと雑巾を絞っちまうッス!!



 心の中で慎重に作戦を立てた残雪は、急ぎ洗面台の前に立ち、水道水の水を出そうと蛇口に手を伸ばした。しかし、なぜか蛇口が回らない。


――あ、あれ!? あれええぇぇぇええぇぇえええ!!? これは一体どういうことッスか? 何故回らないッ!? くそっ! 回れ回れ回れェェェエエエエエエエ!!




ボキッ!



 嫌な効果音が浴室内に響く……。




「ん? ねぇ、今なんか変な音しなかった?」


「ううん、気のせいじゃないかな?」


「もしかしたら幽霊とか?」


「えぇ~っ、ちょっと輝光やめてよ! 湯船から上がれないじゃない!」


 不審な音に気づいた楓がそう呟き、その言葉に細砂が返し、そこに冗談っぽく輝光が話すと同時に、苦手なワードに敏感に反応した菫が、風呂に入っているというのに顔面蒼白となって体を震わせた。


「ご、ごめん……」


 菫の本気で怖がる様子に、輝光は申し訳なさそうに謝った。


「菫ったら……いい加減、幽霊とかそういうの克服しなさいよね?」


「わ、分かってるけど難しいのよ!」


 年下の楓にそう言われ、情けなく感じつつも、やはり苦手なものは苦手なのだと言わんばかりに菫が言う。


「確かに、私も雷は平気だけど……幽霊とかはちょっと苦手だわ……」


 時音も少し顔を青冷めさせながら言った。すると、今度はガタッ! という音が聞こえた。


「やっぱり、本当にいるんじゃないですか?」


 葬羅もだんだんと怪しく思い表情を曇らせる。すると、そんなに気になるなら調べればいいとその場に立ち上がって拳を作り開口一番にとんでもないことを言った。


「じゃあ、調べてみよっか!」


 楓の突拍子もない提案に菫と時音は身震いしたが、好奇心旺盛な細砂と輝光はうんうんと肯定した。




――ヤバイっス! 今の音……どうやらバレてしまったみたいッス!



 残雪が蛇口を必死に元に戻そうと、冷や汗を流しながらチラリ風呂場の扉を見る。すると、ガララ……! と扉が開いた。


――マジッスか!!?



というわけで、久々の投稿の様な気がします。他のいろんなことをやっていたので、遅れてしまいました。物語は前回の続きで修行を積んだ一年後という設定です!修行編は番外編でやるつもりなのでカット!させてもらいました。おおまかにかいつまんで言うと一年前にさらわれた暗夜を取り戻すためにスピリット軍団と戦おうということです。まぁ、そのために修行を積んで強くなったとまぁそういうことです。そして一話早々に謎のサービスシーン?

残雪は一年前の二の舞となるのか……。ちなみに今回は少し長いので一話が三つに分かれています。

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