第五話「闇魔法結社の脅威(前編)」・2
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その頃、細砂は“砂の間”を進んでいた。
「随分とホコリっぽいね……こほこほ」
細砂は咳をしながら、何度も砂に埋もれる足をメンドくさそうに上げてゆっくりと先に進んでいた。
「まったく、これだから面倒なことは嫌なんだよ」
彼女は単身でぶつぶつと文句を言いながらもちゃんと前に進んでいた。
しばらく進むと、上空から砂が落ちてくる砂の滝のようなものがある場所に着いた。それを目を細めながらじっと見つめる細砂。
「あの上に何か見えるなぁ~」
やはりもう少し近づかないと見えないと感じた細砂は、その場から動こうとして足が動かない事に気づき、ふと足元に目をやった。すると、しばらく遠くを見続けていたために、膝くらいの高さまで足が砂に埋もれてしまって動けなくなっていた。
慌てて砂から足を抜き、早足で流れてくる流砂の側に近寄った細砂は一応目に砂が入らないように完全防備のゴーグルをつけて腰に手を当て意気込んだ。
「これで大丈夫!」
細砂は一人であるにも関わらず自信満々に声を上げて言った。まるで、崖の岩の上から流れている水の滝のようにゴォー!! という砂の落下音と共に、その音が部屋中に反響している。
「よいしょっ!」
武器を巧みに使いこなし、流れる滝のような流砂をどんどん上っていく細砂。その姿はまるでロッククライミングをしているかの様だ。
そして、ようやく彼女は流砂の滝のてっぺんに辿りつき、ひとまずそこで休憩を取る事にした。
「ふぅ~、とりあえず一番上まで来ては見たけど……、砂嵐が酷くて周りの景色がいまいち分からないな~」
細砂は仕方なく辺りを見回すのをやめ、後ろを振り返り中に入って行った。
「中も随分とホコリっぽいし……ん? あれは――光?」
ず~っと奥の方で光って見える光を見て、細砂は少し大きめの声で言った。その光を見た瞬間何かの衝動に駆られ、無意識で彼女はそこに向けて走り出した。しかし、その先に待ち受けていたのはとんでもない凄惨な光景だった。そこには、一般市民の死骸が大量に山積みされていた。しかも、その上から謎の液体を流し、死の臭いを嗅ぎ取られないようにしていた。細砂はそれを見た瞬間、物凄い吐き気に見舞われた。無理もない。何せ彼女は生まれて初めて大量に山積みにされた哀れな血まみれの人間の死体を見てしまったのだから……。
「うぷっ!」
細砂は吐き出しそうになり慌てて口を押えると、早く死体置場から離れようと思い、早歩きで近くにあった通路に入って行った。やがて彼女は一番奥に到着し一息ついた。
「ひどい臭いだった……」
助かったと言わんばかりに大きく、はぁ~と安堵の溜息をつき、それからゆっくり顔を上げると、目の前の景色を見て細砂は驚いた。
「これって遺跡!?」
その景色を見るや否や、細砂は目を輝かせてスキップしながら先に進んだ。しかし、突如謎の鋭い殺気を感じ取ってお気楽ムードではなくなった。
「この殺気……只者じゃない!!」
サッと後ろを振り向いて人影を探すが見当たらず、細砂は周囲を見回した。すると彼女は何かを見つけた。
「あれって…」
遠くに見える黒い物体。それは人の形をしていた。その人影はゆっくりと地面に降り立ち、やがてこちらに近づいてきた。
そして――。
「お主、もしや十二属性戦士か?」
と鼻の下にヒゲを蓄え、スラリとした体格を持つ謎の人物が細砂に話しかけてきた。
その老人は、頭にターバンを巻き、まさしく砂の住民と言った感じがした。
その姿を見た細砂は、少し警戒心を抱きながらも静かに相手の問いに頷いた。すると、その老人は細砂の正体を確かめ終えると目つきを変えて襲い掛かってきた。砂煙が舞い上がり、それを誤って吸い込んでしまった細砂は、ゴホゴホとせき込んだ。
「くっ! ……いきなり何するの!!」
そう言って、細砂は頬を膨らませ大声で文句を言った。
「このわしの邪魔をするとは愚かな……」
老人は蛇の装飾が施された木のステッキを振り回すと、そのステッキを地面につきそれから話を始めた。
「わしはスピリット軍団第十部隊隊長『サフィスト=サンドラー』。闇魔法結社の一人にして元小七カ国の一国『サルパストナム王国』を治めていたものじゃ。この砂の間の死骸置場の管理人も務めておる……」
サフィストはそう言うと突然ふと後ろを振り返りステッキを輝かせた。
「ふっ、十二属性戦士。どうやら、そやつら以外にも侵入者がいるようじゃな……。まったく、これだから警備が手薄だと言うんじゃ」
彼はぶつぶつと文句を言い、それが終わると再び細砂の方を向き武器のステッキを構えた。
「ではそろそろ始めるとするかのぅ!」
その言葉と同時にサフィストは攻撃を開始した。
「くらえぃ!」
「なっ!!」
いきなりの攻撃に油断していた細砂は、誤って大量の砂の下敷きになってしまった。
「ぷはぁ! うえっ! ゲホッゴホゴホ!!」
細砂は口に入った砂をペッペッと吐き出した。
「ぬしはどうやら、わしと同じく砂の民の者のようじゃな……」
「……ん? それがどうかした?」
「いんや……何でもない」
サフィストは何かを企んでいるのか、ニヤッと不吉な笑みを浮かべてそう言った。
「さてと、まずは小手調べじゃな……」
彼は武器を構え魔力を込めた。すると、ステッキの蛇の装飾に赤い炎が揺らめいた。
「それは……」
「ヌッフッフッフ……わしのこの不死身能力に勝てるかな? ほんわかお嬢ちゃん?」
サフィストはバカにしたような目でそう言った。そして、さっそくステッキから技を繰り出した。
「永劫の炎渦」
ジュボォォッ!!
その技は見事、細砂に命中した。
「きゃっ! くっ、やったな~? だったらこっちも技を出させてもらうよ!」
細砂は仕返しとばかりに魔力を込めて、技を繰り出した。
「砂の波!!」
言葉通り砂の波がサンドラーに襲い掛かった。サーフィンに相応しいその砂で出来た波は一気にサフィストの体を呑みこんだ。
「ぬおわッ!!」
――やった? でも、まだ確信は持てない……追撃でもくらえ!
「砂の渦!!」
さらに追撃を繰り出す細砂……。すると、今度は砂の波が砂の渦に変わり、その渦がサフィストがいると思われる場所を囲んだ。
「フッ! 所詮はまだまだ子供……やれやれこんなものかいのぅ。情けない、情けないのぅ……まぁ仕方ない。何せ、十二属性戦士はこのパワーストーンを奪われているのだからなぁ……」
そう言ってサフィストは掌に乗っているオレンジ色のパワーストーンを強く握りしめた。
「ふぅ……さてと、そろそろジジイの反撃といくかいのぅ……ぬぉおぉおぉおぉぉお、『蜷局炎の砂熱』!!」
サフィストはヨボヨボの体でうんと溜めた魔力を一気に解放し、蜷局を巻いた炎を砂と混ぜて衝撃波にして細砂の砂渦にぶつけた。すると、彼女の攻撃は無残にも辺りに飛び散り消滅した。
「くっ! さすがはスピリット軍団の中でも幹部格の上に元王様。……尋常じゃない力だね」
――それに、さっき言ってた不死身能力って……。これ使えるかな?
細砂は僅かな可能性を信じて一か八かの賭けをやってみた。
「不死身ならこれがくらうか……でも、やってみる価値はある!」
そう言って、一か八かの作戦を実行した。
「監獄の砂地獄!!」
彼女の声と共に出現したのは、複数の砂地獄だった。しかも、それは相当な大きさの物で、万一呑まれれば、一溜まりもないだろう。しかし、ヨボヨボで体が思うようについていかないサフィストはそれにまんまと引っかかり見事流砂にはまってしまった。
「くっ、くそぅ……なかなかやるではないか。しかし、この程度の砂地獄ではわしの動きを封じることは不可能じゃぞ?」
体の自由を流砂に奪われながらも高笑いして自身が優位に立っていることを細砂に知らしめようとするサフィスト。
と、その時、細砂が指をパチンと鳴らした。
「ふふっ、これで動けないはずだよ?」
それと同時に、流砂の中から飛び出したピアノ線状の縄が、勢いよくサンドラーの体を縛りつけた。
「うくっ! な、何じゃこの縄は!? 尋常じゃないスピードでわしの魔力を奪っていく…!」
サフィストの声がだんだんと掠れていく様子をじっと見ていた細砂は、次の瞬間、死体処理場の時に感じた時と同じ恐怖に襲われた。それは、まさしくあっという間の出来事だった……。
というわけで、今回は細砂VSサフィストだけの話でした。十代前半のほんわか少女と明らかに七十代後半はいってそうなヨボヨボジジイ。無論勝敗は明らかです。
ジジイピーーーンチ!!
また、この人も闇魔法結社の一人で元王様です。砂の民が住むサルパストナム王国を治めてました。なので、細砂の格好を見て少し昔を思い出したのかもしれませんね。
しかし、そんなジジイに悲劇到来、細砂には惨劇到来です!




