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十二属性戦士物語【Ⅱ】――新たな戦い――  作者: YossiDragon
第一章:スピリット軍対決編
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第五話「闇魔法結社の脅威(前編)」・1

今回の話で闇魔法結社の殆どが登場します。

 その頃、雫は五階にある“水の間”に来ていた。


「随分進んだけど、一体いつになったら最上階に着くんだろう…」


 そんなことを一人で呟きながら水の間を先へ進んでいく雫…。しばらく進むと、たくさんの水車が回転している開けた場所に出た。ほんのちょっとばかし大きめの歯車も回っていた。


「ここは……この水車で水が上に汲み上げられているんだ…」


 雫は上を見上げ水車に運ばれている水を見ながら言った。

 その時、奥の部屋から音が聞こえてきた。その音に気付いた雫は、水車に気を取られつつ先に進んだ。


「ここか…」


 雫が辺りを見回しながら、その音の原因を探した。しかし、なかなかその原因が見つからない。路頭に迷っていると、近くにあった歯車に絡まったタコの足が一本あった。だが、それを見た瞬間頭にある事が思い浮かんだ。


――このタコの足…すごくデカい!?



 そう、雫の思った通りそのタコの足の太さは半端ではなく、大体で約5mはあった。彼は警戒しつつその傍にあったレバーに気付き気になったため、それを引いた。すると、たこの足が絡まっている歯車がゆっくり回転し、びっくりして穴の開いている壁から出ているタコの足がその穴へ引っ込んで行った。


「何だったんだろう…」


 少し安心しながらも緊張感を絶やさずに壁の穴に注意を払いつつ、別の扉に入って行く雫。

 扉を潜り抜けると、そこには一つの人影があった。その後ろには一際大きな扉が立ちはだかっていた。それを見た雫は、その人影にジリジリと近づいて行った。

 と、その時、突然その人影が喋り出した。


「あなたが、ここに来ることは水の音で分かりました…」


 その声を聴いて、雫は少し拍子抜けだった。何せ、水の音だとしても、水のかすかな足音など、聞き取れる訳がない。そう思っていたからだ。しかし、彼は多少の恐れを感じずつ一歩ずつ前に進み気になる人影の正体を確かめた。

 人影の正体は、雫と似たような色をした浅瀬色の髪の毛に深海の双眸を持つ、顔の形の整った女性だった。また、彼女はその髪の毛を一つに束ねポニーテールの様な状態にし、さらに頭の上には銀色の細かい装飾を施されたティアラを乗せていた。すると、黒い服に身を包んだ女性が雫に語りかけてきた。


「あなたが、十二属性戦士だということは既に解っています。そして、あなたの目的は私の持つこのパワーストーンなのでしょう?」


 そう言って、謎の女性は耳につけたキラキラの貝殻のイヤリングを揺らしながら、雫のパワーストーンを見せつけた。水色に光り輝くパワーストーンが雫の魔力に反応して眩い光を放つ。。すると、雫はふと彼女の首から提げられた貝殻のネックレスを見た。そこには八という数字がローマ数字で刻み込まれていた。


「あれはまさか……スピリット軍団!?」


 雫の驚き様に女性は微笑みながら答えた。その表情はまさに女王の様な雰囲気が感じられた。


「ええ、私はスピリット軍団第八部隊隊長の『アイリス=ニーニルアン』……。以前、小七カ国の一つで海底にある『トロピカオーシャス王国』の元王女を務めていた者です。この私に勝てる人など今までで一人もいませんでした。さて、無敗を誇るこの私をあなたは倒すことが出来るでしょうか?」


 アイリスと名乗る王女はふふっと笑いながら雫に訊く。すると、その話を聴いた雫は同じ様にふふっと笑って言った。


「古の四族が一つ、霧霊霜一族唯一の男の力を見せてやる!!」


「えっ? あなた、男……なんですか?」


 アイリスが口元に手をやり目を丸くして尋ねる。その言葉に緊張が張り詰めていた雫が顔を赤くして文句を言った。


「なっ、ちょっと……失礼すぎるよ!! 確かによく勘違いされるけど……」


 雫は少しショックを受けた顔を俯かせる。一年前に闇の都にて女装させられたという苦い思い出を思い出したのだ。


「そうですか。……紛らわしい顔立ちをして」


「何か言った?」


「いいえ、なんでもありません! 『トロピカオーシャス』の女王の力……見せてあげますっ!!」


 その声に反応したのか、雫は水の魔力を一気に放出してすぐにでも水の防御膜を出せる準備を整える。それを見たアイリスは嬉しそうに笑みを浮かべ言った。


「本気って感じですね……? じゃあ、私も本気で行かせてもらおうかしら?」


 そう言って、一瞬口調を変えたアイリスは、拳に力を込め始めた。すると、水のオーラが周りの壁にヒビを入らせた。


「この力、尋常じゃない……ッ!!」


 少し焦りを感じながら雫は魔力を衰えさせず、拳に水の魔力を乗せて攻撃した。


「くらえッ!!」


 雫の先制攻撃に少し驚きながらも、アイリスはあっさりとその攻撃を躱し、嘲笑しながら尋ねた。


「あら、こんなものなんですか?」


 アイリスは貝殻に力を込め、一気にぶつけた。体中から水のオーラが溢れ出し、まるでストッパーが外れたかの様に魔力が流れ出ている様子を見て、雫はビビッて後退する。


「さすがは水の女王と呼ばれるだけのことはあるね……」


 懐から武器の槍を取り出しながら雫は言った。その頬からは冷や汗が一筋流れている。


「この僕に武器を抜かせるとはなかなかやるね~!! だけど、これさえあれば君も終わりだよッ!!」


 自慢気に言うその言葉に少しプライドを傷つけられたのか、アイリスの攻撃方法が突如変化した。


「なかなか、ナメたマネをしてくれますね……。では、こちらからも行きますよっ!!」


 足を強く踏み込むと同時に飛んできたのは、水の波が回転しながら細く鋭く尖った針の様なものだった。


「くっ!?」


 焦りながらもギリギリでその攻撃を躱す雫……。


「やるねッ!!」


 雫は水を武器に纏わせ振り回した。その攻撃をサッと躱しつつ一瞥した際にアイリスは相手の武器を見て驚愕した。


――なっ、あれは『三叉皇の水槍トライデント・ウォーピア』!? どうして伝説の二大宝具の一つをあの子が?



 アイリスは少し冷や汗を流しながらも武器を構え、攻撃のタイミングを窺った。

 と、その時突然自身の武器が水と化した。


「えっ、何!?」


 そのアイリスの焦り様に、雫がニヤリと笑みを浮かべながら説明する。


「これは、僕の得意技で『水溶化』っていうんだ! 僕が手に力を込めて何かに触れると、その触れた物を水に変えることが出来るんだ!!」


 その説明を聞いて、アイリスは武器を下ろし訊いた。


「どうして? ……どうしてそれだけの力を持っていて私を倒さないの?」


 アイリスの質問に少し表情を変えて、雫は答えた。


「僕は無益な戦いは好まない……。だから、本来あなたと戦うのも本意じゃないんだ。だからその……大人しく僕にそのパワーストーンを渡してくれないかな?」


 雫は優しく水の女王アイリスに頼んだ。しかし、その要求を相手は呑まなかった。


「ダメです……。私は闇魔法結社の一人にして『紺碧の水鮹鬼(すいしょうき)』を持つ者です」


「紺碧のなんだって?」


 聞いたことのない言葉に首を傾げる雫。すると、アイリスはくすっと笑いながら雫を優しく見つめた。


「せっかくの機会ですし、教えて差し上げてもいいでしょう。私達闇魔法結社はある時までは不死身の能力を持ち合わせてはいませんでした。力を得たのはつい最近のことなのです」


 そう言ってアイリスは語りだした。


「ここには既にいませんが、とても小柄で美しいお姫様。昔々に産まれたその小さな小さなお姫様は小七カ国の王族である私達に体の一部を分け与えました。その力によって王達は不死身の肉体を得たのです。しかし、それはとある条件を満たすためでした。小さなお姫様を守るための衛兵。そう私達は教えられていましたが、実は違いました。本当はお姫様は囚われ役、私達はその悪役をいつの間にか担うはめになっていたのです。悪役は正義に敗れる。私達は正義の勇者に倒される――予定でした。しかし、いつになっても正義の勇者は現れない。気づけば既にお姫様の姿はなく、私達の役目はどうなったのだろうと途方に暮れました。そんな折、私達はとある組織を見つけました。憎悪にまみれたその邪悪な組織――それがこのスピリット軍団でした。この悪の組織に入れば、私達も今度こそ正義の勇者に倒されるかもと思い、彼らに不死身の力を分け与えました。こうして彼らもまた私達程ではありませんが、不死身になったのです。そして、今こうして目の前に正義の勇者が立っている。私達の望みは叶うんです。私達がこの『一部』を持っている限り、死ぬことは出来ません。もう何年もの間私達は人族が死んでいくのを見ました。これ以上心を苦しめるのは嫌なのです。でも、私以外の王はそうは思っていないようです……。しかし、それでも私はあなた達に――いや、あなたに倒されたいんです。水属性のあなたに紺碧の水鮹という鬼を持つこの私をあなたに倒してほしいんです! だからこそ、そう簡単にパワーストーンを渡すわけにはいきません! ですから、本気で戦ってくださいっ!!」


「僕は本気だッ!!」


「いいえ……あなたは意識では本気のつもりでも、どこか心の奥底でパワーにセーブをかけているのです。その証拠に、あなたの魔力からはどことなく優しさを感じます。あなた……もしも私が手傷を負うものなら助けるつもりなのでしょう? そんなこと、女王たる私のプライドに傷がつきます! それでも戦いを拒むというのなら私にも考えがあります! あなた方の仲間である嵐一族の第六代目後継者の『嵐 暗夜』……。彼は五番隊隊長の手によって催眠状態にあります……。その彼を「殺す」と言えばどうですか? 仲間を見殺しにはできないでしょう? 優しい心の持ち主であるあなたなら……」


 アイリスの「殺す」の一言で一瞬にして雫の眼の色が変化した。


「くっ、闇夜を殺す……そんなの、許さないッ!!」


 殺意をむき出しにしてアイリスに襲い掛かる雫。ただならぬ膨大な魔力と連続攻撃に耐え切れず、アイリスは腕に斬り傷を負った。


――ここまで魔力が上昇するとは思ってもみなかったわ……。さすがはお姉ちゃんの子孫……。ふふふっ、これは将来が楽しみだわ。



 アイリスは疲れ切ったような息遣いで雫の攻撃を躱していた。すると、その攻撃がなかなか当たらないことに苛立ちを感じた雫が手に強く力を込めて叫んだ。


「こうなったらアレを出すしかない……くらえ、水流弾!!」


 雫は手の型を作り胸の前に持ってくると、水の魔力を最大限に練りこみそれを一気に圧縮して放った。しかし、彼女はそれをいとも簡単に武器で薙ぎ払った。形の崩れた水滴がアイリスの体に付着する……すると、「ふふっ…」と雫がニヤリと笑ったその瞬間、彼女の体が爆発した。


「ぐっ! な、何?」


 突然のことに自分の身に一体何が起こったのかわからない様子のアイリス。その隙に雫は相手の背後に回り追撃した。さらに三叉皇の水槍トライデント・ウォーピアを振り回し攻撃する。

 と、その時、攻撃の衝撃波の一つがアイリスの左目をかすった。まぶたを閉じ、その部分を手で恐る恐る触れ見てみると、その手にはベットリと赤い血が付着していた。

 アイリスは思わず、その場でよろめいた。


「はぁ、はぁ、はぁ……あ」


 ようやく我に返り、目の前で起きている状況を瞬時に理解した雫。また、同時にそれを自分がやったことだということにも気づき、手が震え武器を地面に落とした。


「ぼ、僕がやったの?」


「ええ、あなたがやったんですよ。怒りに身を任せ私の顔に傷を作ったのは、紛れもない霧霊霜雫、あなたなんですよ? 自分自身は覚えていなかったのかもしれませんが……」


 相手の言葉を聞いてもなお、雫は未だに自分のやったことが信じられない様子だった。


「まぁいいですわ。この借りは必ず返してあげますからね……。まぁ、このパワーストーンでも使って、少しは怒りを自分の物にして操れるぐらいに成長することですね。それまで私は待ってますわ。ですから、あなたもそれまで他の人達に殺されるんじゃありませんよ? うふふふっ」


 そう言い残し、アイリスは足元にパワーストーンの半分を置くと、自身の体を水と化してその場から消えた。


「……くっ、結局僕は自分自身の力で倒せなかったってことなの? 自分の力じゃなく、怒りの力で倒した。……あの人、顔を傷つけられて少し口調が怒ってたなぁ~」


 ブツブツと疑問を呟き自分の情けなさに少し笑った雫はしばらくしてパワーストーンを手に取り、水の間から出て先に進んだ。


――△▼△――


 一方、爪牙と葬羅は七階に着き奥の部屋を目指していた。


「ここの先から、俺と同じ岩属性の魔力を感じるぜ……」


 爪牙がゴクンと息を呑み恐る恐る先に進んだ。すると、いきなり扉が開きその様子はまるで中に入って来いと挑発しているようだった。しかし、爪牙はまんまとその挑発に乗ってしまい堂々と中に入って行ってしまった。


――本当に大丈夫でしょうか?



 と、心配するように首を傾げながら葬羅も爪牙の後に続く。


「随分暗いな……。灯りは何処だ?」


 灯りの場所を見つけようと辺りを手探りで彼が探していると、パッと照明が照らし出された。


「眩しッ!!」


 慌てて顔を腕で覆い隠す爪牙と葬羅。

 と、その時、急に話し声が聞こえてきた。


「おいおい……まさか、もうこんなところに来ちまったのか? ……てっきり他のやつらがもう少し足止めすると思ってたんだが……まぁいい。こうなったら、この俺様がお前らをここで始末してやるぜ!!」


 そう言って暗闇から現れたのは、少し背の低い中年太りの男だった。


「誰だお前?」


 爪牙がギロリと相手を睨みつけながら名前を尋ねた。すると男はそうだったと言った感じで手を振り言った。


「おおっと、こいつは不躾だったな……そうだそうだ。俺様の名前は第七部隊隊長『ツェイク=ギルスキュトス』。大昔の小七カ国が一つ、『ゴルガルゴストス王国』の元キングだッ!!」


 挨拶もそこそこに、ギルスキュトスはその重たそうな腹を抱えながら近寄ってきた。

 一歩進むたびに脂肪のたっぷり詰まった腹がポヨンポヨン揺れる。さらに、彼の右目には針で縫ったような跡がついていた。


「随分と太ってるんだな……。国王ってのは、四六時中体を動かさねぇもんなのか?」


 爪牙の嫌味の様な言い方と見下したような目つきを見てギルスキュトスが言う。


「貴様、十二属性戦士だな?」


 いきなり確信を突いた問いに爪牙は目を見開き驚いた。


「その反応を見ると、やはり合ってるようだな……。だったら、話は早いッ!!」


 そう言ってギルスキュトスはいきなり攻撃を仕掛けてきた。


「くっ、いきなり何しやがる!!」


 爪牙は相手の攻撃を防ぎ、葬羅を後ろに下がらせると彼に文句を言った。敵が放った攻撃の後に目をやると、そこにはポッカリと穴が開き、漆黒の闇がその姿を見せていた。

 攻撃を終えてゆっくりとその重たい体を起こしたギルスキュトスは肩を回しながら爪牙を見下ろしながら言った。


「ふ~ん、なるほどなるほど……。なかなかやるな。この俺様の第一撃を受け止めることが出来たのは、お前の親父とお前だけだ。だがな、この第二撃を受け止めることが出来る奴は未だに存在していない。無論、お前の親父も――だ。さぁ、くらえッ!! お前の親父もこの技にて俺様に敗れた! 『千なる岩山の生成(サウザンド・ロック)』!!」


 ギルスキュトスは両手で握り拳を作り地面に向かって叩きつけ強い衝撃を与えた。すると、凄まじい地響きと共に地面がパックリと割れ、大量の岩がせりあがってきた。


「こりゃまさしく“千もの岩”そのものだな……」


 呑気に爪牙がせりあがった岩の一つに掴まりながら下を眺めていると、ギルスキュトスはさらに一際大きな岩の頂に上り、魔力で大量の石つぶてを宙に浮かばせ自分の体の周りで回転させるとニヤッと不気味な笑みを浮かべて叫んだ。


挿絵(By みてみん)


「俺様の力を思い知れッ!! 『刺石の追撃(ロック・バースト)』!!」


 回転している石つぶてがビュンビュンと爪牙に向かって飛来する。鋭利に尖った石つぶてが爪牙に刺さると思われたその時、ニヤッと笑みを浮かべた爪牙は待ってましたとばかりにご自慢のハンマーの持ち手の端を持ち、勢いよく振り回した。それにより、石つぶては粉々に粉砕され消えてなくなった。


「ほぉ……なかなかやりやがるな。親父を完全に超えてやがる! だったら俺様の必殺奥義を見せてやるよッ!」


 自慢気にそう叫んだギルスキュトスは、両手に魔力を込め力を振り絞った。手に岩属性の魔力が纏われる。そして、十二分に力を溜めた彼は再び叫んだ。


「行くぜ!! 秘技、『数万打撃の大地の怒号ファイナル・アースミリオン』!!」


 連続突きを地面に向けて放つと同時に、まるで地震が起こっているかのように激しく地面が揺れ動き、小さな小石は生きているかのように動いている。


「な、何だ!?」


 爪牙は慌てて傍の岩陰に隠れた。


「これってもしかして必殺技?」


 せり上がった岩の攻撃を全て避け、岩陰で二人の戦いを見守っていた葬羅が驚異的洞察力にて相手の行動を推測し、心配になった爪牙の元へ行こうとした。しかしそこに先ほどの地震によりあちこちにあった障害物の岩の内の一つが、落石となって彼女の目の前に落ちてきた。


「くっ、これじゃ爪牙さんの所に行けません!!」


 悔しそうに唇を噛み締める葬羅。


「ふっはっは!! これこそが俺様の必殺技だ!!」


 ギルスキュトスが一番高い岩の上で腰に手を当て図太い声で笑う。爪牙は舞い上がる砂煙を手で必死に振り払い、砂煙の中から飛び出して近くの岩の上に上がった。


「来たな……さすがは岩属性戦士だけあって分かりやがるな。俺様と同じ岩属性のオーラは尋常じゃないものだ」


 敵は常に自分の力を全開にしている状態だった。しかし、それに負けないくらいの力を出している爪牙は、連続技の出し続けでとても疲労していた。


「くそ、俺が万全の調子だったらこんなやつすぐに倒せるのに……!」


 悔しそうに唇を噛み締める爪牙に、ギルスキュトスは既に勝利を確信しつつも言った。


「さて、このまま岩の上で魔力をたらい流しにするのももったいない――行くぞッ!!」


 魔力を溢れさせながらギルスキュトスがついに岩の上から動き出した。一瞬にして、その場から姿を消したことに驚いた様子の爪牙だったが、彼は反射的にその攻撃を受け止めていた。


「ほう、この一瞬の技を防ぐとは……それほどまでにお前の力も向上しているということか」


 ギルスキュトスは納得したように頷きながら一歩後ろに下がった。


――はぁはぁ、何てやつだ。まったく息を乱していない。くそ、こうなったら……。本当はこいつを使うのはやめときたかったんだが仕方ねぇか。状況が状況だからな…。



 爪牙が心の中で語っていると、ずっと黙っている姿を見ていたギルスキュトスが不意打ちをしてきた。周囲の岩が崩れ舞い上がる砂煙によって周囲の視界が失われる。


「どうだ? ……これでも大丈夫のようだな」


 と、煙の中で何とか攻撃に耐えている爪牙の様子を窺って言った。彼は衝撃波を受けたせいか、頭から血を流している。


「くっ……ゲホゲホ! こうなったら最後の手段だ!!」


 そう言って相手と十分な距離を取って準備に入る爪牙。その様子にギルスキュトスが馬鹿にした様に嘲笑して言う。


「無駄だ! どんなことをしようとお前は俺様には勝てない!!」


 ギルスキュトスの勝ち誇ったようなセリフに爪牙は訂正した。


「残念だが、そうはいかねぇな! 負けるのは俺じゃなく、てめぇだッ!」


 ハンマーを地面に叩きつけ叫ぶ爪牙…。


「くらえ! 『コラップス・グラウンド』!!」


 彼が叫ぶと同時に、凄まじい地響きと勢いにより、ハンマーで叩きつけられた周辺の壁や地面にヒビが入った。おまけに、地盤が崩壊し砕けた岩がギルスキュトスの体を切り刻んだ。


「ぐぅわあああああ!!!」


 体中に鋭利化した岩が突き刺さり、苦しそうな叫び声を上げるギルスキュトス。おまけによく見ると、彼の体に突き刺さっている傷口からは出血がまったくなかった。これは一体どういうことだろうと、爪牙がよく見てみると、それは彼の体ではなく薄い布きれのようなものだった。それがベロベロッと剥がれると、ギルスキュトスのその本当の正体が露わとなった。その姿は、あまりにも残酷だった。

足の筋肉は殆どついておらずガリッガリに痩せ細っており、その代わりに、変わったデザインの機械が足に巻きつけられているだけだった。顔もポッチャリした中年太りの顔から、年老いてしわくちゃのヨボヨボ顔の上に、随分とやつれた顔つきをしていた。その様子は先ほどまでの彼とは随分とギャップがあるものだった。


「うぅ……まさか、この姿を貴様に見せることになるとはな……。貴様が思っている通り、これが俺様の本来の姿だ。俺様はもう動ける状態ではないのだ。幼い頃から体の調子が悪くてな……。今ではこの筋肉の代わりの役目を果たす機械がなければ動ける状態ではないのだ。ちなみに、この機械を作ったのが『オドゥルヴィア=オルカルト=ベラス』博士だ……。お前達十二属性戦士が良く知っている、ハンセム博士の実父の師匠にあたる人物だ」


「あいつの実父の師匠ッ!?」


「やつは、随分前まで平気で人を殺せるようなやつだったからな。クロノス秘密研究所に何かと関係を持つ小七カ国の王族七人から結成された闇魔法結社……結成当時は、互いに知り合いばかりだったために、様々な思惑もあった。そんな中で、やつ――オドゥルヴィアは、全く面識のないこの俺様に話しかけてきた。おまけにやつは、この俺様の体を自由にした。俺様はあいつを信じていた……信じていたのに! やつは俺様たちを裏切ったんだ! しかも、神族のナイトメア家が率いるナイトメア軍、そしてクロノスにまでやつは手をかけた。あいつは罪深き人物なんだ。だから、やつはあらゆる人物に恨まれている。それにあいつは、ナイトメア軍を率いる三人……神族の神々達が作り出した『光と影計画』を自分の物にし、その上それをどこかに封印した。この機械も作られて随分経ち、最近動きも悪い。これではお前に負けるのも無理のないことだ。まぁ、この機械も俺様も寿命なのかもしれんな……。俺様はこの力で十分に生きられた」


 爪牙が聞いたことのない難しい話をブツブツと呟くギルスキュトス。そして、自分を嘲笑うように

ニヤッと笑みを浮かべた彼は、自分の持っている七色不死身能力の一つでもある『赤燈の岩亀鬼(がんきき)』の宝玉を見た。そして、それを見て何を思ったのか、ふっと鼻で笑い懐から何かを取り出した。それは爪牙のパワーストーンだった。


「ほらよ!」


「うおっと!」


 爪牙はギルスキュトスに投げられたビー玉サイズのパワーストーンを受け取ると、それを眺めた。


「お前のパワーストーンだ! 本来ならば、もう一度リベンジしてお前と殺り合いたいところだが、どうやらその時間もないらしい……」


 そう言うと彼は急に心臓を押さえ苦しみ始めた。


「くっ……だから……これを使って少しでも…強く……なりやがれ!」


 ギルスキュトスは最後まで嫌味の様に言って、それから力尽きたように手の動きを止め顔がカクリと下を向き、そのまま全く動かなくなった。


 カツカツカツ……。


「……ほう。まさか、もう闇魔法結社を倒すことの出来る力を手に入れているとは、さすがだな、十二属性戦士……」


 不気味で篭ったような声と共に姿を現したのは、全身を鎧に身を包んだ謎の青年だった。

 その鎧騎士に警戒心むき出しで爪牙は問い詰める。


「てめぇ誰だ!?」


 爪牙の言葉にその青年はその場に立ち止まり答えた。


「俺か? ……俺は幻影の騎士『ラグナロク=ドルトムント』。闇魔法結社のやつらに用があってきたんだ」


ラグナロクと名乗る青年は、淡い紫色の髪の毛をしていて、その長い髪の毛を一つに結んでいた。


「そうか……」


 爪牙は闇魔法結社に一体何の用があるのだろうと疑問に思いながら、ギルスキュトスの傍から離れた。

 ラグナロクは軽く爪牙に会釈すると横たわっているギルスキュトスに歩み寄った。そして、何をするのかと思い爪牙がじっと眺めていると、刹那――彼は、とんでもない行動に打って出た。なんと、死にかけの状態であるギルスキュトスの心臓めがけて長剣を突き刺したのだ。


「ぐふぉッ!!」


 ギルスキュトスは呻き声を上げながら必死に剣を抜こうと抵抗し刃を強く握りしめた。しかし、もう瀕死の状態であるためか、手に力が入らない。刺された場所からも大量の血が出て、体も思うように動かないのだ。


「てめぇ、何しやがる!!」


 爪牙は唇を噛み締めハンマーを振りかぶって攻撃した。しかし、ラグナロクはその攻撃をいとも簡単に手から発した衝撃波で防御し、それどころかその衝撃波を利用して爪牙を弾き飛ばした。

 凄まじい勢いで壁に叩きつけられた爪牙は口から血反吐を地面に撒き散らし、ズルズルと壁に背中を密着させたまま地面にずり落ちた。。


「く、くそ……!」


 背中に走るあまりにもの激痛に耐えきれず、爪牙は気を失った。ラグナロクは彼の近くに歩み寄ると独り言を呟いた。


「馬鹿なやつだ……俺に抵抗しなければ死なずに済んだものを」


 そう言い残し、ラグナロクはさっきまで生きていたギルスキュトスの胸から長剣を抜き取り、付着している血を剣を振り払って振り落した。そして、七つのくぼみの開いた剣を抜き取り、それに七色不死身能力の一つである『赤燈の岩亀鬼』を取り込ませると、それを再び鞘に納めその場から姿を消した。


――△▲△――


 爪牙が目を覚ますと、そこには既にラグナロクの姿はなく、血まみれで死んでいるギルスキュトスが横たわっているだけだった。


「くっ、何だったんだあいつ……」


 悔しがりながら地面に穴を掘り、そこに亡くなったギルスキュトスを埋めると、腰をトントンと叩いて首をゴキゴキ鳴らし、手についた砂を落とそうとパンパンと手をはたいて武器にパワーストーンをはめこめ先に進んだ。

というわけで、ついに闇魔法結社が登場です。本格的に動き出した幹部格のこの人達ですが、自身でも語っているように彼らはえらく昔、まだ小七カ国が存在していた時に王や女王を務めていた王族の人間なんですね。そんな彼らがお姫様と呼び慕って得た不死身の力。まあ、アイリス曰く、そのお姫様は姿をくらましているようですが、一体どんな人物なのか……今回の話ではその正体は明かせませんが、

第四章辺りで出ます。(アットノベルスで読んだ人はもう分かってるかもしれません……)。

また、アイリスは戦いの場から退散しましたが、ツェイクは殺られちゃいましたね。しかも、その死んだ敵を埋めてあげる爪牙は意外と優しい?

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