第四話「五つの呪いを体に持ちし怪人」・2
「確かに物理攻撃は効かないというのは少しばかり痛いな…。だが、特殊攻撃でいけばいいだけのことではないか…」
「果たしてそう上手くいくかな?」
仮面の奥から彼をバカにした口調の声が聞こえてくる。少し篭った感じの図太い声は異常なまでの威圧感をラグナロクに与えていた。しかし、彼は決して屈せず一旦大剣を鞘に納めると、長剣を二本取り出した。それを右手と左手に持つと、刀身を十字に重ねクロスさせた。
「いくぞ! 『十字の交錯波』!!」
素早い剣技が繰り出され、その衝撃波がヴィロヴァルドスの体に直撃する。しかし、特殊攻撃では死絶の体毛を斬ることは出来るものの、物理的な攻撃ではないため相手に致命的なまでのダメージを与えることができない。そのためラグナロクは予想以上の苦戦を強いられていた。
「やはりムリだな……。今すぐその無駄な足掻きをやめれば半殺しにして解放してやるぞ、ラグナロクよ…?」
「ふんっ…そんな条件、呑みはしない!!」
「くっ……余が汝に与える最後の権利だぞ? それでも呑まぬと申すか…」
「ああ…残念だがな…」
ラグナロクは左手だけに二本の剣を持つと、何も持っていない右手の手のひらを地面に向け、一気に魔力を練り上げた。そして、それを一気に空気中に放出した。それにより、魔力が上手い具合にスピード力の補助にまわり、格段に飛躍したスピード力により彼は一瞬にしてヴィロヴァルドスの後ろを取った。しかし、彼は少しも焦ることなく彼に言った。
「解っておらぬな…。先程の攻撃、余には通じなかったのだぞ? なのに何故余に同じ攻撃をする? それを無駄だというのだッ!!」
「解っていないのは……貴様の方だ!!」
そう言ってラグナロクは一気に剣を振り下ろした。特殊攻撃が敵の死絶の体毛を一時的に無効化させる。が、ヴィロヴァルドスは俄然平然としている。だが、さらに彼はその無防備な一部のみ……つまり先程死絶の体毛を無効化させた部分と同じ場所を的確に切りつけた。
「なっ、何だとッ!?」
「ふっ、気づかなかったのか? 特殊攻撃で切りつければ死絶の体毛は消える。しかし、そのデメリットとして物理攻撃――致命的なダメージを与えることは不可能。そこで、この物理攻撃が可能な武器を使ったんだ!」
「ば、バカな!? 確かにあの時二本の剣で特殊攻撃を放っていたはず…」
「あれは、そういう攻撃だと貴様に認知させるためのトリックだ」
「なっ……余をハメたのか!?」
「ああ…。物の見事引っかかってくれて気分が良かったぞ?」
「くっ…つまり、元々片方が物理用…もう片方が特殊用だったというわけか…」
「そういうことだ」
まんまと相手の作戦に加担してしまったと悔しそうに歯噛みするヴィロヴァルドス。そんな彼に対してラグナロクは鼻で笑う様に得意気になる。
「さぁ、形勢逆転だ…。次は、こちらの番だ!!」
二本の剣を巧みに使いこなし、ヴィロヴァルドスのほぼ無防備と化した体をどんどん斬りつけていくラグナロク…。
「これで終わりだ!!」
「なめるな、小童が!!」
突然、ヴィロヴァルドスの仮面の両目が赤く光り輝くと、膨大な魔力を衝撃波にして前方から突っ込んでくるラグナロクに浴びせた。彼は、凄まじい衝撃波の威力に耐え切れずそのまま吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「ぐはッ!!」
「余は最強! 余の勝利は絶対なのだ!! 汝のような小童などに負けるわけにはいかぬのだ!!! 本来、このような力を使うことは避けたかったのだが致し方あるまいッ!! 余の第三の呪いを受けるがよいッ!」
仮面に開いている口からブワ~ッと黒煙が出現する。
「くっ、これは……死絶の黒煙と同等の物か?」
周囲を見回し、黒煙に囲まれたラグナロクは慌てて黒煙を吸わないように腕で鼻を抑えた。
「グフフフ、この黒煙には何の力も含まれてはおらぬ…」
姿を消したヴィロヴァルドスの声がどこからともなく聞こえ、ラグナロクを惑わした。
「どういうことだ?」
「今に分かるであろう…。汝の命、ここに尽きたり…」
そう言ってついにヴィロヴァルドスの不気味な声までもが聞こえなくなり、ラグナロクは完全に黒煙に包まれてしまった。
――くそっ…ただでさえ暗がりの部屋だというのに、その上黒煙で視界を奪われてしまっては攻撃することも防御することもできない…。やつめ、本格的にケリをつけるつもりだな。
相手にもそろそろ後がないということを理解しながらラグナロクは360度全てに警戒する。どこから攻撃されても大丈夫な様にだ。しかし、次の攻撃は予想外の場所から来た。そう、上からだ。
「な、何ッ!?」
「くらえ!! 第四の呪い『死絶の追尾攻撃』!!」
彼の叫び声と共に、口から発射されたのはとても大きな巨大ミサイルだった。そのミサイルはラグナロクに向かって一直線に突っ込んできた。
「くっ!!」
間一髪、その攻撃を躱したラグナロクだったが、ミサイルはそのまま地面に当たると同時に破裂し、中から大量の細長い針が飛んできた。
「中に針ッ!?」
「グフフフフフ……これはただの針ではない、超強力な毒針だ! これは少しでもかするだけで超巨大な魔物でもイチコロで死に至らしめることの出来る代物だ…」
その説明を聞きながら、この死絶の追尾攻撃が死絶の黒煙と似たような性質を持っていることはすぐさま理解できた。
ラグナロクは剣を構え飛んできた針を全て切り落とした。
「ほぅ…なかなかやるな。だが、この視界ではどこから撃ってくるか分かるまい? グフハハハハ!!」
ヴィロヴァルドスの声が再び闇に消える……。そして、しばらくすると何の物音もしなくなった。必死に集中力を研ぎませながら敵の位置を確認しようとするが、どこにもそれらしき姿はない。
と、その時、背後から火薬の臭いがした。
「う、後ろだと!?」
「ふっ! 遅いッ!!!」
「しまっ…――」
ドガアァアアアァァアァァアアアァンッ!!
超至近距離で発射されたミサイル。そのミサイルはさすがのラグナロクにも躱すことは適わず、結果モロにその攻撃を受けてしまった。
「ぐわぁッ!!」
彼は、舞い上がる爆発の煙の中から命からがら脱出した。しかし、その息の根を止めようと、まるでそれ自体が意思を持っているかのように大量の毒針が飛んでくる。そして、それを二刀流の剣で何とか切り落とすラグナロク。
「さすがに今の攻撃で相当な体力を削られただろうな……次が汝の最後だ!!」
――どうする…? やつの言う通りもう魔力もほとんど残っていない。このままでは、確実にやつに殺られる! ……何かいい方法は。
朦朧とする意識の中、必死に思考回路をフル回転させ知識や経験を記憶の引き出しの中から引きだしていく。
と、その時、鎧一族の仙人の言葉をふと思い出した。
《ラグナロクよ……視界を奪われた時には目ではなく心の目で見るのじゃ! そうすれば、おのずと道は開かれる…》
――仙人…。よし、こうなったら仙人に教わった『真実の瞳』を使おう。これを使えばやつの位置も把握できるはずだ。
もう手がないと、ラグナロクは一か八かの賭けに出た。
目を閉じ視界を完全に遮断する。残った他の五感で感覚を研ぎ澄ませる。すると、彼の真っ暗な視界の中に一部分だけ霞んで見える場所があった。
「そこだッ!!」
シュンッ!と剣をその場所に向けて投げるラグナロク。
グサッ!!
「ぐわぁああああッ!!! ば、バカな…。何故黒煙の中で余の姿が!?」
「真実の瞳…これを使えば、例え視力がなくても相手の居場所を突き止めることが可能なのだ。つまり、貴様がどこに隠れようとも必ず今の俺ならば見つけ出せる…ということだ」
彼の説明に、ヴィロヴァルドスは唇を噛み締めながら自分の体に突き刺さった武器を引き抜きながら言った。
「おのれぇ~、ただの人間風情が調子付きおってェェェェェ!! こうなれば余の最後の呪いをくれてやるッ!! 第五の呪いッ!!」
四つ目の呪いも破れてしまい、彼はついに最後の呪いを繰り出した。腕に力を込めると、彼の手首についている木の手錠に亀裂が走った。そして、それを留めるための金具のネジがクルクルと猛スピードで回転し、ポロッと外れた。それと同時に木の手錠も破壊され、彼の拘束された腕は自由の身となった。その瞬間、まるで拘束された腕が彼の魔力を封じていたのか、その拘束具が取れた瞬間凄まじい闇のオーラの混じった魔力があふれ出した。その気に押しつぶされそうになりながらも、ラグナロクは剣を地面に突き立て必死に耐える。
「うおおおお!! 『死絶の限界突破』!!!」
「何だこの異常な魔力は…!! やつめ…まだこんな力を秘めていたのか…。あの、拘束具は
そのための物だったのか?」
ヴィロヴァルドスの魔力の異常なまでの上昇さに驚きを隠せずにいる鎧一族の騎士ラグナロク。すると、彼は突然魔力のオーラを消し、すぐさま彼の目の前に現れた。
「なっ!?」
「果てろ! 小童ッ!!」
「ぐっ!!」
ヒュゴンッ!!
激しい一撃がラグナロクに襲い掛かった。しかし、ギリギリのところで彼は腕をクロスさせて、七つの急所の一つである『鳩尾』への攻撃を防いだ。ここに攻撃を食らえばしばらくの間は動くことが出来ず相手に隙をモロに与えてしまう。そういうことはなるべく今は避けたい。
攻撃を受けたラグナロクの体はそのまま反動で後ろまで飛ばされた。
「……っく」
何とかその場に立ち上がり剣を握ろうとするラグナロク。だが、先程のヴィロヴァルドスによる一撃で腕の神経を麻痺させられたのか、ブルブルと震えたままで剣を握ることが出来ない。
「…しまった、これでは剣を握るどころか特殊攻撃もままならん。ここは一旦引いて――」
「誰が引くだと?」
「後ろからッ!?」
ラグナロクが振り向くと、そこには既に敵の姿があった。ブツブツと独り言を呟いている間にヴィロヴァルドスに後ろを取られてしまっていたのだ。
慌てて身を反転させて相手に背中を見せないようにするが、既に目の前に敵の姿はなく、気づけばまたしても敵に後ろを取られていた。
「速いッ!?」
「余が速いのではなく汝が遅くなったのだ! くらえッ!!」
「ぐぅッ!!」
麻痺して腕が動かず、巨大なヴィロヴァルドスの拳の一撃をモロに受けてしまうラグナロク。そのまま、彼は地面に叩きつけられた。
ドゴンッ!!
「ぐはッ!!」
「汝はよく頑張った…。そこそこの人間であることは認めよう。しかし、所詮は人間……地獄の底より蘇った余らには汝の力は到底通用せぬのだ。現に、呪いの体を持ちし余を汝は倒せずにいる…。これが何よりの証拠だ…。さて、そろそろ余も汝との戦いに飽きてきたところだ。これで終わりにさせてもらうぞ?」
「はぁはぁ…ぐぅ、なかなか面白いことを言うな…。だが、その言葉そのままそっくり貴様に返してやる!」
「ほぅ? この状況でも尚、余に歯向かうか…。つくづく哀れな人間だ」
「果たしてそれはどっちかな?」
そう言ってラグナロクは魔法でボロボロになった自分の剣の破片を操ると、一方の腕をそれで切りつけた。激痛により感覚麻痺が戻り、腕が使えるようになる。が、それでも出血しているため、急いで彼は布の一部を切り取り、止血した。
「ん? 何のマネだ?」
「今に分かるさ…」
鎧の仮面の奥でフッと笑うラグナロクの声にヴィロヴァルドスは怒りの目を向ける。
「うおおおおッ!! 余を馬鹿にするのもいい加減にするがいいッ!!」
ドスッドスッドスッドスッドスッ!!
猛スピードで突進してくるヴィロヴァルドス。そして、その大きな標的との距離を目で確認しながらタイミングを見計らうラグナロク。精神を研ぎ澄ませ、ふぅーと小さく呼吸をし、心を落ち着かせる。
「これで終わりだァアアァアアアアッ!!」
二つの巨大な拳が一気にラグナロクの頭上に降ってくる。しかし、彼はそんなものに動じず背中から大剣を抜き取るとそれを振り上げた。
「ふんっ、そのような剣では余の動きを止めることは出来ぬぞ?」
「これを見てもまだそんな口を聴けるかどうか楽しみだな…」
ラグナロクは強く剣の柄を握る。そして、それと同時に彼は叫び声を上げた。
「奥義!『龍神の爪痕』!!」
その言葉を発すると、剣が眩い光を出しヴィロヴァルドスの体くらいの長さに形状が変化した。
「なっ、何だ……その力はッ!」
その桁違いの魔力量に恐れを成したヴィロヴァルドスは慌てて止まろうとするが、体には既にスピードがついており、止まることが出来ない。
「ふっ、これが俺の全力だ、くたばりやがれぇぇぇぇええええええッ!!」
「や…やめ、やめろォォォオオオオオオオッ!!!」
ブゥゥゥゥン! ズバババァァァァアアアァアッ!!
と、物凄く大きく長い剣が振り下ろされ、ヴィロヴァルドスの体を不気味な仮面ごとぶった切った。
「ぐっ……がっ…これが…、余の…最後なのか? …おのれ、鎧一族の分際で……」
ズズゥゥゥウウゥゥゥンッ!!
という大きな倒れる音とモワモワ舞い上がる砂煙。パラパラと天井から落ちてくる砂粒。
ラグナロクは大きくなった剣を元の大きさに戻すと、それを鞘に納めて真っ二つになったヴィロヴァルドスの死体に近寄った。すると、彼の体はシュ~ッと音を出しながら溶けてなくなった。これも呪いの力の影響なのだろうかと不思議に思いつつふと視線をある場所に向けた。その場に残されたのは、異様な悪臭と半分の紫色のパワーストーンだった。
「……呪いの力…か。なかなか手ごわいやつだったが所詮…不死身の力を持て余すだけの愚かな存在…。しかし、闇魔法結社は違う。やつらは、先程のやつとは比べ物にならないほどの強者。油断は禁物だ……。ここから先へは、注意を怠らないようにして進まなければならない。闇魔法結社はこの先にいる。……必ずこの俺の手で倒して見せる。アレを復活させないためにも…」
背中に背負っている別の鞘から謎の剣を抜き取るラグナロク。そこには、七つのくぼみが開いていた。それをしばらく見つめた後、それをもう一度鞘に納め彼は先に進むのだった……。
というわけで、無事に何とか第三部隊隊長を倒したラグナロク。一応、この前にも第四部隊副隊長を殺っちゃってるんですけどね。つまり、この人は菫と葬羅のパワーストーンの一部を持ってるってわけです。これがこの後どう関連するのか。また、この人実は滅んじゃったって言われてた四族の一つである鎧一族の末裔なわけですね。要は、闇夜や雫と同じ関係ってことです。鳳凰一族はこの時代には一切出てきませんので、三族ですかね? ちなみに、ラグナロクは結構剣を持ってます。騎士なだけに……。背中に大剣と、腰に短剣を四本、両腰に長剣を二本ずつ、後対闇魔法結社用に一本……これは一番最期に書いた七つのくぼみがあるやつです。というわけで、合計八本持ってるわけです。といってもしょっぱなはもっと持ってた……という設定です。一応十二本。ここまで来るのに四本消費したとそう思っていてください。これ以降も度々出現するキーパーソンなので、ここで出しておきました。




