Last Dance
撤退命令は出たがレリアは戦闘を止めない、フィリアは彼女の前に立って体を抑えた。
「撤退命令です...!」
レリアの身体をしっかりと抱きしめて飛翔する、暴れるかと思ったが意外にもおとなしくなっていた。
そしてその目は何故か涙で濡れていた。
「フィリア、私は何を守ればいい」
その言葉にレリアの身体をギュッと抱きしめた。
「私を守ってください...いつものように...」
地上はすぐに戦場へと変わっていった。
メリルとエリルは後退し、学園からの援軍と合流して戦っている、そしてフィリアはレリアと共に学園へ戻って行った。
「戦争なんて大袈裟ね、貴女たちは地下へ行き“本”を守りなさい」
学園まで戻ったフィリア達にリズは言った。二人は戸惑いながらも地下への扉を開いた。
敵がここに侵入した時点で守れる保証は何もない...、柱にもたれて座り込む、フィリアが前に立っていた。
「貴女は美しい...優しい天使...その微笑みは穢れを知らない...私は人を救えない...」
「私は弱い、貴女のように戦えない、力が欲しい...」
「ここは不思議だな...まるで神々の叡智が眠っているようだ...情報が流れ込んでくるような...」
フィリアが手を差し伸べる、その手を取り立ち上がる、フィリアは歌を口ずさんだ、何処かで聴いた事のあるような優しい歌...
フィリアの身体をギュッと抱きしめていた。
「レリアさん...」
「私は、こうなる事を望んでいたのかもしれない...」
フィリアの唇にそっと唇を重ねる...
『あー...コホン...お取り込み中のところ申し訳ないのですが...』
アイシアの声だった。カウンターに置かれた魔導鏡が薄っすらと光っている。渋々魔導鏡を手にしてみる。
「アイシア様、どうされました」
『何だか随分と派手に魔物が暴れてると聞いてな、お前達を呼び出したのだが...』
「すみません」
『まあ良い、それでこれ以上魔物を放っておくわけにもいかないので、お前達に任務を与える。心して聞け』
「はい。」
『その学園都市が巨大な魔法円になっているのは知っているか』
学園都市の地図を見たことはあっても、それは巨大な円形のありふれた都市国家だ、他国のような城塞都市のように複雑な造りをしているわけではない、だからと言って魔法円になっていることに気づく者がいるだろうか。
「知りませんでした。」
目の前の柱に学園都市の地図が映し出された。
『お前達のいる場所はその中心からやや北の場所になる、そこにある本を開き書かれている呪文を唱えなさい、どうやら結界が消滅しかけているようなので結界を生成します。』
「はい、中心の本を開いて呪文を唱えればいいのですね。」
「本の題は...?」
『ガイアの消滅』
「分かりました。」
『健闘を祈るよ』
そこで魔導鏡の光は消えた。
そして言われ場所のあたりを調べていく、そして言われた本を手にし開いた。
「人はいつから魔物と成り果てたのか...、その昔、創造主と呼ばれる人達は非道な実験を繰り返した。それは新たな人類の創造という禁忌を冒す行為だった。そして、創造主達は天使を創り出した。天使と呼ばれる人工生命体は人類の科学力の結晶だ、その細胞は衰える事を知らず、人間では致命傷となる深い傷でも死ぬことはなかった。彼女達はガイアの軍事的な均衡を壊すにも十分だった。
異端者のある本にはこう書かれている、“天使が創られるまでに実験体となった者は数百名、それは異形であり生まれる子も奇形である。彼らの繁殖力は放置すれば人類を脅かしかねない、実験の犠牲者は処分されるしかないのだ。”と...。
天使の役目はこれを処分することである、自我を失った彼らはもう人間ではなかった。
ガイアの崩壊ははじまったのだ。
都市を守るためには障壁を築くしかなかった。我らは都市に障壁を築いた。触れるもの全てを消滅させてしまうほど強力な物であり、当然反対意見もあった。安全を謳っても事実事故で消えた命は存在する。
障壁を起動させる言葉は...『エシャルト ユーフ アンシュール エシャルト エルヴェイル エニン』この新たな言葉が何を意味するかは分からないが、エンジェル達の言葉であろうと推測される。』」
「早く起動しましょ!」
「う、うん」
二人は真ん中と思われる場所に円を書いて立った。二人は静かに言葉を口にする。
光の柱が天井に当たる、何かに反射して方向を変え、それが連鎖していき一瞬で光の魔法陣ができた。
魔法陣の完成と共に結界が広がっていく、学園都市の境界線にそって光の壁が完成していった。
敵の侵入する余地はなくなり、後は侵入したものを排除するだけだ。
学園の敷地内に魔物が侵入し、フィリアとレリアは急いで向かった。
「どうして侵入を許した!」
誰かが叫んだ。
「こいつ、他のと違います!」
視線を逸らした一瞬のうちにそれは姿を消した。
「消えた?!」
突然目の前の生徒の身体が吹き飛んだ。
「新種か、全員下がれ、見えないなら見えるようにしてくれよう」
シルフがそこにいた。
目を閉じて魔法を詠唱する、魔法円ができ光り始める。その光に触れた見えない敵は部分的に姿を見せた。
シルフはすかさず次の魔法を詠唱し、敵の周りに結界を張ると強烈な爆発が内部で起こった。
「やったか?!」
しかし、爆煙が風に流されていくと、そこにはまだ魔物が立っていた。
四つん這いの巨大な魔物、まるで蟻か何かに見えるような姿...
「人はあらゆる生命を合成した。それをキメラと呼ぶ、そして人は力を求め、人と獣を合成、或いは模倣した。」
リズは本を片手にシルフの隣に立った。
「あの二人は役目を果たせそうなのかい?先生」
「この結界を作れるのですから素質はあるのでしょう。」
リズの持つ本はその形状を剣へと変えていた。
「先生、そういうものは人目にさらさない方が」
「こんな時くらいしか役に立たないでしょ」
リズは敵に急速に接近して剣を振り、身体を捻らせて反転すると敵の後方から剣を突き立てる。
同時にシルフも敵の懐に入り込み敵の胸元を剣で突き刺した。
「随分と硬いわね」
「急所を外したようです。」
「こいつの核はどこなの?」
「さてね」
敵が攻撃を繰り出す、二人はほぼ同時に敵から離れ、敵の攻撃は空を切った。敵の動きが急に止まったかと思うと腹部が割れ、中から蠢く何かが出て来た。
「どうやら女王様のようですね。」
ドロッと出てきたそれは膜を破り地面を這う。
シルフはすかさずそれを攻撃し切り刻んだ。
金切り声のような悲鳴を上げて倒れる、女王様はそれを産んだ為か体力を消耗したようで身動きすらしていなかった。
リズはその背に飛び乗り甲殻の継ぎ目に剣を突き刺す。
女王様の死を知ったのか残りの魔物達は引き返していく...
リズはその様子を見て何かを感じた。それが何かは分からないが、こいつらの目的のようなもの、それを考えてゾッとした。
「呆気ないですね。」
「誰よ、戦争だなんて大袈裟な」
そうは言っても被害は大きい、そこが戦場であったように街は血の海になっている。
「みんな無事?」
怪我をしている者もいるようだが生徒達は無事のようだ、問題は街に住んでいる人達だろう、これまでこれほどの数の魔物が侵入したことはない、うまく避難できただろうか...
『任務は終了しました。十字紅章を授与します。全ては我が叡智の下に...』
アイシアの微笑みが魔導鏡に映っていた。




