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  作者: 莉央奈
7/9

【Chronicle】

地下書庫、サリアはそこから一冊の本を棚から取り出した。

かつてパンデモニウムと呼ばれた空中要塞、今では冥府の首都、黄金と宝石で彩られた都市、それを起動する方法がそれには書かれている。

“カズエルの血を注げば命が宿る”

それがなんなのか解読できたものはいなかった。

しかし、亡き国の王サリアだけは知っていた。

そしてその本は今彼女の手中にある、今目の前の彼女の手に...

「この本があれば人間は再び地上の支配者となる、これは創造主が望んだ事である、それを邪魔するつもりならば斬る。」

サリアは目の前を阻むレリアに言った。

レリアが剣を握りしめて立つ、手が震えるのを必死で堪えた。

戦闘なら慣れてる筈だった。

しかし相手は実戦経験があり、尚且つ全ての天使を統べる王だ。

「お前は優しい、故に戦えない、何の為に剣を持つ、それで何を斬る、私は私の使命を果たす為に来た。お前の使命は何だ、国を守る事か、人を守る事か、お前は下級の悪魔に過ぎない、堕天使でしかない、お前は自由だ、命令に従う必要はない、何も考えず、己の為に剣を持て」

「私を惑わすな...悪魔め!」

剣を振り上げて斬りかかる、剣先が床に虚しく当たった。

「お前の王は虐殺を繰り返し世界を支配しようとしている、それを滅ぼすのは正義であろう?」

「ティアリス様は世界を楽園に変える、全てが満たされた楽園に」

「自由意志など存在しない、無個性でつまらない世界か」

「違う!」

その言葉を振り払うように剣で相手を斬りつける、それも虚しく空を斬るだけだった。

「戦争が始まってからというもの私は奪われた祖国を取り戻す為に戦った。それは私の望みではない、国民が望む事なのだ。時間の無駄だな...、君には分かるまい」

「私には国の事など分かりません...、たまたま他人より才能があっただけです。それでここに入れられているだけなんですから、戦争は嫌いです。」

「その戦争を終わらせると言っているのに、どうして止める?」

「本を守らなくてはいけない、犠牲者を増やしたくない...」

「もう手遅れだとしても?もうすぐ、世界は支配される、西方辺境で孤立無援の戦いを強いられる国がある、アステリアが開戦すれば二日もあれば消える運命、これはその小国の王の頼みでもあるんだ」

レリアは剣を落とした。混乱してもうわけが分からなかった。

ただ何も考えず祖国の為に剣を振るならどれだけ簡単な事だろう、盲信的に従属している人、それがアステリアなのか、サリアは少なくとも民心を集める王だ。


「長話はよしなさい」

アリシアの声だった。

「黙って聞いていれば、人心を惑わすでない。」

サリアの背後に現れたアリシアは本を取り上げた。

「歴史とは繰り返し、未来は変わらぬと...、そしてアステリアのような広大な領土を持つ国はすぐに自壊するもの...」

「返せ!」

「あら、これは私の所有物よ。それにここは中立地帯、本来剣を交える場所ではありません。」

「フッ…引き下がりましょう、だが本は必ず手に入れる...」

サリアは漆黒の翼を広げ、入った時に出来ただろう天井の穴から出て行った。

「あんな場所に穴あけて...」

アリシアが呆れて見ていた。そしてレリアの前に立つと肩に手を添えた。

「おそらくもう来ないでしょう。」

「どうしてです?」

「本の内容を知ったからです、まだ知らないと思わせたかったようですが、彼女は簡単に引き下がる者ではありません、これも運命でしょうか、あなたはよく使命を果たしました。後は私達の仕事です。」

アリシアは微笑む、漆黒の天使は空間の中にスッと消えた。


クラスに戻ればもう半分以上は国へ帰って戦っている、もしくは戦死したかもしれない、その報告は今のところ無いので生きていると信じるしかない。

エリルとメリルは早々に祖国を失った。最初はアステリアと協力し、最終的に裏切って戦争を仕掛けたのだ。


孤立無援のアスタルテ皇国、もう結果は見えているのに何故戦うのか、一部にはこういう噂もある“アスタルテ皇国はアステリア帝国と結び反乱軍を抑えようとしている”と...


本来なら戦争の為にある学園都市ではないはずだ、それがこの大戦に巻き込まれるとは誰が予想出来たか。

すぐにでもここを出て行きたいと思った。


そしていつも通り授業が始まる、だが落ち着きのない人が大半だ、自分も戦いたい、だがもう帰る場所などない人が殆どで、さながら孤児院のようだ。

フィリアが隣の席に座る、以前にまして元気がないようだ。

「フィリア...?」

「ん?」

声をかけたのは良いけれど、何を話せば良いかなんて決めてい、暫く目のあったまま時が止まったかのような錯覚...もう何度目だろう。

「なぁに?」

フィリアが寂しそうに見えた。気のせいかもしれない、けれど気になった。

「何でもないよ」

淡々と進む講義に耳を傾ける事も無く、これからの事をただ話していた。


数日後、戦争はパンデモニウムの墜落と小国の敗北で終結した。各地の反乱軍は武力で鎮圧され、歴史はまた一冊の本を遺して終わった。


フィリアとレリアが生徒会室で待つ、戦前と変わらない光景、半年で西方域を支配したアステリアは学園都市を包囲している、戦争を始める為ではない、女王一人を守る為だ...


アステリアの女王、熾天使と呼ばれる階級にあり、大天使ジブリールの名を持つ者。

ローブに身を包みフードを目深に被るその姿はさながら魔術師か何かのようだ。漆黒の羽が揺れている。

彼女は護衛の兵を部屋の外に出すとレリア達の前に立った。フィリアとレリアは跪く...

「私はアステリア帝国皇帝ティアリス・エイル・ジブリール。貴殿らの功績を讃え勲章を贈る事にしました。」

「私達は何も...書庫に侵入された挙句に本まで奪われる失態...」

「これは戦争であり、決闘ではありません、戦争目的は果たされました。あなた方も元の日常を取り戻せるでしょう。」

ティアリスがフィリアの方に寄ると肩に手を置いた。フィリアは拳を握る、支配者と被支配者、王と民、そこに交わされる言葉はなかった。

ティアリスが勲章をフィリアに渡す、丁寧に布に包まれたそれは銀色の十字架を模し、中央にはよく見えないが小さな模様が彫られていた。

レリアに渡されたのはそれを一回り小さくしたような十字架の勲章だった。中央に刻まれていたのは名前だった。

「私達は何もしていません...」

ティアリスの口元は笑っていた。それは素直に受け取られるべき物なのだ...。



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