【noble obligation】
エイシア帝国へ戦端を開いた各国は勝利するも、アステリア帝国の反撃により戦争状態は続いていた。
しかもその戦争はアステリアの天使達の一方的な攻撃で終わっているのだ。
そして今日もクラスメイトの一人が国へ召還された。
同時に学園も険悪な雰囲気に包まれている...
「次はどこかしら」
そんな嫌味を言う人もいる、言いたいことがあれば言えば良い、そんな目で見ている。
たった二週間で陥落した国は二つだった。そして従属を申し出る国もあった。
リズはこの情勢の変化を細かく教える、だがさすがにどういう駆け引きが行われているかは分からない、分かるのは戦争で勝つ国があり、当然負ける国もあると言う事だ。
そしてエリルとメリルも同じように疎外されている、世界情勢の縮図がそこにあった。
「レリアさんは戦争に行かないで下さいね。」
フィリアが顔を覗き込んでくる、寂しそうに見える、今のところいく必要は無いだろう。
「アステリアに支配された国は徹底的に破壊されるそうよ。」
誰かがそんな事を言って行く。
席を立つと周囲が静まる...
そのまま学園の外へと出る...
もう六月になろうとしている...
「帝国の犬が!」
学園の片隅で誰かが叫んだ。ひと気の無い植え込みの向こう側...
ドサッと誰かが倒れた。
叫んだ男は手に棒切れを持ち、その男の前に男が一人倒れていた。
倒れた男も反撃に殴りかかる...
「どうしたのですか?」
そう声をかけた。
「こいつらのせいで俺は家族を...こいつらが家族を殺したんだ!」
殴られた男はまだあどけなさの残る少年だった。
「ならば戦争に行って敵を殺せばいい、お前が家族を殺されたように、相手を殺せばいいじゃない」
「な...お前何様だ?!」
「ただの通りすがりですが、これ以上弱者を虐げるのならば副生徒会委員長の権限を行使します。」
「そうかい、お前、敵を殺せばいいとか言ったな、副委員長さんがそんな事言ってどうなるかわかっているのか?」
「そうですね、話し合いで解決できればと思ったのですが」
「どう考えたってお前がバカな事言ってるだろ!戦争だからって、残された奴の気持ちなんかお前に分かるか?」
「分かりませんよ、私には家族がいませんから」
「そう言う事をサラッと言うな!」
「分からないものを分からないと言って何が悪いんですか?嘘でもいいから同情しろと?」
「そうじゃない」
「二人ともいいから...もし機会があったら戦場で会おう...そこで決着をつければ良い、違うかい?」
よろよろと立ち上がった男が言った。
「貴方はいい兵士になる」
「俺が?こんなボロボロにされて?」
「強いからと言って命令に背いて暴力に走り、言葉に翻弄され冷静さを失う者に兵士が務まると思うか、良い兵士と言うのは王の命令に従って戦い、英雄と言うのはそこで功績を上げた者を言うんだよ」
「あーもう分かったよ」
「そう言う事で」
「待てよ、学園内での禁止事項」
立ち去ろうとすると棒切れを持っていた男に引き止められた。
「今回は見逃します。」
それだけ言ってその場を離れた。
「レリアさんどこいったのかなぁ」
フィリアが首を傾げる、エリルがそれを見てため息をついた。
「もっとしっかりしてよ」
「うーん、胸ばっか成長して!レリアを見習いなさい!」
「でもレリアさんの胸は小さいですよ?」
フィリアはエリルの後ろに現れたレリアに気づいた。
「うんうん、ぺたんこだよねー、変な方に栄養まわっちゃったのかな」
「あはは、そっかそっかー小さくて悪かったねー」
棒読みで会話に入ってみた。
「あれ?レリアさん何時の間に」
エリルが振り向いて慌てた。
「つい今しがたですね。」
メリルがレリアの後ろから現れる、そしてレリアの胸を後ろから鷲掴みにした。
「ひゃぅ!」
「んー、そこそこあるんではないでしょうか...」
「そっかー良かったね」
フィリアは自分の事のように喜んだ。少し複雑な気分だ...
「レリアちゃんも可愛い声出すんだね」
フィリアがトドメを刺す...
その素直な感想に悪気はないんだろう。
その時だった...
ドーンと音が響く、街の方からだった。
見ると街の方から黒煙が上がっていた。
「何事?」
また魔物が出たのだろうか、鐘が鳴り響く、魔物だ...
「行かなきゃ!」
「待ちなさい、依頼が無ければ行かなくて良い」
「でもぉ」
「何の為に自警団や警備兵がいるんですか?」
「んー」
「彼らも精鋭揃いですから、簡単には負けないでしょう。規律を破って無駄に被害を出しても責任は取れませんよ」
「うにゅ~」
とは言え、学園に集められている生徒も各国の精鋭といえば精鋭で、それなりの戦闘能力を有しているのも確かだ。
とは言え、敵がこちらに来るならば排除するべきだろう。
「次の授業は何かな」
「えっと、次は魔法訓練...」
「休むからよろしく」
「え?ええ??どっか悪いの?」
フィリアは心配そうに顔を覗き込んでくる、いつも思うがその瞳に心を見透かされそうで怖い。
クラスを抜け出して医務室に行く、本当はいつでも出られるんだけれど、フィリアに心配かけさせないようにするにはここにいる事にしておいた方がいいだろう。
先ほどから白衣を着た人達が慌ただしく走り回っている...
扉を開けると相変わらずミューゼがいた。
「あ!お姉ちゃん!」
「ん?」
「せんせーならいないよ?」
「どこに行ったの?」
「魔物が出てね、怪我人いっぱいなんだって」
「そう、ちょっと様子見て来るね。」
「うん、行ってらっしゃい!」
部屋を出て先ほど黒煙の上がっていた方へと疾走する、だがそれは確実にこちらに近づいていた。