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プロローグ 先輩の思うこと

地学教室の扉がゆっくり音を立てて開く。

背の高い男の子と金髪の少女が外に見える。

声にならない声をあげて私は興奮が止まらなかった。この出来事が地学部をあれほど賑やかにするとは夢にも思わなかった。


私、白石茜は地学部にいる。

部員は今年、高校2年生になる私だけ。

同好会制度がないから、1人で部ができているがもう厳しそうだ。


昨年、初めて勧誘チラシを先輩と2人で作った。それまでは勝手に部員が集まるからと作って来なかったのだが。合宿の写真、部にある鉱物や化石のイラストをいっぱい入れて不格好だけど形になって掲示板に貼らせて貰った。デカデカと「新入部員募集中!!」とも書いた。だけども人は来なかった。


正確には2人、男子と女子が来た。

「この天体写真ってどこ撮ったんですかー?」

「夏に長野県で合宿として夜間観測を行なっていて、そこでの写真になります。」

天体に興味がありそうで、先輩と私は入部してくれるかと期待した。

「えー、合宿ですかー」

「面倒臭いねー」

「そうだねー」

「あ、あの入部は…」

横にいた男の言葉で空気が壊れた。私たちの期待は虚しく入部はなかった。それでも先輩の高3進級までに後輩を見つけようと頑張った。クラスでも友達に

「ねぇ、地学部に興味ない?」

「いや〜」

なんて会話を何度も何度も繰り返した。


でもそれが実る事はなく1月に2人で先輩の追い出し会をやった。追い出し会は焼肉屋を予約して、部をやめる先輩を見送った。かつては二十人程で追い出し会をやったそうだ。店を出て、先輩とツーショット。 


追い出し会が終わって部員は私1人となったら、顧問からは部員を見つけるよう催促され、春休みの内に勧誘チラシを作った。

他の部と違って、私は一から制作した。去年と別の写真を入れて、地学教室の場所を書いて。前よりもずっといいものができた。ようやく仕上がったのは締切目前。委員にチラシを渡して掲示板に貼り出される。生物部の下に、科学系ということで貼られた。去年と同じ生物部ポスターの下に急成長をした地学部ポスター。今年こそは部員を集める。そう意気込んだ。入学式が一番の勧誘チャンス、声が枯れるまでやってやろう。


ここで必ず新入部員を捕まえる。


文化部筆頭の生物部、運動部筆頭の野球部はそれぞれ何十人もの部員を広告に向かわせていた。

「生物部、4階でーす!今なら貴重な昆虫に魚、触れまーす!」

「野球部、東グラウンドでやってます。部員から直接、投げ方・打ち方を教えています。」

私も一人で微力ながら簡単に地学部と書いた看板を持って歩く。

「地学部4階です…」

人で賑わう廊下で私の声は誰にも届かなかった。


声をかけられて期待したこともあったが

「すいません」

「どうしました?地学部のことですか?」

「いえ、鉄道研究部ってどこですか?」

「…2階にあります。」

「ありがとうございました。」

と地学部の話は一回もなかった。

何度も階を上り下りして疲れて、とりあえず部室に帰ることにした。新入部員用に並べた数多の岩石、天体写真。全て無駄だったようだ。鉱石を触ってみる。

冷たく固い。去年先輩と作ったポスターにイラストとして入れた鉱石。名前は瑠璃と言って幸運を運ぶという意味があるらしい。だけど、今年でこれも終わり。廃部の二文字が頭をよぎり私はどきりとした。


新入部員を作らねば。


その時重い金属で出来た部屋の扉が開いた。扉からは背の高い男子がこちらを伺っている。奥には金髪の少女が見える。

「えっ…」

声にならない声が出た。その後直感的に悲願の新入部員が来たと思って興奮しながら中に招く。2人は物珍しそうに石を見た後、私に自己紹介をした。

「1年の相沢優斗です 入部を希望しています。」        「同じく1年の桐江・レナです。入部は検討中です。」

「素っ気ないって、もっと柔らかくいこうよ」

なかなかに仲が良さそうだ。

「そうですか?いつも通りの振る舞い方をしているだけです。」

「変わらないなー」

どうやらクラスメートなのか、普段から距離が近い感じがする。というより、黒髪でお調子者の爽やか男子と金髪の真面目系美少女なんて結ばれるに決まってる!今の今まで部員を見つけるのに没頭していたから隠れていたが私は超が付くほどの恋愛脳だ。こんな展開、絶対結ばれる。というか結んでみせる。

「2人は、同じクラスなの?」

「 いえ、違います。」

「えっ?」

「その、この方がずっと私に構って…」

嘘だろ。

入学早々いちゃついてるのかと思ったら片思い?

相沢くんが桐江ちゃんを好いてる?

いや待て、好きだからこそ素っ気ない態度をとってしまう。そういうのでは?

つまり、両片思い?

頭の中で後輩に良からぬ妄想を膨らませた白石だが、遂には意を決して

「その、2人は付き合ってるの?」 

「………」

「えぇーと、仲がすごく良さそうで。」 

「………」

「はい。僕は彼女と仲良くしたいと思っています。」             なんだか、気まずい空気になってしまった。それを破るように震えた声で

「待って。決してそんな事は。彼が一方的に付きまとうんです。付き合うなんて、したこともないですし。」

と彼女は言った。髪の隙間から見える耳は赤くなっていて、心なしか目も潤っている。黄金色に輝く肩下までまっすぐと伸びた髪。大きく澄んだ深い青の眼。どうみても美少女と言い切れる容貌だが、意外にも慣れていないのか。


ここまで、考えたところで流石に駄目だと思い                「そのっ、ごめん。入部の話かな。」

と話題を逸らした。彼女はまだ俯いたままであるが、彼は話を聞いてくれそうな感じだし、いいか。

「えっと、地学部は普段はこの地学教室で鉱石を調べたり気象通報をまとめたりなどの活動をやっています。」

「気象通報?」

「NHKが日本の周辺の天気とか気圧とかを放送してくれてるの。」

「それをまとめると?」

「そ、それで夏には長野の方に行って天体観測を行ったりもする。」

「長野か〜いいね。」

彼が機転を効かせて、桐江ちゃんに話題をふる。まだ少し涙目だが、気丈に振る舞って答える。

「そんなに浮かれない。ただの合宿なんだから。」

「相変わらず、厳しいですね」

まぁまぁ、入部は堅いか?

ここで一気に押すしかない。

「やっぱり夜空って好きな人と見るものじゃん?毎年多くの部員がカップルを作れてるよ」

「えっと、白石先輩。部員はそんなに居なかったのではないのですか?」

「そうだよ。私の妄想」

そういうと、桐江ちゃんは疑うような目で見つめてきた。


「まっ、そんな感じで部活はやってます。月・水・土が活動日。そんなに気負わずに来てよ。」

なかなかに波瀾万丈の部活紹介だったが手応えはある。あとは、悲願のあれ。

「それから、砂金甲子園。これは本気でやるから。」   

「えっ?」

沈黙と困惑が1年生に流れたが私は本気だ。

「砂金甲子園ってのは、毎年夏に山梨でやる砂金を取る大会のこと。今まで部員が少なすぎて行かなかったけど、今年こそは絶対に行く。」

「その、砂金を取るっていうのは?」

「入部したら教えるけど、大会は砂の中の砂金を早く正確に見つけた人が勝ちっていうの。」

「僕、力には自信があります?」

少しはにかんだ顔で、袖をまくり腕を見せる。確かに盛り上がった筋肉が見えるあたり体力もあるのだろう。

ただ、それだけじゃ足りない。

「砂金取りって、お皿見たいのを使ってやるのですよね?私、1回テレビで見たことあります。」

意外にも桐江ちゃんは分かっているらしい。

「そう、それ。技術も必要だから練習は大事だよ。」

神妙な面持ちで2人は頷いた。でも、砂金甲子園に出られるかより、入部するかの方が大事。もっといえば入部して付き合うかが1番大事。

「それで、2人は入部する?」

「僕は、入部します。入部届を渡せばいいんですよね?何組ですか?」

「私も試しに入部します。一応、精一杯やるので。」


 よし! よし! よし!

念願の新入部員。今年はいける。

なんでもいける気がする。


文化祭大賞・地学オリンピック・プラネタリウム上映・砂金甲子園、今まで夢のまた夢だったものが叶おうとしている。


「私はB組だから、朝礼前とかに来てくれる?」

興奮気味に伝えると、訳のわからない一年生は動揺しつつもメモを取って、しばらく話したのちに帰宅した。


1年生が消えた地学教室には部活紹介のために出したものが沢山並び、あと小1時間ほどで片付けなければならない。

いつもなら、ただの重荷だった。

なんの役にも立たなくて面白くなかった。

でも、今は違う。彼ら、彼女らが必ず何かを変える。心地の良い疲れ具合で、私は鉱石を箱に詰めていった。

夢が叶うといいな。

それと、恋愛成就。

そんな思いを込めて。箱の蓋を閉じた。

お読みいただきありがとうございます。


記念すべき連載の第1回目が無事完成し良かったです。

今の所、白石のフルパワー感がすごいですね。

ですが、第1話以降は相沢君に視点を移していくので、それぞれの別の面も見れると思います。


最後にですが、感想を頂ければ執筆の励みになりますので、一言でも貰えると嬉しいです。

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