水面(みなも)の誓い、犬たちの見守る愛
――速水誠と守屋あおい、瀬戸内の潮風に誓う
瀬戸内海、穏やかな潮風が吹く日曜日。
岡山支部所属だった守屋あおいが、練習の合間を縫って山口へやってきた。目的は一つ、速水誠との「久しぶりのデート」だ。
「誠、遅い! 練習終わったらすぐ来るって言ったのに、もう3分もオーバーしてるんだけど?」
防波堤の上で腕を組み、仁王立ちするあおいの足元には、真っ白なポメラニアンのヘラが「キュンキュン!」と鳴いている。
「ご、ごめん、あおい! 39号機の最終調整に手間取って……」
汗だくで駆け寄る誠の腕の中には、もふもふとしたペキニーズのシロ。二匹の犬も、久しぶりの再会に尻尾を振っている。
「もう! 私とシロ、どっちが大事なのよ!?」
「そ、それは……シロには内緒だけど、あおいの方が……」
誠の口ごもった返事に、あおいは頬を赤らめ、小さく「ばか」と呟いた。
二人が向かったのは、海沿いの小さなカフェ。
窓からは、キラキラと輝く水面が広がる。からくり競艇のレーサーである二人が、レースとは違う穏やかな水面を眺めるのは、少しばかり新鮮だった。
「ねぇ、誠。私、最近思うんだけど」
あおいが、パフェのチェリーをスプーンでつつきながら、ポツリと言った。
「誠のマブイ、1000しかないのに、なんであんなに強いの? 私、全然追いつけない時があるんだから」
あおいはコアマブイ3000、外付け15000。誠の3倍以上のマブイを持つ「天賦の才」の持ち主だ。しかし、誠の「超・省エネ型」の精密コントロールと、必殺技「スカイ・ハイ」の変態旋回には、彼女でさえ舌を巻くことがあった。
「あおいこそ、天女って呼ばれてるじゃん。僕なんか、お前の引き波についていくのがやっとだよ」
誠が苦笑すると、あおいはムッとした顔で誠の膝を蹴った。
「馬鹿! そういうことじゃないの! 私、誠のこと……その、すごく尊敬してるんだからね!」
ヘラとシロも、二人のやり取りを不思議そうに見上げている。
誠は、パフェを食べ終えたスプーンをそっと置き、あおいの手を取った。
「あおい。僕のマブイは少ない。だから、お前みたいに才能のある人間と並んで走るには、誰よりも頭を使って、誰よりも機体を信じるしかないんだ」
誠の瞳には、からくり競艇への真っ直ぐな情熱が宿っていた。
「いつか、僕がお前の『天女』って名前を、誰もが認める『女王』に変えてみせるよ。だから、もう少しだけ、僕の隣で走っててくれないか?」
あおいの顔が、これ以上ないほど赤くなった。
「な、なにそれ……プロポーズみたいじゃん……。分かったわよ、ばか」
彼女は照れ隠しに、誠の頭をペシッと叩いた。
カフェを出た二人は、再び防波堤へ向かった。
夕焼けに染まる瀬戸内海の水面は、まるで二人の未来を映し出すかのように、キラキラと輝いていた。
ヘラとシロが、楽しそうにじゃれ合いながら二人の足元を駆け回る。
「……ねぇ、誠」
あおいが、誠のジャケットの裾をそっと掴んだ。
「あのさ、今度、私のヘラと誠のシロ、合同で『犬のマブイ訓練』でもしない? もっと強くなれるように!」
「ハハ、それはいいね! きっと最強のからくり犬になるな!」
誠とあおい、そして二匹の愛犬が、夕焼けの海を背に、寄り添うように歩いていく。
水面には、若き二人の「誓い」が、確かに刻まれていた。




