表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

選んだやり方

天井を見つめたまま、澪は考えていた。


今日の戦いは、簡単だった。


ゴブリンは弱く、

短刀があれば、急所を突くだけで終わる。


奇襲を受けたのは反省点だが、

それも致命的な失敗ではない。


「……でも」


胸の奥に、引っかかるものが残っている。


これで、強くなれるのか。


答えは、どうしても肯定できなかった。


澪は体を起こし、端末を手に取る。


試練型ダンジョン。

その情報を、もう一度見返す。


攻略情報。

初心者向けの解説。

体験談。


読み進めるうちに、

ある共通点に気づいた。


――苦戦した人ほど、伸びている。


同じ階層を攻略した人間同士を比べた場合、

楽に進んだ者よりも、

厳しい戦いを強いられた者のほうが、

その後の成長幅が大きい。


身体能力。

能力の出力。

反応速度。


数値として残された検証データも存在していた。


一部では、こんな説も唱えられている。


ダンジョンは、

より大きな苦難を乗り越えた人間に、

より大きな恩恵を与えるのではないか。


根拠がないわけではない。


実際、同条件下で比較した場合、

より厳しい条件で突破した者のほうが、

身体能力や能力出力が高い傾向を示している。


つまり――

苦難を乗り越えた者に、

より大きな恩恵が与えられる可能性は高い。


ただし。


それを踏まえたうえでも、

この説は主流にはなっていなかった。


理由は、単純だ。


下の階層へ進み、

より強い敵を、より多く倒したほうが、

結果的に効率がいい。


そう考える人間のほうが、圧倒的に多い。


特に、能力を持つ者にとってはなおさらだった。


能力を使えば、

短刀などの近接武器を振るうよりも、

はるかに安全で、簡単に敵を倒せる。


攻撃力の高い能力であれば、

下の階層へ進む速度は段違いになる。


そこで戦い、

より強い敵を倒していったほうが、

効率よく恩恵を受けられる。


能力を使った戦いに慣れること自体も、

成長につながる。


慣れたころには、

すでに相応の実力が身についている。


そうして、才能の差はさらに広がっていく。


苦難を選ぶ必要がない者が、

あえて苦難を選ぶ理由はなかった。


だから、この説は広まらなかった。


「……なるほどね」


澪は小さく息を吐く。


合理的だ。

そして、納得もできる。


でも。


「私には、関係ないか」


澪は今日の戦闘を思い返す。


短刀があれば、簡単だった。


逆に言えば――

短刀があるから、簡単だった。


「……じゃあ」


もし、武器がなかったら。


少なくとも、

今よりは苦戦する。


澪は自分の手を見る。


鍛えたことはない。

殴り合いの喧嘩をしたこともない。


非力な女だ。


能力もない。


ボクサーの素手格闘より、

よほど無茶な戦い方になるだろう。


「……きついのは、間違いない」


でも。


だからこそ。


他の人と同じやり方をしても、

同じ結果にしかならない。


無能者なんだから、

なおさらだ。


「……だったら」


楽な道を選ばない。


奇襲もしない。

武器も使わない。


正面から、

殴って、蹴って、倒す。


それができるようになるまで、

何度でも挑めばいい。


澪は端末を操作し、

格闘技の基礎を調べ始める。


パンチの打ち方。

キックのフォーム。

体重移動。


どれも、見様見真似だ。


「……どうせ、正解なんてないし」


だったら、

自分なりのやり方を見つけるだけだ。


澪は端末を置き、深く息を吸う。


明日は、またダンジョンに行く。


次は――

正面から。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ