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最初の試練

試練型ダンジョンの内部は、静かだった。


足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が肌にまとわりつく。

第一層は、どの地域でも共通しているらしい。


洞窟。


壁も床も岩肌に覆われ、

人工物らしいものはほとんど見当たらない。


構造も単純だ。

迷路のように分岐はあるが、罠の類は存在しない。


この層では、純粋に“戦えるかどうか”だけが問われる。


試練型ダンジョンは、一層につき十階構成。

そして、その最奥には必ず階層主がいる。


階層主は、次の階層へ進むための番人だ。

倒さなければ、先には進めない。


もっとも――

今の澪には、まだ関係のない話だった。


「……まずは一階、か」


小さくつぶやき、周囲を見渡す。


装備は、短刀一本。

それと、動きやすい服装だけ。


防具はない。


試練型ダンジョンは蘇生可能だ。

命は戻るが、身に着けていたものは戻らない。


服も、防具も、武器も――

壊れたら終わりだ。


続けられるかどうかも分からない探索に、

無駄な金をかける気はなかった。


その時だった。


奥の通路から、かすかな物音がする。


澪はとっさに身を隠し、様子をうかがった。


現れたのは――

ゴブリン。


子供ほどの体格で、

手には棍棒を持っている。


「……きも」


率直な感想が、頭に浮かんだ。


ゴブリンは、特に何かをしている様子もなく、

周囲をきょろきょろと見渡している。


何か目的があるようには見えない。


調べた情報によれば、

ゴブリンに高い知能はない。


深い意図があって立っているわけじゃないのだろう。


「……じゃあ」


奇襲。


そう判断し、機会を待つ。


ゴブリンがそっぽを向いた、その瞬間。


澪は飛び出した。


短刀を構え、一気に距離を詰める。


――突いた。


だが。


肩。


致命傷には、ほど遠い。


「……っ」


ゴブリンが暴れ、

短刀はそのまま体に刺さった状態で手放してしまった。


ゴブリンは、肩に刃が刺さっているにもかかわらず、

それを気にする様子もなく、棍棒を振り上げて突っ込んでくる。


大振り。


子供の体格ゆえ、リーチは短い。


澪は一歩退き、

棍棒が床を叩くのを見てから、手を伸ばす。


刺さったままの短刀を引き抜き――

今度は、首。


刃が入った瞬間、

ゴブリンの動きが止まった。


次の瞬間、

その体は砂のように崩れ、消えていく。


「……ふぅ」


一息つき、立ち止まる。


振り返ると、

自分が突いた場所が、はっきりと思い出せた。


初手で、急所を狙っていなかった。


刃物を生き物に向けたのは、初めてだ。

無意識に、致命傷を避けたのかもしれない。


「……反省点、そこだけかな」


そう考えた、その瞬間。


背中に、衝撃。


激痛。


「――っ!」


思わず前につんのめり、振り返る。


そこには、別のゴブリンがいた。


どうやら、奇襲を受けたらしい。


「……むかつく」


舌打ちしながら、体勢を整える。


ちょうどいい。


さっきの反省を、試す機会だ。


距離を取る。


ゴブリンは、考えなしに突っ込んでくる。


勢いをつけた大振りの攻撃。


避けるのは、難しくない。


すれ違いざま、

首元へ短刀を突き入れる。


それだけで、十分だった。


ゴブリンは抵抗する間もなく崩れ落ち、

同じように砂へと変わって消えていく。


澪は周囲を見渡し、警戒を続ける。


――他に、気配はない。


「……今日は、ここまででいいか」


学校帰りだ。

時間も遅い。


どうせ、明日は休日。


進むなら、その時で構わない。


そう判断し、澪はダンジョンを後にした。



帰宅後。


ベッドに横になり、今日のことを振り返る。


戦闘は、拍子抜けするほど簡単だった。


奇襲を受けたのは失敗だが、

致命的なミスではない。


急所を外したのも、

慣れの問題だろう。


それでも――


「……こんなに、簡単でいいのかな」


ぽつりと、疑問が浮かぶ。


生き物の命を奪う行為に、

強い忌避感を抱く人は多い。


特に、人型のゴブリンは、

それだけで脱落する者も少なくないらしい。


でも、澪は違った。


肉を裂く感触が、少し気持ち悪い。

それだけだ。


短刀で急所を突けば、簡単に倒せる。


最初の一体も、

首を狙っていれば一撃だったはずだ。


「……これで、強くなれる?」


答えは、出なかった。


確かに、階層が進めば敵は強くなる。

今は、ただの序盤だ。


でも。


このまま、

同じやり方を繰り返していいのだろうか。


澪は、天井を見つめたまま、考え続ける。

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