表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/50

澪VS石崎

澪たちは、来月の大会に向けて互いのことを知るため、対戦型ダンジョンへ来ていた。

この世界のダンジョンは、試練型でも対戦型でも、パーティ登録をしない限り同じ空間を共有できない。今回は観戦機能を使い、戦っていないメンバーは透明な壁の向こうから試合を見られる。


「じゃあ、澪ちゃんVS石崎くんから始めよっか!」


ひなたの声がやけに軽い。

澪はそれだけで肩の余計な力が抜けそうになるのを、呼吸で押し戻した。


(観戦されてるの、嫌いなんだけどな)


透明壁の向こうにはひなたと神谷。表情が見える距離だ。

澪は視線を戻して、石崎を見る。斧を握る指が太く、構えは雑に見えて無駄がない。体格も一回り大きい。


「期待を裏切らないでよ」


挑発のつもりで言うと、石崎はすぐ噛みついた。


「てめえこそ、弱かったら拍子抜けだ。あとで笑ってやるよ」


同時にカウントダウンが始まる。

澪はつま先の向きだけ調整して、重心をほんの少し前へ。石崎は斧を斜めに構え、踏み込みの足を決めた。


<start>


ゼロになった瞬間、二人とも飛び出した。


石崎のほうが先に間合いを潰す。武器のリーチがある分、攻撃の“届く場所”が広い。

斧が横から来る。風を切る音が短い。軽い――最初は軽い斧で速度を出している。


「うらあ!!」


澪は半歩だけ外へ逃がしてかわす。

すぐにカウンターの拳を返すが、踏み込みが甘い。掠るだけで終わった。


(今の距離じゃ浅い)


石崎は振り抜いた斧を返す。反転が速い。

二撃目。澪は距離を取って、刃先の軌道から外れる。


「おいおい。臆病じゃねえか。ゴーレムの時みてえな無鉄砲さはどこ行ったんだよ」


「うるさい」


澪は再生能力を持っている。だが“受けていい理由”にはならない。

切断されればその間は攻撃も防御も落ちる。再生の瞬間はどうしても隙が生まれる。


それでも澪は焦らない。最初の数手で、石崎の癖が見えてきた。

斧の戻し方、踏み込みの角度、重心の移し方――そして、当たる直前の妙な“溜め”。


「石崎。今ので決め切れなかった以上、お前の負けだ」


「は? 何言ってやがる。まだ始まったばかりだろうが」


「お前の身体能力はもう分かった」


「は?」


その瞬間、澪が踏み込む。

直線じゃない。斧の死角に入る角度で、半歩ずつ詰める。


石崎が迎え撃つように斧を振る。澪はひらりと身を捌き、蹴りを放った。

足の甲じゃなく、脛に近い硬い部分。体重を乗せて刺す。


「ぐっ……!」


石崎は斧で受けた。防げたはずなのに、腕が痺れる。

澪はそこを逃さない。追撃の拳が伸びる。


澪の拳が石崎を貫き、石崎はものすごい勢いで壁に吹き飛ばされた。


「……なんだ?」


手応えが抜けた。

硬い肉に当たったはずの感触が、途中で“空振り”みたいに軽くなる。


観戦席の方でひなたが思わず声を上げた。神谷も小さく息を漏らす。


石崎は壁にぶつかったのに、動ける。息は荒いが致命傷ではない。

澪はその理由にすぐ辿り着く。


「自分の質量を落としたのか」


「一瞬で見抜くんじゃねえよ。難しいんだぜこれ」


殴られる瞬間だけ、極限まで軽くして衝撃を逃がす。

“吹き飛ぶ”のはダメージを受け流すための選択だ。


「でも無駄。これを繰り返すだけで私の勝利は揺るがない」


「その前に殺してやるよ」


石崎が斧を構える。握り直しが一瞬だけ遅い。さっきの衝撃が残っている。


澪が走り出した瞬間――


「おおおお!」


石崎は掛け声とともに斧を地面に叩きつけた。

轟音と振動が空間に走る。床が跳ねたように澪の足裏が浮き、視界が揺れた。


「……っ」


離れていたのに影響が来る。

叩きつける瞬間に莫大な質量を載せたのだろう。衝撃が“波”みたいに広がってくる。


石崎は自分の質量も高めているのか、振動に耐えたまま先に動けた。

澪が体勢を整えるより一瞬早く、距離が詰まる。


(今か)


「終わりだ!!」


限りなく重い一撃が澪を襲う。

澪は避ける。だが刃の端が腕をさらった。


左腕が切断される。


澪は腕に目もくれず、かわした体勢のまま石崎を蹴り飛ばした。

重い一撃の“あと”は、どうしても隙が出る。そこに蹴りを差し込む。


「うお!?」


石崎が吹き飛び、距離が開く。

その一瞬で澪は落ちた左腕を拾い上げ、切断面に押し当てる。


ぐちゃり、と嫌な音がして、間もなく腕がくっついた。

皮膚が縫われるみたいに閉じ、骨が中で噛み合っていく。


「バケモンかよ」


「失礼なやつだな」


澪はあえて平然として見せる。相手の心を折るための言葉だ。


「お前の攻撃はもう治った」


「……ほざけ」


強がる石崎だが、劣勢を感じているのは隠せていない。呼吸が一段深い。肩の上下が大きい。


「終わらせる」


澪が呟き、突撃を始める。

今度は無理に一撃を狙わない。石崎の斧の戻しに合わせて、じわじわ距離を詰める。


石崎は迎え撃つが、明らかに動きが鈍い。


(やっぱり…)


さっきの一撃には石崎自身にも負荷がかかっていたのだろう。

質量が大きくなっても体の強度は変わらない。無理に質量を増やせば、その負担は自分に返ってくる。


だが、


「負けるかよ。負けるわけにはいかん」


石崎が気合を入れなおす。

呼吸を整え、足の運びが少し戻る。斧の軌道が鋭くなった。


澪は“戻っていく瞬間”の隙を突き、渾身の拳を叩き込む。

石崎がどうにか腕で防いだが、骨が粉砕した音が聞こえる。


だが、石崎は武器を放り投げた。

空いた腕で澪の体を掴む。指が食い込み、力が抜けない。


澪の体が妙な感覚に包まれ、石崎に持ち上げられる。


(軽い――)


自分の体重が消えたみたいになる。

石崎が質量を弄った。澪の反射が遅れる。


「らあああ!」


澪の体を振り回し、勢いよく床に叩きつける。

叩きつける瞬間に質量を重くし、ものすごい運動エネルギーを澪の体に叩き込む。


澪はバケツをひっくり返したような量の血を吐き出した。

体が焼けるように熱い。息が入らない。それでも思考だけは冷えていた。


(次を出させるな)


石崎が再度持ち上げようとした瞬間、澪は脚を振る。

深刻なダメージのせいで威力は出ない。だが、今の石崎を離すには十分だった。


澪は血を吐き出し、息を整えながら言う。


「やるじゃん。マジで死んだかと思った。」


石崎は息も絶え絶えに文句を返す。


「うるせえっ……むしろ……なんで、生きてんだよ?」


澪の体は再生を続けている。普段壊れる箇所ではない分、再生に時間がかかっているようだった。

澪が動かないのを見て、石崎は「もう勝ち筋がそこしかない」とでも言うように、ふらつく足を無理に前へ出す。


「いい加減死ね」


しかし精彩を欠いた一撃は澪に届かず、空を切る。

澪の視界がはっきり戻る。身体の熱が引いていき、息が入る。


再生が終わると同時に、澪は距離を詰めた。


「これで終わり。」


顎を殴り、意識を飛ばす。

石崎の目が一瞬見開かれ、それから糸が切れたように崩れた。


試合終了。

澪は肩で息をしながら、拳を握り直した。



観戦を解いたひなたと神谷が合流する。

石崎は復帰して早々、澪を見て吐き捨てた。


「対戦中にも思ったが、お前の戦い方化け物かよ。」


「失礼なやつだな。」


ひなたが笑って頷く。


「あははー。でも結構事実だと思うなー。はたから見てたら、なんで生きてるのーって感じだから。」


神谷も穏やかに頷いた。


「そうだね。でも石崎君もすごく強かったよ。」


今の対戦の振り返りで、澪の異常性と石崎の強さは十分に共有できたようだった。


「まあ認めてやるよ。てめえは今の俺より強い。このチームならこの大会も勝ち抜けるだろうよ。」


「なんで上からなんだよ。雑魚。」


澪はイラっと来たようで不要な喧嘩を始めた。


「もう!澪ちゃん!そんなことで喧嘩しない!!」


「にぎやかだねー。」


ひなたになだめられ、澪は咳ばらいをして三人を見回した。

言い合っても意味がない。


ひなたがぱん、と手を叩く。


「よし!来月の大会に向けて、澪ちゃん・神谷くん・石崎くんはダンジョンで仕上げる!」

「私は情報収集と作戦!相手の傾向とか会場のルールとか、そのへんまとめる!」


神谷は拍手で応えた。


「いいね。助かるよ。」


石崎は舌打ちで返した。


「……好きにしろ。」


まるでバラバラなチームに澪はため息が出るが、優勝できる予感に心が躍った。


ひなたが勢いよく拳を上げる。


「みんなでがんばろー!!」


神谷は拍手で応える。


「うん。頑張ろう」


石崎は舌打ちで返した。


「……好きにしろ」


澪は一歩だけ先に歩き出す。振り返らない。


「置いてくよ」


「待ってってば澪ちゃーん!」


ひなたの声が後ろから追いかけてきた。

その賑やかさを背中で聞きながら、澪は口元だけわずかに上げた。


(悪くない)


補足:ダンジョンで大怪我を負ってしまった場合、ダンジョンマネーでポーションの購入ができます。石崎の腕は蘇生による治癒ではなく、ポーションによる治癒で治っています

作中で説明がなかったため、後書きにて補足させていただきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ