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人探し

とりあえず人を探すなら、学校のコネクションに頼るのが手っ取り早い。


ひなたは別クラスへ聞き込みに行った。神谷も同様に、自分の繋がりを頼って動くと言っていた。

澪だけが、自分のクラスで当たることになる。


(……こういうの、向いてないんだけど)


そう思いながらも、澪は近くにいた女子生徒へ声をかけた。


「ねえ、ちょっといい?」


「な、何?」


女子生徒は少し後ずさるように一歩引いた。

その様子が妙に可笑しくて、澪は小さく鼻で笑う。だが本題はそこじゃない。


「私、ダンジョン大会の新人戦に出ることになったんだけど、あと一人探してる。探索者の知り合い、いない?」


「だ、ダンジョン大会……? ええと、探索者の知り合いってことよね」


「そう。私と神谷と……あと一人誰か欲しい」


その名前を出した瞬間、女子生徒の空気が変わった。

驚きのあとに、妙に硬い正義が乗る。


「無能者のあんたが神谷くんとチームを組むの? 図々しくない?

神谷くん、巻き込まないでよ。迷惑でしょ」


一瞬、澪は言葉の意味を理解できなかった。

すぐに合点がいく。澪は、いまだに“無能者”扱いされているのだ。


(……ああ。まだそのままか)


面倒くさい。けれど、放っておくのも癪だ。

澪はため息を吐き、短く言った。


「私、無能者じゃない」


「嘘よ。無能者に能力なんてないでしょ。そうじゃないなら証明してよ!」


ざわ、と周囲が揺れた。近くのクラスメイトたちが顔を上げるのが分かる。

澪は視線だけを女子生徒に向けた。


「再生能力」


「……は?」


「証明するには怪我がいる。面倒だからやらない」


「逃げてるだけじゃ――」


「勝手に言えば」


澪は会話を切る。目的は言い合いじゃない。


「で、心当たりは? 探索者の知り合い」


女子生徒は勢いを失い、言葉に詰まった。

返事は出ない。


「……もういい」


澪は踵を返し、教室を出た。

背中に残る空気の悪さが、ただ鬱陶しい。


(やっぱ、こういうの向いてない)



「最悪」


昼休み。いつもの溜まり場。

澪は先ほどの一件を思い出し、顔をしかめていた。


「澪ちゃんにはコミュ力なんてないもんね!」


「うっさい」


ひなたがからかってくる。澪は二度と同じことをしないと心に誓いつつ、二人に目を向けた。


「で? そっちはどうだった」


その言葉を待ってましたと言わんばかりに、ひなたが胸を張る。


「三人、候補見つけたよ!」


「昨日の今日でよく見つけたね。朝倉さんはすごいね」


神谷が素直に褒める。ひなたは鼻を高くし――すぐに真面目な顔になって説明を始めた。


「一人目は三年三組の岡本 淳くん。炎の能力で、試練型の到達階層は三層六階。性格は熱血で、周りの評価も高いね」


「二人目は一年二組の萩原 夏樹ちゃん。植物の能力者で、試練型の到達階層は二層三階。性格はよく分からなかったけど、友達と一緒に潜ってるみたい。最近は一人で攻略することもあるって」


ひなたはそこで一度言葉を切り、少しだけ言いづらそうに視線を泳がせた。


「……最後が二年二組の石崎 龍成くんなんだけど」


「どうしたんだい?」


神谷が促す。ひなたは覚悟を決めたように続けた。


「情報がほとんどないの。ちょっと怖い雰囲気の人みたいで……ダンジョンに行ってるらしいって噂は聞けたけど、能力とか到達階層とか、強さの話が誰からも出てこなかった」


仲間に引き入れるには情報が足りない。

けれど大会の登録まで時間もない。


結局、その日のうちに候補者へ声をかけることにした。


ひなたは萩原 夏樹。

神谷は岡本 淳。

澪は――石崎 龍成。



休み時間。

澪は二年二組を訪ねていた。


教室を見回し、石崎を探す。


「あいつか」


周囲と明らかに違う雰囲気。体格は大きめで、目つきが鋭い。

普通の学生なら、目を合わせるだけで引くだろう。


澪は迷わず教室に入った。


「ねえ。あんたが石崎?」


男の目がぎょろりと澪を捉える。

鋭い眼光が、空気を冷やす。


「ああ? なんか用か」


「あんた探索者?」


「だったらなんだ」


「あんたにお願いがある。大会に一緒に出てほしい」


石崎は不機嫌を隠しもしない。


「時間がねえ。他当たれ」


澪は一瞬、考える。

他の二人が勧誘に成功する保証はない。ここで引くのは早いが、押しすぎても逃げられる。


澪は“次の約束”だけ取りにいった。


「放課後、また来る」


「来んな」


「来る」


石崎は舌打ちを挟み、面倒くさそうに吐き捨てた。


「好きにしろ。俺がいるとは限らねえがな」


澪はそれで十分だった。

踵を返し、教室を出る。



「萩原さんはダメだった。大会には興味ないって」


「岡本くんもダメだったよ。パーティメンバーと一緒に出るみたいだ。大会ではライバルだね」


二人の報告を聞いて、澪は即答した。


「だったら石崎に頼むしかない。もう一回声をかける」


ひなたと神谷が揃って目を丸くした。


「澪ちゃんって、ちゃんと勧誘できたんだ!?」


もはや何を言っていいか分からず、澪は無視する。


「石崎は“時間がない”って言ってた。放課後にもう一回会う約束は取ってある。事情を聞いて、条件を引き出す」


「なるほど。ちなみにダンジョン歴などは聞いたのかい?」


神谷が確認してくる。

澪は肩をすくめた。


「聞いてない。そこはどうでもいい」


「どうでもいいのかい?」


「私たち二人で勝てば、もう一人の実力は関係ない」


神谷が苦笑する。


「あはは。相澤さんらしいね」


澪は続けた。


「最低限、ひなたより強ければいい」


「ハードル低いねー」


「うるさい」


とはいえ、保険としてはもう少し強い方がいい。

澪は一度息を吐き、二人を見る。


「とにかく、この方針でいい?」


「僕は構わないよ」


「サンセー!」


三人の方針は決まった。

――放課後、石崎にもう一度会う。


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