人探し
とりあえず人を探すなら、学校のコネクションに頼るのが手っ取り早い。
ひなたは別クラスへ聞き込みに行った。神谷も同様に、自分の繋がりを頼って動くと言っていた。
澪だけが、自分のクラスで当たることになる。
(……こういうの、向いてないんだけど)
そう思いながらも、澪は近くにいた女子生徒へ声をかけた。
「ねえ、ちょっといい?」
「な、何?」
女子生徒は少し後ずさるように一歩引いた。
その様子が妙に可笑しくて、澪は小さく鼻で笑う。だが本題はそこじゃない。
「私、ダンジョン大会の新人戦に出ることになったんだけど、あと一人探してる。探索者の知り合い、いない?」
「だ、ダンジョン大会……? ええと、探索者の知り合いってことよね」
「そう。私と神谷と……あと一人誰か欲しい」
その名前を出した瞬間、女子生徒の空気が変わった。
驚きのあとに、妙に硬い正義が乗る。
「無能者のあんたが神谷くんとチームを組むの? 図々しくない?
神谷くん、巻き込まないでよ。迷惑でしょ」
一瞬、澪は言葉の意味を理解できなかった。
すぐに合点がいく。澪は、いまだに“無能者”扱いされているのだ。
(……ああ。まだそのままか)
面倒くさい。けれど、放っておくのも癪だ。
澪はため息を吐き、短く言った。
「私、無能者じゃない」
「嘘よ。無能者に能力なんてないでしょ。そうじゃないなら証明してよ!」
ざわ、と周囲が揺れた。近くのクラスメイトたちが顔を上げるのが分かる。
澪は視線だけを女子生徒に向けた。
「再生能力」
「……は?」
「証明するには怪我がいる。面倒だからやらない」
「逃げてるだけじゃ――」
「勝手に言えば」
澪は会話を切る。目的は言い合いじゃない。
「で、心当たりは? 探索者の知り合い」
女子生徒は勢いを失い、言葉に詰まった。
返事は出ない。
「……もういい」
澪は踵を返し、教室を出た。
背中に残る空気の悪さが、ただ鬱陶しい。
(やっぱ、こういうの向いてない)
*
「最悪」
昼休み。いつもの溜まり場。
澪は先ほどの一件を思い出し、顔をしかめていた。
「澪ちゃんにはコミュ力なんてないもんね!」
「うっさい」
ひなたがからかってくる。澪は二度と同じことをしないと心に誓いつつ、二人に目を向けた。
「で? そっちはどうだった」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、ひなたが胸を張る。
「三人、候補見つけたよ!」
「昨日の今日でよく見つけたね。朝倉さんはすごいね」
神谷が素直に褒める。ひなたは鼻を高くし――すぐに真面目な顔になって説明を始めた。
「一人目は三年三組の岡本 淳くん。炎の能力で、試練型の到達階層は三層六階。性格は熱血で、周りの評価も高いね」
「二人目は一年二組の萩原 夏樹ちゃん。植物の能力者で、試練型の到達階層は二層三階。性格はよく分からなかったけど、友達と一緒に潜ってるみたい。最近は一人で攻略することもあるって」
ひなたはそこで一度言葉を切り、少しだけ言いづらそうに視線を泳がせた。
「……最後が二年二組の石崎 龍成くんなんだけど」
「どうしたんだい?」
神谷が促す。ひなたは覚悟を決めたように続けた。
「情報がほとんどないの。ちょっと怖い雰囲気の人みたいで……ダンジョンに行ってるらしいって噂は聞けたけど、能力とか到達階層とか、強さの話が誰からも出てこなかった」
仲間に引き入れるには情報が足りない。
けれど大会の登録まで時間もない。
結局、その日のうちに候補者へ声をかけることにした。
ひなたは萩原 夏樹。
神谷は岡本 淳。
澪は――石崎 龍成。
*
休み時間。
澪は二年二組を訪ねていた。
教室を見回し、石崎を探す。
「あいつか」
周囲と明らかに違う雰囲気。体格は大きめで、目つきが鋭い。
普通の学生なら、目を合わせるだけで引くだろう。
澪は迷わず教室に入った。
「ねえ。あんたが石崎?」
男の目がぎょろりと澪を捉える。
鋭い眼光が、空気を冷やす。
「ああ? なんか用か」
「あんた探索者?」
「だったらなんだ」
「あんたにお願いがある。大会に一緒に出てほしい」
石崎は不機嫌を隠しもしない。
「時間がねえ。他当たれ」
澪は一瞬、考える。
他の二人が勧誘に成功する保証はない。ここで引くのは早いが、押しすぎても逃げられる。
澪は“次の約束”だけ取りにいった。
「放課後、また来る」
「来んな」
「来る」
石崎は舌打ちを挟み、面倒くさそうに吐き捨てた。
「好きにしろ。俺がいるとは限らねえがな」
澪はそれで十分だった。
踵を返し、教室を出る。
*
「萩原さんはダメだった。大会には興味ないって」
「岡本くんもダメだったよ。パーティメンバーと一緒に出るみたいだ。大会ではライバルだね」
二人の報告を聞いて、澪は即答した。
「だったら石崎に頼むしかない。もう一回声をかける」
ひなたと神谷が揃って目を丸くした。
「澪ちゃんって、ちゃんと勧誘できたんだ!?」
もはや何を言っていいか分からず、澪は無視する。
「石崎は“時間がない”って言ってた。放課後にもう一回会う約束は取ってある。事情を聞いて、条件を引き出す」
「なるほど。ちなみにダンジョン歴などは聞いたのかい?」
神谷が確認してくる。
澪は肩をすくめた。
「聞いてない。そこはどうでもいい」
「どうでもいいのかい?」
「私たち二人で勝てば、もう一人の実力は関係ない」
神谷が苦笑する。
「あはは。相澤さんらしいね」
澪は続けた。
「最低限、ひなたより強ければいい」
「ハードル低いねー」
「うるさい」
とはいえ、保険としてはもう少し強い方がいい。
澪は一度息を吐き、二人を見る。
「とにかく、この方針でいい?」
「僕は構わないよ」
「サンセー!」
三人の方針は決まった。
――放課後、石崎にもう一度会う。




