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仲間

チームを組むことになった以上、お互いのことを知るべきだ。

澪はそう判断し、放課後、神谷とひなたを連れてダンジョンへ向かった。


「へえ。もう四層に到達したんだ。僕より速いね」


ゲート前で、神谷が事もなさげに言う。

澪は眉をひそめ、隣ではひなたが嬉しそうに跳ねた。


「すごいでしょ!! 澪ちゃんはいずれ最強になるんだよー!」


「素直に驚いたよ。僕も未来の最強のチームメンバーだったって自慢させてもらう」


(こいつらうざ……)


澪は内心で辟易しながら、端末を操作する。

パーティ登録。名前を並べるだけの作業のはずなのに、指先がわずかに硬い。

三人で組む、という事実が、勝手に重みを持ってくる。


登録が完了すると、ゲートの縁が淡く光り、空気が一段冷えた。


「じゃ、行こっ!」


ひなたが先に踏み込み、澪と神谷が続く。

視界が一瞬白くなる。耳の奥が、ほんの少しだけ詰まる。



四層は遺跡のような構造で、罠が多い。

石畳の隙間、壁の模様、天井の影。どれも「何もない顔」で、平気で殺しに来る。


序盤は、それこそ何度もやられた。


「ひなたがね」


澪がさらっと言うと、ひなたが即座に噛みついた。


「そうだよ! 澪ちゃんは自力で罠を踏み潰していったけど、私のことまで守ってくれなかったんだから!!」


「あはは……」


神谷が苦笑する。

澪は肩をすくめた。


「しょうがないでしょ。自分が引っかかった罠以外に反応するなんて難しいんだから」


言いながら澪は足元を見る。

石板のわずかな沈み。風の抜ける音。砂埃が薄く溜まっている部分。

それらが「次に死ぬ場所」を教えてくれる。


ひなたも、もう慣れた。

澪の動きを見て、半拍遅れて同じ角度に身体をずらす。遅れてもいい。生きていれば学べる。


「八階まで来てるんだよね。今日はもう少し先まで行けるかも!」


ひなたが言うと、神谷は目を細めた。


(……半年前に始めたはずなのに、よくここまで)


四層は、探索者なら誰でも一度はつまずく。

罠の種類が多い上に、「死なない」ことに甘えた奴から順に雑になる。

それを、二人はちゃんと越えている。


しかも、聞いた話では澪は素手で潜っているらしい。

控えめに言って頭がおかしい。――けど、妙に嬉しかった。


(相澤さんなら、もしかして)


そのときだった。


神谷の足元で、ガゴン、と鈍い音が鳴った。

石が沈む、嫌な感触。


「「「あっ」」」


言う暇もなく、床が抜けた。

重力が落ちる。胃が浮く。風が顔を叩く。視界の端に石の縁が走り、身体が一気に暗い縦穴へ引きずられた。


――落とし穴。



「おっと」


神谷は体勢を整え、着地の衝撃を膝で流す。

澪も同じように、静かに衝撃を殺した。


「うわー……!」


ひなたは落ちる途中で澪の腕に掴まれ、そのまま抱えられる形で着地した。

四層では日常茶飯事。慣れていても気分のいいものじゃない。


「とりあえず、辺り照らすね」


神谷が指先を上げると、光球が生まれた。

冷たい白。温度のない光が、ゆっくりと空間を広げる。


広い部屋。

扉がひとつあるだけで、他に出口らしいものは見えない。


「出よう」


澪が扉へ歩き出した瞬間、耳の奥に“這う音”が触れた。

湿った擦過音。石の上を、鱗がなぞるような。


三人が同時に止まる。


神谷が光を強め、部屋の隅を照らし切った。


「――ラミアだ」


照らされた影が、ゆらりと頭を持ち上げた。

蛇の胴体が石に擦れ、鱗がわずかに音を立てる。


「ラミアだ!!」


ひなたが叫ぶ。

澪は反射で踏み出そうとしたが、神谷の腕がそれを制した。


「ここは任せて」


神谷の声は淡々としていた。

剣を抜く。構えも雑に見えるのに、空気が変わる。距離が遠いはずなのに、足元の安心が消える。


ラミアは威嚇して、じり、と胴を縮めた。

飛ぶ気だ。澪はそう読む。――だが。


「ごめんね。そこはもう僕の間合いなんだ」


神谷の剣が、軽く振られた。


次の瞬間、空気が“裂けた”。

白い線が走り、風圧だけが遅れて頬を撫でる。


ラミアが身をよじった。反応した、ように見えた。

でも、間に合わない。


首が、落ちた。


胴体が遅れて倒れ、鱗が石床に当たって乾いた音を立てる。

血の匂いより先に、静寂が来た。


「終わったよ。さあ、出よう」


神谷は、本当に何でもないことのように言った。


澪は奥歯を噛む。苛立ちが浮く。

あの一閃が気に入らない。余裕が気に入らない。――強さが気に入らない。


でも同時に、測れた。


(……届かない強さじゃない)


それが分かっただけで、胸のどこかが少しだけ落ち着いた。

「絶望」じゃなく「差」だ。差なら縮まる。


「強いね! 瞬殺だ! 今のが能力?」


ひなたが目を輝かせる。

神谷は剣を収めながら答えた。


「うん。光の能力で、僕は質量とか……ある法則を付与した光を生み出せるんだ」


「へえ、例えばどんな?」


緊張感の欠片もない会話をしながら、二人は扉へ向かう。

澪はため息を吐き、ひとつだけ決めた。


(後で、あいつには一言言う)


苛立ちを抱えたまま、二人の背中を追った。



ダンジョンから出ると、外の空気がやけに軽かった。

さっきの一閃が頭から離れない。強い。苛立つ。でも、測れた。


帰り道。

ひなたが急に歩幅を落とした。


「ねえ。やっぱりさ」


「なに」


澪が短く返すと、ひなたは少しだけ迷う顔をしてから、言った。


「人数、揃ってるけど……もう一人、集めようよ」


澪は足を止めた。


「は? 三人いるじゃん」


「“いる”と“戦える”は違うよ」


ひなたは笑顔を作ったまま、視線だけを澪に向ける。

普段の元気な声なのに、妙に固い。何かを考察するときの声色だ。


「二本先取でしょ。澪ちゃんと神谷くんが絶対勝つ前提でも、どっちかが崩れたら終わり。保険がないのは、作戦じゃなくて願望だよ」


澪は反射で言い返しかけて――言葉を飲み込む。

願望。

その言い方が、嫌に刺さった。


神谷が目を瞬かせ、穏やかに言う。


「今のままでも行けるとは思うけどね。でも、確かに絶対に2人で勝たないといけないのは不安か。探すだけ探してみようか」


澪はため息を吐いた。


「……別に。足手まといじゃなければ」


ひなたがぱっと明るくなる。


「よし! じゃあ決まり! 次はメンバー探し!」


澪はその声の軽さに苦笑しながら歩き出した。


――足手まといじゃない“もう一人”。

そんなやつを探す手間を考え、辟易しながら息をついた。


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