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決意

意識が戻ったとき、澪は対戦型ダンジョンの待機スペースにいた。


天井は低く、壁は白い。

戦闘フィールドとは違い、どこか現実味のある空間だった。


「……負けた、のかな」


そうつぶやいてから、ふと疑問が浮かぶ。


――殺された?


首も、顎も、どこにも痛みはない。

身体に違和感もなかった。


待機スペースを出ると、神谷がそこにいた。


「やあ。大丈夫かな?」


いつもの軽い調子で、神谷は言った。


「対戦はもう終わったよ。怪我があっても、治ってると思うけど」


澪は自分の手を見て、軽く握ってみる。


「……どこも、変じゃない」


「でしょ」


澪は小さく息を吐いた。


「蘇生されると、ここに飛ばされるの?」


それを聞いた神谷は、少しだけ首を振る。


「蘇生は専用のスペースがあるよ。

ここはただの休憩所」


ああ、なるほど。


つまり、あの一撃は――

殺す必要すらなかった、ということだ。


澪は何も言えなかった。


どうやら神谷にとって、自分は

無力化するのに“そこまで”する必要のない相手だったらしい。


「ねえ」


沈黙を破ったのは、澪の方だった。


「ダンジョン、いつから潜ってるの?」


神谷は少し考えてから答える。


「十五歳の誕生日を迎えてすぐかな。

だから、ちょうど一年くらいだね」


それ以上、言葉が出なかった。


神谷は何か言っていた。

やっぱりパーティを組もうだとか、そんな話だった気がする。


でも、澪の耳にはほとんど入らなかった。


言い訳のしようもない、完璧な敗北だった。


普通なら。


ダンジョン未経験者が、ランクCの相手に負けたところで、

「まあ、仕方ないよね」で終わる。


天地がひっくり返っても、勝てるはずがない。

誰だってそう思う。


でも、澪はそうならなかった。


今回は、ハンデをもらっていた。

しかも、舐められていた。


それでも、勝てなかった。


ダンジョン未経験者だったのは、神谷も同じだ。

一年前の、神谷も。


強くなる時間は、確かにあった。


澪だって、去年の誕生日を迎えた時点で、

ダンジョンに潜ることはできたはずだ。


その事実が、澪を許さなかった。


無能者だから。

そう言って、ダンジョンに興味がないふりをして。


弱いままの日々を、選び続けていただけだ。


「……帰る」


澪はそう言って、踵を返した。


引き留める神谷の声が聞こえたが、立ち止まらない。


――いや。


さすがに、負けたくせに

「もう関わるな」なんて条件を出すのは、あまりにも情けない。


澪は一度だけ振り返った。


「ごめん。今日はちょっと無理」


神谷が口を開く前に、続ける。


「明日、また話しかけて。

その時なら、話は聞くから」


それだけ言って、今度こそ帰路についた。



家に帰ってからも、澪はベッドに横になったままだった。


今日の出来事が、頭の中を何度も繰り返す。


無能者だからと、言い訳して。

強くなる努力を、放棄していた自分。


勝てたらラッキー、なんて思っていた自分。


手も足も出ない負け方をした悔しさ。


むかつくやつを、ぶっ飛ばすこともできない。

ぶっ飛ばす力すら、持っていない自分。


胸の奥が、ぐちゃぐちゃになる。


「……強くなりたい」


小さく、そうつぶやいた。


「むかつくやつくらい、

自分でぶっ飛ばせるくらい強く」


その決意を胸に、澪は体を起こす。


端末を手に取り、ダンジョンについて調べ始めた。


今度は、逃げるためじゃない。


強くなるために。

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