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ダンジョン考察

次の日。


「作戦会議をします!」


そう宣言して、やたらとやる気満々なひなたに、澪は少し引いた。


「……うん」


「元気がないね!」


「別に……というか、作戦会議って何するの?」


そう聞くと、ひなたはドヤ顔でノートを開いた。


「これから二人でダンジョンを攻略していくんだから、方針とか色々相談した方がいいでしょ!」


「まあ、そうね……」


「というわけで考えてきました!!」


「……おー」


正直、普通に攻略する以外に何があるのか分からない。


「まずね」


ひなたはノートを指で叩きながら言った。


「お互いのことを知ることが大事だと思う!だから澪ちゃんの今までのことを教えて!」


確かに、今後の関係を考えれば必要なことだ。

澪は、これまでのことを簡単に話した。


素手縛りでダンジョンを攻略すると決めたこと。

体を壊す代わりに、打撃の威力を引き上げる戦い方を身につけたこと。


「なんというか……」


ひなたは少し笑って言った。


「脳筋で恐れ知らずだね!」


「……」


言い返せなかった。

少しイラッとしたが、澪は黙って耐えた。


「じゃあ次はひなたの番でしょ」


「うん!」


ひなたは即答する。


「ダンジョンの秘密を解き明かしたいの!でも戦闘の才能は全然なかったみたい!だから澪ちゃんに頼るね!」


「……うん」


短い沈黙が流れた。


「……それだけ?」


「とりあえず今はダンジョンのことだけでいいかなって」


そう言って、ひなたは柔らかく笑った。


しかし、すぐに表情を引き締める。


「それでね」


ひなたはノートを開き直した。


「これからダンジョンを攻略していく上で、

 知識や力をどう得るかは、私たちの強さの鍵になると思うの」


急に真剣な口調になる。

澪は正直、話についていける気がしなかった。


「差し当たっては」


ひなたは視線を澪に向ける。


「澪ちゃんの強さの秘訣を整理したい。

 澪ちゃん、素手でダンジョンに潜って、その強さを手に入れたんだよね?」


「……そうなるね」


「それにしても」


ひなたは首を傾げた。


「身体能力、おかしくない?

 下手したら今の一層の誰よりも高いんじゃないかな」


「ひなたをナンパしてた男、身体能力強化系だったけど、普通に勝てた」


その言葉を聞いた瞬間、ひなたは黙り込んだ。


(……そこまで行く?)


ダンジョン苦難説自体は、もう何年も前から知られている。

不利な状況を乗り越えれば、成長量が増える――それ自体は常識だ。


でも。


(それにしたって、限度がある)


ひなたはノートに視線を落とし、澪の条件を思い返す。


能力なし。

素手。

ソロ。


どれか一つでも、普通なら“効率が悪い”で済む話だ。

だが、全部同時に背負えば話は別になる。


(世間が想定してる苦難の範囲、完全に超えてる)


(……もしかして)


(この“過剰さ”そのものが、強さの理由?)


普通なら、どれか一つでも苦難としてカウントされても成長効率は落ちる。

それなのに、身体能力強化系に正面から勝っている。


「……他に、変わったことはある?」


ひなたは慎重に問い直した。


「変わったこと? 特に思いつかない」


「じゃあ」


ひなたはペンをくるりと回しながら続ける。


「身体能力が“はっきり上がった”と感じたのはいつ?共通点とか、何かある?」


澪は少し考えた。


「一階ボスのオーク戦と、五階ボスのオーガ戦」


澪は淡々と続ける。


「怪我して、苦戦した。

 オーク戦は手足を完全に壊して勝ったし、

 オーガ戦は泥試合で、少しずつ削って勝った」


ひなたは、ゆっくり頷いた。


(やっぱり“苦難”が関係してる)


「ダンジョン苦難説……」


ひなたは独り言のように呟く。


「状況が不利であればあるほど、成長が大きくなるって説。

 理論自体は検証されてる。でも……」


ひなたはノートに視線を落とした。


「ここまで効率がいいなら、もっと広まっててもおかしくない」


「実際は、強くはなるけど、

 才能差や限界を覆すほどの差は出ないって結論だったはず」


澪は率直に言った。


「……何言ってるか分からない」


「ごめんごめん」


ひなたは苦笑いする。


「つまりね。

 世間が想定してる“苦難”と、澪ちゃんが経験した“苦難”は違うかもしれない」


ひなたは考えを整理する。


(条件を重ねすぎてる)


・再生能力(当初は自覚なし)

・素手縛り

・ソロ


(単体でも不利。

 重なれば、普通は潰れる)


「澪ちゃん」


ひなたは顔を上げた。


「オーク戦とオーガ戦、どっちが“より強くなった”って感じた?」


突然の質問に、澪は戸惑った。


「なんでそんなこと聞くの?」


「条件整理だよ」


ひなたは即答する。


「差があれば、何が影響してるか分かるかもしれないから」


「……正直、どっちも同じ。

 細かい違いなんて覚えてない」


その答えに、ひなたは静かに納得した。


「やっぱり」


ひなたはペンを置いた。


「主観的にどう感じたかは、成長量に関係なさそう。

再生能力を自覚してたかどうかも、差になってない」


「つまり」


ひなたは結論を口にする。


「ダンジョンは、本人の認識じゃなく、

 客観的にどれだけ不利な状況だったかを見てる」


「だったら」


澪は率直に疑問を投げた。


「もう私にとって、素手って縛りじゃないよ?」


「うん」


ひなたはすぐに頷く。


「今のスタイルは完成してる。

 変えたら、逆に弱くなるかもしれない」


「だから」


ひなたは少し間を置いた。


「別の角度から縛りを作る必要がある」


「別の角度?」


「客観的に見て、誰が見ても不利な条件」


ひなたは澪を見て笑った。


「例えば――非戦闘要員を護衛しながらの攻略」


澪は少し考え、頷く。


「……確かに、それはきついかも」


「でしょ?」


ひなたは満足そうに言った。


「二人三脚も、遅い方に合わせたらスピードは落ちる」


こうして二人は、

今後も一緒にダンジョンに入り、

難易度を上げていく方針を決めた。

※補足


彼女たちは「客観的に見て不利な状況」と表現しているが、

その“客観”が誰の視点なのかについては、

この時点ではまだ誰も深く考えていない。

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