一緒に行く理由
驚愕したが、別におかしなことではない。
ダンジョンに潜ること自体は禁止されていないし、現に私も神谷も入っている。
断ろうと思えば断れた。
けれど、なぜかそうはしなかった。
「……能力は?」
了承の代わりに、まず確認する。
ひなたは少しだけ目を瞬かせてから、机の上のペンを浮かせた。
「念動力だよ。こんな感じで、ものを動かせるの」
ペンが空中でくるりと回り、まるでジャグリングのように揺れる。
素直に、器用な能力だと思った。
「強そうに見えるけど」
思ったままを口にすると、ひなたは首を傾げた。
「?」
「……いや。なんでゴブリンに勝てなかったのかなって」
その言葉で、ようやく意図が伝わったらしい。
ひなたは少し困ったように笑った。
「これ、そんなに力は出ないの。子どもくらいの力しかなくて。刃物をちゃんと立てるのも難しいんだよ」
なるほど、と納得する。
能力があることと、使いこなせることは別だ。
運動音痴な人がいるように、能力にも向き不向きがある。
私の再生みたいなパッシブ能力と違って、アクティブ能力は特に顕著だ。
「そっか。じゃあ、今日の放課後でいい?」
そう聞くと、ひなたはスマホを確認して頷いた。
「うん。今日は何も予定ないから大丈夫」
こうして、試練型ダンジョンに一緒に行くことになった。
⸻
準備があるため、現地集合にしていた。
約束の時間より少し早いが、ひなたは来ているだろうか。
周囲を見渡すと、やけに騒がしい。
「いいじゃないか、ちょっと遊ぼうぜ。な?」
「ごめんなさい。友達を待ってるの」
……ナンパか。
よりにもよって集合場所で、と思いながら、場所を変えようとスマホを取り出す。
その前に、違和感に気づいた。
声をかけている男たち――鈴宮たちだ。
あの男、もう立ち直ったのか。
図太い精神だな、と感心しかけたところで、既読がつかないことに気づく。
嫌な予感がして、もう一度現場を見る。
影になっていた女の子の顔が見えた。
……ひなた。
思わず天を仰ぎ、足が勝手に動いた。
「何してんの?」
分かりきったことを聞く。
男たちは振り返った瞬間、顔を凍りつかせた。
「み、澪さん!? いや、これは……!」
「そいつ、今日は私とダンジョンに行く約束してる」
それだけで十分だった。
男たちは一気に勢いを失い、慌てて後ずさる。
「そ、そうだったんすね! へへっ……! 思い出しました、用事! それじゃ!」
逃げるように去っていく背中を見送りながら、
相変わらずメンタルだけは強いな、と思う。
「ありがとう、澪ちゃん。あの人たち、しつこくて。知り合い?」
隠す理由もない。
「おととい、ボコボコにした」
「ボコボコ!? 澪ちゃんって強いんだね!!」
その言葉に、少し考える。
確かに、強くなった。
でも、それだけじゃ足りない。
今のままじゃ、神谷には勝てない。
それじゃ、自分を納得させられない。
「……強くなる」
自分に言い聞かせるように、何度も繰り返す。
「これから、もっと」
そう言って、私はダンジョンへ足を踏み入れた。




