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神谷の蹂躙

対戦型ダンジョンの入口をくぐると、

澪の前に淡く光る影が現れた。


人の形をしているが、輪郭は曖昧だ。

性別も年齢も分からない。


《対戦型ダンジョンへようこそ》


声は空気を震わせず、直接頭に響く。


《受付を開始します。対戦形式を選択してください》


表示された選択肢の中から、

澪は「任意対戦」を選んだ。


事前に合意した相手と戦う場合はこの形式を使う。


《対戦相手を確認します》


短い間。


《対戦相手:神谷 悠斗》


名前が表示される。


《双方の合意を確認しました》


《対戦を開始します》


光が強まり、

澪の視界は一瞬で切り替わった。



対戦型ダンジョンのフィールドで、

澪は神谷と向かい合っていた。


人工的に整えられた無機質な空間。

観客はいない。


神谷の視線が、澪の手元に向く。


「短刀にしたんだ」


少しだけ、感心したような声。


「小さい刃物でも、急所を狙えば致命傷になる。

扱いやすいし、いいチョイスだと思うよ」


――こいつ。


澪は内心でそう思いながら、短く返す。


「……まあ」


悪気がないのは分かる。

分かるからこそ、腹が立つ。


《対戦を開始します。カウントダウンを開始》


視界の端に、数字が浮かんだ。


十。


九。


八。


澪は短刀を強く握る。


七。


六。


五。


距離を測る。


四。


三。


二。


一。


《開始》


ゼロになった瞬間、澪は前に駆け出した。


迷いはない。

店員に言われた通り、刃先を相手に向けて突き出す。


――当てる。


そう思った。


だが。


次の瞬間、神谷の姿が視界から消えた。


短刀は空を切り、

手応えはない。


「っ――」


気づいたときには、手首に衝撃が走っていた。


乾いた音。


短刀が、澪の手から弾き飛ばされる。


床を転がり、遠くで止まった。


「……」


想像していた以上だった。


澪は一瞬だけ立ち尽くし、

それから短刀を拾いに走る。


拾い上げ、神谷の方を向いたところで、

違和感に気づいた。


――追ってこない。


今なら、距離を詰められたはずだ。

終わらせることもできたはずだ。


「……どういうつもり?」


澪は問いかけた。


「なんで、終わらせなかったの」


神谷は肩をすくめる。


「まあ、なんとなくかな」


あまりにも軽い。


真剣に向き合っている自分が、

馬鹿みたいに思えてくる。


怒りが湧き上がる。


けれど、それを言葉にできなかった。


どうやら、

両者の間にはそれだけの差があるらしい。


神谷は少しだけ視線を伏せてから、

軽く言った。


「ごめん。もう終わらせるよ」


次の瞬間。


距離が、一気に詰まる。


避けようとした。

反応しようとした。


でも、体が追いつかない。


視界の端で、

神谷の肩が動いたのが見えた。


――鈍い衝撃。


顎の下を、正確に打ち抜かれる。


息が詰まり、視界が揺れた。


足から力が抜け、

澪の意識はそのまま闇に沈んだ。


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