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対戦型ダンジョンの地獄

約束の日は、明日だ。

とにかく今は、あの男たちに勝つことだけに集中しよう。


今日は、神谷と戦った時以来の対人型ダンジョンに潜る。

今になって思えば、あの時は対人戦がどんなものか、事前に少しでも調べておくという発想すらなかった。

自分の頭は、そこまで回らないらしい。

そんな自分を、澪は内心で自嘲する。


対人型ダンジョンには、いくつかの形式がある。


世界中の探索者と戦うワールドマッチ。

国内の探索者に限定されるナショナルマッチ。

そして、神谷との時に使った、当人同士の合意で行われるローカルマッチ。


今回選ぶのは、ナショナルマッチだ。


澪は、実質的に初めての公式対戦になるため、ランクはEからのスタートになる。

少しだけ胸の奥がざわつくのを感じながら、ダンジョンへと足を踏み入れた。


中に入ると、前回と同じようにダンジョン精霊が姿を現す。


《対戦型ダンジョンへようこそ》

《受付を開始します。対戦形式を選択してください》


澪はナショナルマッチを選択した。


《対戦相手を確認します》


――どんな相手だろう。


分からない。

けれど、なぜか少しドキドキする。


私は、勝てるのだろうか。


不安と期待が入り混じった、言葉にしづらい感情。

ふと、こんな感覚を今まで抱いたことがあっただろうか、と考える。


初めて神谷と対戦した時。

初めて試練型ダンジョンに潜った時。

あの時も、きっと同じだった。


複雑で、でもどこか心地いい感覚。


そんなことを考えていると――


《対戦相手:佐久間 恒一》

《対戦を開始します》


表示が切り替わった瞬間、澪の意識も一気に戦闘へと切り替わる。


フィールドに立ち、相手を確認する。


痩せた男だった。

どこか神経質そうで、落ち着きのない視線。

正直なところ、あまりいい印象は受けない。


とはいえ、挨拶をしないのは無礼だろう。


「よろしくお願いします」


澪はそう告げ、構える。


だが相手は無視し、何かをぶつぶつと呟いていた。


「き、……」


無意識に声が漏れそうになる。

危うく「キモい」と初対面の相手に言ってしまうところだった。


澪は小さく頭を振り、余計な思考を振り払う。


その瞬間、ダンジョン精霊によるカウントダウンが始まった。


ハッとして、もう一度相手を観察し、簡単な作戦を立てる。


相手の能力が分からない。

正面からは行かず、一定の距離を保って動き続ける。


フィールドは、見渡す限り遮蔽物のない円形のステージ。

かなり広く、逃げ回るには十分だが、範囲系の能力だったら厄介かもしれない。


――考え出したら、キリがない。


とにかく、今は。


《開始》


その瞬間、澪は時計回りに飛び出した。


同時に、男も能力を発動したらしい。

液体のようなものが、澪のいた場所に向かって飛んでくる。


だが、当たらない。


澪はそのまま距離を保ち、軽やかに回り込む。

液体は床に触れ、じゅっと音を立てて表面を溶かした。


「は? なんで避けてんだよ!?」


男が喚き散らす。


その視界に澪が映っていたのかは分からない。

だが、男が再び液体を放つ前に――


一気に距離を詰める。


そして、

最高速度で、最大の一撃を叩き込んだ。


――そうだ。今は、勝つことを。


次の瞬間。


男の上半身が、弾け飛んだ。


「……ちょっと!?」


普段は大声を出さない澪も、さすがに声を上げる。


全力で突っ込んだせいで、勢い余ってそのまま飛ばされ、壁にぶつかってようやく止まった。


振り返る。


「あ……うん……」


当たり前といえば、当たり前だった。


オーガとの死闘以前でさえ、金属製のゴーレムを一撃で粉砕していたのだ。

身体能力強化系の能力者でもない人間が、まともに受ければ、こうなる。


それに、ランク上は同じEランク。

試練型で言えば、1層を突破できるかどうか――その程度だったのかもしれない。


初めての本格的な対人戦。

緊張で、そこまで考えが回らなかったのだろう。


酷すぎるオーバーキルだが……まあ、いいか。


澪はそう開き直り、自分の手を見る。


「……強くなってる」


確かに、あの努力は無駄じゃなかった。

澪の中に、確実に積み重なっている。


対人でも通用する。

その事実に、じわりとした喜びが湧き上がった。


視界が切り替わる。

再び、ダンジョン精霊のもとだ。


《続けますか?》


表示を見て、澪は迷わなかった。


今日は、時間の許す限り戦おう。


正直、この無双感は今しか味わえないかもしれない。

だから今のうちに、存分に楽しんでおく。


別の意味での高揚感を抱きながら、次のマッチングを待った。


その日。

Eランクのナショナルマッチは、一人の少女によって地獄と化した。


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