表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/47

自覚した感情

澪は、夢の中にいた。


「……ここ、どこ?」


見覚えのある景色だった。

校舎裏。

理解するより先に、胸の奥がざわつく。


――ああ。

小学生の頃だ。


きららちゃんと、その取り巻き。

三人とも、当たり前みたいな顔で立っている。


そうだ。

この場面だ。


レイスに見せられた夢の、続き。


あの時の澪は、蹴り返さなかった。

ただ、叩かれて、蹴られて、髪を掴まれて。


「長かったな……」


幼い澪は、髪をぐちゃぐちゃに切られ、

飽きた彼女たちに放置されていた。


それでも、立ち上がろうとしていた。

ふらつく足で、家に帰ろうとして――


そこで、はっきりとした感情が浮かぶ。


「……悔しい」


歯を食いしばって、

怒りで目を潤ませている幼い自分がいた。


そうだ。

これが、本当に起こったことだ。


泣いて、怒って、

次の日に、澪はきららちゃんを呼び出した。


軽く調べたやり方で、

何度も、何度も、殴った。


相手より強くなって、

調子に乗っていたやつを殴る。


――楽しかった。


たまらなく、楽しかった。


やがて、きららちゃんは土下座して謝った。


その姿を見て、

胸の奥が、すっと軽くなる。


あんなに威張っていたのに。

あんなに殴ってきたのに。


今は、震えて、謝っている。


……ああ、

私は、この感覚が好きだった。


「こらー! 何をしている!!」


教師の声で、夢が歪む。


その後のことは、覚えている。

叱られて、転校して、

この話は、なかったことにされた。


忘れたふりをしていただけだ。


目を開ける。


視界いっぱいに、オーガの顔があった。


――似てる。


その瞬間、考えるより先に、拳が出た。


鈍い音。

オーガの顔面が歪み、鼻血が吹き出す。


「……いい顔になったね?」


言葉が通じたのか、

オーガは怒りの雄叫びを上げて突っ込んでくる。


全身が痛い。

それでも、躱す。


突進してきた脛を、全力で蹴った。


足が砕ける感覚。

同時に、オーガの体勢が崩れ、派手に転ぶ。


「笑えるな。単細胞」


澪は、血まみれのまま立ち直る。


「お前さ……

ボスなんでしょ?」


ゆっくりと、オーガに向き直る。


「じゃあさ」


澪は笑った。


「尊厳、壊してあげる」


そこから先は、時間の感覚が曖昧だった。


澪は壊れ、再生し、

オーガは壊れ、戻らなかった。


関節。

筋肉。

動き。


一つずつ、奪っていく。


最後、オーガは立つことすらできなかった。


動かない相手を見下ろして、澪は言う。


「……1層で初めの壁って評判らしいね?

期待外れで情けない。

お勤めご苦労さま」


返事はない。


「だんまり?

じゃあ、殴るね」


何度も、何度も。


楽しかった。


やがて、オーガは塵になって消えた。


澪は、血だらけのまま息を吐く。


――ああ。


ようやく、わかった。


負けるのが嫌なんじゃない。

弱いのが嫌なんでもない。


自分に勝ったって顔をされるのが、

死ぬほどムカつくだけだ。


「……だから」


澪は立ち上がる。


「私は、負けない」


それは、正義でも、理想でもない。

ただの、身勝手な宣言だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ