止まらない
澪は、自分がダンジョンで何をしたいのか、まだ分かっていなかった。
昨日まで見ていた景色と、今日見ている景色が、まるで違って見える。
世界が変わったわけじゃない。
自分のほうが、どこかズレてしまっただけだ。
今も答えは出ていない。
けれど、この衝動の正体が分かれば、それを確かなものにできる気がしていた。
――あの人たちに勝てば、分かるかもしれない。
理由は後回しでいい。
とにかく、今は強くなる。
強くなってから、答えを探せばいい。
学校に着くと、澪はスマホを取り出し、ダンジョンについて調べ始めた。
どうすれば強くなれるのか。
身体の動かし方。
階層ごとのモンスターの傾向。
戦闘における精神の持ち方。
考えて、考えて、考える。
思考を回しながら、同時に自分自身も掘り下げていく。
強くなって、私は何がしたいのか。
その問いに答えは出ないまま、時間だけが過ぎていった。
放課後のチャイムが鳴った瞬間、澪は誰よりも早く席を立った。
迷いはない。
帰宅の準備を整え、そのまま全速力で家に帰る。
制服を脱ぎ、最低限の支度を済ませると、すぐにダンジョンへ向かった。
目指すのは、一層四階。
ここは澪にとって、相性のいい階層だった。
出現するモンスターはゴーレム系統。
一定以上の攻撃力さえあれば、突破は容易だ。
一層一階で妥協せず、攻撃力を選び続けてきた澪の一撃は、
ゴーレムの身体を容易く砕いた。
走って、壊して、また走る。
わずか一時間で、澪はボス部屋へと辿り着いた。
扉を開く。
現れたのは、鉄でできたゴーレム。
岩のゴーレムとは比べものにならない強度を持っている。
だからこそ――
「一撃で、砕く……!」
澪は全速力で駆け出した。
勢いのまま踏み込み、足が壊れるほどの力で蹴りを放つ。
鈍い音。
蹴った足は砕け、血が吹き出す。
その代わり、ゴーレムの身体は大きく歪み、次の瞬間、砕け散った。
一層四階のボス攻略は、開始から一分もかからなかった。
代償として、両足はぐちゃぐちゃになっていた。
だが、それも再生によって元に戻っていく。
――治している時間すら、惜しい。
澪は逆立ちになると、そのまま歩き出した。
初めての動きに身体はふらついたが、すぐに感覚を掴む。
やがて安定し、問題なく進めるようになっていた。
宝箱には目もくれない。
中身は次の階層にまとめて回収できると調べて知っていた。
一秒でも速く。
一歩でも先へ。
その思いは異常なほどに膨れ上がり、
澪をさらに奥へと押し出していく。
止まろう、とは思わなかった。
止まるという発想そのものが、
すでに頭から消えていた。




