受け入れる側
澪は、立ち止まらなかった。
あの三人は腐っても探索者だ。
到達階層は、澪よりもずっと上だろう。
――だったら。
「三日後までに、あいつらより強くなる」
考えはそれだけだった。
立ち止まる理由がない。
澪はそのまま、三階層へと踏み込んだ。
道中に現れるモンスターは、もはや足止めにもならない。
殴って、蹴って、走る。
止まらない。
考えない。
ただ、前へ。
やがて、ボス部屋に辿り着く。
「……ここか」
扉を開けた先は、暗闇だった。
音がない。
気配もない。
何もいないように見える。
だが、澪は足を止めなかった。
「……出てきなよ」
その声に応えるように、
奥で淡い光が揺れる。
ゆらゆらと蠢く、半透明の影。
――レイス。
三階層のボス。
物理攻撃は通らない。
炎や光に弱く、たいまつ一本でも倒せる。
――知っている。
だからこそ、澪は何も持ってこなかった。
レイスが距離を詰めてくる。
冷たい感覚が、空気を這う。
澪は、一歩も退かなかった。
避ける理由がない。
この方法でいくと、最初から決めていた。
レイスが澪に取り憑く。
抵抗はしない。
拒絶もしない。
「……はいはい」
意識が沈む。
次に目を開けた時、澪はボス部屋の前に立っていた。
一階層。
見覚えのある場所。
「……ああ、これか」
澪は扉を開ける。
そこにいたのは、あのオークだった。
もう、懐かしいとすら感じる。
オークが拳を振るう。
澪はそれを軽くかわす。
遅い。
無防備な腹を殴り抜き、
頭が下がったところを蹴り飛ばす。
終わり。
景色が歪む。
次は、小学校の校舎裏だった。
身体が小さい。
制服も違う。
「……きららちゃん、か」
呼び出された記憶が蘇る。
何かを忘れている感覚。
だが、焦りはない。
校舎裏には、きららちゃんと取り巻きがいた。
「遅い!!」
「……ごめんなさい」
口ではそう言った。
だが、心はまったく動いていなかった。
雄太くんがどうとか、
誘惑しただとか。
どうでもいい。
「黙ってないで、何か言いなさいよ!!」
振り上げられた手。
次の瞬間――
澪は反射的に、きららちゃんを蹴り飛ばしていた。
「……あ」
自分でも少し驚いたが、すぐに納得する。
――ああ、そうだ。
今は、レイスを殺している途中だった。
きららちゃんには、もう用はない。
澪は周囲を見回す。
レイスを探す。
だが、見当たらない。
景色が歪み、再び一階層のボス部屋。
「……また?」
オークが現れる。
澪はため息をついた。
「バリエーション、少な」
それからは、作業だった。
殴る。
倒す。
戻る。
また殴る。
また倒す。
恐怖も、緊張も、怒りもない。
ただ、動きを洗練させていく。
無駄を削る。
速度を上げる。
何度目かも分からなくなった頃、
オークが現れなくなった。
澪は足を止める。
部屋の隅。
今にも消えそうなレイスが、そこにいた。
「……そっちが先に壊れたんだ」
答えはない。
澪はもう、うんざりしていた。
そのまま、止めを刺す。
次に目を開けると、ボス部屋は明るくなっていた。
「……面倒くさかった」
時間を確認する。
もう、二十一時になろうとしている。
「……やってしまったな」
宝箱を開け、
中身も見ずに回収する。
澪はそのまま、帰路についた。




