表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/44

利用価値

 澪が一緒にダンジョンへ行こうと言った瞬間、

 それまで騒がしかった三人組が、揃って黙り込んだ。


 笑い声が途切れ、空気だけがその場に残る。

 澪は何も言わず、ただ彼らの反応を待った。


 中央にいた男が、ゆっくりとこちらを見る。

 さっきまでの軽薄な視線とは違う。

 値踏みするような、嫌な目だった。


「……なあ、嬢ちゃん」


 少し間を置いて、男が口を開く。


「到達階層、どこまで行ってる?」


 澪は一瞬だけ視線を逸らした。

 答える必要があるのかを考え、すぐにやめる。


「二階」


 短く告げると、男は目を見開き、次の瞬間には鼻で笑った。


「なんだよ。オーク倒してんじゃねえか。誰かに手伝ってもらったのか?」


 澪は肩をすくめる。


「……そんなところ」


 否定はしなかった。

 ここで訂正する意味はない。


 男は顎に手を当て、黙り込む。

 眼鏡の男は視線を泳がせ、

 もう一人は、俯いた澪の顔をじっと見ていた。


「よし」


 唐突に、男が声を上げる。


「今日は二階、突破させてやる」


「……は?」


「その代わりだ。今晩、ちょっと付き合えや」


 軽い口調だった。

 その言葉が持つ面倒さを、澪はその時、深く考えなかった。


 一瞬、断る理由を探す。

 見つからなかった。


「……いいよ」


 三人が揃って澪を見る。


「マジか」


 了承されるとは思っていなかったらしい。


「武器は?」


「今日は持ってきてない」


「はぁ?」


「おじさんたちの予備、あるでしょ。二階だし」


 男は舌打ちし、腰の装備を探る。


「……しゃあねえな。壊すんじゃねえぞ」


 そうして、即席のパーティが組まれた。


 一層二階は、一階とは明らかに様相が違っていた。

 敵の数が増え、徒党を組んで襲ってくる。


 三体以上。

 コボルドも新しく混じっている。


 棍棒に加え、牙で噛みついてくる厄介な魔物だ。


 だが、三人にとっては歯牙にもかからなかった。


 リーダー格が前に出て押さえ、

 眼鏡の男が位置を指示し、

 残る一人が動きを止める。


 無駄がない。

 危険もない。


 澪は後方でそれを見ながら、

 敵が多い状況での対処を自然と学んでいた。


 戦闘は何度か起こったが、危うげはなかった。

 淡々と進んでいく。


 だが、次の戦闘で違和感が生じた。


 五体のコボルド。

 本来なら問題ない数だ。


 ――なのに、一体だけが、不自然に放置された。


 澪の視界に入った瞬間、

 その一体がこちらへ飛び出してくる。


「……?」


 澪は一歩、前に出た。


 迷いはなかった。

 考えるより先に、身体が動く。


 拳を振る。


 思ったより、力が出た。


 血吹雪を上げて、コボルドの身体が宙を舞う。

 壁に叩きつけられ、そのまま砂となって崩れ落ちた。


 澪が振り向くと、三人はすでに残りを片付け終えていた。


 驚いたように、こちらを見ている。


「じょ……嬢ちゃん。身体能力系か?」


「すげえ飛んでったな」


「あの程度の雑魚、能力者ならどうにでもなるでしょ」


 澪は淡々と言った。


「まあ、一階にいた頃の私じゃ無理だったけど」


 男は一瞬だけ黙り込み、すぐに表情を戻す。


「……まあ、そんなもんか」


 想定外ではあったが、致命的ではない。

 そう判断したのだろう。


 一行は、そのまま奥へ進む。


 やがて、ボス部屋の前に辿り着いた。


 情報通りなら、コボルドキングと配下四体。

 集団戦だ。


 扉の前で、男が振り返る。


「なあ、嬢ちゃん」


「なに」


「一人でやってみねえか?」


 澪は一瞬、言葉に詰まった。


「……なんで」


「こんな低い階層のボスでも、恩恵は恩恵だろ」


「ちゃんと貰えるようにっていう、配慮だよ。配慮」


 三人は、へらへらと笑った。


 澪は小さく息を吐いた。


 面倒くさい。

 完全に、自業自得だ。


 ――それでも。


 別の感情が、胸の奥で動いた。


 よく分からない。

 でも、嫌じゃない。


「分かった。一人でやる」


「お?」


「あっさりだな」


「まあいいや。コボルドたちには、しばらく手出ししねえからな」


 男が扉に手をかける。


 重い音を立てて、ボス部屋の扉が開いた。


 澪は一歩、前に出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ