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準備

対戦は、三日後に決まった。


「明日は無理。準備もあるから」


そう言ったとき、神谷は一瞬だけ目を瞬かせてから、すぐに笑った。


「いいよ。三日後で」


軽い調子だった。

断られる可能性なんて、最初から考えていなかったみたいに。


放課後にやる、という条件だけは変わらない。

休日は使いたくなかったし、わざわざ時間を空ける理由もない。


それ以上のやり取りはなく、その日は終わった。



家に帰ってから、私は対戦型ダンジョンについて調べた。


今まで興味がなかった分、知識はほとんどない。


まず、対戦型ダンジョンは蘇生可能。

つまり、試合中に殺されても死なない。


次に、ランクとレートという二つの指標がある。


ランクは、強さの段階分けだ。

基本的に、同じランクの相手としかマッチングしない。


レートは、そのランク内でどれだけ勝ってきたかを示す数値。

百まで上げると、ランクアップ用の試練モンスターに挑戦できる。


それに勝てば、次のランクへ進める。


さらに、対戦型ダンジョンには他のダンジョンにはない特性がある。


全世界共通。

どこで潜っても、ランクもレートも変わらない。


対戦相手も、国や地域を問わずにマッチングされる。


勝者には、エネルギー結晶。

ランクに応じた金属資源。

そして、レートの上昇。


敗者は、レートが減少する。


ただし、双方が合意すれば、レートの変動がない試合を行うことも可能だった。


条件付きとはいえ、負けても失うものはほとんどない。


一通り読み終えて、端末を閉じる。


澪は机から離れ、ベッドに倒れ込んだ。


天井を見上げながら、さっき読んだ内容を思い返す。


「……合理的すぎるでしょ」


思わず、そうつぶやいていた。


ランクにレート。

勝敗に応じた報酬と損失。

人が競い合うことを前提に、最初から組み上げられている仕組み。


まるでダンジョンは、

より多くの人間を、より長く競わせたいみたいだった。


しばらく天井を見つめたまま、何も考えずにいた。


やがて、意識が別のところへ移る。


――神谷との対戦。


条件は、神谷側が圧倒的に不利だ。


右手は使わない。

武器も、能力もなし。


それでも、勝てる気がしない。


Cランクという肩書き以上に、

「そう簡単には届かない」という感覚がある。


その事実を、

冷静に理解してしまった自分が、少しだけ情けなかった。


だから。


失うものはない。

勝ったらラッキーくらいでいい。


そう思うことにして、澪は目を閉じた。



翌日。


澪は一人で、対戦型ダンジョンの施設に向かった。


特別な理由はない。

友達はいないし、誘う相手もいない。


無能者と呼ばれている人間に、

わざわざ付き合いたいと思う人はいないらしい。


別に、今更それをどうこう思う気もなかった。


受付を済ませると、

澪はそのまま併設されたショップに向かう。


右も左も分からない状態で悩むのは、時間の無駄だ。


「すみません」


棚を見る前に、店員へ声をかけた。


「初心者で、一対一の対戦です。

武器のおすすめを教えてください」


店員は端末を操作しながら、事務的に頷く。


「承知しました。

念のため確認しますが、能力は何系ですか?」


予想通りの質問だった。


「……特に使えるものはありません」


店員の指が一瞬だけ止まる。


けれど、すぐに何事もなかったかのように入力が再開された。


「身体強化なし、外部顕現なしですね。

問題ありません」


声色は変わらない。

同情も、驚きもない。


それが、かえってありがたかった。


「その条件でしたら、短刀が無難です」


店員は棚の一角を指さした。


「長物は扱いが難しく、初心者ほど事故が多いです。

槍は筋力を要求されますし、弓は対戦向きではありません」


消去法で、短刀が残る。


「こちらをどうぞ」


渡された短刀は、思っていたよりも軽かった。


「刃は常に相手に向けてください。

振り回す武器ではありません」


「距離を詰めるときほど、踏み込みすぎないように」


淡々とした説明を、頭の中でなぞる。


無理に覚えようとはしない。

ただ、忘れないようにする。


短いレクチャーが終わり、短刀を返却する。


今日は、これで十分だ。


施設を出ると、外はもう夕方だった。

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