暇という違和感
今日も今日とて、暇な一日が始まった。
結局、あの後ダンジョンには一度も潜っていない。
行こうと思えば行けたはずなのに、どうにもやる気が出なかった。
「……暇だ」
そう呟いているうちに、学校に着いていた。
今日は体育の時間があった。体育の時間は、相変わらず退屈だった。
この学校では安全面を考慮して、男子と女子に分かれるだけでなく、探索者か非探索者かでもグループが分けられる。
意図せず怪我をさせないため、という建前だ。
探索者側の体育は、運動というよりも力加減の確認が主になる。
無理をしない。全力を出さない。制御を覚える。
至極、退屈だ。
先週の体育は、ここまで暇に感じなかったはずなのに。
なぜなのか、自分でもよく分からない。
「……寝ようかな」
「!? あ、相澤。もうちょっと頑張れないか?」
教師の声がして、澪はわずかに肩を跳ねさせた。
「冗談です」
そう返すと、教師は乾いた笑みを浮かべて「まあ、ほどほどにな」とだけ言い、探索者グループから離れていった。
ついこの間まで威圧的だった態度が、妙に慎重になっているのが少しだけ可笑しかった。
体育が終わっても、退屈は続いた。
授業はきちんと聞いているし、ノートも取っている。内容も頭に入っている。
それでも、時間の進みが異様に遅い。
気づけば下校時間になり、澪は真っ直ぐ帰宅した。
ベッドに横になり、何となくスマホを手に取る。
指が勝手に動画アプリを開いた。
最近はダンジョン配信が流行っているらしい。
クラスメイトが推しの探索者がいるとか、そんな話をしていたのを思い出す。
特に目的もなく、目に入った配信を開いた。
画面の中では、探索者が一層四階で戦っていた。
私より、二つも先だ。
一瞬だけ驚いてから、すぐに納得する。
素手縛りなんてしていなければ、普通はここまで来れる。
よく考えれば、闘士オークをあそこまで苦労して倒す必要はなかった。
能力で押すか、刃物を使って削れば、それで終わっていたはずだ。
澪は小さく息を吐き、画面に視線を戻した。
配信者は女の子だった。
動きは速い。身体能力特化か、敏捷寄りの能力だろう。
「……おそ」
口から、自然と零れた。
正確には遅くない。
ただ、あの程度の速度なら、今の澪でも走れそうだと思ってしまっただけだ。
相手はゴーレムらしく、相性は悪かったのかもしれない。
それでも時間をかけて削り切り、最後はナイフを腰に収めて決めポーズを取る。
「おおー」
気づけば、最後まで見ていた。
いつの間にか配信は終了していて、画面は暗転している。
スマホを伏せたタイミングで、リビングから母の声が聞こえた。
夕食の時間らしい。
「……暇だな」
昨日も、同じ言葉を口にした気がする。
でも今日は、少しだけ意味が違って聞こえた。




