選ばないという選択
あれから、何度も何度も試した。
ゴブリン。ウルフ。
数はもう覚えていない。
一撃で殺せたのは、数えるほどだ。
共通点ははっきりしていた。
致命傷になった打撃を放った瞬間、必ず痛みが走る。
殴った腕。
蹴り抜いた脚。
外から受けたものじゃない。
自分の体が、内側から軋む感覚。
「……負担、かけてる」
呟いてみても、答えは出ない。
ただ、威力が増していることだけは確かだった。
それでも、この程度で闘士オークに勝てるとは思えなかった。
必要なのは、一撃。
適した場所に、適した型で、最大限の力を叩き込む。
首だ。
打撃で殺すなら、そこしかない。
だが今のままでは、高さも、力も、足りない。
何より――。
あの一撃は、狙って出せない。
出た時は偶然だ。
意識した途端、消える。
再現できない力を、切り札と呼ぶには心許なさすぎた。
「……足りないな」
吐き捨てるように言って、澪はダンジョンの天井を見上げた。
体を壊して放つ一撃。
そうしなければ届かないと、感覚的に分かっている。
普通じゃない。
効率も悪い。
危険で、合理的じゃない。
そんなやり方を選ぶ人間が、他にいるとも思えなかった。
それでも。
「このやり方で勝てなきゃ、意味がない」
それだけだった。
本当は、この感覚を忘れないうちに、もう少し続けたかった。
だが、時間を見ると、もう遅い。
澪は踵を返した。
「今週中に――あいつを殺す」
それだけを決めて、ダンジョンを後にする。
次の日も、その次の日も、同じことを繰り返した。
闘士オークの首を折るための一撃。
そのためのフォーム。
何度か、近い感覚は掴めた。
だが、安定しない。
何がきっかけで力が出るのか、分からないままだった。
そして、一週間。
土曜日の朝。
澪はダンジョンの入り口に立っていた。
今日、この階を突破する。
それだけは、もう決めていた。




