表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/32

視点:いつき

休日の換金所は、いつもより少しだけ騒がしい。

深層を目指す連中だけじゃなく、浅い層で小遣い稼ぎをしている探索者も混ざるからだ。


成果を並べて笑う声。

失敗談を誇張して語る声。


――平和だ、と言えば平和。


その中で、ふと視線に引っかかる影があった。


朝、ダンジョン前で絡まれていた女の子だ。


やはり、また囲まれている。

相手は同じ男たち。

声の調子も、だいたい想像がつく。


丸腰でダンジョンに入ろうとする人間は、今どき少ない。

それだけで、目立つ。


ダンジョンが現れてから、戦いは能力前提になった。

対戦型ダンジョンの影響もあって、武道や格闘技はほとんど廃れた。

素手で戦う理由が、もう残っていない。


だから今、丸腰で潜る人間はだいたい二種類だ。


自分の能力に酔っているか。

あるいは、もう時代遅れになった戦い方を本気で信じているか。


朝見た限り、あの子はどちらにも見えなかった。

格闘技経験者の体つきじゃない。

能力に胡坐をかくような軽さもない。


だから、少し気になっていた。


夕方の彼女は、朝とは違っていた。

腕に噛み傷。

服にも、ところどころ擦れた跡。


ただし――深くはない。


包帯も、応急処置の痕跡もない。

蘇生した様子も見えなかった。


ダンジョンでは、蘇生はできる。

だが、蘇生した探索者はその日の恩恵を受け取れない。

生きて帰ってきて、初めて強くなれる。


だからこそ、あの程度の傷で立っていることに、少しだけ違和感を覚えた。


男たちの声が、また一段大きくなる。

一階のボス。

闘士オーク。


そこから引き返してきたらしい。


嘲笑。

初心者への、よくある扱い。


女の子は、何も言わなかった。


視線を落としたまま、踵を返す。


次の瞬間、走り出した。


――速い。


人混みを抜ける一歩目が、明らかに違う。

ダンジョン初心者の女子高生の動きじゃない。


一階すら突破していない。

それなのに、あの脚力。


素の身体能力とは考えにくい。


敏捷性強化か。

あるいは、身体能力全般にかかるタイプか。


噛み傷が浅いことを考えると、硬化系の可能性も浮かぶ。

ただ、それならウルフ相手にもっと楽なはずだ。


複合能力――とも考えたが、無理がある。


結局、分からない。


分かるのは一つだけだ。


ああいう目をしている子は、長くは保たない。

すぐに心が折れて消えるか、

それとも、どこかで一気に跳ね返るか。


どちらかしか、残らない。


女の子の背中は、人混みに消えた。


いつきは小さく息を吐く。


声をかけるつもりはなかった。

助ける理由も、引き止める理由もない。


――ただ、気になるだけだ。


それよりも。


朝、言ったばかりのことをもう忘れている男たちのほうが、目につく。


「まったく……」


小さく呟いて、歩き出す。


注意はする。

それだけだ。


あの子のダンジョンが、どこで終わるのか。


それを決めるのは、あの子自身だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ