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言い訳できない負け

負けた。


言い訳のしようがないほど、完璧に。


床に倒れたまま、天井を見上げる。

身体は動く。痛みもある。

それでも、立ち上がろうとは思わなかった。


対戦型ダンジョン。

そこで私は、はっきりと負けた。


相澤澪。

その結果を、覆すつもりはない。


どうして、こんなことになったんだっけ。


……ああ、そうだ。


転校生が来た日からだった。



私立黎明学園高等学校。

ダンジョンが日常に溶け込んだ今では、特別でも何でもない、ごく普通の学校だ。


担任が黒板を軽く叩き、教室の視線を前に集めた。


「転校生を紹介する。神谷悠斗だ」


前に出てきた男子生徒は、どこにでもいそうな爽やかな笑顔を浮かべていた。


「神谷悠斗です。

こっちに来る前から、ダンジョンには潜ってました」


それだけで、教室の空気が少し変わる。


「対戦型はCランクで、試練型は五階層まで進んでます」


小さなざわめきが広がった。


ダンジョンがこの世界に現れてから、二十五年。

それと同時に、人類は変わった。


目に見える力を扱えるようになった者。

身体能力が明らかに向上した者。

形は違っても、何らかの変化が現れるのが当たり前になった。


――ただ、私にはそれがなかった。


ダンジョンは今や、エネルギーも資源も供給する。

生活の基盤ですらある。


多少のリスクはあっても、得られるものが多い。

だから人は、ダンジョンに潜る。


ダンジョンには性質がある。


試練型。

自分自身を試す場所。


対戦型。

人と戦い、勝敗と評価を積み上げる場所。


ルールも報酬も、それぞれ違う。


試練型ダンジョンの最深到達記録は、二十階層。

それが、今の世界の限界だった。


対戦型ダンジョンのレートはEから始まる。

一定数勝利し、ダンジョンが用意する試練を突破して、ようやく一つ上へ進める。


Cランクは、十分に強い部類だ。


――そして私は、そのどれにも当てはまらない。


目に見える能力はない。

それだけで、周囲は勝手に判断する。


無能者。

そう呼ばれているだけの話だ。



昼休み。

私は教室の端で、一人席に座っていた。


「相澤さん、だよね?」


声をかけてきたのは、神谷悠斗だった。


「ダンジョン、あんまり興味ない?」


「ない」


即答する。


「それに、私、能力ないし」


神谷は少し驚いたように目を瞬かせてから、すぐに笑った。


「能力がなくても、強くはなれるよ」


「ダンジョンに潜れば、身体能力は上がるしさ」


正論だった。

だからこそ、どうでもよかった。


「……興味ないって言ってるでしょ」


視線を合わせずに告げる。

これで終わると思っていた。


「じゃあさ」


神谷は引かなかった。


「対戦型ダンジョンで勝負しよう」


顔を上げる。


「君が勝ったら、もう二度と声はかけない」


「僕が勝っても、パーティに入れとは言わないよ」


一拍置いて、神谷は続けた。


「条件も付けようか」


「片手だけでいい。

それと、剣は禁止ね」


「普段使ってる武器で勝っても、面白くないでしょ?」


不利なのは分かっている。

それでも、断る理由にはならなかった。


興味がない。

勝てるわけがない。

無駄な時間だ。


そんな理由で逃げるのは、簡単だ。


でも――。


勝手に土俵を決められるのは、気に入らなかった。


「……いいよ」


そう答えた瞬間、

私はその勝負に足を踏み入れていた。

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