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恐怖の特攻ドローンから逃げ切れ!

みんなでスマホを眺めている時、この物語の主人公コーキが言い出した。

「俺!ドローンから逃げ切る方法発見した!」

画面ではX国での戦闘の動画が展開されていた。

侵攻してきたS国の兵士が大草原を逃げ回っている。

S国は優勢なのだが、X国を制圧することが未だできない。

ドローン攻撃に手を焼いているのだ。

X国の優秀なドローン部隊は上空からS国の兵士を発見してロックオンする。

そして延々と追い回し、体当たり自爆でもろともに葬るのだ。


あるS国兵士が腹を決めたのか、ドローンを睨みつけていた。

手にはシャベルが握られていた。

ドローンは彼を認めると、一直線に降下していった。

体当たりの瞬間、兵士がシャベルをふるった。

兵士はS国のプロ野球選手だったのだ。

クリーンヒットとともに爆発音が起こり、兵士は爆風に巻き込まれて四散した。


俺達は歓声をあげた。

「かなわないと思ったからせめて一太刀ってわけだな」

「サムライだな」


そしてまたドローンの恐ろしさに震えた。

「小屋の中に逃げ込んでも外から迂回して隙間から入り込んで体当たりだもんな」

「ああ、穴ぐらに逃げ込んでもライトで照らされて発見されちまう」


戦闘の様子はドローン搭載のカメラから全世界に配信されているのだ。

S国製ドローンの性能を世界に示し、買い付ける国々が支払うマネーで戦争が継続できるのだ。


だが戦争の方は圧倒的な大国X国の物量を押し返すことはできず、人口が減り続けるS国では遂には14歳からの徴兵を始めるようになっていた。


「この戦争ってなんのためにやってるんだ?」

「祖国防衛だろ」

「でも勝ち目ないんだぜ?」

「さっさと降伏したほうが再建も早いんじゃ?」

「それでも諦めたら試合終了なんだよ!」

俺達の議論も白熱した。


そんなときだ。

ドローンから逃げ切る方法発見した!」だなんてコーキのやつが言い出したのは。


俺達はみんなでコーキをイジった。

どうやって?

そんなの無理だろ。


コーキは言った。

「教えてやんね」


なんだよそれ~。


「ハッタリじゃねえぞ!?俺はいつもマジのガチだ!」

「わかったわかった」

「ったくコーキだけはこれだから」

「てめえらオレをバカにしてるだろ」

「してねえっての!」


その後もコーキは。

俺には見える。ドローン攻略法が。

とつぶやき続けていた。


その日からコーキの姿は消えた。


「コーキどうしてるだろうな」

行方不明になったコーキのことを今日も俺達は話していた。

「まさかX国に行って兵隊にでもなったとか?」

「ドローン攻略法を試すためかよ?」

「まさかね」

といいながら全員が一斉に胸騒ぎを感じた。


ナオキがスマホ画面を指さして言った。

「お!おい!これ見ろよ!」

みんなで一斉に覗き込んだ。

ひとりの少年兵士が物陰から飛び出し、盛んに挑発的な手招きをしている。

ドローンは怒ったかのように追尾を開始した。

「こ、このニヤケ笑い!」

「ま、まさか!」


だが疑いようがなかった。

少年兵士の背中には大きな字で「コーキ・ムラキ」とペイントが。


「あっちゃー!」

「コーキのやつ、本当に行きやがった!」

「本当に必勝法が?」

「ああ、それを世界に示すことで、買う国を無くして、戦争を終わらせようってんだろ」

「ったく、コーキらしいぜ」


コーキは大草原をジグ・ザグに走りながらドローンに挑発を繰り返していた。


「ジグザグに走ることで距離を稼いで燃料を使わせるつもりかよ?」

「まさかこれが必勝法!?」

「いやさすがにそれはないだろう!」


俺達は手に汗を握りながらコーキを応援した。


コーキはやにわに腰のポーチから何やら取り出し、投げ放った。

小さな物体が回転しながら飛んでいく。

「あれって!?」

「このまえミステリーキャッチャーでゲットしたUFOブーメランじゃん!」


UFOブーメランをドローンが追っていく。


「囮を追わせて、そのスキに逃げようってのか?」


だがコーキは一向に逃げる素振りをみせない。

ドローンはしばらくするとブーメランをスルーし、再びコーキに向かってきた。

コーキはニヤケ顔で再びポーチに手を突っ込んだ。

すると上空のドローンはホバリング状態で停止した。


コーキが叫んでいる。

「おーい!ヒロタケ!ミヨシ!ナオキ!シンジ!!」

「今から俺様、コーキ・ムラキが、このくそったれドローンの攻略法を世界に示してやっからよ!よーく目ん玉見開いてみとけや!」

「そしてオール・オーバー・ザ・ワールド!」

「くそったれドローンよりもっとしょーもないくそったれ戦争なんて、今すぐやめろよな!」


俺達の鼓動は高まった。

「コーキのやつ、やるかもよ?」

「ああ、あいつはやるときゃやる男だ」

「誰だよ、やつのことをハッタリ野郎なんて言ったのは」

口々にみんな俺じゃないと言った。

そして一斉にある人物の顔が浮かんだ。

「あいつじゃね?」

「ああ、あいつだ」


そいつを呼べ!ということになった。


コーキがまた叫んでいた。

「それからなー!俺はハッタリ野郎じゃねえ!」


そういうとまたUFOブーメランを投げ放った。

ドローンは我慢しきれず追っていった。

そして見送ると悔しそうにまた戻ってきた。

どうしても追いかけてしまう設計上の構造になっているようだ。


「よく見抜いたな」

「さすがコーキだぜ」


サリナが部屋に飛び込んできた。

「コーキのバカがどうしたってのよ!」


ほぼ同時にコーキが叫んでいた。

「サリナのバーカ!みてたらよく聞け!俺はハッタリ野郎なんかじゃねえーっ!」


「バカじゃないのこいつ!」


「サリナ、おまえコーキにハッタリ野郎なんてほんとに言ったのかよ?」


サリナが顔を赤らめていった。

「だってこのバカ。煮えきらないんだもん」


「なんだよそれ?」


ヨシミとミーナが息を切らせて飛び込んできた。

「コーキがとんでもないことになってんじゃん!」

「どうしてここが?」

「だってサリナが真っ先に行きそうなとこってここしかないじゃん!」


「何があったんだよ?」


「言わないでいいよ」

「ダメだよサリナ。こんなことになったら、黙っておけないじゃん」


ヨシミとミーナが口を開きかけたそのとき。

「いいよ、私が自分で言う!」

サリナが話し始めた。

「私と、コーキのバカはさ、なんていうか」


俺達が誰とはなく言った。

「両想いだったんだろ!」

「なのにいつも素直になれず、ケンカばっかりしてさ!」

「えっ?」

「みんな知ってるよそんなこと」

「そうなんだ。バレバレだったか」


サリナが顔を赤らめながら話を続けた。

「みんなで花火いったじゃん?その後にね」


「告白されたんだろ」

「だってそのためにオレたち先に帰ったんだからな」


ねっ?とばかりにミヨシとミーナが頷きあった。


「まぁそーなんだけど」


「それから3ヶ月が経ったわけだよな?」


今度はサリナが少し怒って赤くなった。

「コーキのバカ、なんでもかんでもみんなに話してたの!?」


「ちげーよ。あいつは黙ってた」

「でもわかるよそんなこと」


なぁ?とばかりに今度はヒロタケとヨシミが頷きあった。


「キス、したんだよね」

ミーナが聞くと。

サリナは小さく「うん」と頷いた。


「順調じゃん!」


サリナはまた小さく頷いた。

そして俯いてしまった。


ミーナが身を乗り出した。

「もうすぐ初体験って感じだったよね?」

サリナは俯いたまま、小さく頷いた。

「なのにどうして?ハッタリ野郎だなんて」


サリナは話し始めた。

「私もそろそろ誘われるかなって。毎回メイクもして。服も勝負服にしていってたの」

「でもあいつったら、顔を真赤にして、俺はガキのくせに化粧する女は趣味じゃねえとか」

「髪を染めてねえ純情な女が最近好きなんだよなぁとか言いはじめて」

「私もさ、そのときは、こいつ照れてるな、かわいいなって思ってさ、すっぴんにして、髪も黒に戻して、服も地味めにしていったり」

「そしたら今度は、自分のカノジョには勉強ができてほしいなぁ、とか言い出してさ」


「なんだあいつ、人にそんなこといえんのかよ」

「だからそこが煮えきらないってとこよね。女の子の方にはすっかり覚悟決めさせてるのにさ。ねぇサリナ」

「それでハッタリ野郎なんて?」


サリナが身を乗り出した。

「違うの!私そんなこと言ってない」

「煮えきらないんだから!とは思ったし、イラッとしたけど、ハッタリ野郎なんて言ってないの!」


俺達は一斉にため息をついた。

「あいつ、自分で勝手にそんなふうに思われてるって思い込んだんだぜ」

「まったくしょうがないな」


今はただコーキの勝利を願うしかない。


そしてまたスマホをみんなで覗き込んだ。


コーキはUFOブーメランを全て投げ尽くしていた。

これも作戦のようだ。


そしてやにわに地面に寝転がると再びドローンに挑発を開始した。


「何をするつもりだコーキ!?」

「このままじゃドローンに普通に突っ込まれてしまう!」

「まさか観念したんじゃ?」

「えーっ?それじゃただの愉快犯じゃん」

「いや、こうなってからがコーキだよ。ここまでして志願したんだから奥の手があるはずだ」


サリナが祈りを込めた目で見ている。


俺達は前向きになった。

「いよいよ必勝法が見られるってわけだな」


ドローンが特攻を開始した。


ドローンが接近していくほどにコーキの顔がはっきり見えてくる。

その顔は笑っている。

死にゆく者の顔ではない。


コーキが叫んだ。

「サリナー!愛してるぞー!」


「コーキ!私だって!」

「勝たなくていいから、生きて帰ってきて!」


コーキが手を振った。

次の瞬間。

ドローンの視界、つまりカメラに映る光景が不意に大空に転じた。

「あ!UFOブーメラン!」

「最後のひとつを隠してあったんだ」


コーキが投げた最後のブーメランが空の向こうに消えていく。

カメラは再び地上へと転じる。

だがそこにはコーキの姿はなかった。


「消えた!」

「いったいどういうわけだ?」


忽然と消えたコーキの姿を追ってドローンが右往左往する。


俺達は歓声をあげた。

「対象が消えたら特攻のしようもないか!」

「さっさとおうちに帰んな!」


だがドローンはあるポイントに停泊するとじっと地面を凝視していた。

そして強い風を放出して地表を洗い流した。

するとそこに「コーキ・ムラキ」の文字が。


「ああっ!地面に潜っているのがバレた!」

「あいつ頭隠して尻隠さずじゃんか!」


だがドローンはじっと停泊したまま様子を見ている。

「罠だと疑ってるんだ」

「思考型AI搭載だからな」

「自爆するために超先端テクノロジーってわけか」

「これが人類全員を敵と認識したら、とんでもないことになるな」


やがてドローンは上空へと舞い上がり去っていった。


俺達は歓声をあげた

「本当に攻略法を発見していたんだ!」

「AIの賢さを逆手に取ったわけだな」

「罠かもしれない。でもこんなわかりやすい罠があるのか?とAIが悩んでしまったわけだ」


「よかったねサリナ!」

ヨシミとミーナがサリナを抱きしめていた。


「コーキ・ムラキ」のペイントから10メートルほど離れたところの地表がモゾモゾと動き始めた。

現れたのはコーキだった。


「あ、コーキだ!」

「あんなところから。でもどうやって移動したんだ?」

「帰ってきたらじっくり聞こうじゃないか」

「でも……」


(この映像は誰が撮っているんだ?)


ドローンが再び降下を始めると、怒りのスピードでコーキに向かっていった。

「ああっ!タイミングが早すぎたんだ」

「でもあのままじゃ呼吸が限界だった」

「また潜れ!早く潜れコーキ!」


だがコーキはこの事態を読み切っていたという顔で笑っている。

そして再び仰向けに寝そべると人差し指で手招きし、ドローンを挑発した。

すっかりドローンの習性を見切ったのだ。


ドローンはそれ以上近づくことができず、じっと向かい合っているだけだ。

ランプが点滅を始めた。


「カラータイマー的な!?」

「いよいよ燃料切れか」

「落下してきたら土産にしちまえ!」


盛り上がる俺達をよそに、サリナは目を閉じて首を振っていた。

「バカ!コーキのバカ!」


コーキは足をばたつかせたり、中指を立ててドローンを誘っていた。


UFOブーメランの在庫は尽きたが、まだとっておきのUFOスライミーが残っている。

発光しながらキリモミ移動したあと反転するスグレモノだ。

ドローンが次に特攻してきた時、これを投げる。

やつはいくら我慢しても反応してしまう習性をもっている。

しかもキリモミ移動だから、追った後に反転しなければならない。

そしてこの地形。

実は草原にみえて沼地なのだ。

しかも沼地の中には真水の水路が走っているという特殊な構造だ。

そして俺は水泳県大会2位の実力者。

素早く潜水して10メートルはバサロで逃げ切れる。


これはおまえの頭の良さ、反射神経を利用した完全な必勝法だ。


さぁ突っ込んでこいAIモンスター!


おまえは沼地でお陀仏。

おれは世界のヒーロー。

サリナも俺の嫁間違いなし!


ドローンがおもむろに降下を開始し、加速しながら特攻してきた。

ひきつけるんだ!ひきつけるんだ!

充分にひきつけて、いけ!UFOスライミー!

放たれたスライミーは7色に発光しながらキリモミに空を走る。

たまらずドローンは追尾してしまう。


コーキはすばやく水路に転がり込んだ。

次の地点まで全力バサロスタートだ。


浮上してやがて砂地になる。

もそもそと這い出した。

作戦は成功だ。


だがしかし、ドローンの爆発音は聞こえなかった?


上空を見上げると。

そこにはじっと見下ろすドローンが!


赤い点滅がみえるのは燃料が切れかけているからだ。


どうやらあちらさんも。こちらの戦法を見きったようだな。

だが必勝法までは編み出せまい。

おまえは所詮マシーンだ。

人間様にはかなわないのだ。


コーキはドローンに、その向こうのオール・オーバー・ザ・ワールドに向かって叫んだ。


「サリナー!愛してるよー!帰ったら結婚しようなー!」


ドローンの点滅が消えると同時に大爆発が起こった。

全エネルギーを装填しての強化核自爆のサインだったのだ。

大地にはクレーターが残された。

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