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 くらげに対して恋しているかもしれない、そう意識し出すと気になる。


 今までは友達としか意識していなかったのに、近くにいるとどきどきする。そこでくらげとはあまり会いたくないし、二人っきりでなんていたくない。


「鳴宮海月さんが来ましたよ」


「紫檻、もうお昼だぞ、起きろー」


 ドアをノックしてくらげが部屋に明るく入ってくる。


 わたしは意識しているのに、くらげはそんなことない。そこが今はとてもうらやましい。


「そーだ、聖さんがおごってくれるんだって、行こーぜ」


「どこのお店?」


「近くのコーヒーショップ、行こうぜ」


 外食はめんどくさいけど、聖さんがいるなら二人っきりは避けられる。それにここ一年くらい外食していないからたまにはいいかな、ということでわたしは行くことにした。


「いいよ、ちょっと待って、着替えるから」


 くらげを部屋から追い出して、わたしは着替えることにした。


 この前買った服を着る。カーディガンなんて今まで着たことがないけど、しっかり似合っていた。これはユニセックス、いやジェンダーレスな良さがあるかもしれない。


「ごめん、待った?」


「いや全然」


 くらげはわたしの服なんて気にしていないみたいだ。どうせくらげはわたしのファッションなんてどうでも良いんだ、そう少しもやもやしつつ、くらげについていく。


「急にごめんねー、今までお世話になったから二人にお礼したくて」


 コーヒーショップでわたしはミックスジュースとミルククレープ、くらげはブレンドコーヒーとチョコレートケーキ、そして聖さんは紅茶と卵サンドを頼んだ。


「大丈夫です。そういえばどうして聖さんは居場所を探して旅をしているんですか?」


「遊風街っていう会社でアルバイトしてて、そこの会社の先輩を好きになったんだ。でもそのその先輩は好きな人を追って会社を辞めてしまったから、どうしたらいいのか分からなくなって、会社を辞めて旅している」


「失恋を癒やすための旅ですか?」


「まあそういうことになるかな」


 くらげの質問をさらりとかわす聖さん。


 そういえばこの話、この前くらげと見たアニメと似ている。先輩を好きになって、その先輩と付き合えないことが分かったから、少し旅をして海に飛び込んで亡くなってしまった人。


 聖さんと言い、アニメの人と言い。好きな人が自分のことを好きになってくれないから自暴自棄になっている気がする。それでも今好きになりかけている人がいる以上、この人達の行動をおかしいとか馬鹿とかいう言葉で切り捨てることなんてできない。


「世の中、色々な人がいますから、次の恋くらいすぐ見つけますよ」


「いやそんなことないよ。それにどこに行けばいいか分からないし。会社は先輩がいるから行ってたようなもので、先輩がいない今は、私の居場所なんてないし。それでどこかに自分のいて良い場所があるかと思って、こうやって探しているけど、居場所なんて私がいて良い場所なんて見つからないし、好きになっていい人がどこにいるか分からないし」


 居場所がない、好きになっていい人がいるのか分からない、それはわたしも同感だ。


 学校に行けない、家族とも上手く関係を築けていない、同居している人とも最低限のやり取りしかしていないし、何よりもくらげのことを好きになっていいのか分からない。


 だけどわたしはここからどこにも行けない。居心地の悪い思いをしながらも、わたしはここで生きるしかない。


「多分さ、いて良い場所なんて見つからないと思うんです。それよりもどこでいたいか、誰を必要としているか、それが大事だと思います。自分でしか自分のことを決められないから、他のことなんて気にしなくていいです」


「そうかな。人は人と生きていくんだし、他の人のことを気にしないと」


「自分だって人なんですから、大丈夫です」


 くらげは言いきって、届いたブレンドコーヒーを慎重にすする。


 こんな風にわたしは言い切ることができない、自分が必要とする場所を考えるよりも、自分が必要とされる場所を探してしまう。


 だけどくらげがそういう考えなら、わたしは側にいていいのだろうか? わたしがくらげを必要としているからという理由だけで、恋とかやましい感情を持ちつつあるけど。


「じゃあ、もう少しだけ考えてみる。自分がどこにいたいのか、誰といたいのか」


「俺は一生このままここに聖さんがいても良いですよ」


「それはありがとう。だけどもうすぐここも出ていくかも。日本はまだまだ行ったことがない場所が多いし、そこと比較してから考えるよ」


「じゃあぜひここに戻ってきてください。それでまた俺や紫檻と一緒のこのコーヒーショップに行きましょう」


 今聖さんを同居しているわたしのことを無視して、聖さんにここでいることのアピールをし始める。その必死さに、わたしは思わずもやもやしてしまう。


「もしかしてくらげは聖さんのことが好きなの?」


「そうじゃないよ。第一今は誰かを好きになるとか、誰かと付き合うとか、考えたくないから」


 くらげは答えると共に、チョコレートケーキを口に頬張る。


 恋することを考えたくない、その考えに少しホッとしてしまう。これでくらげがわたしの知らない人と付き合ってしまうことはない、それはうれしい。


「中学生は対象外だから。それに私は年上と付き合いたいし。それよりも紫檻さんは今好きな人はいるの?」


「わたしも恋することとか、今はあんまり考えたくないです。不登校です」


 聖さんの質問をごまかして答えると、わたしはミックスジュースを口に含んだ。


 ミックスジュースは甘くて、その甘さがわたしの心をいやしてくれるような気がした。



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