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第二章 68話『ザストルク防衛戦』

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 魔人会のザストルク壊滅が始まってから1時間程度。特に魔人会による攻撃は無く、日が暮れ始めていた。

 アミナ達が街に到着した昼頃とは比べ物にならないほど静まり返り、暗くなった夜空が皮肉にもよく馴染んでいた。


「夜は嫌いでは無いが……今日だけはそうは言っていられそうにないな」


 静寂が広がっている夜空を見上げていたイーリルがそう呟いた。隣を歩いていたメイとベルリオとフィーも彼と同じように夜の街を歩いている。

 ベルリオは昼過ぎに来た時に見た景色と比べるように道の端にチラリと目を向ける。

 つい数時間前までは大勢の人々が賑やかに街の中を往来しており、大人から子供までが楽しそうに働いたり遊んだりしていた。それが今はどうだろうか。半壊して崩れ落ちた瓦礫と、燃えるものを失ってただその場で消えるのを待っている炎が弱々しく揺らめいている。そんな炎がこの街の惨劇に加担していたと考えると実に腹立たしい。


「本当にメイ隊長が敵のリーダーの所へ向かうのですか?」


 ふとイーリルが口に出す。それは誰しもが考えていた事であり、納得こそしているが、やはり心配な面も否定はできなかった。


「だーから言ってんだろ。私より強いヤツがいねぇ。だから私が行くって」


「ですが……アミナさんも言っていた通り、もし仮に貴女が負けでもしたら、もう勝てる者がいなくなってしまいます」


「あ?何だイーリルてめぇ。私が負けるとでも思ってんのか?」


 イーリルの言葉が聞き捨てならず、メイは目線を合わせてオラつく。「い、いえ。そういう訳では……」と今のは確かに失言だった、とイーリルは両手でメイを制する。

 それを見たメイは半眼になってジトッとイーリルを見つめた後、「はぁ」と低くため息をついて腰に手を当てる。


「私はそいつの実力を見抜くのに自身はねぇ。だが、一度そいつの凄さを知ったら最後まで信じる事にしてる。だからフィーを1人で行かせんだ。……前に街1つを身を挺して守ったって聞いた。あのアミナから聞いた話だ。それだけで信頼に値する」


「じゃあ私達は……」


 メイの言葉を受け取ったイーリルは自身の中で彼女の言葉を独自で解釈して飲み込んだ。

 お前1人じゃ足手まといだ、だから2人で行かせる、そう言いたいのだと何となく察していた。するとメイは食い気味に「その通りだ」と言った。


「イーリル。お前1人じゃ絶対に死ぬ。第一線から退いた野郎が武器持っただけで生き抜ける程、魔人会の連中を甘いと思ってんのか」


 想像通りの言葉に「そうですよね……」とがっかりした態度を隠しながらも、テンションが明らかに下がっていた。そんな相方を見たベルリオは少しだけ表情が歪んだ。


「だが勘違いすんな。別にそれだと犬っころじゃなくてフィーと組ませてもよかった。……だが、お前なら犬っころとの方が実力を最大限発揮できるって確信したからお前等を組ませた。そんだけだ」


 メイの言葉に少しだけ救われたのか、イーリルは黙ったまま彼女の言葉を再び噛み締めた。

 そんな会話をしていると、大きな道に出た。そこでメイは立ち止まって周囲を見回す。


「よし、私はここから北上する。犬っころとイーリルは東、フィーは西だ」


「にゃう」

「了解しました」


 メイが東と西を順番に指差しながらそう指示を出した。するとベルリオが少しムッとしたような表情をして「ちょっと待て」と口を開いた。


「俺は犬っころじゃない。獣人を差別するのは時代遅れだ」


「へぇ、言うじゃねぇか」


 真面目な表情で睨んでいるベルリオに対し、メイはニヒルな笑みを浮かべながら睨みつける。「よさないか、こんな時に」とイーリルは止めるが、ベルリオはここだけは、と引き下がらなかった。


「あんたがどんだけ強いかは知らない。言っておくが俺はあんたの部下でも元教え子でもない。そこだけは履き違えるな」


「プライドなんぞ犬に食わせろたぁよく言うが……それを食った犬がプライド抱え始めたってんならいい見せモンになるな」


 メイは全く悪気が無い様子で挑発的に言う。そんな彼女にベルリオはいい加減カチンと来たのか、メイの胸ぐらを掴んで持ち上げる。流石に本気で止めるべきだと判断したイーリルは「おい!ベルリオ!」と呼びかけた。すると彼の言葉に冷めたのか、メイを地面に降ろした。


「この件が終わったら覚えておけよ……」


「生憎、私は教え子と強いヤツの名前しか覚えねぇタチでな」


 地面に降ろされたメイを少し後ろに突き飛ばし、ベルリオは東の方へと向かって歩いた。彼の後ろをついて行くようにしてイーリルも歩みを進めた。去り際に「隊長、すみませんでした」と小さく頭を下げていった。


「……さて、ほらフィー。お前も行ってこい」


 メイはフィーにも指示を出した。するとフィーはメイの顔をじーっと見つめていた。


「なんだよ」


 その視線が気になったメイはフィーに訊くが、別に、と言わんばかりの態度をフィーはとって西の方へと走っていった。

 フィーが走り去った後、メイも「私も行くか」と呟いて、北の方へと体を向けて走り出した。



 「……ったく、なんなんだあの女。強いのは見りゃ分かるが、あんな態度とるようなヤツにロクなのがいねぇ記憶しかねぇぞ」


 メイとフィーと別れたベルリオが独り言のようにグチグチとメイの言葉に対する怒りを口にした。

 そんな彼にイーリルは「まぁ昔から口下手だったからなぁ」と呟いた。イーリルの言葉に「何の事だよ」とベルリオは聞き返すが、イーリルは「いや、なんでも」とはぐらかした。


 イーリルがこう呟いたのにはれっきとした理由があった。

 まずメイがベルリオの事をわざわざ犬っころと呼んだ理由についても何となく見当がついており、知り合ってからさほど時間も経っていないのに、ベルリオの性格を完全に察していたのだろう。

 メイがベルリオに喧嘩を売るような言い方をすれば、ベルリオは間違いなくそれを買う。そうすればベルリオは今回の件を早く片付けようとするだろう。そうすれば魔人会を早くに一掃し、街の住人の救出も早くなる。メイなりの気遣いと、魔人会一掃をコンマ1秒でも早めようとした結果なのだろう。


普通に作戦会議中は名前呼んでたんだけどな……2人とも変な所凄いのに、変な所抜けてるよな……。


 イーリルは2人のやり取りを思い出すと面白くなってクスリと笑った。


「あ?お前何笑ってんだ?」


「別に、何でもないさ」


「くっそぉ……こうなったら、さっさと魔人会の野郎共ブチのめして、メイのヤツと決着つけてやらぁ……!!」


ほら、メイ隊長のやろうとした通りだ。まんまと引っかかってるベルリオはやっぱり憎めないな。……てか、下水道の時は旦那とか呼んでたような気がするが……ま、喧嘩する程仲が良い、じゃないけど、2人は相性が良さそうだな。


 イーリルは1人納得して早足で走るベルリオの後ろを自身も早足でついて走った。

 それぞれがそれぞれの信念や意思を持ち、それぞれの敵へと向かって走る。

 メイは北に今回の件の首謀者と思しき人物の元へ、イーリルとベルリオは東に待機しているであろう魔人会の構成員の一掃。フィーも同じく西に待機している魔人会の構成員の一掃。

 戦地へと赴かないアミナとカイドウとカルムも、避難民の治療や世話をしている。


 今この瞬間から、全員の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。



最後までお読み頂きありがとうございます!


作戦を決めてからそれぞれの戦地へ行くまでを書きました!

次回以降は各々の視点で進んでいくと思います!


それでは次回もお楽しみに!!

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