第二章 63話『『元』究極メイド、下水道に向かう』
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薄暗く湿った空間。
それに耐えられる者はそうそうおらず、大抵の人間はすぐに嫌悪感を示す。しかもそこは様々な使用済みの水が流れてくるのだから、悪臭も形容し難い程の匂いを放っている。
アミナ達は今、そんな下水道の中を移動している。
下水道の中を歩いてる理由は、アミナがとある事が気になったからだ。
街にとって必要不可欠な、運ばれてきた荷物を一時的に保存する総合倉庫、町の南で消えた宿屋を点々とする男、酒場の情報通から聞き出した南側で知り合いが忽然と姿を消した事、子供達が破壊したと思しき南の下水道、それ等全てに共通する事が、南で発生している、という事だ。
何か意味があるのか、はたまた偶然か。
それを確かめに行く為に、アミナ一行は臭く暗く湿っぽい一本道を慎重に歩いている。
「はぁぁぁ……この生臭く鼻が曲がりそうな臭い……暗くジメジメとした最悪の環境……実にいい!!新感覚だぁ!!」
アミナの後ろ、そしてカルムの前を歩いている少しズレた男が思わず大きな声をあげて興奮している。
どうやら彼は痛みや罵声だけでは無く、こういった臭いや重い空気感でも興奮できるようだ。彼の守備範囲はどこまで広いのやら。
「カイドウさん……うるさいので少し静かにして下さい。響いてしょうがないです」
「あぁ、ごめんごめん。なんだかこういう高ぶりは久しぶりでさぁ〜。ほら最近アミナさん罵ってくれないし、暴力だって振ってこないでしょ?だから何かが溜まってたのかもしれない」
罵声を浴びないと何が溜まるってんだ。それこそこっちはたまったもんじゃない。
心做しか、ベルリオとイーリル、カルムの目が冷たく突き刺さっているような気がする。よくよく考えれば3人はカイドウの癖を知らないのだ。
まぁ、初見はそうなるよねぇ……とアミナは呆れながら「ハハ……」と笑った。
「カイドウ殿って――」
「――そういう人だったのか……」
ヤバい。いらぬ誤解……でも無いし別にいいか。事実だし。
そうだ、これを機に彼等にカイドウさんのノリに慣れてもらおう。……いちいち驚かれてもちょっと面倒だし。
「だが確かにこの悪臭はキツイぜ……。鼻も使い物にならなそうだな」
獣人であるベルリオが鼻をスンスンと動かして実践する。しかしやっぱり嗅ぎ分ける事が困難なのか、「はぁ……」と小さくため息をついた。
アミナも「確かにそうっぽいですね……」と言って抱きかかえているフィーの顔を目を凝らして見つめる。あまり詳しくは見えないが、顔が悪臭によってしわくちゃになっているのは確認できる。鼻がいいのも考えものだ。
「おい、分かれ道だぜ」
先頭歩いていたメイが立ち止まって後方に声を掛ける。
彼女は松明の火を持っていないのに前がよく見える。その理由は彼女のスキルにあった。彼女のスキルは他者からの意識を身体強化に変える事が出来るというものだった。
それによって身体能力だけでなく五感も強化されている為、数歩先も見えないような暗闇の中でも昼間のように見えているらしい。
アミナ達は、互いの服や手などを握りながら歩いている為、慎重に進まざるを得ないという訳だ。
「一体どちらなのでしょうか……」
アミナが悩んで分かれ道がありそうな方を見回す。
本当ならば松明で周囲を照らしたいのだが、いつどこで敵が現れるか分からない以上、そんな事は出来ない、とメイに言われてしまった。プロの意見だ、聞いておく事にしよう、そう考えて何も言わなかった。
するとカルムがカイドウの洋服を離してメイの横まで歩いて出た。
「ここは私が……」
そう言いかけると、メイは彼女の目の前に手をバッと出して「それはやめとけ」と低く凄みのある声で呟いた。
彼女の語気に圧倒されたのか、カルムは再びカイドウの後ろまで戻って服を握った。
「おいカイドウ、今私達はどの辺りだ」
メイは後方にいるカイドウへと声を掛ける。何故カイドウさんに訊いたんだ?とアミナは思うが、その理由はすぐに理解させられた。
「えっ、えっと……僕達はさっき、宿屋の主人の人が追いかけていた男が、突然消えた場所にあったマンホールからこの下水道に入った訳でしょ?そこから右に曲がって左行って左行って右行ってだから……管理人さんの家にあった地図と重ねると――」
そうブツブツと呟いてカイドウは頭の中で様々な事を思考する。きっと彼の頭の中にはたかだか数分しか見ていないこの街の地図や下水道の道も全て入っているのだろう。改めて驚異的過ぎる記憶力だ。
「――うん。ここは総合倉庫のすぐ近くだね。なんなら真下だ」
カイドウが上を見上げながら指を差す。
すると今度は、その言葉を聞いたアミナが「それさえ分かれば十分です」と言って、メイの横まで歩いて出た。
そして後ろにいる全員に「ここから動かないで待っていて下さい」と伝え、メイと手を繋いで、分かれ道の先へと進んでみる。
「私の考えが正しければこの辺に……どうですかメイさん。ありましたか?」
「んにゃ、特に何もねぇが―――あん?何だありゃ」
メイは見えてるにも関わらず思わず目を細めて天井を見上げる。アミナに彼女の見ている景色が何かは分からないが、容易に想像は出来た。
「何か穴のようなものがあると思うのですが……」
「へっ……ああ、あるぜ。木箱で隠せそうなサイズ感の四角い穴がよ」
正確な位置をメイに教えてもらい、アミナは地面に触れる。そしてスキルを発動させて地面を盛り上げていく。
そして目の前までその穴が迫った時に、アミナは穴を塞いでいる何かを持ち上げた。「あれ、軽い……」と呟くと、眩しい光が暗闇に慣れ始めていたアミナの目を突き刺した。
外だ。直感的にそう確信した。
誰もいないのを確認した後、総合倉庫の中をぐるりと見回してみる。
アミナが出てきた木箱の位置以外に物はほとんど無く、穴を塞いでいた木箱がある周辺だけ異様に木箱や荷物が多い。恐らくこれが動かされていない荷物という物なのだろう。
不自然だが、倉庫である以上自然と感じてしまうこの隠し方は、疑わなければまずバレない。実に巧妙な隠し方だ。
アミナは再び木箱の位置を戻しながら下水道へと戻る。そして再びメイの手を繋いで、皆に動くな、と言った場所まで戻る。
「どうだった?何か見つかった?」
こちらも真っ暗闇に慣れてきたカイドウがアミナに問いかける。もう全員の目が慣れていると考えて良さそうだ。
「想像通り、地上に繋がる穴がありました。しかも木箱は大きさの割には軽かったです。恐らくあの中に入っていたのは、人でしょう」
「人だと?」
腕を組んだイーリルが不思議そうに呟く。
彼のその言葉に頷いたアミナは、他にもよく分かっていなさそうなメンバーの為に説明を始めた。
「私の予想ですが、馬車で運ばれている荷物の中身……それを食料品や衣服、鉱石なんかで偽って、人を木箱に入れて運んでいたのだと思われます」
「え!?でもそんな事したら流石にバレるんじゃ……」
「よく思い出して下さい。私とベルリオさんが話を聞いた御者の方は「お金さえ払えば中身は問わない」と言っていました。それを加味すると、倉庫からここに穴が空いていたのも可能性としてはあり得ると思います」
彼女の推理に「なるほど……」と顎に手を当ててカイドウは考えた。
かくいうアミナも色々と考えたかったが、今は話を本題に戻した方がよさそうだった。
「そしてここに運ばれた何者か……もういっそ魔人会の構成員と呼んでしまいましょうか。彼等は外部から荷物に紛れて侵入、ここへ運び込まれてからこの穴を作り出し、下水道へも侵入。そしてどこかへ向かった……」
「た、確かに筋は通っているか……」
ベルリオが感心したように目を開いて頷く。それに続いてイーリルも納得した様子でベルリオ同様頷いた。
「そしてそこからどこへ行ったのか……すみません、メイさん。またお願いします」
そう言われて一同はメイの方を見る。
すると彼女は「しゃーねーな」と渋々だが嫌がっている様子は無くそれを了承した。
そしてメイは地面を凝視し始めた。何事かと思ったイーリルが「メイ隊長?何を……」と訊いた。
「見りゃ分かんだろ。どんなヤツがここを通ってどこに行ったのかを見てんだよ」
「そんな事が出来るのか?」
簡単そうに言ったメイに対してベルリオが驚きながら問いかける。
「何も人間が残す痕跡ってのは1つじゃねぇ。残り香や風の立ち方。足跡や地面の傷の出来具合。なんだって人間の痕跡だ」
「メイ様のスキルは五感も強化が可能です。それを利用して目を最大限にまで強化すると、周囲とのほんの微細な違いも見逃さずに、他者の痕跡を辿る事が可能になります」
カルムによる補足の説明に「んま、そういうこった」と返しながら再び前に進む。
しばらく……大体15分程度歩いた所でメイは立ち止まった。
「ここで全部の痕跡が途絶えてやがる」
彼女がそこをどくと、その先は壁で行き止まりだった。
アミナはフィーを地面に降ろし前に出て、その壁をコツコツと指で叩いてみた。
何か分かったのか、アミナは納得した様子で「なるほど……」と小さく呟いた。そして突然、カイドウへと声をかけた。
「カイドウさん。子供達が壁を破壊した場所ってどこでしたっけ」
訊かれた時、今度はブツブツと呟かずに静かに思考した。数秒経過してからカイドウは「多分この辺」と返した。
「なるほどやはり……」
アミナはそのまま壁に両手をつき、スキルを発動させた。
眩い光が暗闇に慣れた全員の目を突き刺す。先程アミナが味わった感覚だ。特にメイには大ダメージだっただろうが、彼女は平気な顔をしてスキルを発動させたアミナの事を見ていた。
アミナのスキルによって壁が粉塵となって落下しサラサラと地面に山を作る。
そして一同は目の前に現れたものに驚愕して目をカッと開いた。
「やっぱり……。壁を破壊したのは子供達ではありません。この"隠し通路"を作る為に、魔人会が空けた穴だったのです」
壁の中に発見した隠し通路を目の前に、一同の決意は改まり、無数の可能性が広がるその通路へと歩みを進める。
たった1つの真実を確かめる為に。
最後までお読み頂きありがとうございます!
全員の掴んだ違和感が見事に合致してまさかの事に……!!
このまま進んでどんな事になるのだろうかぁ!
それでは次回もお楽しみに!!




