第二章 55話『『現』プロの殺し屋、訓練場に顔を出す』
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アミナとカイドウとフィーが部屋からいなくなった後、メイはカルムの太ももの上に頭を乗せて眠っていた。
カルムはそれを受け入れているようにそのまま放置しており、カルムも瞳を閉じて目を休めていた。
そんな静かで平和な空間をぶち壊す存在が1つ、部屋に入ってきた。
バンッ!!と勢い良く扉を開け、大きな声で「シェンメイ〜!!帰ってるなら言えよぉ〜!!」と叫んだ。
それは小さな少年だった。
小さいとは言っても歳はもう10歳程になる少年だ。
メイはあまりの騒音に頬に血管を浮かべて部屋の入口の方を見た。
「てんめぇこのクソガキがぁ……折角気持ちよく昼寝してたってのによぉ……」
そして握り拳を作ってその少年をグーパンチで殴り飛ばした。
「ぐえっ!!いきなり何すんだよ!!」
「うるせぇ鼻垂れ小僧!!ガキは外で遊んでろ!!」
メイは問答無用で言い捨てる。
しかしカルムは立ち上がって少年の所まで行って挨拶をする。
「ご無沙汰しております、ナタ王子」
「おーう、カルムも久しぶりだな……ってあれ?そうだったっけ?」
レブラ王子と呼ばれた少年は顎に手を当てて考える。
彼の本名はナタ・コルネディア。
今は亡きリプス・コルネディアの実の息子だ。
歳が離れすぎているというのは仕方の無い話だった。
リプスと妃の間には中々子供が出来ず、妃が先立ち、2人目の若い女性を娶ってようやく産まれた子供だったのだ。
リプスが71歳でナタが11歳。
つまり、年齢差はおよそ60歳。
もはや孫と祖父の年齢差だ。
「んで?何のようだバカ王子」
「む、バカ王子じゃないぞ。ナタ王子だ」
ムスッとして反論したナタに対し、「どっちでも一緒だろ」とメイは呟く。
そして本題を思い出したナタは「そうだった」と呟いてメイの座っているソファの前に来て彼女の大きな手を引っ張った。
「ねぇねぇ!久しぶりに訓練場に顔出してよ!最近僕も行くようになってさ!強くなったんだよ〜!もうお城の中で僕に負けてない人はいないんじゃないかなぁ〜」
ナタは誇らしげに胸を張って言う。
だがまぁ、案の定接待だろうし、わざと負けた以外の他ない。
メイは興味無さそうに「へぇ〜」と鼻をほじり、指先についた鼻くそをナタの額にくっつけた。
「げぇぇ!!きったない!!何すんのさ!!」
「未熟なお前に社会の恐ろしさを教えてる」
「何言ってんだこのアバズレ!!」
「あ?んだとこのガキ!!」
「バーカバーカ!品性の欠片も無いんだからアバズレがお似合いだろ!!」
「この野郎……!!大人を怒らせるとどうなるか身を持って教えてやろうかぁぁ!!」
2人は狭い部屋の中でかけっこを始めた。
それを椅子に座ってただ見てるカルムは、さながら保護者のようだった。
微笑みながらどんどん散らかっていく室内で静かに佇んでいる。
「フフ……メイ様は、小さいお子様と絡む時は本当に全力ですね」
ふとカルムが言う。
メイにその自覚は無いが、一応捕まえて片羽絞をして苦しんでいるナタに問う。
すると「うん……普通に大人気ないと思――イデデデ!!」と返した。
そしていい加減離してやる事にすると、再び先程の提案をしてきた。
「なぁなぁ行こうよ!!他の皆も待ってるんだってば!!」
「他の皆って誰だよ」
「皆は皆だよ。メイが教えてた騎士団員達全員が待ってるよ!!皆君にお世話になってるからね!!」
「なんだ?じゃあお前は使いっ走りにされてんのか?」
「うーん……どうだろ。分かんないけど、僕がいつも通り訓練場に来たら、今日はメイが来てるってもっぱらの噂だったんだ。だから僕がおじさんに場所を聞いて、呼びに来たって訳!!」
おじさん……この場合はノプス・コルネディアか、ネブロ・コルネディアの2人のどちらかになる。
しかしタイミング的にネブロなのだろう。
余計な事言いやがって、とメイは心の中で悪態をつく。
「はぁ……しゃーねーから行ってくっか。カルムはどうする?」
「勿論、お供させて頂きます」
「やった!カルムも来るなら皆に紹介できるな!!皆勿体ないよな。カルムって凄いヤツなのに誰もその事を知らないんだぞ?」
彼のその言葉にメイはドキッとする。
その事はつい先程馬車の中でカルムにバレてしまった事だからだ。
あんまりその事をカルムに言うなよ……と内心ドキドキのメイはカルムをチラッと見る。
しかし彼女は気にしていないのか、はたまたメイに悟られないようにしているのか、笑顔を貫いていた。
「フフ、お褒めに預かり光栄です。それでは参りましょうか」
ナタはカルムと手を繋いで歩いた。
そしてメイとも繋ぎたそうにしていた。
カルムは小声で「繋いであげて下さい」と言って微笑んだ。
メイは嫌そうな顔をしたが、仕方無く小さな手をそっと握る。
メイが手を握ってやると、少し不服そうで落ち込んだ表情をしていたナタは「二へへ」と笑った。
11歳になるのに随分幼く見える。
それが歳故なのか、別の理由があるのかは、メイには良く分かっていた。
―――
城の中庭。
そこに騎士たちの訓練場の一つがある。
その訓練場で騎士達は日々の辛い訓練に耐えながら己を磨いている。
するとそこへ、服装と年齢だけ見れば不適切過ぎる3人が登場した。
3人中2人がスカートで、1人は少年。
何も知らない騎士からすれば今すぐに立ち去れ、と言うところだか、その3人を見つけた騎士はこぞって集まってくる。
「メイ隊長だ!!」
「本当だ!!メイ隊長が来てるぞ!!」
「帰ってきてくれたんだ!!」
「メイ隊長が……帰ってきたぁぁ!!」
むさ苦しい男達が続々と集まった。
「おお、マスル。妹は元気してっか?」
「はい!」
「ビッゲ。お前少し太ったろ、体重絞れ」
「うす!」
「おいナルドープ。苦い物嫌いは直ったか?」
「いいえ!」
「ラッヅてめぇ、今私の服笑ったろ」
「はい!スカートお似合いです!」
メイ1人1人の名前を呼んで近況を確認した。
それが嬉しかったのか、騎士達は
シェーンメイ、シェーンメイ、シェーンメイと、シェンメイコールをかけた。
全員が揃った動きで拳を突き上げてそれを続ける。
最初はただ無言で受け流していただけだったが、いい加減鬱陶しくなって超高速で全員に一発ずつ殴りをいれた。
そして最終的に全員が「ありがとうございます!!」と声を揃えて言うものだから「お前等全員カイドウかよ」とついツッコんでしまった。
「改めましてお帰りなさい、シェンメイ隊長。コルネロ帝国武装騎士団員、お戻りをお待ちしておりました!!」
騎士団員の1人が大声でそれを宣言し、お辞儀をした。
あまりにも揃いすぎているお辞儀に流石のメイも申し訳無さを感じたのか、コルネロ帝国に来た理由を話した。
「あぁ、悪いが別に隊長に戻る気はねぇ。ちょっとネブロの三男坊に呼び出されちまってな。ここに来た理由はそんだけだ」
そう説明すると、騎士達は明らかにテンションが下がり、期待の眼差しは落胆へと変わった。
しかしまたしても先程宣言をした騎士団員が口を開く。
「そう……でしたか。早とちりしてしまい申し訳ありません。……でしたら、今日だけでも訓練に参加なさっていってください。僕らもきっと以前より成長していますから。隊長も驚かれるんじゃないですかね」
「ほう、たった一ヶ月ちょいでお前等が強くなったか……なら――とことん見せてもらおうじゃねぇか」
メイはその辺に落ちていた木の棒を手に取る。
そしてヒュンヒュンと数回振って音を鳴らした後、それを構える。
「さぁ、かかってこいよ。何なら真剣でもいいぜ」
「へへ、いくら隊長と言えど、それは舐めすぎですよ……!!皆!!行くぞ!!」
「おぉ!!」
その場にいた騎士全員がちゃっかりと真剣を持ち、メイへと激しく咆哮を上げて飛びかかった。
それは決して、舐められた事への恨みや憎しみを込めた斬撃では無く、メイを強すぎる相手と認識した上での敬愛と尊敬の念を込めた斬撃達だった。
「へっ、かかってこいやぁ……!!」
―――
大体十数分ほど経過した。
カルムは木漏れ日の下で組手の様子をナタを膝に抱えて共に見ていた。
ものの数分で用意してきた水筒の中に紅茶を淹れ、ナタに飲ませている。
「あっ、終わったみたいだぜ」
ナタが指を差す。
彼が指を差した方向には、メイに挑んでいった騎士団員40名が積み上がり、山が出来上がっていた。
「ハンッ、この程度で強くなっただと?笑わせるな。お前等みたいなのをあと30000人は連れてこないと私には勝てないぞ」
メイは積み上がった人の頂上に座って言う。
その姿を見てナタは笑顔で走って近づいてくる。
「すっげぇすっげぇ!!やっぱメイは強くてかっこいいぞ!!なぁなぁ僕をそこに座らせてくれてもいいんだぞ?」
ナタは物欲しそうな目でメイの顔を見上げている。
そして両手を伸ばし、まるで抱っこして持ち上げろと言わんばかりの態度で待ち構えている。
メイはそんな彼の態度を「ガキにはまだ早ぇよ」と一蹴し、山の上から降りた。
それでも「僕は乗りたいんだってばぁ」と引き下がらない為、一つの提案をする事にした。
「そんじゃあよ、私と組手だ。一撃でも私に入れられりゃ、こいつ等の上に乗せてやらぁ」
「ほんとほんと?でも――」
腕を組んでナタは口籠る。
何を言うのか分からなかったメイは「あ?」呟いた。
「一撃与えるの定義って何? 例えばさ、木剣の先っちょがちょんって当たっただけでも一撃に入るの? それとも、ちゃんとこう、バシッて音が鳴るくらい強く当てなきゃダメ? あとさ、もし僕がわざとじゃなくても剣を振ったら偶然当たっちゃった場合は、それも一撃にカウントされるの? 逆に、もしメイが避けようとした瞬間に足を滑らせて勝手に僕の剣にぶつかっちゃったら、それは僕の一撃になるの? それとも、それはノーカン? あとさ、一撃ってどこに当たってもいいの? 腕とか足に軽く当たっただけでもいいの? それとも、ちゃんと急所とか胴体とかに当てないとダメ? そもそもさ、一撃を与えるって言うけど、それがどの程度の力を持ってるのかっていうのも問題だよね。例えば、すっごく軽くかすった程度でも、それがもし本物の剣だったら致命傷になることもあるわけじゃん? でも、木剣だから痛くも痒くもないって場合は、それって本当に――」
「お前ってこういう時、変に論理的だよな」
長文をいきなり口から吐き出すナタにメイは呆れて低く呟く。
「一撃っつったら何でもいい。私の体に当たりさえすりゃな。ま、安心しろよ。お前の想定してるドジを私は踏まねぇ」
メイは落ちていた木剣をナタに手渡して構えさせる。
それに敬意を払うようにして、彼女も木剣を持って軽く構える。
「だが逆もあると思え。私は一切反撃しない、なんて優しい事は言わねぇからな」
「うん!望む所だ!!」
涼やかな風が草原を撫でる。
雲間から差し込む陽光が、ナタとメイの影を長く伸ばしていた。
二人は向かい合い、それぞれに木剣を構える。
ナタの足元はわずかに沈む。
重心を低くし、しっかりと踏み込む準備をしている。
彼の目には幼さが残るが、それでも剣を持つ腕はしっかりとしていた。
その瞳の奥には、勝ちたいという意志が宿っている。
へぇ……いっちょ前の構え方するじゃねぇか。
一方のメイは、まるで風そのもののように軽やかだった。
力みのない構え、流れるような動作。
彼女は木剣を片手で持ち、わずかに傾けている。
それは隙のようにも見えたが、決して入り込めるものではない。
少年は息をのみ、そして駆け出した。
素早い一歩。
木剣を低く構えたまま、踏み込む。
刃先をメイの胴へ向けて突きを放つ。
躊躇いのない、まっすぐな一撃だった。
しかし、その瞬間にはメイの姿はすでになかった。
ナタの目の前を風が駆け抜ける。
視線を逸らした刹那、木剣の柄が彼の肩に触れる。
軽く押し当てられただけのような感触。
しかし、それは圧倒的な速度の結果だった。
「もう一度だ!」
ナタは後ろへ跳び、即座に体勢を立て直した。
先程の失敗を繰り返さぬよう、今度はフェイントを交える。
右へ踏み込む素振りを見せ、次の瞬間には左へ旋回。
剣を高く振りかぶり、一撃を叩き込もうとする。
――が、その刹那、視界の隅に、白い影が揺れた。
メイの手の中の木剣が、まるで舞うように動く。
彼の攻撃に対し、最小限の動きで受け流した。
そのまま、メイの剣が滑るように動き、ナタの額のすぐ前で静止する。
「……!」
止められた。
完璧な位置で、完璧な制圧。
少年は歯を食いしばりながらも、一歩退く。
「へっ、今の死亡1な」
メイはそう言うが、ナタは気にしていない。
そして再び剣を握り直した。
何か策を講じなければ勝機はない。
ならば、とナタは一か八かの賭けに出た。
剣を大きく振る。
正面からの一撃。
あえて明確な軌道を示すことで、相手に防御の意識を向けさせる。
そして、振り下ろした直後、逆の足で地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。
「……っ!」
その勢いのまま、横薙ぎに切り込む!
だが――メイの木剣が軽やかに弧を描く。
まるで、風が吹いたかのような動きだった。
ナタの剣が触れる寸前、メイはその腕を軽く弾き、体勢を崩させる。
そして、ふわりと足を踏み出し、まるで舞うように彼の背後へと回り込む。
次の瞬間、軽く肩を叩かれる感触。
「……あぁぁ!!負けたぁぁ」
ナタは天を仰ぎ、大きく息を吐いた。
勝負は決していた。
圧倒的な実力差。
「まっ、まずまずだったぜ。そこに転がってるヤツ等よりかは、マシな騎士になれるかもな」
メイは慰めとも、本心とも取れる事を言った。
しかしナタはそれを聞かずに「こうなったら練習だチクショー!!」と言ってカルムの所まで走っていってしまった。
「ったく、忙しいヤツだな。……おっと、そういや今日チールを見てねぇんだけど、いねぇのか?」
メイが何の気なしに訊く。
チールとはリプスの2人目の奥さんの名前だ。
リプスと歳が50近く離れている超若い女性だ。
その姿が見えない事を不審に思ったメイが訊くが、騎士達は躊躇したような表情をする。
そしてその中の1人が口を開いた。
「……実は、チール皇后は数日前から姿を消しておりまして……」
「は?」
「我々にもどこへ行くのか知らせずにただ「すぐ帰りますわ」とだけ……」
重なっていた騎士達がいい加減立ち上がってメイに話した。
メイは顎に手を当てて思考するが、それ以外の情報が無い為一旦切り替えた。
「……その事もあってか、ナタ王子がここまで元気なのも久しぶりなんですよ」
「何せ皇帝陛下……自分の父親をこんな幼い年齢で亡くしてしまったんです。落ち込みようと言えばそれは酷かったですよ」
騎士の一人がそう言った。
しかしメイにはそれが引っかかった。
「お前等……それ知ってたのか」
ネブロの話では一部の人間しか知らないと言っていた。
しかし目の前にいる騎士達はそれを知っている様子だった。
「ノプス陛下もネブロ大臣も、嘘が下手ですからね……」
騎士の一人が苦笑いしながら言った。
結局誰にも隠せてなかったって事かよ。
メイは可笑しくなって鼻で笑う。
そしてふと思い立ってナタに近づき、彼の方に手を置く。
「どうした?メイ」
「いいかナタ。お前は将来きっと――人誑しになる」
「なっ!!いきなり来てメイお前!それは悪口か!?」
「へへっ、さぁどうかな。ま、自分で考えろ〜」
メイはそう言って他の訓練している騎士の所へ飛び入り参加し三秒せずに4人を倒してしまった。
「まだまだ弱いなお前等!」と高笑いしている声が聞こえる。
ムスッとした顔をして腕を組んでいるナタにカルムが膝をついて話しかけた。
「人誑しとは、沢山の人々に好かれる……そんな意味もあります。遠くない未来、誰かの上に立つ人にとっては、最大級の褒め言葉ですよ」
―――
時は過ぎて夕方頃、今日はメイが中庭に集合していた騎士達の訓練に付き合っていた為、臨時で訓練が中止となった。
その分騎士達の訓練のモチベーションは上がり、結果的に有意義な時間を過ごした。
メイとカルムは、木の下で眠っているナタの所へと行った。
「おらバカ王子、さっさと帰るぞ」
体を揺さぶっても起きない。
ならいっそぶん回してやろうか、とメイは考えるが、それを察知したカルムに肩に手を置かれて制止される。
そして2人は起こさないように小声で話し合った。
「どうすんだよ、自分で歩かせた方がいいだろ」
「ボコボコになさったのはメイ様じゃないですか。運んであげたらどうですか?」
確かにその通りだ。
彼の闘争心に火を付けたのはメイであり、火がつかなければ疲れて眠る事も無かった。
メイは仕方無くおんぶをして城の中へと戻る。
「へへ……父ちゃん……」
メイの背中で寝ているナタが寝言で呟く。
確かにリプスの体格はメイと似ており、細身だがガッチリとしていた。
彼は幼いながら、亡き父親の背中をメイに重ねているのかもしれない。
「はぁ」と一つため息を付き、眠ってしまったナタをメイは背負ったまま、ネブロの自室へと向かった。
「こいつは将来大物になるな……」
「えぇ、私もそう思います」
最後までお読み頂きありがとうございます!
これで小休止回はラストとなります!
また次からは犯人候補である魔人会との接触をする為に色々と奮闘します!
それでは次回もお楽しみに!!




