第二章 47話『『元』究極メイド、国境を越える』
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「コルネロ帝国の国境線まであと少しです」
御者台に座っているカルムが馬車の中に向かって言ってきた。
バザールを出発してから一週間、野宿と馬車による移動を繰り返していた。
ここまでの総移動距離は大体400キロメートル程となる。
もう国境はすぐそこで、そこを通り抜ければコルネロ帝国の領土内だ。
「なんだかんだ、特に何事も無く到着できそうですね」
隣りに座っているカイドウにアミナは声をかけた。
そう言われたカイドウは「うん、あまり僕は活躍できていないから……ちょっと複雑だけどね」と言った。
この一週間、運転はカルムとカイドウ、戦闘はアミナとカルムとフィー、食事はカルムとアミナ、道具の点検はアミナとカイドウ、夜の見張りはメイとフィーが代わる代わるに担当しながら進んできた。
「あんまし旅の記憶がねぇけど……それにしたって行きたくねぇなぁ……」
珍しく起きているメイがボヤく。
旅の記憶が無いのはそのほとんどを寝て過ごしていたからでしょう、とアミナは言いそうになったが口を噤んだ。
その理由は、バザールの宿屋でカルムに聞いてしまった言葉によるものだ。
メイは食事を摂取する必要も、寝る必要も、息すらする必要も無いそうだ。
一見素晴らしく思えるがアミナはこう考える。
生きているという実感をいずれ失ってしまうのでは無いか、と。
怪我や病気にならない限り、自然死する事はまず無いのだ。
そんな事を考えると、軽率な発言は出来ない。
「そういえば、どうしてそこまで嫌がっているのに律儀に行くんですか?別に無視しても良いと思うんですけど」
「前も言ったろ。あの手紙にゃ宛先の人間が受け取ると差出人はそれを感知できんだ。だから行くしかねぇって言ったのはお前だろ」
「でもそれでも無視してしまえば良いじゃないですか。メイさんなら逃げる事くらい朝飯前でしょう?」
「逃げるだけならなぁ……まぁ、やれん事ぁねぇ。でもあの国にゃ、ちょっとした借りがあんだよ。だから無視して断んのだけは出来ねぇんだ」
アミナにそう言われたメイは、馬車の中にあるテーブルの上に顎を乗せて心底嫌そうに呟いた。
彼女には未だ謎が多い。
それを今全て聞き出すのは彼女の性格上無理だろう。
なにせ、自身の使用している武器を見せるのすら、少しずつ出していくと言っているような人物だ。
まぁあとはシンプルにまだ信用を勝ち取れていないだけかもしれないが。
すると突然、メキッ!と大きな音がしたと思ったら、馬車が急に傾き始めた。
「うおっ!……なんだ?」
カイドウがその反動で少し椅子から浮いてから言った。
アミナとカイドウとフィーはすぐさま馬車の外に出て何が起きたかを確認する。
もしかしたらまた魔人会の連中が攻撃をしてきたのかもしれない、そんな事を考えつつ馬車の出入口から出た。
「カルムさん、一体何が?」
アミナが外に出た時には既にカルムは御者台から降りており、音の正体をアミナへと見せた。
「アミナ様……どうやら車輪が破損してしまったようなのです」
彼女の手の先には綺麗に真っ二つに割れた木の車輪があった。
確かに長期間の移動に次ぐ移動。
破損したってなんら不思議では無い。
「なんだ、そんな事だったのか……。安心してください、すぐ直しますから」
何を言っているんだ?と言いたげにカルムは馬車の中に戻って行ったアミナを目で追った。
そして馬車の中でガタゴトと音がした後、アミナは木の切れ端を少しだけ持ってきた。
「あの……アミナ様。直すとは……?」
「まぁ見ててください」
アミナは壊れた車輪と木の破片を同時に両手で覆い、スキルを発動させた。
車輪と木片が光り輝き、たちまち車輪は元の綺麗な状態へと戻った。
隣で見ていたカイドウやフィーからすれば見慣れた光景だ。
「凄い……!どうして一瞬にして……?」
「あれ、見た事無かったんだっけ?これはアミナさんのスキル『究極創造』だよ。素材とイメージ、それと知識があればどんな物でも作り出せるスキルさ。彼女はこのスキルを使用して、街の人の困り事を沢山解決してきたんだ。今や街のちょっとしたヒーローさ」
カイドウが端的に説明した。
そして何故かフィーが誇らしげに胸を張っていた。
「そんな事無いですって。私は、皆さんの力になれるだけで十分ですし」と本人はカイドウの最後の言葉だけを否定した。
あとちゃっかり借金をしている事も言わないでくれた。
「スキル……?そのウルティメイドとやらが?」
カルムは不思議そうに呟く。
何かおかしい事を言っただろうか、とアミナとカイドウは顔を見合せた。
すると馬車の中からメイが顔を出した。
「あー、カルムの生まれ故郷ではスキルって呼ばれてねぇんだ。だから聞き慣れねぇだけかもしれねぇな。そもそもスキルだなんて呼び方も冒険者が始めたもんだ。特殊能力、加護、異能、権能……呼び方は色々あんだよ」
カルムが困惑している理由を説明してくれた。
そして次に急かすように「車輪直ったんならさっさと行こうぜ」とも言ってきた。
確かにもう車輪の破損は直した。
早く目的地に到着して、コルネロ帝国での用事を済ませたい。
アミナ達が馬車に乗り込もうと出入口の扉を開けた時、入口の扉に何かが撃ち込まれた。
それが弾丸だと分かるのに、時間はいらなかった。
「伏せろ!」
カイドウはそう叫んだ。
しかし彼のその声に体制を低くしたのは彼だけだった。
次々に弾丸が撃ち込まれるが、誰一人として身を隠す素振りは見せなかった。
それどころか、カルムは最低限の動作で身を躱し、アミナは短剣で冷静に弾丸を弾き、フィーは体毛で弾丸を寄せつけずに毛繕いし、メイに至っては馬車の中で変わらず寝転んでいる。
「……え?」
カイドウは周囲の全員の冷静さに驚いて顔を上げる。
アミナとカルムが何かを話し合っていた。
「恐らくここより数十メートル程しか離れていないと思われます」
「それには同意です。それに直接狙ってきていますね。多分方向は……あの森辺りですかね」
「確かにそのようですね。しかもこの弾丸の形状、コルネロ帝国国境警備隊の魔道銃器の7.62ミリ弾だと思います」
「魔道銃器?」
「魔道銃器とはコルネロ帝国やその周辺国で独自に開発された魔道具です。弓矢より飛距離が長く、とても便利です。……しかし、使用者の力量で威力が変化しないのが少し弱い所となります」
「なるほど……そのようなものが。実弾という事は、メイさんの使っていた武器から発射される魔力の弾丸とは構造も違うのですね」
「なぁー早く行こうぜー」
そんな会話が淡々と繰り広げられていた。
この会話がどこかのお店や自宅での談話ならまだ落ち着いて話している事に納得出来るのだが、アミナ達は今も尚撃たれ続けられており、それぞれが何も気にしていないように弾丸をいなし続けている。
そこまで来ると、カイドウは改めて周りの人間の強さを認識させられた。
「あーくっそ、なんだよどうした。早く行こうぜ」
痺れを切らしたメイが馬車の中から降りてきた。
するとその彼女に対してカルムが「どうやらコルネロ帝国の国境警備隊が発砲してきたようです」と説明をした。
「あ?警備隊だぁ〜?」
メイは地面に落ちている石を拾った。
そしてカルムに「どっからだ」とだけ聞き、「ここより約20メートル程離れたあの森です」とカルムは答えた。
そしてメイは石を水平に構え、空を切るようにして石を投げた。
平行移動をしながら飛んで行った石は森の藪の中へと入り、そこからは「ぐあぁっ!!」「のあぁっ!!」という声が聞こえた。
「はっ、こちとら水切りのプロだぞ。そんな近場から狙撃しやがって。舐め腐ってんのか」
それだけを呟いてまた馬車の中へと戻って行った。
「あははは……」と目の前で起きたとんでもない出来事に一周まわって呆れたカイドウは体を起こして地面に座った。
このメンバーが揃えば危険はとりあえず無いみたいだ……情けないけど、と考えながら周囲を見回す。
するとフィーの姿が見えないのに気がついた。
「あれ、フィアレーヌ君は?」
「あぁ、フィーちゃんなら恐らく……」
アミナは先程、メイが石を投げた方向に顔を向けた。
しばらくするとそこから物凄い速度で走ってくる四足歩行の魔物が見えた。
その魔物は口に2人の男を咥えていた。
「ご苦労様ですフィーちゃん」
「この人達がさっき攻撃してきた国境警備隊の人達なのか?」
カイドウは男達の顔を見た。
1人の男は目が紫色に腫れ、残ったもう1人は鼻がへし折れていた。
恐らくメイの投げた石が目に当たった後、もう1人の鼻に直撃したのだろう。
「貴方達が国境警備隊の人ですね。いきなり攻撃だなんて酷いじゃないですか」
アミナがしゃがんで男の方を見る。
すると男達は怯んだ様子も無く言い返してきた。
「黙れ!怪しい連中め!今我が国は警戒態勢を敷いているのだ!貴様等のような怪しい連中を国に入れる訳にはいかんのだ!」
中々ホネがあるみたいだな……とアミナが心の中で呟く中、カルムが立ったまま男2人を見下ろした。
「捨て身も結構ですが、力量の差くらいは意識した方がいいと思いますよ。貴方がたのその捨て身の発言は勇気でも根性でもございません。ただの死に急ぎです。我々に敗北したからもうなんだっていい……私には貴方がたがそう見えました」
カルムにそう言われると、2人はバツが悪そうに口ごもった。
きっと図星だったのだろう、とても悔しそうだ。
「私達はコルネロ帝国の大臣に呼ばれて来ました。何かそちらに情報はいっていないんですか?」
アミナが男達へと言う。
するとお互いに顔を見合せて「いや」「聞かされていない」と答えた。
その話が聞こえたのか、それともさっさと出発したかったのか、再びメイが馬車の中から顔を出して声をかけてきた。
「おい!だからさっさと行こう―――って、お前!ポルコだろ!どうしたそんな目腫らしちまってよ!そっちの鼻骨折の方はネールか!久しぶりだなぁ元気してたか!」
メイは突然テンションが上がったように話を始めた。
その時に初めて気がついたのか、ポルコとネールと呼ばれた2人は同時に「もしかして……シェンメイ隊長!?」と大声で驚いた。
「よせやい、もう私は軍に戻る気はねぇ。お前等の上官でもなんでもねぇよ。それより、なんでお前等そんな怪我してんだ?魔物か?」
「いや……これはさっき隊長が……」
「俺等に向かって石を……」
それを聞くとメイは「あぁん!?」と掌を返したようなテンションになった。
「そんじゃああのお粗末な狙撃はテメェだったってのか!?私が教えた事何も学んでねぇじゃねぇか!いっぺん殺すぞこの恩知らず共が!!」
メイは2人の胸ぐらを片手で掴んで持ち上げ、足がつかないようにして2人をジタバタとさせた。
そしてそれを、まぁまぁ、と止めたアミナが2人に帝国に来た経緯を説明した。
すると、「そういう事なら帝都までお送りします」と言って、ネールの方が馬車の御者台に乗った。
「さぁ、乗ってください。シェンメイ隊長のご友人なら敵対する理由はありません!」
先程とは相反する見事なまでのテノヒラクルーを見せた2人は、アミナ一行を帝都まで案内するべく、馬車を帝都まで走らせた。
最後までお読み頂きありがとうございます!
一時はどうなるかと思いましたが、全員がバケモノフィジカルで何とかなりました!
さて次回は帝都までの残りの道を行きます!
それでは次回もお楽しみに!!




