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第二章 42話『『元』究極メイド、刺客の過去を聞く』

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スターターを出発してから数時間、馬車の時速から換算するに大体30キロは進んだだろう。

途中休憩を挟んだり、運転を交代したりして旅は順調に進んでいた。


今はカイドウが馬の手綱を握っている。

誘った人間にやらせるなんて……とアミナは言ったが、それに対してカイドウは「僕を文字通り馬車馬のように働かせてくれ!!」と久々のドM具合に一同は無言で承諾した。


そして彼1人では寂しいだろうからと、アミナはフィーに行っておいでと言った。

仕方無いな、と言いたげなフィーは実は満更でも無さそうだ。

ガーベラの一件から本当に2人は仲良くなった。

フィーはたまにカイドウの家に行っていたりするらしい。


その事をカイドウからアミナにバラされた時はカイドウの顔を引っ掻こうと爪を立てていたのをよく覚えている。

そこまで言われたくないものなのだろうか、とアミナは笑いながら言った。


「そういえば今日の目的地ってどこなんですか?まさか、一日で到着する訳ありませんよね」


アミナが問いを投げた。

それに対して、寝ているメイを膝枕しているカルムが答える。


「はい、馬にも限界がございますので、この街道を進んで、あと2時間半ほどで『バザール』という商業の盛んな小さな街へ到着いたします。本日はそちらで宿をお借りし、明朝に再び出発する所存でございます」


過度が過ぎる程の敬語でカルムは丁寧に答えた。

それが気になったアミナは次の問いをカルムに投げる。


「何故そこまで丁寧な言葉遣いなのですか?」


すると不思議そうな顔でカルムはアミナの顔を見た。


「えっ?どこかおかしな点がございましたでしょうか?」


「いえ……そういう訳では無いのですけど。私もメイドでしたので敬語があまり抜けないのは理解出来ます。しかし、それにしても少し丁寧過ぎるなぁと思いまして」


アミナにとっては、ふと思ったただの雑談の延長のような問いだった。

しかし何やらカルムは黙って下を向き、メイの顔にかかった髪を横に流した。


「……その事でしたら。少し長くなるのですけど、お聞きになりますか?」


馬車内の空気が少し重くなった気がしたが、アミナは一応聞く事にし、コクリと頷いた。


「私、最初からメイ様の付き人だった訳では無いのです。私は幼少期、両親が抱えた莫大な借金の担保として、奴隷市場に売られました」


唐突な言葉だったが、アミナは驚かない。

何故なら、自身が仕えていたサルバンは港町付近を治める領主だ。

もちろん奴隷船やらなんやらと、犯罪紛いのものもよく入港してきていた。


「当時……確か私は6つだったと思います。この大陸の北の方にある『ガゼルバ』という国に奴隷として買われました。そこは一年中雪が降り、周囲は高い山岳に囲まれていました。そういった過酷な環境という事もあってか、幼少の私にも酷い仕事が回ったり、躾と称して様々な暴行を加えられました。その時でしょうかね、敬語が過度になってしまったのは……」


と言って困ったような笑顔をアミナに向ける。

6歳の子供が殴られたり蹴られたりされない為に編み出した作が、過度なまでに丁寧な言葉遣いとは反吐が出る。

アミナは平静を装いながら口の中で歯ぎしりをする。


「奴隷に課せられた労働は、極めて苛酷なものでございました。止むことのない雪を日々除去することはもちろん、吹き荒れる極寒の風の中、素手で凍結した木々を伐採し、薪として運ぶことを命じられました。凍った金属を素手で触れ、皮膚が剥がれ落ち、血液が滴る。そして、その血液すら凍ってしまう始末でした。それを見た瞬間に私は本能的に感じました。もう、自分自身すら己を救えないのだ、と」


カルムは左肩を抑えるようにして震えた。

嫌な事を思い出させてしまったと思い、話を中断しても良い、と言おうとしたが、とどまった。

自身から話を聞きたいと言っておきながら自身が聞くに耐えなくなったら止めさせるとはなんという傲慢だろう、と心の中で呟いた。

そして再び、目の前の少女の話を聞く。


「地面は常に氷に覆われており、鉄の杭を打ち込むたびに指先がひび割れ、流れ出た血は瞬く間に凍りついてしまいました。川の水が氷結すると、それを砕き、水を汲む作業が課せられました。手を水に浸せば、数秒で感覚を失い、引き上げたときには皮膚が紫色に変色しておりました。食事は干からびた黒パンの切れ端と、冷たく濁った塩水のみ。体力の限界を迎えて倒れた者は、そのまま雪の下へと葬られる運命にございました」


アミナは、自身の中にあるガゼルバの知識を掘り起こす。

――天然の棺桶。

過酷過ぎる環境と冷徹過ぎる民がそう呼ばせているそうだ。

凍死寸前でも誰も助けず、むしろ雪に埋めて死んだのを確認すると金品を奪うといった行為すら日常的だそうだ。

雪山に囲まれた厳しい土地故、貧困が耐えず、とある山岳地帯では人が人を食べるという事件にまで発展したと記録があった。

考えるだけで吐き気と何も出来ない無力さを痛感させられる。


「寒さに震えることすら許されず、朽ちた薄布一枚の衣服で氷の壁を削る作業に従事させられました。砕けた氷片が肌に突き刺さり、傷ができても、手当てを受けることは認められませんでした。夜は凍えた石の上で休むことしか許されず、少しでも体を寄せ合おうとすれば、監視役の者より容赦なく鞭が振るわれました」


しかし、彼等のそんな生き方を否定する事は誰にも許されない。

誰しも豊かな環境に生まれ、何不自由無い暮らしをしたいに決まっている。

私の、おぞましく、そして哀れに思うこの気持ちは、私が豊かな環境に生まれたから故に感じる傲慢である。

誰であろうと、親も、土地も、地位も、財産も、選んで生まれる事など叶いはしない。


「火を焚くことは皆の意思を鼓舞するとされ、反逆とみなされていました。それを試みた者は見せしめとして雪の中に埋められ、夜明けまで放置されることとなります。靴も支給されず、裸足のまま凍てついた大地を歩かされ、次第に足の指が黒く変色していく者もおりました。それでも歩みを止めることは許されませんでした。日の出前より夜が更けるまで働かされ、休息を取る時間はほんのわずか。疲労により倒れた者は「役立たず」とみなされ、二度と立ち上がることは叶いませんでした。」


だから受け止めるしか無い。

彼女の生きてきた軌跡を。

そして、その環境で今なお生きている人達の想いを。


「果たしてこの苦役に終わりはあるのか、それとも終わりなど存在しないのか――そう自問することすら、次第に叶わなくなってゆく日々でございました」


カルムは奴隷だった日々の事を話し終えたように目を閉じて少し下を向いた。

次はメイとの出会いだ、とアミナは先を促した。


「そんなある日です。当時の私は15歳でした。ガゼルバで内戦が勃発したのです。きっかけは単なる些細な事だったと聞いていましたが、詳細は不明です。国のお偉い方と肩がぶつかった、誰かがその土地の子供を斬り殺した、食料を奪った等々。色々な情報が飛び交っていましたから」


アミナは再び、本に記されていた歴史を頭の中で辿った。

それは今から7年前に発生した『ランドゥルの悲劇』と呼ばれている内戦だ。

ガゼルバに対して独立運動をしていたランドゥルという土地の住民が発端となった戦争と言われている。

死者およそ数十万人――あの土地の雪の下には数十万もの骨が埋まっている事になる。


「奴隷だった私達は、戦争の混乱に乗じて逃げました。巻き込まれて死ぬ事も可能性としては有り得ましたが、どちらにせよ長生きは出来ない事は分かっていましたから。私は必死に雪の上を走りました。途中、魔法による攻撃や剣によって斬り裂かれた同胞を何十人と失いました。そして遂に、私も雪の冷たさに足の感覚が無くなり、転んでしまいました」


そこまで言うと、カルムは自身の膝の上にいるメイの顔を見下ろした。

穏やかに眠っており、長いまつ毛がよく目立った。


「そこに1人の女性が歩いて近づいてきました。その人は軍服を着崩し、片手には血の付着した両刃の剣を持っており、とても気怠げな表情をしていました。そして首からは特徴的な大きいネックレスを下げていました。殺されると思った私は目を閉じました。……しかし、私の首に刃が振るわれる事は無く、目の前の女性は自身の着ていた軍服を私に羽織らせてくれました」


「……それがメイさんだった、と」


初めて口を挟んだアミナにカルムは頷く。

そして膝の上で寝ている本人の頭を優しく撫でる。


「その時のメイ様は、武器をどこからともなく取り出して私の前に突き刺し、こう言いました。『この世は弱肉強食だ。それでも喰われる側が嫌なら、周りにある物全てを利用して、喰う側に回れ』と。その時私にお渡しになった武器が、この赤刀・ダムネスでした。そこから私はメイ様について行き、奴隷時代に学ばされた事を使ってメイ様のお世話をするようになり、今に至ります」


カルムは自身の思い出し難い過去を話し終え、少し黙った。

それを聞き終わったアミナも少し黙る。

馬車の中にはメイの寝息だけが聞こえる。

そんな空気の中、突然馬車全体が揺れ、馬が奇声に近い鳴き声を上げる。


「なんだ……!!」


アミナの疑問が馬車の中に響き、アミナとカルムは起きたであろう何かしらのトラブルを解決する為、それぞれ武器を取って外に出るのだった。



最後までお読み頂きありがとうございます!


今回はカルムの過去のお話でした。

馬車の外で起きた事はなんだ……!?

そしてこれ以上書くと情報過多と長くなりそうなので続きは次回にします!


それでは次回をお楽しみに!!

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