第二章 32話『『元』究極メイド、屋敷に案内される』
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スターターから馬車で数時間、明け方に出発してから到着したのは夕暮れ時だった。
「到着致しました。ここが我が家です」
馬車から降りたライラは目の前にある豪邸を指しながら言った。
あまりの荘厳さに、アミナは空いた口が塞がらなかった。
第四大陸にいた頃は確かにサルバンの豪邸に住み込みで働いていたが、その豪邸よりも更に大きかった。
「すっごい豪邸……」
別に家の大きさがその人の地位を表すものでは無い為、家が大きい一般人もいるにはいるが、それでもこの大きさは規格外だ。
周辺に村や街が無いのを見るに、土地がただ安かったのか、それとも他の理由か。
どちらにせよ、ただならぬ一家である事は確かだろう。
アミナが驚いているのに対して、メイは冷静に屋敷の外観を観察していた。
妙に落ち着いている彼女にアミナは「こういった場所に慣れているんですか?」と問いかけた。
「まぁ、慣れてるっつーか……私色んな国から恨み買ってるって言ったろ?一時期、色んな国に取り入って仕事して、そのまま城に住んでたから見慣れたっちゃ見慣れたな。こんな家にも仕事で何回も行ったしよ」
仕事――彼女の言う仕事とは殺し屋の事だろう。
今はそれを知らない3人がいる為ぼかして話してくれている。
しかしそれにしたって色々な国のお抱えの殺し屋になれるなんてやっぱりメイさんは凄いな。
……まぁ、一枚岩じゃないこの大陸の国同士はそれぞれ最強の駒を手に入れたいだけかもしれないけれど。
「もうすぐ日が暮れます。どうぞ中へ」
ライラは自身で扉を開けてアミナとメイを中へ招いた。
「それでは失礼します」とアミナが言い、2人は中へと向かう。
その後ろをジグとネレがついて歩き、最後にライラが入って扉を閉めた。
屋敷の中に入った時、またしてもアミナは「凄い」と呟いて周囲を見回した。
室内も外装に違わない豪華さで、黒や赤を基調とした大人しい壁や床に金の装飾が施されており、シンプルだが明らかに豪邸の内装だと分からせられるデザインをしていた。
屋敷全体が円形しており、敷地の中央には巨大な庭がある。
しかしその形状はとても珍しく感じられ、アミナは誰が作ったのか気になった。
「これは誰の御屋敷なのですか?」
「はい、屋敷は祖父が建てた物でございます。昔は冒険者の数が少なかったのですが、需要は多かったそうで。その時の報酬金額や価値のある骨董品を友人に頼んで売ったら、ここぐらいの田舎になら大豪邸が建てられると言われたらしいです。老後は冒険者時代とは無縁の静かな場所で暮らしたいと考えていた祖父はそれを了承し、ここにこの屋敷を建てたそうです」
屋敷の中をそう説明されながら案内された。
踏みしめる床に敷かれているカーペットの質感から既に言い表せぬ高級感が漂っている。
ここまで大きくなくていいが、もう少し大きい家に住むのも楽しそうだな、とアミナは心の中で呟いた。
「さ、ここが食堂です。今日はもう遅いので、先に夕食を食べて下さい。ご馳走させて頂きます」
「そんな、悪いですよ。私達は仕事をしに来ただけで……」
「母の提案を飲んで下さったんです。アミナさんとメイさんはゆっくりくつろいでいて下さいね」
ライラだけで無くネレも笑顔でそう言った。
アミナは気が引けるが、メイ自身はそうでも無い様子だったので「じゃあ、お言葉に甘えて」と言って食事用のテーブルにあった椅子に腰掛けた。
「それでは私と母が夕食を作って来ますので。お父さん、お2人をお願いね」
ネレがそう言ってライラを連れて台所の方へと向かった。
椅子に座った6人用の椅子とテーブルで、アミナとメイは隣り合って座り、ジグは2人の前に向かい合って座った。
3人の間に会話は無く、メイはテーブルに足を乗せて椅子をギコギコと動かし、ジグは黙った姿勢良く座り、アミナは気まずさに押しつぶされそうになってカチコチに固まった。
メイが「煙草吸いてぇ……」と小さく呟くと、流石に態度が大きすぎるのをアミナは肘鉄で注意した。
するとそれを見たジグが「ははは」と優しい顔で笑った。
「あっ、すみません。お見苦しいところを」
「いえいえ、お2人は仲がよろしいんですね。お付き合いは長いんですか?」
「んにゃ、つい数日前からの付き合いだ。」
メイはそう答えた。
するとジグは驚いた様子も無く「そうですか。それにしてはお互い信頼なされているように感じられます」と言った。
これくらいの事をするならもう少し長い付き合いをしていると思われてもおかしくないが、ジグにはそういった思い込みが無いらしい。
「まぁ、ただならぬ出会いをしたものですから……。お互い、相手が心配する必要が無いと分かっていますし」
「なるほど、お2人のその信頼はお互いの強さ故なのですね」
ジグがそう言うと、なんだか不服そうに「いや」とメイが言った。
「確かに、勝ったのはアミナだが、強いのは私だ。そこんトコは間違えんなよおっさん」
ジグに指を差してまた偉そうに言った。
その偉そうな態度に、アミナはまたしても肘鉄を喰らわせて黙るように促した。
怒ってもいい彼女の態度にジグは笑って受け流すだけだった。
「ま、だからアミナになんかありゃ、私が助けてやってもいいぜ?私に負ける前に死なれちゃ困るしよ」
と、再びくだらない事を言った。
「貴女という人はまったく……」とアミナは呆れて言葉も出ない。
すると突然笑っていたジグの顔が真剣な表情になり、「お2人とも」と言った。
「……妻はあぁ言っていましたが、是非ともこの件
を請け負って欲しいと、私は思っています」
「あぁ言ってって……請け負うかどうかは品を見てからで構わない、というのでしょうか?」
ジグは小さく頷く。
「そもそも、何故呪いがあるかもしれないとなったのですか?何かそれに関する事件でも……?」
アミナのその問いかけに少しの間沈黙すると、またしても小さく頷き、「その通りです」と小声で言った。
あまり大きな声では言えない事なのだろうと、アミナとメイは察していた。
「お話を聞いて頂いたので分かるとは思うのですが、妻の言う祖父とは、彼女の祖父なのです」
「はい、それは分かっています」
「……おかしいと思いませんか。彼女の父親や母親。ましてや、私の父や母に関する話が微塵も出てこない事を」
そう言われると、アミナは必死に記憶を辿った。
確かに、店で話をされた時も、この屋敷に到着するまでの数時間の間の会話にも、何一つその話は出てこなかった。
「私の両親や彼女の両親。彼等には共通点がありました」
アミナは「共通点……?」と呟く。
今の話を聞く限り共通点は、ライラとジグの親類縁者という事だけだ、とアミナは考えた。
するとジグが口を開いた。
「……妻曰く、彼等は全員その遺品に触れていたそうです。つまり、彼女の祖父の遺品が彼等を……殺した……かもしれないのです……」
アミナは息を飲む。
しかし暗殺を生業としていたメイは至って冷静だった。
確かに、いくらライラがそれを自覚していようが、何度も聞きたい話では無いハズだ。
ジグが小さな声で話をしたのもそれが理由だろう。
とある事が頭の中に思い浮かんだアミナは、すこし考えて口を開いた。
「という事はつまり――」
その時だった。
「出来上がりましたよ」と大きな声で料理を運んでくるライラとネレが来たのは。
その言葉と美味しそうな料理に遮られ、アミナの言葉は口から出る事は無かった。
しかし彼女も、思い過ごしかな、と振る舞われた料理に意識を向けた。
「どうぞ、召し上がってください」
ライラがそう言って全員分の食器を配って座った。
「美味そうだぜ」とメイ。
アミナも、確かに美味しそうだ、と思い合掌して食事を口に運んだ。
あんな話の後だったが、食事はすんなり喉を通り、味わい深い料理の味をアミナに感じさせた。
「これ凄く美味しいです!」
「それは良かったです。よろしければ、後でレシピをお教えしましょうか?」
ネレが言った。
アミナが口にした料理は彼女が作ったようだ。
彼女のその言葉に、アミナは「是非お願いします!」と返した。
すると食事の最中、ライラが口を開いた。
「お2人にお部屋を用意していますので、例の品や他の遺品を持ってくるまで、そちらで待機していて下さい。なんでしたら今日は泊まって行って下さい」
「そこまでお世話になる訳には……」とアミナが言うが、断る暇も無く、ライラは「良いんですよ、どうせ余っている部屋です。それに、久々に賑やかな食卓で嬉しいんです」と言った。
それでも断ろうとしているアミナに対しメイは「いいじゃねぇか。飯は大勢で食った方が美味いぜ」と返した。
彼女にもそういった考え方が出来るのか、と少しだけメイを見直したアミナは「そ、それではお言葉に甘えて……」と、今日何度目か分からないお世話になる宣言をした。
―――
夕食を食べた後、泊まる為の部屋を用意された2人は、同じ部屋で休む事にした。
アミナは部屋にあった椅子に座り、メイはふかふかの大きなベッドに寝っ転がった。
大きなベッドはアミナの家にも祖母が使っていた物があった為、そこまで驚きはしなかった。
「修理に関する事なのに泊まっていく必要あったのでしょうか……」
「別にいいんじゃねぇか。どうせ急ぐような依頼なんてねぇだろ」
メイに耳が痛い事を言われたアミナは「そうですけど……」と呟いて椅子に座った。
そしてカバンから紙とペンとインクを取り出し、目の前にあったランタンのスケッチを始めた。
これはイメージの修行になるかもしれない、と思って最近始めた日課のようなものだった。
順調に描き進め、流れるように筆を動かす。
それに対しメイはベッドに転がって天井を見上げている。
何か考え事をしているのか、はたまた何も考えていないのか。
まだメイに関して知らない事だらけであるアミナは、スケッチの横目で彼女を見て、再び紙に目を戻した。
すると、「そういえば」と何かを思い出したかのように、アミナが切り出した。
「メイさん。心臓が潰れると魔法が使えなくなると仰ってましたけど、それってどういった感覚なのでしょうか?」
アミナは質問を投げた。
それはスターターを出発する前に、依頼者の3人の前で説明した魔法の詳細だった。
その内容は、『魔法は生物の核に宿る。核が潰れれば魔法は使えなくなる。魔力は誰しも持っているが、使い方を知っているか知らないかだけの違いである』といったものだ。
心臓が潰れて死ぬのは理解出来る。
しかし、メイが出した例え話の「心臓が潰れていても生きている奴は魔法が使えない」というのは面白い話だと思った。
その為、どういった理由で使えなくなるのかに興味があった。
するとメイは寝転んだからだを起こして答えた。
「核が潰れると魔法が使えなくなる理由はよ。正確には、核が潰れると魔力を排出する為の機構が失われるんだ」
アミナは「魔力を排出する機構……?」と言葉を繰り返した。
「あぁ。そいつは、ずっと体内に魔力を溜め込んだ状態になって吐き出せなくなる。それは手練の魔法使いだろうが素人だろうが同じなんだ。だから、知識じゃどうにもならねぇ事もある。魔法を研究してた王国の研究者がそう言ってたぜ」
合点がいった。
メイさんが何故呪いや魔法について詳しいのか。
それは、様々な国に取り入って雇われていた時期があるからだ。
城に住める程の権利を与えられているのなら、国の研究を見聞き出来ても不思議では無い。
それに様々な国を渡り歩いている為、その国独自の解釈や仮説をそれぞれで知る事が出来、それを統合して自身の信じる一番信憑性の高い仮説を選び出せるのだ。
これほど知識欲がある人間が羨ましがる状況は無い……まぁ殺しや戦いの仕事付きだが。
「なるほど……魔力を放出する為の機能が失われれば魔法は使えない。言ってしまえば、魔法の知識はあっても使用する事に関して言えば一般人と同等になってしまう。そういう事ですかね」
「さあな。私も魔力を弾丸として打ち出せるが魔法は使えねぇから分からねぇ。それに、興味だって無ぇ」
メイはそう言って横を向いて目を閉じた。
アミナもそう説明を受けた後、ランタンのスケッチを終えてメイと同じくベッドに寝転んだ。
いつライラが遺品を持ってくるか分からなかったが、少しの長旅で疲れていた為、そっと目を閉じた。
まぁ遺品の準備が出来て、部屋に来たらきっと起こしてくれるだろう。それまでちょっと休息を――
心の中でそう呟くアミナはの意識は、すぐに睡魔に飲み込まれ、光を受け付けない暗闇の中へと深く深く消え去っていった。
最後までお読み頂きありがとうございます!
おいアミナ!
仕事中に寝るんじゃない!!
それでは次回もお楽しみに!!




