第一章 5話『『元』究極メイド、文無しになる』
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城門をくぐった瞬間、アミナは一瞬だけ足を止め、軽く息をついた。
「ここがスターターね……随分と賑やかなのね」
口元に浮かべた微かな笑みは、安堵とも呆れともつかない。長い荒野を越え、ようやく辿り着いた街の様子に、彼女の中の冷静さも少しだけ緩む。
無理もない。
荒涼とした砂地を何日も歩き続けた末に見たこの活気は、彼女にとってほのかな感慨をもたらすには十分だった。
門の内側は、外の荒れ果てた風景とはまるで別世界だった。
石畳の道が敷かれ、その両側に並ぶ家々の窓からは明かりが漏れ、人々の声がそこかしこに響いている。
通りには露店が立ち並び、香ばしい焼き菓子やスパイスの香りが混ざり合う。
そこに交じるのは、冒険者たちが装備を調整する金属音や、商人たちの威勢のいい声。アミナの耳にはすべてが新鮮に響いた。
「……こういう喧騒も、今となっては悪くない」
呟く声には微かな余韻があった。彼女は人々の間を縫うように歩き出す。
軽やかな足取りだが、その視線は常に冷静に周囲を観察していた。
街を歩くうちに、冒険者の街らしい光景が次々と目に入る。筋骨隆々の男が重そうな剣を肩に担ぎながら通りを横切る。
そのすぐそばでは、槍を手にした若い女性が体をほぐしていた。広場の片隅では、粗野な服装をした数人が地図を広げ、何やら真剣に相談している。
アミナはその様子をちらりと見ながら、通り過ぎる。
「道具は一流でも、腕はどうかしら」
軽い皮肉が口をつくが、その瞳にはどこか期待が混ざっている。
この街に来た理由はただ一つ。新たな目的地に向けて準備を整えることだ。
そしてそのためには、冒険者ギルドを訪れるのが手っ取り早い。
「ねぇ聞いた?最近街から人が忽然と消えるんですって」
「やだぁおっかなーい」
真相かもわからない談話も聞こえてくる。
これでこそ街って感じがする。
街の中心に進むにつれ、石畳の道が広がり、建物も一層立派になっていく。
白い石壁に赤い屋根の建物が並び、その間を行き交う人々の活気がさらに増していた。
途中で目にした花屋の軒先には、見知らぬ土地の植物が並び、その鮮やかな色彩がアミナの目を一瞬引きつけた。
「この花……見たことがない種類……」
彼女は足を止め、手を伸ばして一つ摘もうとする。しかし、ふと我に返り、その手を引っ込めた。
「おっと、今は無駄遣いをしている場合じゃなかった」
つい見慣れない物があると手に取ってしまう癖も抜けそうにない。
淡々と呟き、再び歩き始める。視界の先には、ついに目的の建物が現れた。
冒険者ギルドは、街の中心部にそびえる石造りの大きな建物だった。
建物の上部には「冒険者ギルド」と刻まれた木製の看板が掲げられ、その文字が夕陽に照らされている。
広々とした入口には、すでに多くの冒険者が集まっていた。
装備を整える者、仲間と話し込む者、ひとり静かに腰を下ろしている者。それぞれが異なる目的と背景を抱えてここに集まっている。
「ふむ、なるほど。ずいぶんと雑多ね」
アミナは一瞬だけその光景を眺め、軽く息をつく。
そして迷いなく足を進めた。
ギルドの扉を押し開けた瞬間、さらに濃密な活気が彼女を包み込んだ。中は外以上に賑やかだった。
長いカウンターが建物の奥にあり、その前には報酬を受け取る冒険者たちの列ができている。
壁には無数の依頼書が貼られており、その前で仲間を募る声が飛び交っている。
「ようこそ!冒険者ギルドへ!」
受付カウンターに立つ女性が、明るい笑顔で声をかけてきた。
その親しげな態度に、アミナは微かに眉をひそめたが、すぐに表情を戻す。
「登録に来たのですが」
淡々とした口調で用件を伝えるアミナに、受付の女性は少し驚いた様子を見せたものの、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。
何故驚くのだろうか……女性冒険者は珍しいのかな
そう思っていると、受付の女性が用紙を持ってきた。
「おまたせしました。それでは冒険者登録の前に登録料金貨5枚頂きます」
その言葉にアミナは固まった。
登録にはお金がかかるのか……そう思ったからだ。
しかしよくよく考えてみれば、それは当たり前のことだった。ギルドはあくまで、所属している冒険者と依頼者の仲介をするだけ。仲介手数料だけで冒険者ギルドの運営がしていけるとは到底思えない。
それはメイドとして経理も熟していた経験から用意に想像できる。
しかしお金は貴重だ。
なにせ準備が間に合わず、手切れ金として貰った1ヶ月分の給料と同額の金貨30枚しか持っていないのだ。それの二割ほどを持っていかれるのはやはり痛い。
何かお金を払わない方法はないだろうか……自分の貧乏性がこんなところで発揮されるとは、アミナ自身も思ってもいなかった。
なかなか金を払わない汚れたメイド服を着た少女の姿は、いくら荒くれ者がいる冒険者ギルド内でも異質で、受付の女性は愛想の良かった表情から一変し、怪訝そうな顔でアミナの事を見る。
そのアミナは、腕を組んでギルド内を見回す。
酒らしきものを運ぶウェイトレスの女性、カウンターで飲める場所もあれば、集団で座って飲めるようにテーブル席もあった。
壁にはコルクボードに様々な木板が貼られている。
その内容は遠くからではよく分からなかったが、所々『報酬』や『依頼』という文字が見え、更に視線を上に向けると、そこには『クエストボード』と書いてあった。
先程は気が付かなかったが、クエストボードは窓口の近くに設置されており、報酬の受取や依頼の受託は楽そうだった。
石造りの二階に繋がっている階段、その階段のテラスからでもこのフロアは十分に見渡せる。
天井付近にはドラゴンの骨のようなものが飾っており、レプリカなのか本物なのか、それを考えさせられる。
そして一番この空間で存在感を放っている巨大な幕があった。
それにはでかでかと何かのロゴらしきものが描かれたいた。
何気なくそれを見過ごそうとしていたアミナは、その幕を見た瞬間ふと、とある事を思い出した。
思い出した理由というのが、幕に描かれたいたロゴのようなエンブレムのような、とにかくこのギルドを象徴する何かを表す物に見覚えがあったからだ。
そういえば何の気なしににお財布に入れてたあれって……
アミナはそれの存在を思い出して財布を開けた。
そして袋に入った金貨を退かしながら底の方を漁る。
しばらくまさぐっていると、何か硬いものが手に当たった。それは薄い長方形の物体で、普通の紙とは何か違う、カードのような形をしたものだ。
「おっ。あったあった」
そうしてそのカードを袋から取り出した。
そのカードをよく見ると、大きな幕に描いてあったマークにそっくり、というかそのままだった。その時に、祖母に言われた言葉を思い出した。
―――
『いいかいアミナ。外で困った時はこれを使いなさい。』
『おばあちゃん、これなぁに?』
『フフ。これはね、いざという時にきっと、アミナを助けてくれるよ。これを大人に見せればきっと、とある場所まで案内してくれるから』
―――
数年前に死んだ祖母の言葉を受けて、アミナは恐る恐るそのカードを差し出した。
きっととある場所というのはギルドのことだろう。とにかくここでこれを提示することが何かの証になるのだろう。
普段なら冷静沈着で、顔に態度が出るタイプではないのだが、今回ばかりは自身の融通がきく環境ではない為、酷く緊張していた。
「あ、あの……これって……」
アミナの差し出したカードをよく見ている受付の女性。
これが何か違う場所のものかもしれない、ここで使うべきものではないのかもしれない。
そう考えると冷や汗が止まらない。どちらにせよ、受付の女性が早く口を開いてくれるのを祈るしかない。
「……あぁ!!これって!!もしかして『ユリカ』さんの血縁者ですか?」
ユリカ――祖母の名前だ。
その名前が口にされた瞬間、体からどっと力が抜けた気がした。この街についた瞬間から安心していたはずだが、この場で使うことが正解だった謎のカードを使用することが出来たのが最後の引き金となった。
「すみません、それってなんなんですか?」
アミナは受付の女性に質問を投げかけた。
しかし女性は、アミナの質問には答えず、「ついて来てください、こちらです」と言ってカウンターから出てギルドの外へと歩いていった。
「あれって何だったんだろ……」
アミナはそう呟くと、少ない手荷物を持って、その女性について行った。
自分の祖母の名前が出たのなら何か自身に恩恵があるものなのだろうか、それとも母に対して恩恵があるものなのだろうか。
しかし何にせよ、祖母に関連するものがあるのは確かだろう。
ギルドの扉から外へ出て、直ぐに右に曲がった。
そこからは道なりで真っ直ぐ行くと、街の中央からは離れていった。
先程までは周辺に他の店や住宅地があったが、その数も徐々に減っていった。
そして、周囲にほとんど建物がなくなった頃、受付の女性は立ち止まって言った。
彼女が手を指し示した方に合ったのは一件の家だった。
「お待たせしました。こちら、ユリカさんの住んでいた家になります」
「……は?」
それしか言葉が出なかった。
そもそも何故、祖母から貰ったものが冒険者ギルドに関係しているのかすら分からないのに、人が自然の中生きるのが過酷な第二大陸の中の街に、祖母の家がある。
しかも私がいたのが第四大陸で、祖母からあのカードを貰ったのも第四大陸のサルバンの屋敷の中だった。
祖母は一体どうやって私をここまで連れて来る気だったのだろう。
それにしたってこんな魔物ばかりの物騒な大陸に孫娘を連れてこようとしないでほしいものだけど。
でももしかして―――
「わざわざ案内されたってことは………私、ここに住んでいいってことなんですか?」
アミナは薄々感じていた言葉を口にする。
この家は祖母のものであり、祖母が私に渡したカードによって案内された。
そして受付の女性は若いながら祖母のことを知っていた。
ということはこのギルド内でそこそこの有名人。ならばここに定住することが出来るのかもしれない。
そう考えるのは割と普通の思考だろう。
誰でもそれを期待する。
しかし……現実は違った。
その期待に胸を膨らませるアミナの前に差し出されたのは、何かが書かれている紙だった。
不思議に思ったアミナはその紙をよく見る。
すると女性が口を開いた。
「お引き取りありがとうございます!こちらの一軒家の買取金額、金貨25枚でございます!」
「……は?」
デジャヴだ。
とてもデジャヴだ。
突然の意味のわからない言葉と、はしゃいでいたことが重なり合ってもはや感情がよく分からない。
住居の心配をしなくていいと思ったら所持金のほとんどを持っていかれそうになってしまっているこの状況は何なのだろう。
「……え?私はここに……」
「はい!住んでいただいて構いませんよ!ただ、こちらとしても長期間の維持費がかかっておりますので、それは買い取りに来た者に払わせろ、とユリカさんが」
アミナは柄にもなく絵に描いたように肩をガクッと落とした。
どうやらこれを断る訳にもいかなそうだ。
なぜならこの受付のお姉さんの顔、さっさと壊すか買い取れと言わんばかりの表情。
それが人とのコミュニケーションを欠いてきた私には深く突き刺さる。
何が究極のメイドだ。結局ただのコミュ障じゃないか……
「……払います……」
そう言って財布から金貨25枚を取り出し、受付の女性へと払った。
女性は再び「お引き取りありがとうございます」と言ってギルドの方へと歩いて戻っていった。
アミナは暫くその場に立ち尽くして、受付の女性が見えなくなった頃に体を震わせて握りこぶしを作った。
おばあちゃんコノヤロォ……!!
アミナには空に浮かぶ祖母が、親指を立てて微笑んでいる様子が思い浮かんだ。
生まれて初めて、身内の顔を殴りたいとアミナはそう思った。
ひょんなことから全財産のほとんどを使用して購入してしまった祖母の家。
そんな今からやっと、アミナの新しい土地での暮らしが幕を開ける――。
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